FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第五十三章・裏:策の成立へ

 背後で上がる雄叫びとも怒号ともつかない大声を上がる背後……我々を探しているというのに、そっと抜け出した我々に一切気が付いていないのが、本当に周りが見えていないと言えばいいのでしょうか。

 マスターの言っていたことは的を得ていた。とはいえ、流石に実際に目の当たりにして見ると信じられないと申しますか。

 

 アレだけ私たちを鋭敏に捉えたというのに、私たちを見つけられずに、私たちが居たと思われる場所を、徹底的に踏みつけ、暴れ、目の前の敵を探し回る。敵を見ていない。自分たちが敵と思ったものを見ている……というのは間違いないのでしょう。

 

「どれくらい引き付けたと思う!?」

「正確には分からない。向かって来た敵は、出来るだけ倒した。後はほとんど戦う能力のない市民のみ、のはず。押しのける事は難しくない。そのあとは、シャドウサーヴァントを突破するだけだ――と、私の中の人はおおせだよ」

「本当に大丈夫なんだろうなぁ、大分ガバガバにしか聞こえないんだけども!?」

「はっはっはっはっ」

 

 ……その在り方は、歪であると言わざるを得ませんが。

 ですが、今回はそれが幸いしているのです。誰よりも我々にとって。予測しやすくそして策に乗せやすい。我々の目的は、紅の都の全てを破壊しつくすことではなく。あくまでこの異常な空間の是正と、脱出なのです。

その為に最優先は、紙片を回収する事。

 

 紙片に触れる事で、この特異点にかぶせられた偽の皮を剥がせる。今、判明している事実はそれだけです。そして、紙片が反応を示すのは……唯一、マスターだけなのです。

 

「……紙片って、やっぱ触らないとダメか?」

「触って反応するタイプだから触ってもらわないと」

「あー、そっかぁ……いやー、出来ればご勘弁だったんだけどなぁ」

 

 とはいえ。

 マスターは、紙片に触る事をあまりよしとはしていないのですが。

 

『――やっぱり痛みとかが走ったりするのかい?』

「あーいや、そういうんじゃないんだ。ないんだけど……バイタルに異常って出てるんだよなぁ?」

『そりゃあこっちから君の様子はモニタリング出来てるからね』

「だよねー……うん。分かった分かった、正直に言う。なんかもやっとすんの。アレ触るとマジで。うん」

『もやっと』

「凄いもやっとする。めっちゃもやっとする。あの、痒い所があるのにかけないくらい」

 

 もやっとするそうです。

 ……いえ、それで終わりにして本当にいいのかどうかは分かりかねますけれど。ただマスターは、もやっとするんだよなー出来れば触りたくないけどしょうがないかー、と零すばかりで。

 ダ・ヴィンチ様も、Gを触る様なものかな? となんだか呑気な事をおっしゃっているのですけれども。

 

「まぁでも死ぬわけじゃないし……仕方ないかぁ。そうじゃないとダメっぽいしなぁ」『相手にそう誘導されてる気はするんだけどもね』

「そう思わなかったら俺ら全員間抜けよ」

「……本当に、大丈夫なのですか? 触らない、というのは」

「触った途端に特異点の化けの皮が剥がれてるんだから、何もしないっていう選択肢はないわなぁ。今の所の突破する手立ては他にないっていう」

 

 あの紙片を集める事は、この特異点モドキの解決に繋がっていく。しかし、その起動方法はあの紙片をマスターに触れさせること。段階を踏んでいった先に……何も起こらないというのは、流石に楽観的に過ぎると、私も思います。

 

「紙片の使い方、っていうか意味っていうのを見せつけられてるんだ……吊り下げられたニンジンみたいによ」

『我らは馬車馬の如く走り抜けるしかない』

「よねぇ、体に異常が出ない限り、は……しゃおらぁっ!」

 

 しかし、マスターが一発、蹴りで吹っ飛ばして……そのまま走り抜ける姿には特に体の調子が悪いようには見えず。実際、マスターが無事であるなら、紙片に触れて特異点を崩壊させる、という相手の意図に乗るのが最短である事は、間違いないのです。

 

『――とはいえ、こっちも何もしていない訳じゃない。次までには、それなりに対策も立てて見せるよ。通信も少しずつ改善していってるし。ずっと何もできないまま、見てるだけっていうのも腹が立つんだぜ?』

「期待してますよぉ、万能の天才!」

『任せたまえ……とは言い切れないけれど。まぁ何とかしてみよう』

 

 ……であれば。私が出来る事は。

 

「あの、マスター」

「ん?」

「もし、夢見等が悪くなったりしたら、私に。せめて……お守りくらいは」

「――ん、ありがとさん。大丈夫。昔から悪夢とかぜんぜん応えないタイプだから」

 

 せめて。マスターの調子が悪くならない様に色々と、配慮をすることくらいで。結局の所、我々はマスターの身に何か起きれば、全てがお終いでございます。それに……個人的にも、マスターに、死んでほしい訳では、ございません。ずっと、ここまで駆け抜けて来た、相棒、ですので。

 何の責務もなかったはずの、只人の男の子を。せめて、五体満足に戻してあげたい、と思うのは当たり前の事ではないのか、とも。思うのです。

 

「ま、目の前のこれ見てると、夢見悪くなりそうだけどねー」

「マスター、いい加減こやつら千切り捨てて良いか!」

「許可したいけど無理! んな暇はないから兎も角前進優先!」

「ええい、いい加減周りを取り囲まれかねんぞ! 数を減らさねば!」

「――まぁ、俺だって気持ちはわかるよっと!」

 

 まぁ、今は元気な事は、間違いないので、過剰に心配する事も無いのか、とは思いますが。。

 マスターが殴り飛ばした相手は、鼻血をまき散らしながら飛んで行って……後ろから突っ込んできた方々に吹っ飛ばされ、別の方向へと飛んでいきます。

 

 王宮まではあと少しですが、しかし奥へ行けば行くほど、殺到する民の勢いは更に苛烈になっていくのは、自明の理。人の波を押し退けるように突撃を繰り返しながら――ライネスさんの方を見ます。彼女は、この状況でも全く取り乱さず、真っすぐ王宮の方だけを見ています。

 

「なぁ、軍隊を引きはがして速攻戦、っていう話だけど……こいつらに纏わりつかれたらやばいんじゃねぇか!?」

「いいや、これでいい」

「これでいい!?」

「そうだ。なんで軍隊()()を引きはがしたと思う?」

「そりゃあ、暴れてる俺たちに対応するのは、市民じゃなくて、軍隊だから」

「それだけじゃないさ。まぁ見ていたまえ。策が成った以上、後は奇手もいらず当然の様に勝利は確定しているんだよ」

 

 ……軍隊の皆様だけではなく、こうして今は市民も我々に殺到している訳なのですけれども。ただ、この市民も、この作戦には必要なのだと、ライネス様は……明らかに、何かを企んでいる様な可憐な笑顔で。おっしゃりながら……目の前を指し示します。

 近づいてくるのは、目的地。王宮の門。

 

「――さぁ、最後の仕上げだ。あの王宮に駆け込む――まえに、その前で時間稼ぎだ。グレイ、ちょっと場内に入り込んで、準備を整えてくれないか」

「え? 準備……ですか?」

「うん。扉を固く固く、素早く閉ざす準備だ。それが完了するまでは、我々が時間稼ぎをする」

 

 そう言ってライネス様はそこで踵を返し――マスターも、ライネス様の動きに合わせて足を止めます。私も、とりあえず後ろ、私たちが走り抜けてきた方へと体の向きを変えてみれば。見えました。そして、ちょっと……うっ、ってなりました。

 

 人の波です。

 物凄い怒号と人の熱が、暴走しております。足に響く地響きと勘違いしそうな程の、とんでもない人数の大激走。声だけでも、建物が震えている気がいたします。

 一体どれだけの人数を振り切って来たのか。それの集大成でございます。

 

 多少ケガをしていようと、血を流していようと。なにも構わずこちらへと突っ込んでくるのです。それだけの人数が。狂気が行きつくところまで行っている気がします。一歩、下がりそうになりました。

 

「前提として、アレの集団を絶対に通さない」

「一人も?」

「そうそう。絶対に通さない様に、ここで足止めする。それがどれだけ上手くいったかでこの後の仕掛けの効果の度合いが変わる」

「どういう事?」

「――もし、我々の仕掛けに猪が気が付いて、戻ってきたとして。怒号を上げた群衆が集まっている場所を見れば、そこに何がいるかは想像もつくだろうね。そして。目の前の群衆に配慮して、我々を追うと思うかい?」

 

 ……そして、耳に聞こえてきたライネス様の言葉。

 そこから思い浮かぶのは、一つの想像。何故グレイ様に先行させたのか。自分たちが閉じこもる事を優先しようと思ったのか。

 

「――もしかして、酷いことしようとしてる?」

「猪は動き出したら止まらない。味方だろうとなんだろうと、突っ込んで蹴散らそうとして、でも数は同格だからそう上手くはいかなくて。どちらも必死に王宮に入ろうとするから混乱を生む。ごく当たり前の、悪辣な作戦だよ」

 

 どうやら、私の想像は……おおよそ当たっていた模様です。

 




ひどいことしよう!(軍師の基本思考)
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