FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七章・裏:彼が彼女を知ってる訳

「――凄いなぁ、聖女、ってのは」

「どうなされました? マスター」

 

 戦い終えたその後。

 バーサーク・ライダー、マルタは、リヨンへ迎え。竜殺しを探せと言いました。恐ろしい災厄を従えるという、竜の魔女を倒す為に、と。

 抗いがたい狂化を付与されて尚、私達に助言を残すその意思の強さは、きっと誰であっても感じ入るものがある筈。しかし……マスターの表情は、それとは少し違う様な。

 

「……ん? ああいや。ちょっとなぁ。あの心の強さは見習いたいって言うか。それだけなんだけども」

「そう、ですか?」

「それだけだよ」

 

 マスターの瞳に一瞬、寂しい光を見た気がしたのです。それも、嘗てを偲ぶような、遠い何処かを見つめるような。そんな。

 誇り高い英雄としての矜持を見せた、マルタ様。彼女の最後の姿を、マスターはじっと見つめて居ました。目を離さぬように、と自分に言い聞かせている様に、食い入るように。透き通った瞳で。

 その顔が印象的で、つい見ていたからこそ、その事に気が付けたのだと思います。

 

「……」

「……もしかして、心読んでたりする?」

「い、いえそうでは無くて……その」

 

 ……実際に読めるとは、口が裂けても言えませんけど。

 

「そんなに分かりやすかった? んー、じゃあアレかな。自分が思うよりも、結構あの聖女様に心動かされていたのかねー」

 

 そんな私の心の内など知る由もないマスターは、まいったね、と困ったように呟きました。

 

「いやさ、自分がセコイからね。綺麗な物に憧れるのは、人間のサガって奴じゃない? 物語を綴るお方として、その辺りは分かるんじゃないかな」

 

 そう言われ、考えてみれば。確かに自分が物語を綴っていた時も、確かに人の感情の悪い部分や、マスターの言うとおり、美しい部分に焦がれ、それを少しでも、表現したいという原始的な願いが根底にありました。

 マスターは、筆の縁で私を呼んだ、と言いましたが、案外それだけでは無いのかもしれないと思いました。

 

「――マスターは、そう言った心を、笑わないのですね」

「ん? そりゃあなぁ。思いの強さって奴を、嫌って言う程知ってるし?」

「そうですか……そうですね。ふふ。であれば、私達の相性は宜しいのかもしれません」

「おや、そうなの?」

「申し上げたではないですか。今、ご自分で。私は思いを綴る英霊にて……思いの強さを知り、そして信じていたからこそ、そんな所まで、行けたのです」

 

 そう言った私にマスターは、一瞬視線を向けて。

 

「――あぁ、そうだな。きっとそうだ。()()()()()()()

 

 笑ったのです。

 私がそれに抱いたのは、喜ばしさ……だけではなく。いえ、肯定された喜ばしさよりも勝っていたのは、驚き。そのマスターの笑った顔が……召喚された時からの剽軽な印象からは想像もできない程の、優しい微笑みだった事への。

 

「……さて! 取り敢えず、問題は片付いたんだし……どうする?」

「へ?」

「もうこんな時間だ。休むは休むにしても……アマデウスの野郎には気を付けないといけないぜ。何せ、さっきの発言聞いてなかったまさか?」

「あ、そういう……って、マスター!?」

 

 けれど、それは直ぐにカラっとした笑いの中に溶けて消えて、見えなくなってしまいましたけど。

 

「おいおい、僕が何時だって女性の生理的な音に耳を傾けてると思ってるのかい?」

「何時だってどころか四六時中でしょ? 男だもんねぇ」

「アハハハハハッ! 分かってるじゃないか!」

 

 そうして、アマデウス様の方へと脚を勧めたマスターは、もう何時もの剽軽な様子でした。アマデウス様のその……些か……な冗句に対しても、まるで怯む事もありません。本当に変わったご様子もなく。

 

「だからアンタは式部さん達から離す。そう決めた」

「……えっ、マジかい?」

「抵抗しても良いぜ? ジャンヌやマシュちゃんに鉄槌下して貰う口実が出来るからなげひひひひひ」

「うっわ、せこいなぁ」

 

 そのままアマデウス様と共に、焚火の傍へと行ってしまいました。

 

「……」

「どうしたの? そんなに彼の背を熱く見つめて」

「はわっ!?」

「きゃっ」

 

 ……それに集中していた所為か、後ろに人が来ていたのに全く気が付かなかったので、声を掛けられて素っ頓狂な悲鳴を上げてしまったのは、あの……とても、とても恥ずかしかったです。はい。

 振りむいた先に居たマリー様は、少しびっくりされたお顔をされていましたが、直ぐにくすくすと笑い始めました。

 

「あら、ごめんなさい。そんなに驚かせるつもりは無かったの」

「い、いえ……少々大袈裟に、反応してしまって……」

「そんなに周りの事が見えなくなるくらい、彼の事が気になっていたのね」

「……はい」

 

 マリー様は、私の言葉に頷いて、それから先ほどの私と同じように、マスターとアマデウス様に目を向けました。

 

「罪な人ね。こんなに綺麗なご婦人をやきもきさせるなんて」

「い、いえ! マスターが悪いのではなくて……」

「ねぇ。まだ話す機会がないのだけれど、あの方はどんな人なの?」

「え? えっと、それは……明るい方だとは、思うのですけど」

 

 私自身も、そこまでマスターに詳しい訳ではないので……と、言う前に、マリー様はパンと一つ、胸の前で手を合わせ、ニッコリと微笑まれて。

 

「ええ、ええ! 丁度いいわ、今から話してきましょう! 分からない事は自分で知るのが一番いいもの!」

「えっ、あの、はい、その……それは、宜しいと思いますけど」

「では貴女も一緒に! 相互理解を深めるのは良い事だと思うわ!」

「えっ」

 

 殿方同士で話をしているのですから、割って入るのも如何な物でしょうか……等という暇もなく、あれよあれよという間に手を引かれ、私はマスターの元へと引っ張られて行ってしまいまして……しかし、反応したのは、マスターやマリー様よりも先に、アマデウス様が先でした。

 

「おやマリア、こんな男くさい所に何か用かい」

「そちらのツルッとした殿方に御用があるの。良いかしら」

「――あぁ、良いとも! コイツ思ってたよりも全然ヘタレで、マリアに悪影響与える程気合なんて入ってないよ! この見た目でさぁ、ウケるよねいやマジで!」

「酷い言い方だねぇ……ヘタレって」

「いやだって君……そのなりで繊細とかほざく積りかい?」

「そう言う事じゃねぇってんですよぉ。ったく傷付くわぁ」

 

 ――どうやらマスターとアマデウス様は、暫く話している間にある程度打ち解けた様でした。殿方はこういう所ありますよね。等と思っている間にも、マリー様はその屈託のない笑顔をマスターへと向けられて。

 

「あら、そうなの? 見た目にそぐわずというのは失礼かしら」

「……いや、その、ヘタレじゃねぇっすよ」

 

 しかし、マスターはその笑顔に、笑顔で返すという事も無く……なんというか、少し気まずそうというか。

 

「そんな気合入ってる訳でもないですけど、人並みです人並み」

「でもアマデウスの人を見る目は確かよ? いいえ、聞く耳、といった所かしら」

「まぁ、そりゃあ大偉人様の評価を覆すのは難しいにしても。そんなヘタレてるんだったらそもそもここに立ってないでしょうよ女王様」

「……あの、その綺麗な後ろ頭だけじゃなくて、お顔、見せてくれないかしら」

「いや怖い物見る必要ありませんよ」

 

 そもそもマリー様を見て居ません。完全に。目を明後日に向けています。禿げた後頭部しかマリー様に向けて居ません。気まずそうとかそう言う問題じゃありません。アマデウス様のヘタレという評価を覆せませんそれじゃあ。

 一体どうしたんでしょう。

 

「私、貴方に何かしたのかしら……」

「……いや、何かしたって、訳じゃなくて」

「じゃあどうして?」

「どうして、って、そりゃあ。あの、イメージと大分違ったから、その……」

「イメージ?」

「……アンタの事は、少しは詳しく知ってるもんでな」

 

 マスターは一瞬、マリー様の方をちら、とみて……改めて顔を下に向けました。

 

「あら、そうなの?」

「フランスの美しい王妃様。有名な発言とか……」

「あら、美しいなんて。お上手ね」

「いや、でも……そこじゃなくて、ですね」

「そこじゃない?」

「……あー、もう……兎に角! 良く知ってる偉人とどういう話をすればいいんだって戸惑ってたんだ! それ以外にはねぇんですよ! 小市民なもんで!」

 

 そう言ってマスターは立ち上がってしまって、マリー様から離れ、私の方に近寄ってきて来ました。なんというか、逃げる様に来たというか。マリー様の静止をも振り切るその勢いに若干圧されてしまいました。

 

「……どうなされたんですか? マスター」

「いや。だって、ちょっと……これ以上はなぁ」

「話しにくい?」

「だって……知るきっかけが、さ。自分の、その……」

 

 マスターは周辺をちらちらと見回してから……私の耳元にそっと口を寄せると――

 

「……ご自身の()()()()()()()だった、なんてさ……言いにくいじゃない」

 

 ――と、囁いてきたのです。

 




多分二人共キレたりしないと思うけど、まだ出会ったばかりでそんな事が分からないから気を使う似非平和主義
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