FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第六十六章・裏:最後の『指し手』

――それは、文字通り、見上げるようなデカブツだった。

 

 ヒュージゴースト。そう呼ばれる類の敵。

 ゴースト、幽霊、怨霊……明確な形を持たず、魂の力でこの世にしがみ付く、本来はあの世の住人達。ゆらゆらと地も空中も関係なく、何なら壁もすり抜けて、物理法則など無視して突っ込んでくる、ホラーの敵役。

 その中でも、『想い』が協力故に、そう容易く撃退できず、肥大化したり、強力な力を持った『突然変異個体』とでも呼ぶべきそれ。

 

 凄まじい怨念や執念でこの世にしがみ付く故に、そのパワーは下手な竜種よりもよほど強く。瘴気を撒き散らし此方の気力を奪い去ったり、信じられない程の念力で触れずして締め上げたりなどやってくる。

 

「――おい、なんなんだアレは」

『数値で言うならば……『下手な神霊クラスの悪霊』かな』

 

 しかしながら……目の前のヒュージゴーストは、もっともっと単純に、ただのゴースト風情との『格』の違いが実に明確に、誰もが一目見れば『あぁ』と納得してくれる程には堂々と表れていた。

 それは我々がそのヒュージゴーストを『見上げ』ながら警戒している事からも分かりやすいだろう。

 

『観測した事あるサイズは、人間三人分くらいだったけど』

「三人分? 明らかに、近くのアパートメントを優に越す背丈じゃないか……!」

『最大記録更新! と喜ぶべきなのかな? コレは』

「絶対にそんな事を言ってる場合ではございませーん!!」

 

 デカい。兎も角デカい。先ず道一杯に詰まるくらいに横幅がある。幽霊なのにふくよかなのか……そんな訳がない。横幅がデカいなら更に背丈もそれ以上に大きい。横が道幅なら、浮き上がった腰から下の無い骸骨の背丈は周りの建物を容易に超える程。

 

『竜種とタメを張れるサイズか、下手すると上背に限って言えば此方の方が勝っているかもしれないなぁこれは』

「これ以上絶望的な情報は要らないのだけど。一応言っておくが、グレイだってこのサイズのゴーストは……一応確認してもいいかな?」

「(ブンブンブンブン)」

 

 無言で首を振る程には無理な相手らしい。まぁ想像通りではある。こんな化け物染みた悪霊なんて墓守でもなかなかお目にかかれるわけないだろう。

多分、貴族の屋敷が丸ごとは居るくらいには巨大な霊園全体の墓石を、鼻歌でも歌いながらスコップか何かでリズムよく叩いて砕いていくぐらいの罰当たりを引き起こせば、可能性はあるぐらいだろうか。

 

 要するに、常識の外にいる相手なのだ。目の前のゴーストは。

 

「――で、マスター。やるのか、やらないのか」

「やれるわけないっしょ! 退却! 退却ゥウウウウウ!」

 

 ホンゾウインの言葉と共に、目の前の化け物が無数の腕を広げて。ギャリギャリと無数の金属同士をこすり合せたような、理想的なまでに耳障りな金切り声が灰色の空に向けて上がる。

余りにも巨大すぎる存在から放たれた絶叫は、耳だけではなく私達が立っている地面をもビリビリと振るわせている気がした。

 

 先ず真正面からやりあったら、先ず間違いなく力でねじ伏せられてそのまま、カルデアと協力者の旅はあっという間におしまいになるだろう。それだけの圧倒的な力の差というものが彼我の間には存在する。

 

 そしていよいよ。巨大な幽霊が、一本道を此方に目掛け、動き始めたのを見て。

 まともに戦ったら終わりだと、私も全力で背を向けて逃げ出した。他全員も逃げ出している。流石に勝てない事くらいは分かり切っているのだから、そりゃあもう脱兎のごとく逃げ出すのは当たり前だと思う。

 

「に、逃げてねーし! 後ろに向けて全力前進してるだけだし!」

「それを逃げると申すのでは!?」

「式部さん、喋んない方が良いぜ、舌噛むぞ!」

「は、はいっ!」

「ホンゾウインさん! 辛くなったら言ってください!」

「お気遣いサンキュー!!」

 

 誰も後ろを振り返らず。そしてわき目も振らない。当然だ、下手をすればあっという間に追いつかれそうな勢いだ……

 先ほど、動き出した時の動きを見ていたのだが……その動きが鈍重だったらまだ救いがあったのだけれども。巨大でもその動きは当然の様に素早い。ゴーストなのだから物理法則など関係ない。大きいからと言って鈍重になる訳が無いのだが、それにしても普通に全力で走っても引き離せるかどうか、な程に動きが早いのが厳しい。

 

「……貴様、自分で走っている風な顔をしているが、自分の礼装に乗って移動しているではないか」

「いやぁ、余裕をもって思考を回せるのは大切な事だと思うよ? それとも乗せてくれるかい? その立派なお体の上に」

「殺すぞ」

 

 ……実際全速力で走っているのは間違いないし。私自身が最も早く動く手段はこうしてトリムの背に乗って駆ける事なのだ。それにこうして後ろに乗ったまま、冷静に後ろの巨大ゴーストを観察できるのはかなりのアドバンテージだ。

 まぁ、見た所でそれをどうにか出来るかどうかは全く別の話なのだが。

 

 見た目だけから分かる情報だけでも、単純明快にリーチが違う。腕一本取っても巨大ゴーストの体と同じくらいの長さをしている。アレで適当に薙ぎ払われるだけでも、避ける事すら困難だろう。

 

「ええい、ただここを偵察するだけの積りだったのだけどね……!」

「というか、何処まで逃げればいいんだコレは!? 振り切れんのか!?」

「分からないが、何処までも追ってこれる程、ゴーストは安定した存在じゃない。流石にこの都からは出てこないで欲しいが……!」

 

 正直、保証は出来ない。アレだけ巨大なゴーストだと安定して何処までも徘徊できそうな気もしてくる。魔術の世界は割と法則はしっかりとしているが、例外も多い。目の前のそれが例外で無いことを祈りたい。とはいえ例外というのは、例外無くどんなタイミングでも正直勘弁して欲しいのだが。

 

「――うげっ!?」

「ねっ、熱烈大歓迎!?」

 

 特に、今とかは、本当に。上がる男子二人の悲鳴。嫌な予感と共に、ちらりと巨大ゴーストの方から、逃げる方向へと視線を向ければ。そこに。白亜の壁が出来上がっていた。

 具体的に言えば、無数の殺人人形共の群れ。

横並びに文字通り機械的に正確に整列し、隙間も無く通路を埋め尽くすその群れに、更にどんどんと横の路地から合流して来ているのも見える。

その大量集結を阻止も出来なかった結果……合流に合流を重ねたその数で、ガッツリと分厚い壁が出来上がっているのがここからでも分かる。

しかしまぁ、何と最悪のタイミングで来てくれたものか。

 

「はえ~スッゴイ壁……」

「ゴルゴーンさん、体当たりで蹴散らせるか!?」

「ええい、流石に数が多すぎるわ!」

「あわわわ……!」

「ら、ライネスさん……!」

 

 不安そうな瞳を向けるグレイ。間違っていないだろう。その不安は。

 

 圧倒的な範囲と貫通力を誇るグレイの一撃以外では、あの分厚い列を突破するのは不可能だろうというのは分かりやすい。しかしそれだけの準備を整えるのを後ろの巨大ゴーストは許してくれないだろう。

思わず唇の端を噛みしめる。

 

しかし思考を回すのだけはやめない。

 

 ――最悪、自分は居なくてもいい。

 

 カルデアのマスターが指揮を取れば、なんとか行ける。それに、もう一人が生き残っていれば、自分の代わりも務まるだろう。

 

それを考えて、ここで費用対効果が最も良いのは自分だ。一応、サーヴァントとして最低限戦える実力はある。

 もしこれが特異点で無い、自分の地元のロンドンなら、自分は当主としての立場があるからこんな判断は出来ないだろう……特異点だからこそ下せる、自分を捨て石にするという決断に、思わず歪んだ笑みを浮かべそうになる。

 

 まぁ、後でグレイにはどうにか詫びるとしようか。

 覚悟は決まった。

 

「全く、か弱い女子がする事ではないな」

 

 トリムに、足を止めるように指令を送ろうとする。

 正直、怖くない訳ではないが。しかしまぁ、あの顰め面の探偵気取りの兄上には自慢できる終わりではないだろうか――

 

 そう思って、改めで巨大ゴーストに視線を向け。

 ふと、地面に視線が向いた。石畳の中に混ざる、白い線。アレは……ただの模様ではない事に、すぐさま気が付いた。誰が描いたのか、アレは、何方かと言えば『東洋』方面の術式にも見える――

 

「――お前の何処がか弱いんだ、ライネス」

 

 その直後。巨大ゴーストが進んでいる真下の陣が、稲妻の如くほとばしる魔力と共に起動する。瞬間、此方を追っていたその動きは不自然に……まるで、此方の姿を見失ったかのような。そんな動きをしているように見えた。

 

 余りにもいきなりの出来事。でも。ここまで『完璧』なタイミングで間に合わせる律義な奴を、私は……一人しか知らないのである。強張っていた顔の筋肉がほぐれ、思わずして笑みの形に変わって。

コツ、コツ、と。革靴が石畳を叩く音が聞こえてくるのに、その方向……我々の横の路地を振り向いた。

 

「――遅いぞ、()()()殿()

「仕方あるまい。敵地で調べ物をするほど難しい事も無いのだから」

 

 黒髪を靡かせて。

 いつも通りのベビーフェイスに顰め面を浮かべて。

 

「し……師匠!!」

「あぁ、遅くなって済まないな、レディ」

 

 ロード・エルメロイ二世が、遂に盤上に姿を現した。

 




正直このシーン書きたいからこの章を頑張ったまである。
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