FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
通路に漂うのは埃っぽさと――血なまぐさい香り。
人の住んでいるそれとは思えない。陳腐な表現をするのであれば……人食いの化生が住まう洞穴、と言ったところでしょう。しかしながら、洞窟ではなく、人工的に作り上げられた神殿と言った方が正しい佇まいで。そして――我々は今。
さて。何をしているのかと言えば。
「攻撃攻撃! ゴルゴーンさん、取り敢えず蹴散らす意識で! まともに戦ってたらキリねーやこんなんよぉ!!」
「不意打ちに気をつけろという話はでたらめか! 結局は物量戦ではないか!」
「角からこちらに来るのは間違いなく不意打ちではあるのだが、しかし通路いっぱいに広がってくるのは最早不意打ち、ではなく遭遇戦のそれだな?」
じりじりと、出来るだけ下がらない様に。三歩進んで二歩下がるのを繰り返しています。ここに突入して……黒髭さんが踏破していた場所を、さらに一歩踏み越えたその先へ、こうして踏み込んだ、その直後から。
「ひーっ! なんていう熱・烈・歓・迎☆ くろひー感激―!」
「そんな呑気な事言ってる場合でしょうか!?」
「無いでーす!」
「ええい、リンボとやらも中々性格も悪かったが……これを設置したのも、相当にねじ曲がっている性格だろうな! 一歩奥に入った瞬間に入り口の倍近い戦力が増えるようになるとは!」
「策士ってそういうもんじゃナ~イ!?」
ともかく、一歩曲がれば敵、敵、敵。暗がりから一匹飛び掛かってくる……等という甘いものではなく。自分たちのテリトリーに一歩でも入り込めば、上下左右、隙間なくおそりかかってくるのです。
ライネスさん曰く――『攻撃するのではなく、体に組み付き僅かでも足を止める事を優先している』動き。どうして、という私の疑問に、ライネス様はこう答えました。『僅かでも足を止めれば、そこに殺到して押しつぶしてしまえばよいから』と。
ならば、絶対に前のめりになる訳には行きません。結果として迷宮内の探索は遅々としたものにならざるを得ず……今、漸く、一つの通路を抜けられる手前まで来ています。
「っだぁ! 撤退! いったん撤退じゃあ! 敵の層厚い厚い! 無理無理っ!」
「っかぁー……無理かっ! ダ・ヴィンチちゃん!? 迂回路は!?」
『――発見した! ちょっと下がる事になるけど、そっちからならいける、かも!』
「アイアイ了解! 一旦下がって体勢立て直す、でいいかい!」
「問題ない。だが、あくまで逃げ出すのではなく、牽制しつつゆっくり、だ」
「分かってる……式部さん、援護しつつ下がってくれ。船長! グレイちゃん、悪いが殿に付き合ってもらうぜ俺と一緒になァ!」
「貧乏くじぃ!」
「分かりました!」
突っ込んでくる獣が剥いた牙、ぬらめく触手、魔術によって編まれた焔の弾丸、粗末なれど血を吸った武器たち、多種多様な攻勢に向けて、何発か。それと共に――前線を張って、少し消耗していたいたゴルゴーン様が一歩下がりライネス様と共に離脱。
その代わり、再び角を生やしたマスター、そして拳銃を構えた黒髭様、そして巨大な槌を両手に握りしめたグレイ様が、私の前に立ちました。
「――っ、強化は無理だが。露払い位はしてやるよ船長さん!」
「へっ、小僧が。若造にそんなことしてもらう程、この黒髭は落ちぶれていないってんだよ! あ、司書さんは全然応援くだちぃ、出来ればチアで!! 年齢とか考えてない痛いレベルのえっぐいチア衣装で!!!!」
「あ、あの。無理はなさらないでください、拙が居ますので……!」
……マスターやグレイ様はは兎も角として、もう一人の方はもう放っておいていいんじゃないでしょうか。
あっ、いえいえ。私の盾になって下さっているのですから、援護しないというのは流石に、流石に……はい。良くない、です。
という事で、取り敢えず後ろから何かの拍子に誤射するかもしれないぐらい、すれすれを狙ってみたりします。いい事なんですよ。出来るだけ前衛の方を避けて迂回せず、直線距離で攻撃を叩きつけた方が。
「……なんか殺意感じますなぁ?」
「それこそ自業自得では?」
「うーん黒髭は分からない――っておぅっ!? なんかエラいの居ません!?」
等と。呑気な事を考えている暇はありませんでした。
その直後、私の視線に入って来たのは。他とは明らかに大きさの違う、影。人ならざる形であるのは、遠目でも分かります。
響く、ドシ、ドシンと重たい足音。その四肢は――当世では百獣の王と称えられる獣のそれ。しかしその背中から生えているのは、蝙蝠の羽の様な漆黒のそれ。そしてその奥から伸びる、蛇の尾。
異形。
「――合成獣(キメラ)!?」
「おーおー伝説通りの姿ですなぁ。でも他とは明らかに格ってもんが違いすぎません? あーれサーヴァントレベル無い?」
「そんなもんポンポンでないで――っ欲しいんだが」
グレイ様の悲鳴に応えるように、鳴り響く咆哮。
ビリビリと肌に伝わってくるほどの大声は、一体どれだけの力をあの獣が秘めているのかを、そのまま表しているかのようです。
叫び終えたと同時、此方へと真っ直ぐに走り出すその巨体。周りの他の敵たちも構わず轢き潰しながら向かってくる姿は、さながら大江山から転がり落ちる大岩。我々四人を容易く跳ね飛ばすやもしれません。
震えながらも、指先で描いて放った五芒星が一瞬、相手の体に絡みつき――しかしほんの一瞬もかけず、容易くその壁を突破してきます。
「そんなっ……!?」
「オイオイちったぁ怯むとかも無しかよ――しょうがないですなぁ!? もういっちょ頼みますぜお嬢さん方ぁ、今度は三人がかりだァ!」
「は、はいっ!」
一瞬、驚きで呆けかけたところを、黒髭の一言で持ち直します。腐っても海原に覇を唱えた男。黒髭……いいえ、黒髭殿の胆力が無ければ、先ほどの咆哮一つで恐怖に飲まれてしまっていたかもしれません。
しかし、驚いてしまいます。第三特異点にて、油断や状況の援護もあったにせよ、あの神代の魔女を相手に、何とか足止めすることが出来た――そんな僅かな自負が、私にもあったというのに。
そんなモノをあざ笑い、あっさりと突破するあの合成獣。
油断していた、と一つ深呼吸。
その間にも、真っ先に走り出すグレイ様、そしてその一歩後ろにつきながら、グレイ様よりも早く拳銃を発砲し、攻撃を開始する黒髭殿達を見て、改めて気を引き締め直し。
「――ハァッ!」
裂帛の呼吸と発声と共に、文字通りハンマー投げの様に振り回された槌が、キメラの顔面を強烈に捉えます。しかし、キメラの勢いは先ほどと全く変わらず。その勢いを殺しきれるのか――否、先ほどの私と違うのは一人ではない事。
衝突するインパクトの直前、迷宮内に響く甲高い破裂音。黒髭殿の拳銃が狙っていたのは……キメラの顔面、その瞳。
敵を目の前に、一瞬でも目を閉じることなど出来ない、その一瞬を狙って鉄の礫が突き刺さったのです。激痛か、衝撃か。何れにせよ怯んだそこに突き刺さる、グレイ様の鉄槌が。今度は、明確にキメラを止め、地面に転がしました。
「――っし、式部さん!」
「はい、今度こそ……!」
横から抜けて来た魔性の一体を蹴り飛ばしながらのマスターの言葉。
捕えろ、という言葉に、飛ばすのは、先ほどよりも大きな『封』の為の五芒星。上から覆いかぶさるように、転がったキメラに刻み込まれ――次は、砕かれません。しっかりとその体を拘束します。とはいえ、それがどれだけ持つか。
「よし、んじゃ撤退! 逃げますぞォお嬢様方ぁ!」
「はいっ!」
「式部さん、こっちに」
「お、お願いします!」
その一瞬の内に。
もう慣れた、マスターに抱えられての移動。隣をグレイ様が、一歩下がって黒髭殿が続きます。マスターが少し顔を顰めて居るのも、分かる気がします。もうこんな事を、この迷宮内で何度繰り返したか。疲れが出ているのでしょう。
兎も角、既に時間稼ぎは出来ました。迂回路を通れるだけの準備は――
「――急げ、こっちだ!」
ライネス様達が、終わらせているでしょう。
彼女たちのいる通路へと飛び込んで、さらに先へと――その少し暫く後、私達を見失った獣が、私達の通っていた通路を真っすぐ駆け抜けて行くのが見えました
間一髪、と言ったところでしょう。やはりあまり長くは持ちませんでした。しかし一瞬時間を稼げるだけでも、今はお役に立てます。
「――ふう、何とか一旦撒いたか」
『今の内だ。奥に進もう』
態々戦う必要は無く。であれば、こうして逃げ、煙に巻いて逃げ出すのも必要な事。それがこの場所の特性だと、ダ・ヴィンチ様は分析していました。第三特異点にて歩んだ迷宮を、文字通り形にしたような――いえ、更に悪辣に仕上げたかのような、というその評価は、我々の苦戦という形で、間違いない事を証明していました。
『しかし、本当に神話に伝わるラビリンスそのものだな。広大な面積の迷路に、解き放たれた無数の魔獣とは。伝説通り過ぎて、逆にチープにすら感じる』
「奥にある大部屋には、さて。一体何者が潜むのか――」
伝説通りであるならば。
まだ、この迷宮には支配者が存在する――それが一体何者なのか。第三特異点を模した場所ならば、あの巌の如き巨人が、もう一度立ち塞がる事になるのか。
……物語通り、というのであれば。
一瞬、私は第三特異点にて出会った、あの心優しき雷光の事を思い出して、しかし直ぐに首を振りました。
やめましょう。嫌な事は、想像してしまえば現実になるものだ、と。そんな、子供を諭す様な言葉で自分を落ち着かせながら――
式部さんの術をもっと創作の陰陽術っぽく書いてみるテスト。