FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第五十七章・裏:海原と残骸

「――おーおー、凄いなぁこりゃ。船の墓場だ。陸上の」

 

 腰に手を当て、日差しを遮るように片手を額に当てて、見回すマスターの視線の先に、そこの光景は広がっていました。

 

 砂浜の上に横たわる、割れ、砕け、欠けている、船たちの残骸。それが、何処までも続く無情な光景。確かにこれは、正しく墓場と呼ぶべき景色。あれら一つ一つが、海に出ていった男たちの墓標。

 その冒険の最中の歓喜、苦悩、衝突、そして……それでも目指す、果てない夢。その景色を思うだけで、一つ物語を書き上げたくもなってくるものです。後の世で、多くの海洋冒険の名作が生まれたのも、決して不思議ではありません。

 

 ――なのですが。

 

 ここの特異点の成り立ちを考えると、砂浜に転がるそれらに本当に人が乗っていたのか。それとも……疑問の余地は、大きく残ります。

 そもそも、私達が乗り込もうとしているのも、人が乗る船ではなく。

 じゃんる、だったでしょうか。そういったもので考えるなら、海洋冒険、ではなく。恐怖を扱った怪奇小説に分類されるものだと思われるので。

 

「どうでしょうかダ・ヴィンチ様」

『――反応は今の所なし。まぁ今の弱体化してる探索能力で探れる範囲だけど。もしかしたら視認できる沖の方に、何か見えるかもしれない』

「……今の所、船らしき影は見えませんね」

『ま、そう簡単に見つかるなら苦労はしない、か……オーケー。気長に探すことになりそうだね。これは』

 

 しかし、この晴天の砂浜の中、やってくるという幽霊船を待っている、というのが。特異点という物の奇妙奇天烈さを嫌という程表している気がいたします。

本来、神秘に分類されるそれらは、決して容易く姿を現さず。しかし、時折ひょいと人々の入り込んだ『隙間』に顔を出し。そんな僅かな遭遇しかないからこそ……我々は、出会ったときに、彼らを恐れるのでしょうから。

 

 闇の中、軋む音を上げながら現れる恐怖の象徴。しかし、昼の最中にそれらを迎えたとすれば。想像すると、少し間の抜けたと言いますか……しかし、異様な光景である事は間違いないでしょう。

 

「まぁ待っていれば勝手に到着するだろうよ。亡霊の執念深さは折り紙付きだとも。グレイの、ね?」

「……は、はい。きっと、来ます。と、思います……はい」

「じゃあグレイちゃんを全面的に信頼するとして。先ず、俺たち優先するべきは――」

 

 先ずは砂浜に到着する、という幽霊船を見つけるところから、ですが。今の所は幽霊船というより、幽霊船が行きつくであろう成れの果てしか転がっておりません。

 ……マスターは『大丈夫、式部さんとか幸運ランクAだし。来てくれるでしょ』とおっしゃっていましたが、正直自信が持てません。私の幸運とはそういう類のものではありませんし。

 

 そんな不安を振り払えれば、と。坂の上から、改めて砂浜を見渡してみます。何処までも抜けるような青い空と、真っ白な砂浜は、やはり、第三の特異点の景色を髣髴とさせました。

 

「違いは、夢破れた船が大量に転がってる事か?」

「第三特異点でも、こういった光景が何処かにあったのでしょうか」

「さて、ね。俺らは見た事ないけれども。あったのかもねぇ――兵どもが、夢の跡、って感じに、さ」

 

 

 

「――近くで見ると、凄まじい散らかり具合だ。全く……雑多に過ぎる」

「見るに堪えないって感じスカ、ゴルゴーンさん。綺麗好きですもんね」

「別に特別そうという訳ではない。人並みだ。ただ……私の嘗ていた島の海岸も、割とこんな感じだったからな。片付けをさせられるのは慣れているだけだ」

 

 あきれたように言うゴルゴーン様の言う通り。近くで見れば、墓標、というよりは……正に塵捨て場というのがふさわしい惨状ではあります。

 

 船から投げ出された積み荷が辺りに散乱し、砲弾は錆を纏い、割れた酒の瓶の欠片が転がって、そして元は何だったのか判別も難しい果実かなにかの成れの果てが、少し離れていても感じる程に、腐敗臭を発生させていました。

 元は、誰かが船の中で生活していた、と思われるような跡……ですが、これを操っていたのは人ではなく。そもそも、この残骸が尋常の由来なのかも、分かりません。

 

「それらしく、作られていたりする、のでしょうか」

『雰囲気作りの為、っていうにはちょっと大仰すぎる気はするね……例えば、これらにも意味があるのかもしれない』

「意味?」

『うん。打ち捨てられたこれらの船は……『何者か』に沈められたもの。言わば、それが存在していた事を『証明』するための証拠、だったり』

「ふむ。逆説的に証明する、という奴かな?」

『無辜の怪物、なんていうものもある。人々が『そう』と認識するという事は、バカにならない力を持つ。であれば、こうして……何かに疵でもつけられて沈んだ、みたいな船だって『それが存在した』という信仰を生んだりもするだろうよ』

 

 そう言ってダ・ヴィンチ様が『そこ、見てごらん』と指示した先には……船の側面に、何かに引き裂かれたかのような大きな傷が見えます。もし、それが『爪』だったとすれば。それらは尋常の大きさではないでしょう。

 

「こんな事が出来る海の怪異とか?」

『それらを大量に配置する為に、ここだけ凝ったやり方をしているのかもしれないねぇ』

「ふむ。あくまで推測の域を出ないが……ここの地形と、私の中の英霊の見解を合わせてみると、ありえないとは言い切れない程度には『合理性』がある。海に出なければ平和そのもの。だが海に出れば……」

「恐ろしいものが、たくさん、潜んでいるかもしれない?」

 

 グレイ様が、ぎゅう、と胸元の少し下あたりで拳をにぎりしめ、不安そうに見つめた先の海。キラキラと輝いている筈の水面の奥に、何故か、どこまでも暗い海の深層、見えない筈なのに、そこにいる何者かを想像してしまって。

 ゴルゴーン様にも匹敵するような、底知れぬ、人ならざる強大な神秘が――

 

「姉上たちの元に来た輩の残した残骸、姉上に言われていつも片付けていたのは全然関係ない私だったな……なんだか、憂鬱になって来た」

「あのーすみませんゴルゴーンさんちょっと後ろに下げていいですか!? あの、景色と相性が悪いみたいで!?」

「いや、今も言った通り脅威が無い訳でも無しい、一応戦闘はする予定だから、その要に下がられると困るのだけど……」

 

 ……当の本人は、船の残骸を見ただけで、何時もの迫力は何処へやら。

 両手をだらりと下げて空の彼方を見つめるゴルゴーン様のかつての境遇は、想像するだに余りありますが。

 しかし、今考えるべきはきっとそれではないので。光景を想像してしまい少しツンとしてきた鼻の奥の事は振り切って、取り敢えず、砂浜に改めて向き直ります。取り敢えず今考えるべきは、我々の足。幽霊船について、です。

 

『まぁ戦闘ばっかりに気を取られて、肝心の船を沈めた、とかシャレにならないから。そこは程々にって感じだけども』

「い、活かさず殺さず、という奴ですね」

『幽霊は元々死んでるけど、大体そんな感じかな』

 

 我々は、その海の脅威の一つ。幽霊船に乗り込み、海へ漕ぎ出す……というか、運んで行ってもらう予定なのです。()()()()()()()()()事から始める、という方針の元。

 『幽霊船を沈めない様に程度に制圧し、その船の一部を間借りする』という中々に暴力的なプランで。

 

 ……出来るでしょうか。何時も私、全力で戦う事しかできませんが。

いいえ、寧ろ悪霊や魑魅魍魎の類は、私もある程度は得手。グレイ様だけに任せておくのではなく、こういう時こそ、晴明様から学んだ陰陽の術を活かす時です。

倒すというより、封印したり、逆に使役したりと、様々な陰陽の術を使いこなしていた晴明様……の様にはいきませんけれど。

 

『そんな気負った顔しなくても大丈夫だよ。こちらとしてもある程度は向こうの具合も測れるし、本当に危ないならストップだってかけるし』

「……そうですね。皆様が頼れるのは、よく知っています」

「だめっ、だれもいないったら!」

「やはり英霊に取り憑かれていたか……」

 

 ……頼れる、のは、はい。良く知っています。きっと。

 

「ライネスさん? ど、どうしたんですか急に?」

「ん? ああいや、ごめんグレイ。ちょっと楽しくなっちゃって」

「いやー、反応してくれるとは思わんかった。お嬢さんってアニメとか見るんだ」

「ふふ、兄上の趣味がそっち方向でね。『本当に面白いのか』と気になったことがあって一本程。娯楽としては、確かに一定以上の面白さがある。君と同じ物を見たとは思っていなかったが」

「いやー、俺もアニメってったらこれくらいしか見せてもらった事なくて。運命ってやつかなー。わはは」

『――そこっ! いちゃつく前に幽霊船を探しなさい!』

「「はーい」」

 

 ……さて。

 とりあえずは、先ず件の船が来ない事には話は始まりませんから。取り敢えず、後ろの方で唇を尖らせているお二方は見なかったことにいたします。はい。あの、えっと。今まで、気を張っている時間ばかりだったので、気を抜く時間も大切だと思いますし。

 そ、そんな事を考えているとは限らない、とか、無いと思います。はい。マスターのお顔とか、結構呑気そうとか……

 




???「ンンンンンン! 只の装飾だったりとかあり得ませんぞォ!」
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