ウォーミングアップを終え、トレーナー二人の元に集まる八人のウマ娘。体験入部だが、新しくチームスピカに入った新入生のレイジングライトは既に疲弊していた。ウォーミングアップからきついものだった…訳ではなく。
『じゃあ軽いランニングからだ。行くぞ〜』
『『スイーツ!スイーツ!スイーツ!スイーツ!』』
『スイ…え!?それ掛け声!?』
トレーナー二人との出会い方、チームメンバーのキャラの濃さ、ウォーミングアップの時点でメンタルにきていた。
「じゃあ、レイラの実力を見せてもらうか。まず一人で走って貰ってタイム測定だ。その次は併せで走ってもらう」
「分かりまし…あの、トレーナーさんの隣で何やってるんですかゴルシさん…」
「ジェンガ」
「ゴルシの事は気にするな。これはこいつなりのトレーニングだ」
「無理がありません…?」
溜息をつきながらスタート位置に向かうレイラ。レイラがスタート位置に着いたのを見て、トレーナーが片手にストップウォッチをもう片方に白旗を持ち、手を挙げる。
「よーい…スタート!」
トレーナーの掛け声からワンテンポ遅れてスタートする。
「スタートは苦手みたいだな」
「ゴルシと同じくらいじゃない?ねえゴルシ?」
「アタシはあえて出遅れてるんだよ、分かんねえかなぁ」
「普通は綺麗にスタートした方が良いんだよ」
ヒトが到底出せないような速度で、しかしウマ娘としては決して速くない速さで走るレイラ。
「サブトレがスカウトしてきたっていう話だったけど…。レイラ…その…あんまり速くない…のかしら?」
「まだ分かりませんよ?後半の伸びが良い脚質なのかもしれませんし」
「長距離が得意なタイプなのかもしれねえしな」
スピカのメンバーやトレーナーが会話をしている最中に、レイラはコース上に置かれたゴール板を走り抜ける。
「ふむ…」
「タイムは幾つッスか?」
「最後の3ハロン、タイムが38秒台…。お世辞にも速くはない、いや遅いくらいだ。陽介、レイラの走りを見てどう思う」
「新入生でまだ技術が無く無駄が多い、それは俺たちが教えていけば良いとして。何となく走りづらそうな感じがしましたね」
「同感だ」
少し考える素振りを見せてから、再度トレーナーが声を出す。
「…次は併走トレーニングだ、スズカ頼んだ」
「えっ?私…ですか?」
「ああ、そうだ」
「トレーナーさん、一対一の併走トレーニングであれば、わたくしやテイオーの方が良いのでは無いですか?」
「ボクもそう思うなぁ。スズカじゃあ逃げちゃって併走にならないんじゃない?」
「沖野さんにも考えがあるし、やってみてからだ」
「サブトレは分かるの?」
「沖野さんの丁稚だぜ?何となく分かるよ」
「ただのサブトレーナーだろ、丁稚っていうなよ」
「…分かりました。距離はどの位走れば良いですか?」
「距離は2400mだ」
「2400m!?レイラには長くねえか、スズカ先輩にも」
「確かにデビュー前のウマ娘には長過ぎると言っても良いが、2000mとかマイル距離だとスズカが有利すぎるからな。ほら、行ってこい」
「はい。行きましょうか、レイラさん」
「よろしくお願いします、スズカさん」
再びコースに立つレイラと、その隣で構えるスズカ。先程と同じく白旗を挙げるトレーナー。
「行くぞ、よーい…スタート!」
スズカが綺麗なスタートを切り走り始める。対象的に大きく出遅れてスタートを切るレイラ。
「今回も出遅れたか、スタートが苦手なのは間違いないな」
「やっぱりスズカさん、速いですね」
「ねえ、やっぱりスズカとの併走良くなかったんじゃない?どんどん差が開いてるよ」
テイオーの指摘通り、スタートしてからレイラはスズカに追い付く事はおろか差を縮める事すら出来ない。
「スズカはいつも通り走ってるだけみたいだが…レイラ、全く追い付けてないな」
「もはや併走になってないじゃないの」
「スズカ先輩は速くて強いウマ娘だけど…いくら何でもこれは…」
最早何バ身開いたか分からない程に、スズカとレイラの距離は開いていた。
「あれ?レイラちゃん、様子がおかしくないですか?」
「ホントですね…まるでスタミナが無くなったみたいな…」
「やっぱり2400m長すぎたんだよ」
「本当にそう思うか?」
トレーナーが意味ありげに言う。
「どういう事ですか?」
「今、レイラはスズカの前へ行こうとしている」
「それ当たり前よね、併走なんだから」
「沖野さん、言葉省略しすぎ」
「レイラはスズカから逃げようとしていたが、スタートから出遅れた上に全く追いつけないから掛かって無駄にスタミナ消費してる。で、脚質に合わない走りをしてるから余計にスタミナ消費してる。そういう事だろトレーナー」
「おおう…、今ので分かったのかゴールドシップ…」
「アタシだからな」
走った距離が半分以上過ぎた後もスズカとレイラの距離は開き続ける。その大差は覆ることなくスズカがゴール板を通過したあと、数拍置いてレイラが駆け抜けて行った。