FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第五十九章・裏:軍師対海賊 中編

「――しまった!?」

「こちらの船ばかりを見ていたらいけませんぞ~? おらいけ『呪われた船員』共!」

 

 突然の事でした。

 幽霊船がぐらりと揺れて、足元が揺れて、思わずして体勢を崩してしまって、ヘリに捕まる事で、何とか倒れないようにするのが精いっぱいで――今、周りに何が起きているかも全然、理解できていなくて。

 

 ぬるり、と何かが指先に触れた感触がしたのです。

 

「――えっ?」

 

 まるで、磯の中に居る蛸にでも触れたかのような、ぬめりのある、あの特有の感触が。そして、酷く冷たい温度で、そして……酷く、鼻につく。磯の、匂いが。

 それに気を取られていた直後、ぬるりとしたその感触は、あっという間に私の手首をつかみ取ったのです。それは節くれだった、それこそ、亡霊の様な。

 手を掴んでいるそれは……黒い、影のようでもあるその手首は――!

 

「ふん、退け死人共が」

「きゃっ……!?」

 

 ――綺麗に、宙を舞いまして。そのまま、海面にぼちゃりと落ちていきました。

 隣を見れば、伸ばしたその髪の蛇が、私の手元に向けられているのが見えました。そしてその両手には、ぼたぼたと水滴を垂らす二人の影法師が首を掴みあげられています。

 その直後、ゴキリ、という音と共に、その二人の影法師はびくりとも動かなくなり。甲板に落とされたその直後に、黒い霧となって消えていきました。

 

「船の外面を上ってきているな。海に潜っての奇襲とは、随分と手の込んだ真似をする」

『シャドウサーヴァント……! ったく、こんなやり方ありかい!? 船の下、というか船の周りに、結構な数だぞ!』

「ありありー。なにせ、こちとら海賊ですから、なんでもありですぞ~!?」

 

 我々も見慣れた、あの形のサーヴァントが。海から這い上がっています。シャドウサーヴァントとは斯様な事も出来るのか――と思いましたが、しかしサーヴァントの私にこんな事は出来ないので、海での戦闘でも戦えるように、何かしら細工をされているのは、明確でした。

 もし、先のシャドウサーヴァントに引きずり込まれていたら……海の中、絶望的な中でなぶり殺しにされていたかもしれない、と思うと。震えを止められませんでした。

 

「お、お手を煩わせて申し訳ありません……ありがとうございます。ゴルゴーン様」

「気を抜くな、まだ来るぞ」

「あ、はいっ!」

 

 しかし、それで終わりかと言えば、そうではありません。急いで離れた船のヘリには既に、幾つもの手がかけられていて。何人か、甲板に上がってこようとしています。頭を出したところでゴルゴーン様に撃ち抜かれたりもしてますけれども。

 

 取り敢えず、急いでマスターの傍へと駆け寄って周辺を見回せば……船の先頭から一人来ているのが見えます。そして、船の後ろにも――しかし、振り下ろされた黒い片刃の剣の前には、大鎌でその一撃を受けるグレイさんが。間に合わなければ、その後ろにいたライネスさんと、そしてマスターも、叩き切られていたでしょう。

 

「危なかった、ライネスさん!」

「ライネス嬢ではないがね……分かっているとも。全員、落ち着いて! 敵の船への攻勢を緩めるな!」

「……ったくよぉ、ビビらせてんじゃあ」

 

 直後、ライネス様の号令に反応するかのように、マスターが飛び出しました、額の稲妻を束ねた角で狙いを定めるように。そこから。空中で身を翻し、振り切る直前の爪先で狙う先は、グレイ様と切り結んでいる、シャドウサーヴァントの。

 

「ねぇ!」

 

 右の顔面。爪先は吸い込まれるように直撃。痛手を与えられているかはともかく、衝撃で明確に体は揺らぎ、横へと流されて――そのガラ空きになった胴体に、銀のきらめきが、一閃。グレイ様の鎌が、三人目の影法師を黒い靄へと変えました。

 

「ごめんね、余計なことしちゃって」

「い、いえ。ナイスアシスト、です!」

「そりゃあ良かった……!」

 

 しかし、一人を倒しても、マスターの表情は苦いまま、その視線の先から、さらに現れる影法師は、一人、二人、三人と、どんどん増えていきます。取り敢えず、そちらに牽制代わりの符を放ちました、が。一方に撃ったところで、さして意味はありません。

 

 周辺から這い上がってくる黒い影は、まだいます。

 それを見て取ったのでしょうか。マスターは……先ず、立ち向かうのではなく、一歩下がって、ライネス様の体を抱えあげました。

 ライネス様の表情は優れません。しかし、それは周りを囲まれているから? いえ、ライネス様が今、見ているのは、周辺ではなく船の甲板……?

 

「軍師様、俺が運ぶからアンタは思考に集中しな」

「ありがたい、と言いたいが……しかし思考して間に合うものか」

「あ?」

「敵は船から、ではなく海から襲撃を仕掛けて来ている。となれば、何処から崩すかは自ずと決まってくるのではないかね?」

 

――一瞬、マスターの顔が真顔になった、かと思うと。

 

「――ゴルゴーンさん、式部さん抱えてくれ! 退避だ退避!」

「何っ?」

「下手するともうそろそろこの船、沈むぞ!!!」

 

 真っ青にその顔色を変えて。しかしながら、今までの会話の流れを聞いていた私と致しましては、マスターの判断に一切の曇りなく。思わず言われた直後にはゴルゴーン様の傍に駆け寄ってしまっていました。

 ……海からの襲撃。そして、側面から這い上がってくるシャドウサーヴァント。されどこの状況であれば、警戒するべきは海の上ではなく、海の下――すなわちは、私達がいるこの幽霊船の――!

 

「……そういう事か! ええい厄介な真似を、おい!」

「はいっ」

「マスター、先に跳んでいる――」

「申し訳ないゴルゴーンさんお先に失礼っ!」

「急げよ、直ぐにでも沈むぞこの船は」

「っておい貴様ら!?」

 

 私が小脇に抱えられたその時には、既にグレイ様と共に、マスターもライネス様を抱えたそのままに、船の外へと飛び出していました。

 舌打ちと共に、その剛力を誇る尻尾をくねらせ、まるでばねの様にして、甲板から飛び出した、その直後。

 

『――!!!』

 

 甲板を突き破って出てくる、黒い影。シャドウサーヴァント。海中から回り込んで狙ったのは、船の底。我々の足場を奪う為に、たとえ怪異の船であろうと突き破り、まるで噴き出す瘴気の如くに、次々と這い上がり、生えてきます。

 ……見るだけで、震えの止まらなくなる光景です。本来揺るがない筈の足元から突如の奇襲。船の底から奇襲を仕掛けられるというのが、どれだけの脅威なのか。もしあの場に残っていた場合の事を考えると、それが良く分かります。

 

「あ、危なかった」

「……確かに危なかったが」

「あっ、ご、ごめんなさいゴルゴーン様、お礼の言葉が遅れまして!」

「そうではない。アレ……沈むのに脱出できるのか?」

「……え?」

 

 しかしながら。

 事はそこまで、なんといいますか、脅威というばかりではなかったようで……甲板の上に堂々と這い上がってくる彼らですが、しかしその大きく空いた穴から、あの、水が噴き出しているのが見えました。

 

『――!?』

『――っ! ――っ!』

『――っっっ!!!』

 

 そして、自分たちがしでかした大惨状に今更ながら気が付いて、脱出を試みようとするシャドウサーヴァント達。しかしながら、慌てて動き出したからなのか、ぶつかったり甲板の上で足を滑らせたりと、そうこうしている内に。

 先ほどまで悠然と海を渡っていた海の怪異は、大穴から空いた海水に浸り、想像よりも早く沈んでいきます。

 

 噴き出す海水を浴びて、あっぷあっぷとしている者もいます。倒れた状態から必死に起き上がろうとして、まだ誰かとぶつかって転がっている者もいます。そうして慌てている間にも……

 

「……あ、沈んだ」

「間抜けか、奴ら」

 

 ……なんでしょう。確かに恐ろしい戦法を取られたのですが。終わりが、あまりにもその。ある意味で物悲しいと、申しますか。あの。

 くるり、と振り返ってみると、今私たちが着地した船の主が、視線を明後日に反らしています。流石にあの惨状を見て、何も思わないではないのでしょう。多分ですが、自業自得だと思われますし。

 

 寧ろ態とであってほしいくらいに、あっさりと。海から上がって来たシャドウサーヴァントは海中に……

 

「……ふむ、成程な」

「おい、何とか言えよ間抜け」

「まだいますし! 戦力! 戦いは数ですぞー兄貴ィ!」

 

 何はともあれ。

 戦いの第二幕は、どうにも締まらぬ始まりを、迎えたのでございました。

 




沈め沈め沈め(ファラオ)
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