「えっと…サブ…トレーナーさん?」
「ああ、どうした?」
レイジングライトと照月が出会いまだ数十分も経っていない。そのレイジングライトは戸惑いの声を上げる。
「ここは…?」
「チームスピカのチーム部屋だ。入口のとこにも書いてるだろ」
確かに『チームスピカ』と書いているが、部屋というかプレハブ小屋だった。
「気にするな」
「いや気になりますけど…」
「だよなぁ。まぁいずれ気にならなくなるから」
「はあ…」
全く納得出来ない。だが、他にも色々と聞きたい事はある。
「…チームなんですよね?他のウマ娘は?中からは誰かいる様な音は聞こえませんが…」
「ああ、多分まだ来てないんだろ。トレーニングの時間にはちょっと早いからな」
「本当ですか…?私の事、騙そうとしてるとか…?」
最初に抱いた不審者のイメージ。それが再度頭の中に湧き上がる。後ずさり、照月から距離を取ろうとする。
「ふーむ、良いトモの作りだ」
「ヒッ!?」
「見ただけでも丈夫なのが分かる」
「フンッ!」
「ングッ!?」
「あっ…」
つい数十分前と同じ、太ももを撫で回される感触。そして同じ様に反射的に出る後ろ蹴り。パッと振り向くと、男が一人仰向けで倒れていた。が、すぐに起き上がり勢いよくまくし立てる。
「君、新入生だな?身長はかなり高いな。細身だが良い筋肉の付き方だ。体重は?」
「ストップストップ、悪い癖出てますよ」
ジリジリと近づきながら質問をしてくる、今日二人目の不審者に待ったをかけたのは照月だった。
「居たのか、陽介」
「居ましたよ最初から。相変わらずウマ娘大好きスっね、沖野さん」
「誤解を招く言い方をするな!」
「いや…誤解ですか…?」
沖野と呼ばれた男は叫ぶ。
「陽介と一緒にいるって事は、陽介にスカウトを受けたのか?」
「あ、はい。そうですけど…」
「そうか、俺はチームスピカのチーフトレーナーだ」
チームスピカのチーフトレーナーと自己紹介する沖野と呼ばれた男。
「よろしくな、えっと…」
「レイジングライトだそうです」
「そうか、よろしくレイジングライト」
「あの、ちょっと考えさせて貰えますか…」
「「えっ?」」
並ぶ男二人は驚きの声を上げる。
「いやだって…。正直信用出来ないというか…。本当にチームなんですか…?」
疑惑をぶつけるレイジングライト。現状目の前の男二人は急に太ももを触ってくる不審者、という印象が強い。というかそれしか無い。
「陽介、お前何した」
「いや、特に…」
「初対面で太もも触られました」
「何やってんだお前」
「アンタに言われたくねぇ!」
抗議する照月。
「どっちもどっちだと思いますけど。というかなんでウマ娘の蹴りを顔に受けて平気なんですか。照月さんは鼻血出してましたけど、沖野さんは鼻が赤くなってるだけだしいつそれ咥えたんですか棒付きキャンディですかそれ」
不信感から、問い詰めるように口数が多くなるレイジングライト。
「ま、まあウチのチームメンバーが来れば説得力あるだろ。今日は全員来るし」
「あいつ来るのか?」
「最近は真面目に来てますけど」
「真面目に練習しないウマ娘がいるんですか…?」
「いや真面目にトレーニングしないというか独自でトレーニングしてるというか…」
「あいつはなぁ。自由とでも言えば良いのか…お世辞にも真面目とは言えんよなあ…」
「何言ってんだトレーナー。アタシはいつも真面目だぞ。不真面目する時も真面目だ」
「えっ?うわぁ!?」
急に後ろから女性の声が聞こえる。振り向くとヒトの耳当ての様な物を付けた、芦毛で長身のウマ娘が立っていた。
「い、いつの間に!?」
「新入生を驚かせるなゴルシ」
ゴルシと呼ばれた芦毛のウマ娘はニヤッと笑う。
「チームスピカに入るんだろ?だったら挨拶しないとなぁ?」
「あ、挨拶…?」
「ほら、やる」
「えっ…?」
渡されたのは四角い形状の固いもの。
「えっ?」
皿に乗った刺身だった。ツマと大葉も丁寧に盛り付けられており、四角い皿の上に醤油皿も一緒に乗ってラップをかけられていた。
「えっ?」
「採れたて新鮮捌きたてだぞ!」
「何処から出したんですか…?」
「気にするな」
「えぇ…」
「そいつはゴールドシップ。ウチのチーム一の古株だ」
「よろしくな~」
「レイジングライトです。あの…ホントにこれどうすれば…?」
刺身の乗った皿を持ったままあたふたするレイジングライト。
「じゃ、先行ってるから」
フッと興味を無くしたようにチーム部屋に入っていくゴルシ。
「え?なんなんですかあの人」
「まあ、そういう奴だ」
「仲間思いの奴ではあるんだけどな、俺は沖野さん程付き合いが長い訳じゃないからよく分からん」
「いや、俺もよく分からん時がある」
「えぇ…」
ゴールドシップと出会い、言葉も出なくなるレイジングライトだった。