FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第五十一章・裏:探索の中で

「――ん?」

「どうした」

「いや、今、そこの兵士二人に違和感があったような……」

「オイオイ、何言ってるんだ? 我々の仲間を疑うなんて、不敬になるぞ」

「おおっとマズい。申し訳ありませぬ我らが偉大な神よ」

 

――先ほどの熱狂とは、全然違いますけど。やっぱり、ちょっと……怖い、です。

 

 何人も何人も、こっそりと物陰に引き込んで気絶させて。そのままに放置……今もバレないか、肝が冷えました。今見ていた兵士の方も、拙と……隣の、ホンゾウインさんとで気絶させた後で立たせておいた……というか、置いておいたというか。

 ともかく、バレたらとんでもない一大事の瀬戸際に今、私たちは居ます。

ライネスさんは『君なら大丈夫』と言ってましたけど、正直……自信はありません。

 

「……」

「――っし、こっちは大丈夫、っと……グレイちゃん、そろそろ行こうや。のんびりしてると見つかっちまうし。なぁ……グレイちゃん?」

「あっ、す、すみません。行きましょう」

 

 それは……当然、拙が自分自身を信じられない、というのもありますが。もう一つ。隣の彼と比べてしまうと、自分がより拙く見えてしまうと申しますか。

 

「……あの」

「ん? どないした?」

「こういった事、慣れてらっしゃるんですか?」

「こそこそ移動する事、っていう意味ならYES、かね。気配を気取られたらあっという間に逃げられる事だって多かったし」

「逃げられる?」

「山の獣。ウチの山の獣が下手な事したら責任は俺に来るわけだし」

「うちのやまのけもの」

 

 ホンゾウインさんは気配を殺し、そして静かに移動する事にも慣れていますし。そして一瞬の隙に相手の懐に潜り込んで、殴り倒す。その動きも迷いがありません。有体に言えば、その。プロに見えます。

 というか、自分の山って何でしょう。ライネスさんからも、山を所有してる、って聞いたことありません。お金持ちなんでしょうか。

 

「あー……なんだ、山を見回って、あんまり人里に行かない様に、何処通るとか見極めて色々、柵とか置かないといけないんだけど。その時に、下手に気配丸出しだと、警戒した獣に噛みつかれるとか、ざらでさ」

「け、気配を消すのは、それで慣れているんですか」

「そんな感じ、かな」

 

 獣に比べりゃあ人間の感覚誤魔化すなんざちょろい、とはおっしゃっていますが。そのちょろい、の基準が可笑しい気がします。獣の五感というのは、野生の中で自然と研ぎ澄まされているのです。墓地に迷い込んでくる獣には、近場のモノだけではなく、意外と遠くから死体の腐臭を辿ってくるモノもいるのを、墓守として良く知っているのです。

 

 この本造院さんは、獣の感覚を誤魔化せる程度には彼らに慣れている、とさらりと言いますけれど。それは普通に、凄い事だと思うんです……ただ、ですが。

 

「いやー山の中で気配を殺すのって、割とむずいんだよなぁ。この感覚分かる?」

「えっと、分かります」

「そっかぁー。いやぁ誰もわかってくれないんだよねぇ。山に一回入っちゃえば全然分からなくなっちゃうとか無責任に言う奴がいてさぁー」

 

 彼のそれは、ちょっと違う気がするのです。

 私も、墓守の仕事は……真面目にやってきたので、墓場を荒そうとする獣を追い払ったり、こっそりと捕まえたり、とやって来ました。なので分からない訳ではないのです。獣相手にどうやって気配を誤魔化すか。

 

 ですけど、私の見る限り、ホンゾウインさんのそれとは……ほんのちょっとだけ違うと申しますか。私のやっていた方法が正しいか、それは分かりませんが。

 あくまで私の主観ではあります。あるのですが。違和感があるのです。言葉にしようとすると難しいのですけれども。

 

 本造院さんのそれは、獣の経験を人に生かしている……というよりは、人を相手にする事を前提として、動いているように見えるのです。

 

「――ん? どしたん?」

「あ、いいえ、何でもないです……行きましょう」

「おう?」

 

 ただ。もし、そうだったとして。どうして対人の経験があるのかは、全くもって想像もつきません。彼は、あくまで日本に住んでいるハイスクール生だという事だったので。平和な国の学生さんに、人を相手に気配を殺して動くような経験など、必要だったのでしょうか……はっ!?

 

「……ま、まさか」

「なんすか一体。なんでこっちを見る」

 

 日本の……その、そういう、文化というのは。海外のそれよりも進歩している、と聞いた事があります。卑猥な形をしていた、とか、そういうレベルじゃない程に。

 男の子、というのはそういうのにとっても、とっても、敏感、と申しますか。熱を上げるというのを、ライネスさんが口にしていた事もあります。師匠は物凄いお顔をされて、否定されていましたけど……も、もしやですが。

 

 浴場を……!?

 そ、それを繰り返したせいで、自然と磨かれていったという可能性も……!?

 い、いえあまりにも失礼な想像だといえばそうなんですけどそういうのに敏感なのは男の方としては普通というか!

 

「あ、あわわわわっ」

「……なーんかエゲツない誤解されてる気がするなぁ!?」

 

 

 

 誤解だったようです。

 

「残念ながらご期待には沿えないっすよ……覗きなんてした事ないし」

「そ、そうなんですか。残念じゃないですし、喜ばしい事だと思いますけど」

「……獣相手より、人間相手にこっそりする機会が最初に来てたから、体が覚えてるだけなんですよ。いや、真面目に」

 

 仕方ない、という風にため息を吐かれてしまいました……本当に申し訳ないです。不埒な妄想をしてしまった挙句、それを表面に出してしまって。無礼でしかないです。本当にごめんなさいというしかないです。

 

「実家でちょっち、かくれんぼをする事が多くて」

「かくれんぼ?」

「うん。あらゆる大人の目を掻い潜って、一切バレる事もなく、実家からそっと抜け出すレベルのガチガチかくれんぼ」

「そ、そうなんですか」

 

 それはもうかくれんぼとは言わないのではないでしょうか、と思いますが。

 

「案外楽しかったぜ? 目の色を変えてこっちを探し回る奴を虚仮にしながら逃げ切ってやるのはさ。うけけけけけ」

「えっと……ご、ご家族から隠れるって、どういう」

「……あー、いや普通に考えれば特殊か? その環境は」

「えっと、それは特殊かと思いますけど」

 

 私も、家族……とは、多少なりとも、特殊な所はありますけれども。ただ家族の捜索を本気でかくれんぼで振り切って逃げ切った事は、流石になかったのではないかな、と思いました。

 ホンゾウインさんが『そういえばそうだった』と言っているのが……若干、認識がズレているのかな、と思ってしまって。

 

「ちょいと家族とは折り合い悪い、っていうか。いや逆に()()()()()()……っと、こっち見たな、ストップ。そこの物陰に」

「えっ?」

 

 思っていたら、いきなり手で制されて。ホンゾウインさんは、大通りに続く道からその向こうを睨んでいます。見つかったのか、と声を潜めて問いかければ、そうなる一歩手前だったという答えが返ってきました。

 

「ったく、足音も衣擦れも、出来るだけ最小限にしてるってのに、どんな嗅覚してやがるんだか……変態共め」

「ど、どうしてわかったんですか?」

「一応、こっちに視線が通りそうな場所に人が居るかは、チラって見てるから。案外分かりやすいんだぜ、怪しい物を見つけた、って思った人間の反応ってさ。だから、本当にチラって見るだけでも、気を付けてれば、見つけられる」

 

 当然の様に言って、再び動き出す姿は頼りがいがあります。

ただ。それと同じくらいに、もし彼の言っている言葉が本当なら、少し、物悲しい気もします。必死になって家族から隠れていたことが、役立っているというのが。

どうして、家族からそんなに必死になって隠れなければならなかったのでしょう。

 

「……? どしたん? 行こうぜ」

「あ、はい」

 

 ……自分と同じとは、思いませんけど。

 何時か、彼の家族のお話も、聞いてみたいとは。思いました。

 




以前友人に『こっそり見てるとか思っても見られてる方が案外分かるもんだぞ』と言われた事を思い出しながら書きました。
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