FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第六十一章・裏:海原馬鹿旅情

「……一つ聞きたいんだけども」

「はいぃ?」

「この船、どうやって動いてんの? 船員一人も見えないんだけど」

「見せない努力をしてますからなぁ。それより少年、なーんで拙者の所に? というかなんですかな、その渾身の気の良い少年ポーズ」

「『ヨッ、大将、調子はどうだい』ってか? いや……あの姦しい空気の中に居られなくなって……?」

 

 そ、そんなに姦しいのでしょうか。今この空気は。

 寧ろ皆さん、欄干に肘を乗せたり、マストに寄り掛かったりして、静かに海などを眺めてるように見えます。探しているのは、黒髭の言っていた『心当たりのある島』。我々が向かっている場所です。

 黙っているのは、それを集中して探しているからというのもあるからでしょう。

 

「姦しく、なくない?」

「鈍いな、女性だけの沈黙の空気ってのは、男子にとっちゃ致命的……なんだよ。姦しいって言うのは意味じゃない、状況と雰囲気を現すために使った。今経験した。うん。知識では知ってたけど」

 

 そんな静寂を乱したくない、という事でしょうか。

 実際、黒髭さんと話すホンゾウインさんの表情は、先ほどまでと違って、少し気が抜けたようにも感じます。そういえば……師匠の教室の皆様も、『男子だけでしか話せないようなこともある』と言っていた事が、あった気がします。

 ただ、シキブさん、はずっとホンゾウインさんを見ていらっしゃるようです。ただその視線は、師匠が生徒の皆さんを見るときのそれと、そっくりな気も。

 

「あー、分からないでもないですなー……ところで小僧、テメェ誰に話しかけてるか分かってんのかオイ?」

「ロクデナシの大悪党。ちっとでも気を抜いたら食われかねない人食いサメ」

「――ならヨシっ! いやー空が青いですな~しょうねん!」

「お前の情緒どうなってんの?」

 

 ……ただ。彼が話しかけている相手が、相手だと思うので、その表情も仕方ないとは思います。一瞬、拙もアッドにお願いしようか迷ってしまいそうになる程に。一瞬だけ溢れた濃密な殺気は。彼が『黒髭』である事を否応なく思い出させます。

 黒髭――世界でもっとも有名な海賊。

 

「拙者の情緒はいっつも思春期男子の如く不安定故致し方なし」

「そこだけ若くてどうするんだよアンタは。もうちょっと若くあるべきを別の所にするべきじゃねぇのかい?」

「んー、拙者のマグナムとか?」

「そのデリンジャーしまえよ」

 

 ……一瞬互いに確とにらみ合ってから即座にすん、となって二人とも前に向き直るその切り替えの早さは、最早は滑稽というしかありませんが。拙としては胃が痛くなってしまいます。サーヴァントの恐ろしさ、というのは、拙も自分自身で嫌という程味わっているので。

 

 恐らく、舵の前で舵輪を回している黒髭が、ほんの少し本気になるだけで、彼の首は容易く引きちぎれてしまうと思います。それを分かっていない訳は無い。であればその上で、ホンゾウインさんは黒髭に接しているのでしょう。

 

「拙者のマグナムは兎も角、そちらさんの豆鉄砲はどうなんです?」

「あ? もう使いもんにはならねーからご安心を」

「えっ?」

「……なんですかぁ? 文句おありですかぁ?」

「いや文句はありませんけど……そもそもお主が文句があるのでは?」

「無いですよ。半ば自業自得ですからねー」

 

 実際、ホンゾウインさんと黒髭の間には絶妙な距離がある様な気がします。踏み込み過ぎない、そんな感じの距離を。

 

「……えっ、そんな見た目にそぐい過ぎるような事やったんです?」

「する訳ねぇだろボケナスご婦人方にありもしないデマとか船長のデカマラ伝説とか流すぞおみまいするぞーゴラ」

「やめてくださいー拙者は基本的に女性に優しい紳士なんですー」

「紳士ならその豪快過ぎるファッションとはお別れをした方が良いのでは船長?」

「これは海賊の正装みたいなもんだし……」

 

 ……ところで。

 先ほどからあのお二人、どんな話をされているのでしょうか。あまり詳しくないのですけれども、マグナムというのは拳銃の名前なので、武器のお話とかされているのでしょうか。師匠はゲームの武器のお話はたくさんされていましたけれども。

 拙は余り詳しくないですけれど……って?!

 

「お、どうなさったんですか式部さん!? お顔が真っ赤に!?」

「な、なんでもありません……お気になさらず……!」

 

 と、とてもそうは見えません、風邪をひいているみたいに真っ赤です。横になった方が良いのかもしれません――と、思っていた所で、誰かにポン、と肩を叩かれて。振り向いてみると、顔いっぱいの笑顔を浮かべるライネスさんが。

 

「良いんだグレイ。彼女の事はそっとしておいてあげたまえよ」

「で、ですけどお体の調子が……」

「彼女はサーヴァントだよ? 病気も何もありはしないさ」

「で、ですけど特異点というのはそういった常識が覆される場所だと」

「く、くくっ……グレイ、そう彼女を虐めてやるんじゃない。デリケートな問題なのさ」

 

 ライネスさんの言っていることは良く分かりませんが。ですけど、兎も角放っておくというのは無理です。とにかく、船の何処かで寝かせるくらいは、別に問題ないのではないかと――

 

「あ、あのっ……ほ、んとう、に、大丈夫ですっ!」

「そんな、無理しないでください。拙が肩を貸しますので」

「い、いえ本当に大丈夫なんですぅ……!」

「耳まで真っ赤ですよ!? 大丈夫じゃないです!」

 

 どうしてこんなにも二人して『平気だ』なんて嘘を吐くのでしょうか。拙にだって、流石に今の式部さんが平静じゃないのくらいは分かります。

 だって、彼女がこんな風になってしまったのに、他の原因らしきものが見当たらないのです。こちらは黙ってばかりでしたし、ホンゾウインさんと黒髭は、ただ銃器の会話をしていたばかりだったので……

 

「ライネス様……あの、お願いします……!」

「何がだね? 私には何も分からないなぁ。ただ君が平気だってことだけは分かるけど」

「あのっ! それはっ!」

「分からないなぁ」

「ふぅぅぅううううううん」

「し、式部さん!? とうとう足に力が入らなく!?」

 

 顔を覆ってしゃがみこんでしまわれて。絶対に平気じゃありません。こうなれば、力づくでも式部さんを確保しなければ――!

 しかしながら、あと一歩を踏み込もうとしたところで、腕を掴まれ止められてしまいます。今度は、ゴルゴーンさんが。

 

「落ち着け、本当に平気だ」

「でも……」

「……はぁ、仕方ない。良いか、今式部は、向こうの男共の、全くもって無遠慮な会話を聞いてこうなった……というか、なんで私がこんな事を……」

「無遠慮?」

「そうだ。いいか? 奴らの言っているのは――」

 

――その後私が変形させたアッドをどうしたのかは、多分、分かると思います。

 

 

 

「俺は……巻き込まれた側なんだけれども」

「拙者だって別に悪意を持ってやったわけじゃございませんし……ブーメランで首が飛びそうになるのは初めての体験でございました」

「自業自得ですお二人とも!!」

「うぅ……ししょー……ししょー……ごめんなさい……拙は……拙は汚されてしまいました……ふぅう……」

「「ひっでぇ風評被害!?」」

 

 ゴルゴーンさん曰く。男性の間では、そういう風に比喩して、その、大切な部分を呼び合う事は普通の事らしく……で、でもそれにしたって、そんな堂々と話をするなんて想像も出来なくて……せ、拙まで顔が赤くなっている気がいたします。というか、ライネスさんもゴルゴーンさんもどうしてそんな顔色一つ変えないんですか。強すぎませんか。

 

「はっはっはっ、この程度で顔を赤らめる程ピュアじゃないさ」

「その程度は慣れている」

「えぇぇぇえええええ……」

 

 ライネスさんは笑ってますし。ゴルゴーンさんは……なんでしょう。ちょっと色気がある様なお顔をなさっているというか、舌を少し出しているのはなんでなのでしょうか。何を舐めているのでしょうか。

 

『――っと、わいわい会話しているところ申し訳ない。海の方から』

「敵性反応か!? 上等だゴラ」

「いやー凄い数ですなー! ――オレは今、機嫌が悪いんだよ、すり潰してやる」

「落ち着け。グレイ、相手は海の亡霊、フライングダッチマンを組み込んだ相手だ。君の得意分野だと思うのだが……」

「はっ、えっ……あ、はいっ! つ、通じるかどうかは分かりませんが、やってみます!」

 

 み、皆さんの切り替えが早いですけれど……拙も、今のなんだか、色々なものが溜まった感じを発散したいので! 頑張ってみます! はい! アッドにはとっても頑張ってもらわないと……!!

 




緊張感もクソもねぇ!!!!
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