FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――分かんねぇなぁ」
作戦決行は明日。夜は、町から離れて野宿。
因みにマスター以外は、サーヴァントとして現界したので、何か特別寝具等は、必要ではない、のですけれども。
ちゃんと寝床が無いと精神的につらくなる、見ている自分も、きっと私たちも、とのマスターの意見により、マスターたちが盗み出してきた毛布、というか、布にくるまっております。ゴルゴーン様以外は。
とはいえそれを言い出した当人であるマスターは、起きていらっしゃいますが。見張りと言って。私はマスターを放っておくわけにもいかないので、毛布にくるまって、一緒に起きています。
「何が、ですか?」
「……町の奴らの様子、見たろ?」
「えぇ、はい。凄い熱気でしたね」
「俺は町の中に入って、熱気の中身をより近場で体験したけど……人間ってなんであんなにおかしくなれるんだと思う? 式部さん」
そんな中で。マスターは、空を眺めながら呟くのです。ぽつり、と。
顔の横、揺れる焔と落ちる陰が、マスターの表情に力が入っていない様に……疲れているようにも、見せています。
実際、あの町から戻ってきた後のマスターは、疲れた、とは申しませんが。しかしながら何処か暗い影を落としていた様な。そんな顔をしていたので。
直ぐにお休みにならなかったのも、それが原因、なのでしょうか。
「おかしく、とは――一体どういう事なんでしょうか」
「まるで自分の意思なんてないみたいに。皆、同じような事をさ。笑いながら唱えるんだよ。狂信者っていうのはああいうのを言うんかなぁ」
「……狂信者、ですか?」
「あぁ、少なくとも俺は理解したくはない類の、ね」
――狂信者、というのは、目を見ると分かりやすい。
という言葉からマスターは話を始めました。
目が、普通の人と全然違う。素人でも分かる。濁っている、という訳ではなく。寧ろ澄んだ目をしていることが多いのだと言います。
そして、透き通ったその目は不自然な程、キラキラしているのだそうで。
例えば、子供がおもちゃを見て目を輝かせているのとは、違うのだと言います。目は輝いていても……その瞳は、何も写していない。まるで、ガラス玉の様である、と。
純粋、という言葉とは明確に違う。無垢などでは決してない。
例えば。
もともと持っている色を無理矢理抜いて、透明にする技術、という物が当世には存在するそうで。彼らは、それに近いそうです。
自分たちの持っていた、悩みも、展望も、全て『信仰』という物で抜き取って、透明で純粋で、綺麗になろうとする――どれだけ歪な事なのかから、目を逸らしながら。
「程度ってもんはあるけど――町の中に居た奴らは、一番見覚えがある感じだった」
「見覚え?」
「新興……でもねぇか。カルト的な宗教に触れ合う機会があってね。その信者共の目とそっくりだったよ、あそこにいるやつらは。って、カルト、ってそもそも知ってる?」
「詳しくは、知りません、概要は……」
「聖杯が、ね。便利だなぁ聖杯」
めちゃくちゃやばい奴ら、ってくくりで大丈夫、とはマスターは申しているのですけれども。とてもそれだけ、には見えない程に、マスターの表情は冷たく、無表情で凍り付いていて。
そういう奴らの中に居るように見えたのだと、マスターは言います。
町中を歩いている市民たちは……まるで目の前の現実を見ているようには見えず――熱に浮かされて、夢の中に居るかのように融けて、目を煌めかせていた。異様だったのは皆全てが、その表情を崩さないまま、ふらふらと歩いていた事。
その全員は、自らの信仰、というか。信じたいものに溺れていて。自らの意思で、現実から目を逸らして、正気を放棄しているのだ、とマスターは言います。
「現実も、周りも、なんも見えてないから、好き勝手に迷惑をかけてくるんだよ」
「……それは――」
「もちろん全部実体験。凄いぜ、無駄な情熱とかさ」
「む、無駄ですか」
「無駄以外の何者でもないよ? アイツら、俺らがどんなに『お前たちは迷惑だ』って言っても聞く耳持たないからなぁ」
けらけら。けらけら。
笑い声が、暗い、星の瞬く綺麗な夜空に響いて。でも、マスターはまるで笑顔を浮かべていなくて。それが……マスターの淡々として、熱の無い語り口、他の音の一切ない空間の中である事が。異様な程に、真っすぐに耳に届く。
それこそ、不気味なほどに。
「……」
「嘘だと思ってる?」
「いえ、そんな事は……」
うそだとは、思いません。
そう、不気味な程に――その語り口には、真実味がある。迫力がある。腑に落ちる様な感覚があるのです。おおよそ、若いお人が語る内容ではない事が。
晴明様が、稀に宮中での『諍い』の話をしてくださることがありました。
貴族様が。女官たちが。文官の方々が。他の陰陽師の方々が。宮中というのは、人々の交わる場所。そこに顕れるのは、人の闇も、光も、幾つも幾つも、現れては消えて。
そして……その最中には光と闇とが交わり、また、光と光がぶつかり合い、若しくは、闇と闇とが食らい合い……その結果として起こる『諍い』。
その深淵の深さたるや。下手な怪談話など、欠伸が出てしまいそうになるほどの恐怖と悍ましいものに溢れていたのを、覚えています。
マスターの表情は――笑顔でそれを酒のつまみにしていた、晴明様を、思い出させるのでございます。正反対で、似通ったところなどどこにもないのに。
「実体験なんだから信用してほしいけどなぁ……じゃあ、一つ昔ばなしでもしようか?」
「昔ばなし、ですか?」
「ここまでくると意地になっちゃってさ。信じてほしい訳でも無いんだけど。一つの暇つぶしって事で。どうだい?」
「見張りの最中なのに、暇つぶし、ですか?」
「まぁまぁ、どうせ誰も攻めてきたりはしないんだ。これだって、たぶん俺って眠れないからこうして起きてるだけだし。付き合ってよ」
ぐりん
マスターは、首を急に回してこちらを見ると、口だけを笑顔にしながらそう言います。まるで物の怪の如き蠢きを見せた、そんなマスターの姿……暗がりの中、私を見つめる瞳は、まるで笑ってございません。
――そんな彼に、まるで恐れを抱けなかったのは。
マスターが、酷く小さくなってしまった様に見えるから。くるまった布の中で、さらに体を縮こまらせた様に、見えたから。まるで、彼が見えぬ怪物に怯えて、逃げ出しそうにしていたから。
「むかーし、とある子供が居ましてね。そいつは自分と同じ血の流れる親族から、神様仏様、と愛でられて育った――悪い子だった」
「悪い子、ですか?」
「当人は、全然、それをありがたがってなかったのさ。親族中が、自分たちの全てを捧げてると言ってもよかったのに。それを全然、嬉しいと思わなかった」
……全てを捧げるとは、と私が問えば。
マスターは、ただ一言だけ、『文字通りだな』とだけ返しました。
「実際の所、そいつらが何を考えて彼にそこまで尽くしていたのか、まぁ俺には知る由もないけど。傍からみりゃあ、さぞかし不気味だったんだろうな」
「……マスターは、その子と面識が、おありで?」
「面識……面識、はないか。会った事はない。けど良く知ってる。そいつの家族の惨状もよーく知ってるのさ」
妹が一人。母が一人。父が一人。
少し、田舎染みて、閉塞的な雰囲気はあったけれど。それでも、ごく当たり前で、幸せな家系だったのだと、マスターは言います。
「でも、ご家族もその子に尽くすようになっちまった」
「――それは、どうして」
「そういう信仰の一族だったから、としか言えねぇな。その子は、そうなって来たから元の平穏で、暖かな暮らしを望んだ」
マスターは、私を見ています。見ているように見えます。ずっと。でも見ているのは私ではなく……私の後ろの、暗がりの様にも、思えました。そこに、マスターは何を見ているのでしょうか。
「――その子は、ご家族に相談は」
「したんじゃないか? 当然。でも、そうは上手くはいかねぇ」
その少年の、そんなささやかな願いなど、見えないし、聞こえなかったのです。
そう、マスターは。笑って。締めくくりました。
作戦決行まで、どんな話をしてたのか。