FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第五十九章・裏:軍師対海賊 後編

 船の甲板は特別広いという訳でもなく。限られた足場の中には、何人もの黒い影。全てがシャドウサーヴァント。奴らは人数差を活かし、()()()()()()()()、まるで押しつぶそうとでもしているかのように、じり、じりと前に詰めて来ている――我々をそのシャドウサーヴァントの中心で眺める、黒髭の指示で。

 

「沈んだにしろ拙者の部下はまぁだまだ居ますからなぁ。奇策より王道のやり方が強いのがリアル。でも奇策でどんでん返し、一気に相手を追い詰めるのもまた男の子ロマン。うーん甲乙つけがたい」

「――戦場で浪漫など語るのが可笑しい。戦場に奇手も何も要らん」

「でもその奇策に追い詰められてますよねー。ねぇねぇどんな気持ち? 自分とは合わないやり方で追い詰められてどんな気持ち!?」

 

 海から仕掛ける奇手にて盤面をひっくり返し、自分たちの人数有利を取ってから、人数差で押しつぶす力押し、即ち王道のやり方に切り替える。見事な手並みだ。正直、此方としては、してやられたというしかない。

 

 ただ当然の様に準備し、当然の様に勝つ。戦場に奇策も奇手も必要ない。それが俺の軍師として戦うための基本だ。

 しかし、奇手の効果を認めてはいないのかと問われれば。決してそうは言い切れないのが戦場でもある事を知らない訳ではない。

 奇手、というのが一定以上の効果を上げられるのを、俺は嫌という程知っている。俺の戦場には到底必要ないだけで、向こうが使ってきた場合、警戒しないというのは違う。

 

 俺の中で、一番厄介だと思っているのは。

 奇手をあくまで、起爆剤、草分け、ファーストペンギンの様に最初の切っ掛けとして運用し。そこから王道の策略をねじ込んで、らちを開け、倒す。

 一発逆転の奇策頼りではない、王道の一手を活かすための手として使う。

 使い方を良く分かっている輩だ。

 

「……どうする。明らかに不利だぞ俺らはコレ」

「俺は一発逆転の奇策を練れる類ではない。すまないが」

「どうすんだよ」

「やるしかない。真正面からの削りあいだ」

「おい正気か。この数相手に……幾らゴルゴーンさんたちがサーヴァントだからって何でもできる訳ねぇんだぞ!」

 

 そんな事は誰よりも自分が分かっている。自分はサーヴァントだが、しかしながら相手を圧倒できるような強みは持っていない。持っていないが……しかし、それでもやるしかないのだ。

 

「……とはいえ、この場所はマズい。先ずは場所を移す」

「何処に」

「――先端だ。突っ切れ!」

 

 言うと共に走りだす。向かう先は、船の先端方向。とがっている方。二択まで絞るような言い方をして、正確な行き先は伏せようかと思ったがしかし、万が一にも戦力が分散したりしたらこの後、戦う際により苦しい事になるだろう。それを考えるならば、行き先がバレるくらいのリスクは許容範囲内である。

 

「いやさせるとお思いでぇ? 行けっ黒髭特戦隊!」

 

 黒髭の反応は正に一瞬。我々の目指す――船の先端。袋小路に行かせまいと動き出す。

 普通なら、袋小路に追い込まれる、というのはそうされた側にとっては当然、致命的な不利になりかねない。だが……特定の、例えばこういう状況下で考えるのであれば、その『当然』というのはひっくり返る。

 

「ゴルゴーンさん、一睨み頼む!」

「――邪魔だ……!」

 

 ゴルゴンの魔眼が睨み据えた先、阻止しようとした敵の動きがぴたりと止まり、その致命的な隙を、大ぶりに振りかぶった両の爪が、容易く黒い影をなぎ倒す――例えば、『当然』をひっくり返す要素の一つは、彼女だ。

 

 彼女の魔眼、という物は、見据えたものを悉く石化させるが、しかし。逆に言えば見える範囲にしか効果が無く、さらに言えば、見ている範囲であれば味方も何も関係なく巻き込んでしまいかねない危険性がある。

 しかし味方を背にして一方へ集中する事が出来れば、彼女の魔眼は文字通り、鉄壁の城砦を形作る凶悪な兵器になりかねない。

 

「うげっ、そういえばそんなんありましたっけ。はいはい、皆様あ、どんどん立ち塞がって! 逃がしちゃいかんですぞォ!」

「させません――やぁっ!」

「どぅわっち!? ちょ、大将直接狙いはいかんでしょ!」

「平安の武者の皆様はそれが基本でした!」

「MJD!?」

 

 例えば、彼女――キャスタークラスの紫式部。先ほども、幽霊船の上で簡単な陣を敷ける辺り、ある程度は実力のある魔術師だ。まぁ俺も手伝いはしたが。何はともあれ、彼女の敷く陣は、古い神秘に属するモノ。強化の度合いは想像以上だ。

 自分たちに有利な場所を築ける。一点に留まるのであれば、その要素は実に大きい。

 

「――って、あ」

「話している余裕はあるのか? 悪いが、場所取りは終了だ」

「っちゃぁ……」

 

 まぁ、分かりやすく言えば。

 袋小路の奥を要塞化する事が出来るのであれば。寧ろ、袋小路の奥へと行くのは間違いではない。要塞というのは、基本は要害に建設され、一方からくる敵を凌ぐための物なのだから。

 故に。侵入できる場所が限られるエリア――船の先端の辺りに陣取り、数を活かせぬように、真正面からの削り合いを強制させる。それが、今取るべき最適解。

 

 ――とはいえ。

 

「えっと、取り敢えず、一方から攻撃受けられるような態勢を取る――であってるかな軍師殿?」

「その辺りは分かっているか、カルデアのマスター」

「喧嘩でも色んな方向から殴られんのはアレだったし……まぁ一対一の構図を作んのが良いって言うのは漫画でもあるあるだわな」

「分かっているなら良し。正し……一つ、留意して欲しい事がある」

「ん?」

 

 先ほどの戦闘を踏まえ、そして。ここまであっさりと先端にたどり着けた、この状況からして……俺の懸念は、間違いなく的中するだろう。だがしかし。問題は無い。

 種が分かっているならば、もう()()()()()()など、通用しないのだから。

 

 

 

「……やっぱ、下手に踏み込もうとはして来ないか」

「こちらにはグレイもいる。遠距離の弾幕を掻い潜って、その上でグレイを崩すのは容易ではない。想定の範囲だ」

「このまま削り合いさせてくれれば良いんだけども」

 

 ここまでは順調。こちらの火力の方が、圧倒的に高いなら。相手は鋼の壁に無為に拳を打ち付け、その拳を自ら砕く愚者と同意だ。シャドウサーヴァントの数が幾ら多くても真正面から打ち破れない事は、目の前の、俺と目を合わせる男も分かっているだろう。

 どんどんいけー! 等と。まるで三下染みた大将の様な、無駄な消耗戦で正面から攻め立てる。圧倒的な戦力がある訳でもないのに。

 

 城攻めの人数は、三倍は最低でも必要だ。敵の人数は此方の三倍を優に超える程度はいるだろう。

 だが、今ここに築かれた城に詰めた殆どは、一人で一騎当千の力を持つサーヴァントばかり。サーヴァントに劣るシャドウサーヴァントでは、それこそ数人がかりでも厳しい相手。城攻めの常道は、全くもって踏めていない訳だ。

 

 だが相手が、それを理解できていない訳ではないのだ。

 

「とんでもない前面へのゴリ押しだな」

「あぁ。今の所、敗れる様子も無い――だが、しかし」

「……さっき、海を見た。いるね」

「船を沈めて見せたのも、今思えばブラフだったのだろうな――そろそろだ」

「りょーかい……」

 

 ここに陣取って。防御を固めた。

相手にとっては好都合の展開だったのだろう。言ってしまえば。行かせたくなければ最初から先頭、及び船尾に繋がる場所を分厚く固めてくる。

寧ろ、周辺をまんべんなく固めてきたのは、誘導すら狙っていたのやもしれない。

だから――誘導していたその動きに敢えて乗って、そして。

 

「……今だっ! グレイ!」

「ゴルゴーンさん! 式部さんは俺と一緒にその後に続いて!」

「はいっ!」

「良いだろう、苦しむがいい……!」

「参ります!」

 

 一斉に、前へと飛び出す。有利を捨て。

 驚いたのは――黒髭の方だろう。彼の仕掛けた罠を完璧に読み切ったタイミングで、前へと飛び出した結果として、黒髭が『攻勢を仕掛ける』準備を整えていて隙だらけな、前面の敵に食らいつく事が出来た。

 

 その直後、後ろからザバリ、という海から何かが上がる音。

 間違いない、海から上がって来た者たちの奇襲だろう。幽霊船と共に沈んだ愚かなシャドウサーヴァント……と見せておいて。寧ろ沈んで『伏兵』として潜ませ。裏から殴る準備を整える。この状況で最も安全、と思われる場所の、裏から。

 海からの奇襲を最初にかましてくれたのだ。それくらいはしても可笑しくない。しかしその印象を消し去るための『間抜けな失敗』という訳だろう。

 

 悪辣な手だ。黒髭、という男の頭脳が侮れない事は理解できる。

 

「だが――甘い」

「いーやー……やっぱ本職には敵いませんなぁ」

 

 だが。

 頭脳労働は我々の専門分野だ。舐めてもらっては困る。

 結果は、我々の勝ちだ。シャドウサーヴァントを蹴散らし、彼の周りを完全に包囲している。大将首を抑えたのだから。

 

「で? どうする」

「――可愛いおにゃのこ多そうですし、めっちゃ裏切るっすよ! 拙者!」

 




多分女の子が頼んだらあっという間に裏切ってくれそうなサーヴァント第一位。でも意外にも義理を果たす事はしそうな男第一位でもある。
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