朱点童子がダンジョンで無双するのは間違っているだろうか   作:屋台の人

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第1話

水色の戦装束を着た二人の男が、縁側に座って満開の桜を見ていた。暖かな陽気に照らされているが、二人の目はしっかりと開いたままである

 

それもそうだろう。これが一族の悲願を成すための、最後の戦に出るのだ

 

「なあ、兄貴...」

 

「どうした矢知」

 

「あのクソッタレの黄川人倒したらさ。何しようかなって思って。兄貴はなんかある?」

 

「...まずは、初代当主に報告だなぁ。あの方がいなけりゃ俺たちが生まれることも無かった。それに、一番アイツを憎んでるのは初代だろ」

 

「そりゃそうだ...初代の時は知る由も無いだろうが、黄川人と昼子がそもそもの元凶だろ。仇敵が自由になる手伝いしてたなんて知ったら乗り込みに行ってもおかしくねぇわな」

 

「...それも見越して、あんなこと言いやがったんだろ。胸糞悪い話だ。赦せなきゃ呪いを解かないなんざ、こっちに憤死しろって言ってるようなもんさ」

 

「刀哉になんて説明すれば良いか...」

 

「ま、そこは生まれ変わった初代が徹底的にやってくれるさ。子孫に赦せと入ったが、初代当主には何も言ってないんだし」

 

「二人とも子孫の数だけ殺していい位のことやらかしてるしな。そう考えれば少しは気も晴れるか」

 

「それに、赦せば二年以上生きられるんだ。取り敢えずはそれが目標だろ。誰も早死にしたくは無い」

 

「そうだよな。生きる為だ...死んでも許せないことも、刀哉の命のためなら」

 

その言葉を聞いていたかのように、一族を手伝うイツ花が声をかけた

 

「矢知様、当主様、出撃の準備が整いました....最後の戦ですね」

 

「...そうだな」

 

「なーに辛気くさい顔してるンですか!こういう時こそバーンとォ!皆様を勇気づける演説でもぶちあげるってものですよ!」

 

「そういうのは矢知が得意だからなぁ」

 

「俺はテキトー言ってるだけだっつの」

 

「それじゃあ当主様もテキトー言って盛り上げましょう!皆様ー!最後の出陣に際して、当主様のお言葉ですよーぉ!集合ーー!」

 

「おい待てイツ花、貴様!...ったくもうさぁ」

 

ドタバタと集まる家族の足音と矢知が爆笑する声は、隣の家まで届いたという

 

阿朱羅を倒し、どうやら赤子に戻ったらしい黄川人を初代当主の母、お輪が抱き上げて天界へと戻っていく

 

「...終わったなぁ」

 

「可愛いだろって...あんな野郎が赤子になったところで可愛く思えるかっての。大体のいざこざはアイツのせいだぜ?」

 

「えー、私は可愛いと思ったよ?まぁ赦せないのはすっごい分かるけど」

 

「俺はあんまり興味ないかな。早く呪いが解ければそれで良いや」

 

しかし、呪いが解けるのは当主の意向で裏京都へと向かい昼子をしばき倒した後なのだった

 

 

 

やはり朱点童子は人間とは違うらしい。数ヶ月どころか数週間もしないうちに、いつもの姿で黄川人が家にやってきた

 

「やぁやぁ皆さんお揃いで。うわ...すっごい顔してるね君達...どうどう、その物騒なもの下ろしてよ。今日は話をしにきただけだからサ」

 

そうして彼はニコニコと笑いながら、こう聞いてきた

 

「今回の一件...初代から続くこの騒動の原因ってのは、勿論僕のせいでもある。

けれどね、勝手にビビってボクを殺そうとした姉さんのせいでもあるんだ。

こういうの、マッチポンプって言うんだろ?自業自得なやらかしを、他人に押し付け殺し合わせた。

結局ボクは天界二位に就いて、君達は人並みの寿命を手に入れた。

ボクが憎いのは当然サ。

でも、君達は姉さんが...太照天昼子が憎くはないの?」

 

「憎くない、とは言えないさ。でも俺たちは、人並みに生きて、人並みに、穏やかに死にたい。だからお前が望む事は出来ない」

 

「へぇ...それじゃ、面白い話をここで一つ教えよう。ボクたちみたいな神以外にも、神様ってのがいるんだよ。まだ仮初めとはいえ肉を持つ神がネ。そいつら、何してると思う?」

 

「...さぁ?」

 

「神の血を刻んで、人間に力を与えてるんだってサ。まぁ、神と直接交わる時ほどの力は無いから放置してるけど。なんだかきな臭くない?」

 

「そりゃ認めるけど...それって私達に関係ある?」

 

「あるでしょ...神が人間に力を与えて、何かさせようとしてるんだから。少しは気にならない?ま、ボクはどっちでも良いんだけど。京にいてつまんないなーってなったら、訪ねてみるといいよ。無双ゲーってのも面白そうだし」

 

それだけ言うと、黄川人は茶菓子を二つ三つとって帰っていった

 

「穏やかに暮らすのがいいと思うんだがなぁ...」

 

「黄川人も言ってたじゃない。面白いと思ったら行ってみればって」

 

「ま、興味が湧いたらでいいか...」

 

一族の呪いは解け、そうして彼らが過ごす事数年が経った時、刀哉は外に出たいと言い出した。

 

「...刀哉ももう大人になった。京が狭いと言うのなら、外に出て研鑽を積むのも良いだろう。戦装束はもう必要ないからな。好きなものを持って行きなさい...ただし、死なないこと。必ず帰ってくることの二つは約束するように...特に鬼薙丸は持って帰って来いよ?うちの家宝だからな」

 

「は、必ずや」

 

そう返すと、刀哉は戦支度を整えて馬に乗り、家を出た

 

「刀哉様、ご出陣!バーンとォ!いってらっしゃいませ!」

 

「その口上聞いたの数年振りだなぁ」

 

 

刀哉が人伝てに流れる噂を頼りに駆けること数日、武甕槌という神が孤児院をやっているとの情報を得る

 

「...ここか」

 

神社の境内を模した庭を通り抜け、扉を二度三度と叩くと、偉丈夫が応対しにやってきた

 

「そのような物騒な格好で、うちに何か用か?」

 

「少し尋ねたいことがある」

 

「なんだ?ものによっては聞いてやらんでもないぞ」

 

「神の血を刻んで恩恵を授けている、というのは本当か?」

 

「事実だが...あぁ成る程、入団希望者か。それなら上がると良い。何かと騒がしいが茶くらいなら出せる」

 

「上がらせて貰おう」

 

タケミカヅチの後ろについていく途中、子供が幾人かこちらを見つめているのが見えた

 

その後ろにいる子どもは服を着ている最中らしく背中になにやら文字が刻まれているのが見える

 

(刻むとはああいうことか)

 

そう納得しているところに、タケミカヅチに向かって走る女子がいた

 

「タケミカヅチさま!」

 

彼はすぐさま抱き上げると、頭を撫でながらハハハと快活な笑みを浮かべた

 

「いやぁ、すまない。ここで孤児院もやっていてな。騒がしい理由の一つだ。ほら命、桜花と一緒に遊んできなさい。少しこの人と話があるから」

 

「むぅ...」

 

刀哉は幼女の恨めしそうな顔に、少したじろいだ。

 

鬼薙家では児子のような子どもは誰一人としていない。神の子ということもあり、数ヶ月で成人かそれ近く程の姿に成長するからだ。だから幼子のその顔に免疫がないのも致し方ないことだろう

 

そして客間に通される。障子を閉めてもわいわいと子どもたちの声が聞こえてくるのは、刀哉にとっては新鮮だった

 

「...京の都での活躍。朱点童子の討伐は聞いている。その装束、鬼薙家の者だろう?」

 

「なんだ。バレてたのか...真に討ったのは父上だけど」

 

「神の子がここを訪ねてくるとは思わなかったが...何の用だ?」

 

「京の都は救われた。それで平和になったのは確かだ。けどタケミカヅチ様のような、天界とは別の神が人間に力を与えていると聞いて、また別の脅威があるんじゃないかと思ってさ」

 

「...ふむ、日ノ本には伝わってないからなぁ。ダンジョン、というのは知っているか?」

 

「いや、迷宮みたいなものか?」

 

「まぁ、そんなものだな。そこから数多の怪物が出てきて、日ノ本以外の南蛮の国々にも広がった。そこで人々はそこに蓋をして、街を建てたんだ。その名をオラリオという」

 

「そこを目指して力を与えていると」

 

「まぁ、そんなものだ。様々な武技や武具の扱いを教えているから、それが腐るのも勿体ないだろう?」

 

「そうだな」

 

朱点童子を倒し、その技術を廃らせようとしている鬼薙家を想い、そう頷いた

 

「自分は、せっかく習い鍛え上げたこの技術や力が腐っていくのには耐えられないんだ。だから俺はここにきた。新たな戦いに身を投じて、技を磨きたいと」

 

「...それなら、俺のファミリアに入るといい。あと数年して、あの子達が戦える年齢になったらオラリオに立つことにしている。日ノ本のみならず世界と競える...武芸者にとっては願ってもないことだろう?それに、俺だって武神だ。稽古だってつけてやるさ」

 

その言葉に感銘を受け、俺はタケミカヅチ・ファミリアに入ることにした。

 

しかし恩恵は貰わないことにした。神の子がさらに神の恩恵を授かれば、ほぼ確実に狙われるだろうというのが理由だった

 

 

「アマテラス様と昼子様か...べらぼうに仲が悪いと聞いたが」

 

「というか昼子が勝手に敵愾心思ってるだけですからねアレ...いつまでたってもガキのまんまだってどこぞの天界二位が言ってましたよ」

 

「神なんてのは基本的には欲を抑えきれない子どもみたいなものだからなぁ...それは俺が保証しよう。それにしても」

 

手合わせをしていたタケミカヅチが汗を拭いながら声をかけてくる

 

「やはり神の子だけあって凄まじい技量だな。名前の通り刀は俺にも迫っている上、他の武器や拳闘も一級品ときた。これは鍛えがいがある」

 

「そう言ってくれると朱点童子に立ち向かった甲斐がある...まぁここまで出来なかったらとっくに死んでるけど」

 

「命達に教えられるくらいの技量だ。というか俺が忙しい時には教えてくれ」

 

「あー、了解です」

 

それを見ていたのだろう桜花が、自分をキラキラした目で見つめてきた

 

あー、大体読めた

 

子ども達の教えてコールに追いかけられながら、楽しい日々は過ぎていく

 

さて約束の数年が経ち、桜花は俺よりも大きくなった。俺は神の子だからか成長はほぼ止まっているようなものだ。黄川人がそうだし

 

「桜花...お前大きくなったな。おら、身長寄越せこのやろっ!」

 

グリグリとつむじを押しながら言うが、あまり効いてないらしい

 

「刀哉殿はいつまで経っても変わりませんね...」

 

「実質神様みたいなもんだしな。そう変わってたまるか」

 

「またそんな冗談を...レベルが高いから老化が遅いんですよ」

 

「...ま、それでもいいか。ほれ、行くぞ皆」

荷台に荷物を載せている時、ぽんと肩に手を置かれる

 

「刀哉。お前家に手紙くらいは出さないのか?場合によっては二度と出会えないかもしれないんだぞ」

 

「大丈夫ですよ。このことはもう伝えてありますし...それに、俺が何処にいようと何処に行こうと、俺の家族は待っていてくれますから」

 

「そうか。ならば良い」

 

そう言ってタケミカヅチは笑った。

 

そうしてまたガヤガヤと、ファミリアの皆が集まって騒がしくなる。都の祭りで騒ぐ家族のようで懐かしくなった。また会えるとそれを呑み込んで、馬車に乗り込む

 

そこから馬車で数時間、船に乗ることになった。どうやらかなり掛かるようで、一月とのことだ。

 

京にいるばかりでそもそも湖すら忘我流水道や相翼院くらいでしか見たことのない自分には、海での航海など人生初だ。

 

「ち、ちょっと待った。こんなの人が渡って良いモンじゃないだろ!河童にひっくり返されたらどうするんだ!」

 

「戦いだと全く手が出せないのに...くふふっ、こんな弱点があったとは」

 

「大荒れの時は面白いことになりそうだなあ」

 

「タケミカヅチお前覚えとけよっ!」

 

「あっ!また呼び捨てにしてます!」

 

「もう諦めろ命。刀哉はそういう奴なんだ」

 

おっかなびっくりで船に乗り込み、船での生活に慣れてきた(と思ってる)ちょうどその時にオラリオから最寄りの港町、メレンに着いた

 

「一月か...」

 

呪われていた頃は、一月が過ぎると死が近づくのをはっきりと感じていたのに、いつの間にやらそれが消えている。呪いが解けていなかったらいったい何人死んでいたのだろう

 

数年経った後だというのに、駆け抜けるような感覚が抜けないのは一族の性なのか

 

オラリオ行きの馬車に乗り車窓からの景色を楽しみながら進んでいく

 

極東の緑溢れる風景とは違い、細々と樹が生え砂地がよく見える光景は、刀哉にとっては未知の世界だった。

 

乾いた景色といえば白骨城や紅蓮の祠が思い浮かんだが、死に満ちているあそことは違って厳しい環境の中にも生命を感じさせた。

 

進むこと数日、とうとうオラリオに着いたらしい。要塞の様に街を囲う壁には、長い年月を感じさせる細かな傷が付いていた

 

京にこれがあれば...とも思ったが、鬼にかかればこの壁でも防ぎきれまいと思い直す

 

「ここがオラリオ...」

 

「凄まじい威容だな...」

 

感無量といった様子で命や桜花は言葉を漏らしていた

 

「さて、オラリオに入ってまずすることは何だ?」

 

予定を確認する為に、刀哉は皆にそう声をかけた

 

「冒険者登録やファミリアの本拠地探しだろう」

 

「それもそうだな。ところで腹減ってる奴いるか?それ終わったらバーンとォ!飯でも食いに行こう」

 

「しかし刀哉殿。我々には宴を開くほどの持ち合わせが...」

 

「金については任せろ。家から良い茶器やら要らん武器を持ち出してきたからな。売れば良い金になる」

 

「何やってるんですか!」

 

「許可は取ってあるっての。鬼退治で捨てるほど余った奴だからいくらでも持ってけってな」

 

「あの中に帝からの贈呈品があったと記憶してるんですけど...」

 

「一時期ロクなもんくれない時があったのが悪い。うちだとほとんど埃被ってるぞ」

 

「流石は京の鬼薙家ですね」

 

門番にギルドの場所やオススメの店を聞き、早速オラリオに入ることになった。最初は全員の登録が必要、とのことらしく、別れて飯を食う計画はおじゃんとなってしまった

 

「腹減った...」

 

「昨日の大荒れで全部吐いたからじゃないですか」

 

「真名姫並みだったろあれ...」

 

「波に向かって武器を構え始めた時は何やってんだこの人って思ったな」

 

空腹を堪えながらギルドに向かい、早く終わってくれと願いながら登録を済ませる

 

ステータスだの何だのはよく分からん上に、恩恵も貰ってないから断った。まぁ別に罰則喰らうわけでもないし。雑用係みたいなものだと押し切ると、唖然とした様にため息をつかれた

 

本拠地はかなり中心から遠くにあるらしく、もはや朦朧としながら本拠地となる「仮住居の長屋」に到着した。さっさと荷物を置いてオススメされた店に行くことにする。ホームに向かう際に不用品は売っぱらっておいた

 

「よぉし...飯行くぞぉ」

 

「刀哉殿が死にそうだ...」

 

飯の匂いを嗅ぎつけると、朱点童子としての力を全て発揮して入口へと向かっていく

 

「おすすめを一つ!あ、店員さん。ここあと7人来るんだけど椅子とか動かして良い?」

 

店員の案内もそぞろに聞き流し、まだ空いている席にどかりと座り込むとそれだけを言ってファミリアの皆を待った

 

「はいよ。勝手にやりな...あと、次来る時は団体で来るなら昼にでも連絡入れといてくれよ。その分仕入れとくからね」

 

「あ、女将さんだったのか。ありがとうよ女将さん」

 

手をひらひらと振ると、調理のためか厨房に入っていった

 

「刀哉さん早すぎですよ...」

 

「おぉ。俺たちの席も用意してくれたのか。有難い」

 

「自分が早く食べたかっただけだろう」

やいのやいのと喋りながら、用意された席に着いた。

 

食事の目録を開き、思い思いのものを注文する

 

少し待ったが、その料理はそれだけの価値があると思えるほどの量と質だった。

 

あれが美味いこれも旨いと語り合いながら過ごすひと時も、たしかに至宝の一品と言えた

 

翌日、件のダンジョンに向かうために戦支度をしてホームを出る時に、タケミカヅチからこそりと囁かれた。

 

「訓練やら少しの実践こそやったがまだ未熟だ。いざという時は任せたぞ」

 

「仲間を守るのは隊長の務めだ。任せておけ」

 

そう返し、俺たちはダンジョンへと潜っていく

 

オラリオに来て初めての実戦、ということで皆緊張で少し固まっているようだ

 

「まずは単騎、二人、三人四人と連携する人数を増やしていくぞ。まずは桜花からだが...」

 

「はいっ!」

 

「その前に手本を見せようか。んん...少し待ってろよ。良い教材は、と」

 

その時、暴れ牛のような鳴き声と人間の悲鳴が聞こえてくる

 

「よし、ちょっと声の主を助けてからだな。各自警戒を怠らないように」

 

そう言い残し、その方向に走り出した

 

破壊音やら足音が聞こえてくる方を目指していると、悪羅大将に牛の頭がついたような体格の化け物が、石斧のようなものを振り上げるところだった

 

これは危ないと飛び蹴りを入れると、奥の壁まで吹き飛び斧は手放された

 

「大丈夫か?早く逃げた方がいい」

 

「あ、有難うございますっ!」

 

「いいから行け」

 

「はい!」

 

全力で走る男から目を離し、その怪物を見る

 

「石斧...まさか人が作ってる訳は、ないか」

 

これ幸いとくららで眠らせ、ファミリアの皆の元へと戻って準備ができたと知らせた

 

一度階段を降りてその場所に着くと、まだ眠っている

 

「まだ寝てんのかコイツ...おら起きろ」

 

「あの、ここ6階層では...というよりそれミノタウロ...ええっ!?」

 

頭を蹴飛ばして起こすと、よくもやってくれたなというかのように鼻息荒く近づいてきた

 

「手本とはいったが、一応これでも通過点だと思ってくれ。これは弱いし理性もあるか怪しい奴だからそうでもないが、実戦だと相手の間合いを見切れなかった奴、装備をケチった奴から死んでいく...だからこんな感じにできたら上出来だ」

 

そこらで買ってきた小刀を手に、振り終わりに数撃、攻撃を避けて数撃と地道に削っていく

 

「で、戦いで重要なのは術...こっちじゃ魔法だっけ、も大事だ。《萌子》」

 

一撃が重く、鋭くなり、更に化け物の身体は切り刻まれていく

怒り狂い本能のみに従って突進を仕掛ける怪物を見ながら、こう締めた

 

「どうしても避けられない時は、良い装備と受けきる準備をしておくと良い《石猿》」

 

そう唱えて、刀哉は突進をしっかりと受け止める

 

「で、隙があればとどめ..,と、こんな具合だな」

 

すっぱりと切り落とされたミノタウロスの首と、それをやらかした刀哉の規格外さに、命たちは改めて戦慄することになる

 

「でもまぁ何が一番大事かといえば...逃走経路の確保だ」

 

「え...」

 

「命あっての物種だ。武器も、装備も、一番いい物を揃えられれば良いがそれが通用するかは別の話ってことだな。時間はかかるだろうが買い直すことだってできる。命以上に大事なものはない。いざとなれば装備も金も魔石も全部捨てて逃げるだけの度胸を持て」

 

「刀哉殿でも逃げることを考えるんですね...」

 

「馬鹿。俺は何よりも逃げることを考えてるぞ。物理なら陽炎、術なら太照天使って安全を確保してからぶん殴ってるからな」

 

「どういうものかは分かりませんが使ってる場面を見たことないんですけど」

 

「相手が弱いからな」

 

「辛辣だな...」

 

命達の指示で魔石とやらを拾いつつ、実戦の中で悪いところがあれば指導して、なんだか充実した1日だったとやり遂げた気分でギルドに行くと、なんだか騒がしかった

 

なんでも本来ならもっと下の階層のモンスターが、上の階層に逃げていたらしい。

 

蓋なんだから仕事しろよと思っていると、つい数時間前に助けた奴がこちらを指差し、なにやら耳の尖った茶髪の女性が俺ををじっと見つめていた

 

「...なぁ千草、俺あの子になんかした?」

 

「あー...助けてくれたお礼とかでは」

 

「あ、魔石の換金とかはよく分からんから命。お前に託した」

 

「私も分かりませんよ...」

 

ギルドの職員に話を聞いてきます、と去っていった命を見送り、なにやら剣呑な顔の別嬪さんが手招きしているのをガン無視する。美人が怒る時ほど怖いものはないと、神たちとの交流でで嫌という程思い知ったからだ

 

「トウヤさん?」

 

肩が跳ね上がり心臓が飛び出そうになる

 

「な、何でしょうか.,.確か、エイナさん?」

 

「そうです。エイナ・チュールと言います。少し話がありますので、奥の個室に来てください」

 

明らかにブチ切れてますオーラ増し増しでそう言われては、何も言い繕えない

 

そうして案内され個室の扉を閉めた途端、昼子よりも余程の威厳でこちらを座らせた

 

「まず、貴方は雑用係ですよね?サポーターといえどもダンジョンに入るのならば冒険者登録は義務です。

雑用というからホームの掃除や食事の担当かと思えばまさかダンジョンに,..しかも初陣で6階層に行って?ミノタウロスと戦った?話を聞いた時は卒倒しそうになりましたよ。

だいたい...」

 

そこから三十分は説教をくらい、必ずステータスを登録することを約束して解放された

 

「では、またのお越しをお待ちしております」

 

お淑やかに頭を下げるその仕草に、自分は鬼を見た気さえした

「...お疲れ様です」

 

「待ってたのか...ありがとな。千草に命に桜花」

 

「あの奥から出てくる職員、全員顔ひきつってたぞ...どんな説教食らえばあぁなるんだか」

 

「倒したとこまで追及されなくてよかったですね...絶対にややこしくなってましたよ」

 

「...さて、昨日がホーム誕生祝いなら、今日は初陣生還祝いだな! 豊穣の女主人に行くぞ!」

 

「また行くのか⁉︎」

 

「バカ言え。初陣からの生還はそれだけのことだ。初戦闘で敗走してそのまま...なんてのは、嫌だからな」

 

実際にそうなった先祖もいると聞いていた。だからこそ、生還を祝うのだ

 

「刀哉殿...」

 

「そうだな。祝う価値がある!早速タケミカヅチ様をお連れしよう。行ってくる!」

 

下手な芝居でもするかのような台詞に苦笑しながら、夜だというのに人通りの多い通りを静かに眺める

 

「刀哉殿は凄いですね...あのミノタウロスもまるで赤子のように扱って」

 

「ハハハ、もっと褒めろ褒めろ。でもまぁ、アレくらいは...アレ以上出来なければ死んでたからな。都では」

 

「そう、なんですか?」

 

「鬼との戦いはもちろん。選考試合ってのがあってな。今日から選りすぐりの武者を集めて戦わせ、一位になった処を朱点童子の討伐隊に任命するんだ。当たり前だが死人も出る。そこまでやらなきゃ勝てなかった」

 

「そんな...」

 

「勝って生き残れたんだから、もう気にする必要もないさ」

 

命が何か口を開こうとしたちょうどその時、遠くから桜花とタケミカヅチの声が聞こえてきた

 

「お、戻ってきたな。命に千草、行くぞ」

 

「は、はいっ」

 

「今日のおすすめは何だろうな...」

 

少し皆から離れて、タケミカヅチと二人で話し始めた

 

「あ、タケミカヅチ。ダンジョン入るならステータス見せなきゃいけないらしいんだけどさ...」

 

先程耳にタコができるほど聞いた台詞を伝えると、タケミカヅチは頭をかきながらこう答えた

 

「といってもなぁ...アルファベットどころか数値化できるかも分からないことには」

 

「数値化なら確かやってた筈。恩恵を基準にしたら多分全部カンストするんだよなぁ...何せ昼子しばいた時に言ってたけど最強遺伝子らしいから」

 

「昼子っておい。仮にも最高神だぞ...というかそうなるとどうすれば」

 

「従兄弟だし散々なことされたしこれくらいいいのいいの。あ、それならあのミノタウロスだっけか、そいつを倒せるレベルと同じにすればいいのでは」

 

「...とりあえず、そうするしかないか。スキルやら何やらはお前ができることを書けばいいだろう。だいたい規格外だしな」

 

「了解了解〜。さて飯だ飯!」

 

喜色満面の笑みで店へと向かう刀哉を、ファミリアの面々は苦笑を浮かべながら追いかけるのだった

 

どうにかステータスをでっち上げ、昼間はダンジョンに潜って指導をし、暇があればある程度奥まで潜って金を稼ぎ、夜は何かにつけて宴を開くような、そんな生活が幕を開けた

 

 

 

安定した生活が続くうち、数年が経っていた。

 

二つ名を決めるらしい《神会》では、色々な武器を使って戦っていたからか《万武無双》と名付けられたそうだ。

 

そんなものに一切興味もないので、例年よりは珍しくマシな名前が出たと喜ぶタケミカヅチにどうでもいいと返してしょぼくれてたのを覚えている

 

タケミカヅチの神友であるヘスティアが眷属を見つけたと狂喜乱舞したのが、一ヶ月ほど前だ。

 

神友のよしみで時々でいいから色々と見てやってくれ、とタケミカヅチに頼まれた。

 

それもあって、俺は命たちに教えていた頃に想いを馳せつつ、その眷属__ベル・クラネルに基礎を教えている

 

「あ、ありがとうございました!」

 

と、嬉しそうにこちらについてくる姿は何というか、鳥の雛のようで。男の表現としては間違っているだろうが、可愛らしかった

 

家に来た頃は息子もこんなキラキラした目をしていたな...と懐かしむ。

 

もう少し踏み込んでみたい、というのでその日は別れた。

 

暇だからと焼き鳥のようなものを買って空腹を紛らわせていると、血塗れでダンジョンから飛び出してくるベルが見える

 

顔が見える距離まで近づいたというのに、俺を無視して走り続けていた

 

まぁ、どうやら自分の怪我ではないらしいと分かったのは僥倖だった

 

ぶらりぶらりと歩いてギルドに向かうと、ちょうどベルが出てくるところに出くわした

 

「あ、刀哉さん...」

 

「お前の担当、確かエイナだったか...説教、効いただろ?」

 

「はい.,.」

 

血塗れになった理由を聞くと、別れた後にミノタウロスに襲われて、死にかけた処をロキ・ファミリアの《剣姫》に助けられたらしい

 

「成る程一目惚れかぁ...うんうん。青春してるねえ」

 

「え、あの..,その」

 

否定はしてない処を見ると図星か

 

「恋は盲目っていうしな。さっきお前が駆け抜けてった時、顔も見える距離にいたのに気がつかないのも当然当然...と」

 

「す、すみませんでした!」

 

「冗談だって。別に怒ってないぞ?俺も嫁に会った時は一目惚れだったからなぁ」

 

「え」

 

信じられない、という声が聞こえるような反応だ

 

「俺は結婚してるぞ。なんなら子どももいるからな」

 

「そ、そんな...僕より少し年上くらいなのに!」

 

「そう見えるか?そりゃ嬉しいな。けどお前よりかなり年下だぞ。レベルを上げるってのは、神に言わせれば神の器に近づくってことだからな」

 

つまりは、神と交神した人間なんてのはほとんど神だということになる。

 

初代当主からさらに大昔、と呼べる時代に生まれた黄川人が少年の姿を保ったままなのもそういうわけだ

 

「そうなんですか...」

 

「そうだ。それじゃあベル、ミノタウロスから生き残った記念に良い店を紹介してやろう」

 

「良い店、ですか?」

 

「豊穣の女主人っていう店でな...」

 

「あっ...」

 

心当たりがあるのかと聞くと、どうやらシルちゃんに声をかけられたらしい。成る程コイツ引っかかったか

 

「なら話は早い。行くぞーベル」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

シルちゃんにいつものようにおすすめを頼むと、彼女が勧める席にベルが座り、隣にシルちゃん。そのとなりに俺が座る形になった

 

「刀哉さん、ベルさんとお知り合いだったんですね」

 

「主神ぐるみの仲でな。ちょいちょい戦い方を教えてる」

 

「これで新しいお得意さんゲットです♪」

 

楽しそうに笑う彼女を見ると、こちらも心が癒される。看板娘になるのも納得というものだった

 

女将さんがベルをからかい、そこそこの量のパスタをドンとカウンターに置いた

 

「食い切れないなら俺が全部食うぞ?」

 

「全部食べられたら僕が損するじゃないですか!」

 

「金ならある」

 

「そういう問題じゃないですよ!」

 

いやはや、ベルをからかうのは本当に楽しい。事あるごとに煽ってきた黄川人の気持ちも少しは分かるというものだ。自分たちはしなかったが、毎回こんな反応ならやりたくもなる

 

ちょうどベルがパスタを半分は食べ、俺はおススメと同じパスタを完食した頃、聞き覚えのある喧騒が聞こえてきた

 

「ロキ・ファミリアか」

 

その言葉にピクリと反応したベルは、パッと扉に目をつけた。どうやらお目当の人物を見つけたようで、顔を赤くしながらじっと見つめている

 

彼らが席に着いてやいのやいのと騒いでいる間も、その目線は動かなかった。

 

それが動いたのは、ベートと呼ばれていた狼人が口を開いた時だった

 

「そうだ。アイズ!あの話聞かせてやれよ!」

 

そして男が話し始めたのは、彼らが討ち漏らしたミノタウロスが上層___5階層に上がっていき、ある冒険者が死にかけたのを間一髪で助けたという話だった。

 

「それでそいつ...あのくっせぇ牛の血を浴びてトマトみたいになっちまったんだと!ひ〜っ、腹痛ぇっ!」

 

成る程、話からするとその場にいたのはベルらしい

 

彼が笑い声をあげる度、怯えるように、恥じるようにベルの肩が揺れる

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねェ」

 

そのとどめの言葉でベルは駆け出し、俺は立ち上がった

 

ベルが勢いよく開けて出て行った扉と、急に立ち上がった自分に酒場の目が集まった

 

「そこの犬っころ」

 

「あ?」

 

「自分のファミリアの失態をよく吹聴できるな。下手を打てば死人が出ていたというのに」

 

「...誰が犬っころ、だっての!」

 

蹴りが飛んでくるのを避けて肘で撃ち落とし腹を踏みつける

 

「ぐ...っ!」

 

「自分でとどめを刺したならいざ知らず、お前は他人が仕留めたのを見ていただけだろう。上層にいる奴がミノタウロスに勝てないのは道理だ。勝てる奴が醜態を晒すのは笑い話だな。疲れていても勝てる相手を逃し、他人の命を危険に晒したお前の方がよほど笑える。勿論この笑いは嘲笑だがな」

 

「テメッ、何で...ッ」

 

「分かったら外に出て犬回しでもするんだな」

 

開け放たれた扉からそいつを放り出し、女将や店員に非礼を詫びて代金を払いダンジョンへと向かう

 

一族の性なのだろう。復讐のために生き、死んでいった鬼薙家は、身内への危害を多少やりすぎとも思える手段で返してしまう。

 

ベルはそんなことで鬱憤を晴らせない。それどころか俺を怒るだろうと分かっていても止められなかった。

 

それに、あの犬の言葉にも真実はある。

 

「雑魚じゃ、アイズヴァレンシュタインには釣り合わない」

 

これは紛れも無い事実だろう。高位の神ほど大量の奉納点が必要なように、恋情を抱くならまずアイズと同じかそれ以上の強さが必要になるだろう

 

なまじ強いと、異性であろうと庇護対象にしか見えなくなるものである

 

あぁ全く。儘ならないものだ

 

ベルのあの涙は、ただ悲しいから泣いていたわけではないのだろう。悔しくて、それでもその言葉にどこか納得のいくところがあって、自分でそれが許せないからだろう

 

今日、アイツは無茶をする。敗走した後に湧き上がる悔しさと同じ類のものだ。その悔しさはよく分かっている

 

だからこそ、死ぬ寸前まで戦い続けなければベルは納得しない。少なくともその寸前に間に合うように、俺はダンジョンへ向かった

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインは、二人が出て行った扉を通り抜け、ベートにちらと視線を向けた後、ダンジョンへと目をやる

 

 

「アーイズたーん!」

 

後ろから両手を手をいかがわしく動かしながら迫る主神を肘鉄で迎え撃ち平手打ちを張った

 

「アイズたん表情と行動がまるっきり正反対なんやけど...!?」

「変なことしないでください」

 

そう返して、またダンジョンへと目を向けた

 

「あー、あの男か...酔ってたとはいえベートの蹴りを躱して反撃するとかどんなステータスしとんねん」

 

「確かに、強かった」

 

力みや起こりが一切なく、自然とそう動いたとでもいうような体捌きに、かなりの体格であり力のステータスを持つベートを踏みつけにして一切揺らがない身体。

徒手空拳で酒も(恐らくは)入っていたとは思えないほどだった

 

「ま、あの男のことは後で調べるとして...飲み直しやでアイズたん!さぁさぁゴーゴー!」

 

宴ともなればテンションの変わらないただ一柱の主神は、眷属を連れてまた店に戻っていった

 

 

翌日の朝、ベルは見覚えのない部屋で目を覚ます

 

「あれ、僕ダンジョンにいたんじゃ」

 

「おはようさん、ベル」

 

「刀哉さん?ってことは...」

 

「あぁ、タケミカヅチ・ファミリアだ。まぁもう皆出てった後だが」

 

「あの、すみません。昨日僕__」

 

「俺は別に良い。謝るならもっと別の人たちがいるだろ」

 

「あっ...シルさんとミアさん」

 

「そうだな。それにもう一人いるはずだ...人じゃないが」

 

「神さま、ですよね」

 

「分かってるな...とりあえずはホームに戻って、今日も豊穣の女主人だ。大丈夫、飯くらい奢る」

 

「ずっと思ってたんですけど、刀哉さんのそのお金ってどこで稼いでるんですか?」

 

「そりゃダンジョンに決まってる。ある程度奥まで行けば、装備代やら食料代やら差っ引いてもそれくらいの額は手元に残るからな」

 

「凄い...」

 

そんな会話をしながら、ベルを家まで送り届け、ダンジョンに向かい荒稼ぎして戻ってくる。

 

戻る頃にはすっかり暗くなり、ベルのホームである廃れた教会には灯りがついていた

 

「おーいベル。来たぞー」

 

「は、はいっ!」

 

ドタバタと足音が聞こえた後に扉が開いた。その奥には彼の主神、ヘスティアがいた

 

「君がタケのところの...ベルくんに戦闘を教えてくれてるっていう子どもかい?」

 

「あぁ。鬼薙刀哉だ。宜しく」

 

「ちょ、刀哉さん!?神様にタメ口なんて...」

 

「あー、ゴメンなベル。俺基本的に神にはこういう感じだから」

 

「えっ」

 

「理由は気になるけど、今はいいよ。それで、何の用だい?」

 

「ベルとヘスティアを豊穣の女主人に連れてこうと思って...勿論俺の奢りで」

 

「なん、だって...!?」

 

「あそこのご飯ってすっごく美味しいので、神様もきっと気に入ると思います!」

 

その夜の豊穣の女主人では、ヘスティアがシルやリューのような綺麗どころの多さを見てジト目で睨んできたりもしたが、それはまた別の話ということにしておこう




こんだけ長いとコピってくるだけで結構時間食うんすね…(疲労困憊
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