FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――どわぁああああああっ!?」
船の上で、黒いヒゲのむさい大男の悲鳴が上がる。無論、此方の船ではなく、相手の船ではあるのだが。こちらの船からは、一も二もない矢継ぎ早で、攻撃がどんどんと飛んでいく。相手を沈める勢いで。
全力だ。全力だ。全力だ。
そう、事前に告げたとおりの全力だった。グレイ、ゴルゴーンと、紫式部。元から圧倒的な破壊力を持っているゴルゴーン、そしてここまで、じっくり準備……具体的には強化用の陣を設営して、能力を底上げした結果、その火力とも遜色ないレベルの十分な砲術で、敵の船を薙ぎ払っているのは、紫式部。
グレイも、その恩恵を受けて、矢による攻撃が、まるで柱でも打ち込んでいるのではないか、と錯覚するような威力に変わっている。
「ちょっ、ちょっと待っておくんなまし!?」
「一切待たない。ここまで我々の考えに綺麗にハマってくれたんだから、そりゃあ歓迎だって全力でしてあげないと失礼ってものじゃないかい?」
「いやそんなことないでつよ!?」
『いやー、やっぱり方針は間違ってなかったねぇ。アレと真っ向からやり合う事になってたら、多分苦戦してたよ』
方針、といっても。冷静に考えれば思いつく事ではある。
我々が今まで移動してきた、竜の都や、紅の都は。確かに脅威ではあったのだが。しかしながら。突破できる程度の脅威だった。彼ら、カルデアが生き延び、そして戦い続けて来た戦場に比べれば、あまりに、あまりに容易い戦いだったと思われる。
シャドウサーヴァントが弱い、とは言わない。しかし、やはり総数が違う。敵がサーヴァントを当然のように複数運用していたのに比べ、基本は単騎だ。
実に不思議な話であり。そこで一つ、私の中の『彼』は仮説を立てた。
まだ、敵は本格的には仕掛けて来ていないのではないか。
もし本格的に仕掛けてくるのであれば……我々が門外漢、渡る手段も、戦うコツも知らないエリア。いかな英雄とて、その能力を大きく封じられる――ここ。『海の都』の可能性が、最も高い。
もし、自分の想定が外れ。海の都では何もなかった。そうであるなら――それでいい。寧ろ、そうなってくれた方が、何倍も何倍もいい。と、『彼』は言った
軍師にとって、何時だってしなければならない最悪の予想というのは、『最も当たって欲しくない可能性』なのだから。
相手はこんな大舞台を作り、只一人のマスターを隔離するようなスケールの大きな敵だ。決して油断はできない。
「――であれば、戦において、相手の出鼻を潰し、機先を制するのは当然の話だからな。そこを考えてライネス殿に提案したのは、俺だ」
『なるほどなるほど――ってアレっ? 今はライネス嬢じゃなくて?』
「あぁ、万が一があっては困るゆえに。交代させてもらった」
「(……全く、だからっていきなり交代しなくたって)」
彼の予想は的中……シャドウサーヴァントどころか、正式なサーヴァントに加えて、船に乗っているのは無数のシャドウサーヴァント。
今までの敵の戦力が比にならない程の圧倒的な戦力。恐らく、相手がこの時を待ってじっくりと温めていた戦力だったのだろう。なら絶対にその目論見には付き合ってやらないのが、定石。故に、初手全力砲撃とあいなったわけだ。
「しかし、アレが例の黒髭とやら、か……ふむ」
正直、今の印象だけなら強いとは思えない――っていうのは、全然ない。
個人的な目線では、アレだけの飽和砲撃を叩きこまれて、そりゃあ取り乱しても当然だろうし……実際、取り乱しているようにも見える。見えるのだが。
「――このまま、一気に捻り潰せるのが理想だろうが。さてそう上手くいくかな」
「いかないのか? お二人のパワーで滅殺されそうな寸前に見えるけど」
「本当にそうなる寸前だったら、此方を見る余裕も無いだろうね」
「見てくるのか?」
「さっきから十数回程目が合ってるよ」
こちらの様子を抜け目なく伺っている――そう、表に出ている彼は言っていた。その辺りの機微は分からないのだが。かの知の英霊ですら欺く程の芸を持つ相手に、私程度がどう類推したところで、その実力を推し量る事は不可能だろう。
……ただ、私をジーっと見ているその視線には、そういう色が乗っているのは流石に分かるが。
「――ライネス嬢の見た目は大変に好みなのだろうが、中に俺が居る事も見抜いているのだろうな。恐らくだが」
「えっ、マジ?」
「俺、というか。ライネス嬢の仕草が急に変わったのを見抜いた模様だな。演技も上手ければ、恐るべき慧眼も持っている。海の上では脅威、というのは間違いない」
まぁ、それは兎も角として。あんな状況下でも冷静に、逆転の目も確実に狙っている。そんな事が出来るのは正に海賊として一流だからこそだろう。
もし、彼のホームグラウンドの、海上戦でマトモに戦っていたらと思うと……些か以上にゾッとする。正直な話。しかしながら、カルデアは彼を海上で打ち破ったという話なのだが。どうやってやったというのか。興味しかない。
「故に、ここで逃がさず……確実にひっ捕らえる。グレイ嬢。砲撃が落ち着いたら向こうに乗り込む。その時は頼むぞ」
「は、はい!」
そんな危険な相手が出てくるようならば……こうして幽霊船にまで乗って沖に出る必要があったのか? 陸の上で動かない方が良かったのでは?
いいや、違う。最悪の可能性があったからこそ、そこに合わせてこちらからカウンターを狙った。
今まで、この特異点で好き勝手に色々と罠やらなにやらに嵌められてきた訳である。竜の都では安全だと思いきやワイバーンに囲まれてシャドウサーヴァントに不意打ち染みた事をされ――セイバーのシャドウサーヴァントと、狂信者の集団にはまぁ厄介というしかない物量作戦を強いられてきた。
まぁ、正直な話をすれば。
やられっぱなしな訳である。我々は。全て切り抜けて来ているとはいえ、相手の掌の上で踊らされている事は間違いない。
『であれば。そろそろ相手の思惑の一つでも暴いて、反撃に転じたい所だ』
その為に必要なカウンターとは即ち……敵戦力の鹵獲。解析、敵の情報の確保である。
シャドウサーヴァントからが何かしら話してくれるとは思っていない。だがシャドウサーヴァントを運用している以上、何かしらの魔術の痕跡は残っているだろうと思われる。
そこから、推察の材料を引きずり出し、今度は此方から、仕掛ける。
態々敵からの襲撃の可能性の高い海に出たのも、相手の動きを誘う為だった。とはいえ。『彼』からすれば『このようなやり方は私の得手ではない』そうなのだが。それでも必要ならやる、との事で。
「しかし、シャドウサーヴァントを確保して取り敢えず、出方を伺う積りだったのが。会話できるレベルの相手が出てきたとなれば……」
『予想以上の相手が来てラッキー、って感じかな?』
「期待していた訳ではないが……降って湧いて来た幸運を活かせないというのは、軍師とかいう以前に、人としても二流だ。アレを確保するのは必須。貴重な反撃の種だ。逃がさん」
「あ、あの……ライネス、さん」
「分かっている。分かっているが……」
ともかく。その『種』……黒髭の周りには、もう敵の戦力であるシャドウサーヴァントも何もいないように見える。これだけの連続砲撃で攻め立てているのだから当然と言えば当然か。
だがそれでも、『彼』は敵の船、甲板まわり。そこを舐めまわすように、何度も何度も見回している……何をそこまで警戒しているのか、私にはいまいちわからないのだが。
「――やはり、おかしい」
「えっ?」
「想像よりも減りが多い……だが……なんだ、この違和感は、何が……?」
減りが多い。という事は……敵の甲板にいた、シャドウサーヴァントの事だろうか。何を当然のことを。繰り返す様ではあるが、あの圧倒的な攻勢を目の前に、数を減らさない方が可笑しいのではないか。
『彼』は、一体何を、見ている?
「――」
「――」
その時。甲板の上を滑らせていた視線が、一人甲板の上で逃げ回っている、黒髭の目線とぶつかった。こちらと視線が合って、睨むのかと思った。今、明確に優勢なのは間違いなく此方なのは間違いない、のに。
男は、その必死そうに逃げていた表情を容易く緩め。
その代わりににんまりと、私達に向けて笑って見せて――
「――しまった!?」
「こちらの船ばかりを見ていたらいけませんぞ~? おらいけ『呪われた船員』共!」
その直後の事
向こうではなく。今度はこちらの船が、大きく揺れた。
黒髭の頭の良さを表現全然できぬぇ!!!!