FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第六十五章・裏:サメの餌

「――サメっているのかな、ここに」

「……急にどうされたんですか?」

「いや。ふと気になったんだけれどもさ……ホラ、あそこ」

 

 指さしたのは――今や、深い深い霧に覆われ、魔の海の如く変貌しながら、瓦礫の如き下敷きにされた都市を小島の如く浮かべる、まるで崩壊した直後の文明の様な様を晒している『海の都』。ただ、よく見てみると……海の底に沈んでいるかのように、倫敦の都市が見えています。

 『テクスチャ』の事を考えるとこうして見えているモノが実際にそうなっている、とは限らないのですけれども。

 

 兎も角、そんな風に変わり果てた海を眺めて。マスターが呟いたのは……サメ。例えば『ここってさぁ、サメとか出るのかな~、怖いねー』等と海の上で話題にするのには何の違和感も無いと申しますか。普通の名前なのですけれども。

 

「あんな風になってるんだから、もう生物とかも居ないのかな、って」

「……そもそも、なぜサメなのですか?」

 

 このような状況なのですから、サメに限定する必要は無い気もします。普通の生き物はいないのか、とか。そのように言うかと思っていたのですか。

 というのも。そう思う原因は目の前に広がっています。

 

「えっと、なんでかか……そりゃあまぁ、俺を……」

「そこの二人! 喋っている暇があったら片付けを手伝ってくれないか! 船の上に寝かせておくには些かと臭いが生臭いんだよ! 此方のお客様は!」

 

 ライネス様が、ご自身の従者であるトリムマウ様に先ほどから……甲板の上に転がっている、鱗とヒレ、エラの生えた、人と魚の特徴を併せ持つ異形のモノ、それに、蛙の様なぬめついた肌とギョロリと飛び出た目を持つヒトガタなどを処理させているのです。

 

 ご自分では触りたくも無いのでしょう、明らかに距離を取っていますが……気持ちはわかる気がします。特に、蛙に似た方の異形に関しては、私も少し、近寄りがたい気も致します。

 

「あーはいはい。ご婦人にやらせる仕事じゃないし、俺がやりますよー……」

 

 先ほどまでの戦闘の名残です。

 

 リンボと名乗った巨大な影が浮上し。此方を襲撃してから、暫く。

 

 海の巨人と共に、海の底から浮上したり飛び上がって、黒髭様が操舵する我々の船に乗り込んで来たのは、半魚人を筆頭とした屈強な海の怪異達

 そんな風に多くの方々が船の甲板の上に上ってきて……そしてゴルゴーン様の尻尾の一撃で悉く床に沈んでいきました。現状、船の上にはそんな生臭い方々が、力なく横たわっているのです。

 

 生臭い匂いだとか、死体ばかりの景色だとか。

 そう言うのを考えてれば、若干とうんざりして海の可愛らしい生き物に思いを馳せるのも決して不思議ではない、と思ったのですが。しかしながら、マスターが話題に出したのはサメ。男の子ですから、カッコいい生き物の方が、お好みだったりするのでしょうか。

 

「……うわっ、本当に生臭い上にぬるぬるしてんなぁおい。水死体とかには詳しくないんだけど、実際こんな感じなのかい船長」

「臭いはもっとひどいですな。でもヌルヌル具合は割とこんな感じで、クッソみたいに不快オブ不快で船長吐き気がしそうですぞー……っていうか、カルデアのマスター殿、水死体とかって、他の死体にはお詳しいので?」

 

 そんな私の目の前で、マスターは男の方らしくそんな匂いやらなにやらの不快感の元を豪快に担いで。海へ。ポイ。そして入れ替わるようにして、今度は黒髭殿が担いで、海へポイ。二人とも不快そうな顔のまま、話は軽快に弾んでいます。

 

「いやそんな死体に詳しい訳ないだろ。あんなもん、好き好んで見てると思う? 華の男子高校生が」

「いやそんな事は思いませんけど。ネクロフィリアか何かと思っただけで。若い身なりで業深すぎワロタでございますなぁ、とは」

「オーケイ侮辱罪確定だこの野郎。昔日のルールに則って手袋投げてやるから覚悟しろ」

「拙者海賊なんでそんな決闘受けませんけどー闇討ち上等ですけどー」

 

 ……男の子同士であれば、マスターのサメ発言も分かるのでしょうか。ああして話題が弾んでいるのを見ると、そう思ったりします。

 しかし会話が弾むにしても、マスターが死体死体と連呼するのは、ちょっとどうかと思ったりしますが。マスターは、もしこの人理修復が終われば、ごく当たり前の生活が待っているのですからあまり血生臭い事に慣れてしまうと……えぇ。

 

「っしょぉ! あー……疲れた。これで最後かぁ?」

「おい待てや。ご婦人方が万が一ぬるぬるで滑らないようにキッチリとデッキの掃除すんだよ青二才」

「えー……掃除とか一番タルいやつじゃねーかよー」

「高校生か。高校生だったわ」

 

――疲れたぁ。と一言だけ残して戻ってきたのは、更にしばらく後。

 

 年頃の男子らしい姿を、ここまで見たのも初めてだったのではないでしょうか。カルデアのマスターとして藤丸様といた時とも違う。何処か浮かれたような様子で。身にも何もならない様な会話をして。

 それが逆に、何も気にしないで、話しているようにも見えて。

 

「……で、サメの話なんだけどさ」

「え? 結局サメに戻るんですか?」

「うん、まぁ」

「え、えっと……どうしてサメなんですか?」

「今、身を投げたら真っ赤な花とか咲くかなって」

「マスター!?」

 

 冗談だよ、と。マスターは笑いました。

 こうして戻って来ても、いつも以上に、何処か気軽に話している様にも見えます。

 

 冗句にしても。些かと線を越えそうで越えない所を行き来している。とても微妙な塩梅の言葉だと思うのですけれども。それくらいの事を、まるで此方を揶揄う様に笑いながら言う様子は……やはり、何時もと、なんだか違う様に見えるのです。

 

 海原の向こうの辺り、水平線を越えた更に遠くを見つめる姿を見ていると、その言葉がただ冗句ではない。何処か、真実味を含んだものと申しますか。瞳の奥に、まるで刃が光を照り返す様な揺らがぬ光を宿している様な気がして。

 本当に、目を離した一瞬で横から消えてしまいそうな。危うさを感じるのです。

 ずっとそうなのか、と言われれば。普段は……というよりは、私の知っている限りはその様な事はない、答えられます。少なくとも。

 

 無理をしていつも通り振舞っている、かとも一瞬思ったのですが。

 しかし、それでは『目を離した一瞬で』というのは似合わない表現です。

自然と、あくまでいつも通り振舞っていても。何処か不安が残る様な、そんな仕草をマスターはしているのです……先ほどの一件があってから。

 

『――やはり厳しいですなぁ。しかしながら、仕込みがあってこれとは、やはり七面倒な事をしていると言わざるを得ません。全く、もっと手っ取り早い手を何故取らないのか』

『何の話だ、黒坊主』

『これはあくまで拙僧ではございませんぞ? ……まぁ兎も角、現在の話でございますよカルデアの鬼子殿。とっくに、()()()()()()()()()()()()()……ちょうどこの特異点の様になっている予定だったのですが……どうにもそうではないご様子』

 

 その言葉に何の意味があったのかは詳しくは分かりません。しかしながら……少なくともリンボ、というキャスターは、何かを確かめるためにここへ来たのは間違いはないのです。可能性としては、マスターが触れた紙の欠片が最も大きい。のですが。

 

 ダ・ヴィンチ様曰く『本造院君の体調? 異変も何もないけれど……パロメータにも一切異変は見られないし』との事で。彼らだけに分かる『仕込み』があるにしても、即時マスターの命が奪われたりするような事だけは無い、らしく。

 

『もしリンボの言う位に大きな変化が見られたら、此方で察知できない訳がないからね』

 

 との事で。

 

 カルデアの体調管理……当世風の言葉で言うのであれば、バイタルチェックは最新鋭の機械によって完璧に行われているので、そう容易くは騙す事も出来ません。であれば、マスターの体調に一切の不備が無いのは間違いないでしょう。

 ブラフ――という周りの意見は大きく。ただの個人の意見を言うのは、些かと躊躇われてしまうので……言えなかったのですが。

 

 マスターのこの姿を見ていると。先ほどの一件がただのブラフである、とはどうしても思いきれないのも、また事実なのです。

 

「――式部さん?」

「あ、すみません……なんでしたっけ」

「だから、どうしたら綺麗に船の舳先からサメの口へダイブできるか、って言う話」

「そんな話しないでください!!!!」

 

 ……そうやって気にしても仕方ないのでしょうか。けれども今、目の前でお馬鹿な過程で話すマスターは、どうにも。まるで綿毛の如く、手を離せばどこかへ飛んで行ってしまいそうにも、見えるのです。重荷から解き放たれたような……逃げ出してしまったような。彼を見て。




実際、人間の味を覚えたサメってマジでヤバいらしいです。
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