FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
マスターの視線がここまで『不機嫌』と見えるのも初めてかもしれません。
『――それで、敵の術者の名前は『リンボ』で良いんだよね?』
「多分偽名なんでしょうけれどもねー」
『それでもどうしてそんな名前を名乗ったか、そこから想像出来る事も多いと思うよ。東洋の英霊と思われる大男が、どうしてそんな欧州の地獄の概念を使ったのか、とか』
理由は、マスターの視線の先にいます。戦闘途中、もはや勝ちようもないと悟ったその瞬間に『こうさんしまーす! お助けくだちぃ!』と言ってあっという間に敵方を裏切った黒髭、エドワード・ティーチ殿。
……警戒しているのでしょう。私も、そうではあります。
かの第三特異点にて。ドレイク船長と我々を、一度は敗戦に追い込んだ、海の伝説。それがいきなり『裏切りまーすぞー!』等と言われても、マスターの様な表情になるのも不思議ではありません。
ゴルゴーン様など、汚物を見るかのような目線で彼を見ています。もしかしたら先ほど『おっ、セクシーモンスター系おねーさん八犬伝!』等と出合い頭に言われて、その直後に殴り飛ばしたからかもしれません。間違いなくそれです。
しかし、目の前のライネス様などは実ににこやかに接していらっしゃって、こういった相手には慣れているというお言葉に偽りなし、なのでしょうか。
「いやーしかしこっちはいいですなぁー。何処を見てもおにゃのこ、おにゃのこ、ビューティフル・ゴッド、ですからなぁ、やっぱり目の保養!」
「はっはっはっ……いいからキリキリ吐きたまえ」
「くぅーん……」
いえ、にこやかにしている、というよりその表情を張り付けて会話していらっしゃるのでしょうか。声に張りが無い、と申しますか……何だか声色が乾いている気がいたします。誠に。
「全く容赦ありませんが。拙者、一応皆様の理になる事致したのですけれども?」
「昔から裏切り者への扱いって言うのは決まってるものだろ?」
「あ……それで言えばまだまだ優しい扱いをされてるって? いや全くそれはその通りなんですけれども。贅沢は言わないので代わりばんこでお嬢さん方が膝枕と化してくださると最高なのですけれども……うぉっほっほっ」
「いやぜいたくしか言ってないじゃないか……」
しかし。
そんな私たちと比べ、なんと堂々としている事か。いえ、あんまり堂々とされても反応に困ると申しますか。一応、彼は裏切ってこちらについたとはいえ、一応元は敵の立場。もし私が同じ立場なら、色々な複雑になってしまって、もう縮こまってしまいます。
だというのに。そんな素振りどころか、もうずっと前、この特異点に突入してからこちらの味方であったかのように、ここで我々と喋っているのが当然とばかりに振舞っていらっしゃるのが……
「贅沢、っていうか、厚かましいよなぁ」
――そう。厚かましい。
面の皮が厚い、と申しますか。私とは比べ物にならない程に。恐らく、顔面に鉄砲水を浴びせかけられても、大蝦蟇の如くけろりとしている程に。
マスターが、怪訝な顔でそれを申すのは……それに対する懸念からでしょうか。裏切りに対して、何も気にも留めないというのは信用に取る相手なのか。
些かと厳しい見方ではありますが。今やマスターも、三度の特異点を越えて来たカルデアの立派なマスターです。その辺りは何を置いてもしっかりと見極めをしなければならないというのを、分かっているのでしょう。
「女の子の膝枕とか、それこそ財宝と同等クラスの価値――それを分かって言ってんのかい、大海賊様よぉ」
「えっ」
……あの、分かっていると思っていたのですが分かっているとは全然思えない発言が飛び出したのですけれども。
「そんなの、当たり前でごぜーましょうよ! 財宝も、女性も、暖かならぶらぶ膝枕も手に入れてこその七つの海の支配者って奴だろうが!」
「はっ……分かっててそれでも口にするたあ、流石大海賊黒髭、か? 成程。その辺りを分からない愚者ならちっとばかり信用に欠けたが……」
「マスター!?」
とんでもない事で信用しようとしてないでしょうかこの人。あっ、ゴルゴーン様に首根っこ掴まれて……あぁ、投げ捨てられてしまいました。いえ、船の外とかではなく、船の隅へと。グレイ様が受け取ってくださいました。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、平気……ちょっとはしゃいじゃっただけだから」
『久しぶりの男子との会話に心が躍り過ぎた結果の自らも大失態に、思わずして自己嫌悪に陥ってしまう少年なのであった』
……マスターの物凄い奇行は今、置いておくとして。はい。彼も一人の男の子である事は間違いないのでしょうし。それを言うのも、酷ですし。反省している模様ですし。あぁ私のこの術、というのはどうしてこういう、あんまり大切ではない時に限って発動するのでしょうか。じゃあなんであんな不機嫌そうな視線をしていたのでしょうか……
兎も角、気にするべきは目の前の黒髭、です。
「まぁ呆けたマスターは兎も角として、だ。ある程度は弁えて欲しいものだな。海賊風情が。温情にて生かされている、という事を理解しているのか? 貴様?」
「おーおーすっごい迫力ですコト。温情って言うかwin-winの関係って奴だと思ってたんですけれども?」
「貴様など居なくても、何とかなる――そうは考えないのか?」
取り敢えず、マスターに代わって彼に相対するのはゴルゴーン様。ただそれは、此方の事を考えて、という訳ではない、と思われます。恐らくは単純明快に、黒髭が気に入らないのでしょう。ゴルゴーン様はただでさえ人間が好き、という訳でもありません。そして黒髭が万人から愛されるような男かと言えば、それもまた、違うと思いますし。
「いやはや、拙者が言うのもアレですが、この海渡れる能力は結構替えが聞かないと思うのですけれども」
「己惚れるな。カルデアの召喚術式を知らんわけでもあるまい?」
「サーヴァントをある程度自由に呼べるってやつですか。ですけれどぉ、もし本当に誰でも好き勝手呼べるなら――BBA呼んでるっしょ?」
しかし、彼女の醸し出す迫力にも黒髭は全くもって怯みません。寧ろ、ゴルゴーン様の目を真正面から見つめ返しているのです。
「第三特異点、BBAの船に乗ってましたからねぇ? 縁、って奴、結ばれたんでしょ? それ頼りで呼べるって言うならそもそもこの海をBBA呼んで渡ってますでしょ? そりゃああのフランシス・ドレイクの船ですからなぁ、最高の船ですからなぁ」
「――貴様」
「おんやー? 動揺しちゃいましたかなー? いけませんぞレディ、そんな簡単に動揺晒しちゃ。付け込まれますぞー?」
神代を生きた圧倒的な存在。我々、人間とは文字通り格の違う、神格に等しい彼女。下手をすれば、一瞬でその首を刈り取られても不思議ではないというのに。
彼はむしろ、造作もなく此方の実情を見抜き、そこへ付け込むかのように『自分の必要性』を淡々と語って見せます。
油断ならないサーヴァント。敵方も、もしやすれば彼を持て余していたかもしれない。そんな想像が出来てしまう程の……
「まぁ拙者としても? こんなね? おにゃのこだらけのパラダイスから追い出されるのはちょちょっと勘弁オナシャスってなもんでございますれば? こうして有能性を示すのもいとわないくろひーなのでございました、完!!」
「――」
「――ん? どないしたのですかな?」
「いや。今までの言動を、私の胸の辺りをじろじろ見ながら言っていなければ、説得力もあったのだろうと思っただけだ」
……もしかしたらただの阿呆なのかもしれません。
「ありゃ、バレちった!?」
「それだけ見ていれば気づきもする」
「いんやー拙者生粋のロリっ子、少女趣味なのですが……規格外おっぱいはやっぱり別腹ってか、男の子の夢、っていうか?」
「死ね」
「ぎゃーっ!?」
なんでしょう。警戒するのが何だか馬鹿らしくなってまいりました。この人を目の前に油断をする、というのは宜しくない、とは思うのですけれども……ただ、目の前でゴルゴーン様の尻尾で弾かれて、『どひゃー!』等と言いながら宙を舞うのを見ていると……どうにも、どうにも、気が抜けると申しますか。
「――油断をしちゃいけないよ。紫式部」
「……えっと、ライネス、様? でしょうか」
「あぁうん。今は私だ――で、そんな私からの意見なのだがね」
「相対して気が抜けるような相手程、意外と油断ならないくらい、腹をくくってたり、覚悟を決めていたりするんだよ」
……そんな私を見て。
隣に立っていたライネス様は。まるで、経験があるかのように。そう呟いたのでした。
ゾロリの新作とACの新作が嬉しい作者です。