FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――ンンンンン、抜けました、か」
三つ目の紙片の消滅を確認し、白と黒の大柄な怪僧、リンボは呟く。一応、もう一体、練り直した海坊主も居ない事は無いのだが……多分同じ結末を辿る事にはなるのは分かり切っている。これ以上のちょっかいは、たぶん自分の首を絞めるだけだ。
ともすれば主の狙いである少年を潰し、一つ自分の手で練り直してから献上するのも悪くないとも思っていたのだが。まぁ突破したのであれば是非も無い。今は指令に従って動くばかりである。
「仕方ありませんなぁ……取り敢えず主のご意向に従い次の段階に移りましょうか」
ここで仕方ない、と言い出すのがリンボの主への忠誠心の現れである。要するに、心の底から忠誠など誓っちゃいない。まぁこういう輩だ。
とはいえ。リンボも、自分の主がそれを承知で自分を使っていることは分かっている。自分に常に仕事を押し付けたり、シャドウサーヴァントの調整を任せたりするのは、『やれるものなら』というある種、寛大さの表れでもある。
そういう点で考えると、同盟を結んだあの『獣』とは大違いだと思う。アレは確かに脅威ではあるが、些かと『生真面目』に過ぎる。
一方で自分の主はそれと同じくらいの強大な災厄になり得る存在ではあるが、何処までも『人間らしい』恐ろしさを持つ。厄介さで言えば、間違いなく後者の方が厄介だろう。
「……しかし、本当に回りくどい事をする。精神崩壊させてからさっさと回収するではいけないのか。はぁ、全く。その辺りも人間らしいと言えばいいのか」
――五体満足で手に入れたい。
そう言われた時、明確に『面倒な注文をする』と思ってしまったことを覚えている。
主に着いた直後の事だ。かつて敗れた『使徒』であった私の残骸から呼び出した、との事だったが……まぁ全くもって覚えていない。というか、何の使徒だったのかすらトンと分からない。
それでいい、とは言っていたし、やる事が凄まじく破滅的で、ろくでもない仕事だったので面白いと思ったから受けたのだが。
しかし、まぁ、蓋を開けてみれば付けられる注文の多い事、多い事。まぁ生前が生前だから仕方ない、とは思うのだが。
「全くもって真っ当に、丁寧に、悪だくみをする。ある意味相性は宜しいのでしょうけれども」
犯罪というのは、如何に緻密に計画して、そして如何に冷静に遂行するかだ。勢い任せで成功する訳がない。基本落ちこぼれが社会への反逆の為にやる、という昨今のイメージとはかけ離れ、社会でも活躍するような生粋のエリートこそが犯罪という物をキッチリ成功させる素養はあるのだ。
そのお陰で自分はこんなに苦労している、と愚痴りたくもなる。
「まぁお陰で、拙僧もやりたい事をやらせて貰えているのですが……」
とはいえ。
そのエリートが組み上げたこの特異点の仕組みは見事なものだ。
自分で考えるのではなく、元々あった『記録』を元に築き上げ、それの問題点を修正しつつ、目的達成の為に特化させる、という無駄のない方法を取っている。
その為の協力者にも、きっちりとした目的意識を持たせている辺り、裏切られるという事も無い。とはいえ、その協力者の思惑を反映しているかと言えば違うが。
そして、ある程度仕上がった彼に協力者を『始末』させる事で後始末も兼ねている。実にスマートと言える作戦だ。真っ当な感性の持ち主ならば、間違いなく唾棄する程には見事に組み上げられている。
「――しかし」
そこまで考えて、ふと思う。
自分も、協力者も、『この場所』から拾って来たものではない。一つズレた場所で拾って活用している、との事だった。
そもそも、一つズレるだけでもそれ相応の準備を整えなければならないというのに。そこから拾いものをした挙句、自分の駒として利用する、という。
権能がある訳でもないそんな彼が、どうしてそんな事が出来たのか――曰く『向こうから利用しようと近づいてくれた大馬鹿者のお陰だ』との事で。それでどうして自分を見ていたのかさっぱり分からないのだけれども。
――兎も角。
「底知れない事だけは間違えようもない、か……」
繰り返すようだが。彼は決して今の主の下に跪いている訳ではない。
大怨霊たる彼を利用し、何れ自分は――『獣』すら超える存在へと成り上がる。そして何れはあの、忌々しき、天才陰陽師を。
そこまで考えて、頭を振った。いけないいけない。今にも主の首を取りに行ってしまいそうになったが、それはいけない。
自分とて馬鹿ではない。今、力を順調に蓄えている彼を相手に、自分一人で勝てる等と奢る昂る等と……普通に考えて、彼を操ろう等と考えていた術者は何を考えていたのか。恐らくその間抜けが失敗したのは反応からして分かりやすかったが。準備不足で、自分が全能等と言う傲慢な思考で彼に挑んだのだろう。これから愚か者は困る。
「まぁそんな間抜けはどうでもいい。それに倣わぬように冷静に事を成し遂げればいいのですから――えぇ、えぇ」
この私は、そんな大間抜けとは器が。格が。実力が違うのだ。少しずつ少しずつ、念入りに準備を進め、実験も繰り返す。此度の黒髭の召喚も、その一環である。自分が想定している『英霊の凶化』。そしてそれを踏まえた更なる自分の進化。そこへ繋げる為の『サーヴァント』という存在の把握。
我ながら見事な仕事の術であると自負している。
とはいえ、流石に大々的に実験する訳にもいかないのが苦しい所だ。特異点の一つでも貸し切って大々的にやれたなら色々出来るのだけれども。さて。
「いっそ、本気でやりましょうか――」
特異点を構築する事。それが出来るだけの圧倒的な魔力を蓄える事。双方……とんでもない難題ではある。難題ではあるのだが……不可能ではない。魔術師達が悲願とする『魔法』への到達。多くの憧憬の果てに『伝説に残る英雄』になる事。それに比べれば、『難しい』程度に収まる難易度だ。
決して、リンボという男に出来ない理由は無い。
問題は主がそれを許すか、なのだが。
「――有用と判断すれば、見逃すでしょうね」
彼は、愚鈍ではない。自分にとって利があると判断すれば、例え部下の反逆とて見逃すだろう――ただそれは、器が大きい、とかそういう事ではない。生前の経験から得た、いわば経験則。
本当に賢い者、というのは死後であっても経験を活かすものだ。例えば、サーヴァントは基本的に成長しないが、それは肉体面とかの話であって。知識に関してはその限りではなく。
寧ろ生前よりも死後の方が恐ろしい策謀を巡らす者だって容易にいる。
恐らく今の自分がそうであり――そして、サーヴァントではない彼も、生前の経験を嫌という程刻み込んで、そこから今のやり方を取っている。
例えそれが、当人にとって憤慨たらしめる事であろうとも……堪える。
そうでなくては、潜り抜けられない。どうしようもない。そんな部分がある事をよく知っているだろうから。
「いやはや全く。
立場は秩序。
性根は悪。
元がどうあれ、今の彼はそういう存在だ。反転したのではなく、悪を知り、やり方を覚え……そして転向した。善であった頃は、それはもう周りから疎まれた事だろう。
そして……それは今もそうか。
「――おや?」
『聞こえるかい?』
例えば。今の同盟相手、とか。
『全く、調停役が居なくなったからって僕がどうしてこんな事を……』
「おやおや。これはキングゥ殿。ご機嫌麗しゅう……如何ですかな? そちらのご様子は。我々の商品の性能は」
『そんな話をしに来たんじゃない』
「おや、失敬」
『――君の主、
――思わず、口の端が弧を描く。
承知いたしました、と嘯くその裏で。自らの主が、同盟相手からも欠片も良しと思われず疎まれている事。そして、彼らが自分たちの思う通りに動いている事……一応、此方の軍師として動いている身としては。
それが、余りにも滑稽で。面白くて。
今年の更新はここまでとなります。次は来年、二月ごろになるかと。
また来年、お会いしましょう。