FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第六十八章・裏:小賢しい男

「――それで?」

 

 体を小さく丸め大人しくしているのも正直疲れた。体の大きさというモノを、いやという程理解させられた。取り敢えず天井の一つでも破壊してやろうと思ったが、しかしながら、流石にそこまで私も大人げない事はしない。

 という事で、私は外に出た。別に中で言っているのは私には関係ない。相手がどんな策を練ろうと、私はあくまで力でねじ伏せる事しかしない。小賢しい真似などはしない。なので彼方で勝手に策を練り、それに私が乗れば何も問題は無い――頭を回す事ばかりが賢い立ち回りではないのだ。

 

 という事で。

 何とか体をくねらせ、外に出て来て。ついでにワイバーンを何頭か軽い運動がてらにねじ伏せて……

 

 ある程度スッキリとしてから戻って来たきたところで。急に香って来た匂いが不意に鼻についた。

 ちらりとそちらに顔を向けると。立ち上る煙と、深い眉間の皴。ポケットに手を突っ込みながら片手に葉巻を摘まんだその姿は、此方を恐れてはいないし、畏れても居ないのは分かりやすい。

 

 ロード・エルメロイ二世、だったか。

 先程まで、部屋の中でなにやら色々説明をしていたのは覚えている。説明を終えて外に出て来たのか、しかしながら。それにしては、私に視線を向けるのが些かと、早かった気はする。まるで――

 

「――待っていた」

 

 その男は、私の思っていた事と、同じ答えをその口から吐き出した。

 

「君が、このメンバーの中では一番カルデアに呼ばれて日が浅いと聞いているのでね」

「……フン、それがどうかしたのか?」

「安心して欲しい。貴女を害するつもりも、カルデアへの裏切り工作を仕掛けようという積りも無い」

 

 しかし、その次に続いた言葉の、余りにも青臭い事には、私とて嘲笑の笑みを浮かべそうになってしまう。

 

 別にカルデアの連中と私は、裏切る裏切らないの次元にはいない。あくまで、あのマスターは私がこうして現世にあるための楔の役目でしかないし、協力というよりは、利害関係が一致したから……こういう事をしている。

 

 人理焼却、というのが、何のために引き起こされたかなど知らん。だが姉上達と、私が過ごした時代をも焼かれた、というのは度し難い。気に入らない。故に、私は無礼を働いた相手を殴り倒すことにした。それだけだ。

 仲間の類と、我々の関係を勘違いしているのであれば……余りにも滑稽な勘違いだ。

 

「下らん心配をするな。要件を話せ」

「――では率直に。あのマスターの変身……貴女はどう思う?」

 

 とはいえ。その滑稽な勘違いを直してやる義理もないので、取り敢えず話の先を促してみれば。奇妙な問いが帰って来た。

 

 もっとも関りが薄いと自分で言っている相手に、それを聞くとは。正直、頭が良い悪いに関わらず、道理から外れた行いを目の前の男がしているのは分かる。

 マスターの事を聞きたいのであれば、それこそシキブに聞く方が早いだろう。奴が、一番最初に召喚したサーヴァントなのだと、マスターが言っていた。

 

「……そう怪訝な顔をしないで欲しい。貴女でなければマズいのだ」

「何?」

「彼に近いミス・式部では、万が一ということがある。客観的な視点が欲しい。彼の事を今の所、最もそのように見れるのは恐らく貴女だと、私は見ている」

 

 しかし、そう言われれば。最もマスターと近いサーヴァントではなく、私を選んだ理由も理解できた。まぁあのハゲマスターに何か遠慮したり、逆に何かしら憎しみを抱いていたり、等はしない。

 

 あくまでマスターとサーヴァントの関係である事は間違いないだろう。

 

「……あの変身について、だったか?」

「あぁ」

「面白い、とは思うが。まぁ真っ当な『由来』の力ではないだろうな」

 

 マスターのアレは、先祖由来のモノだと言っていた。

 しかし、そんな先祖由来の力が簡単に表に出てくるのであれば、誰も苦労はしない。

 半神、と呼ばれる神と人との間に産まれた存在とて、まんじりもせず日々を過ごすだけで、文字通り神の如く血に流れるを振るう事など。多少体が強くなったりはするが……それまでだ。

 それを表に引きずり出すのには、それ相応の『努力』が必要になる。

 例えば……忌まわしきポセイドン、その血を引くギリシャの半神、ヘラクレス。アレも自らの意思で武を鍛えて、文字通り半神と名乗るに相応しい怪物染みた力を手に入れたのは間違いないだろう。

 

 そして、自分で努力したもので無ければ……他人から恣意的に押し付けられたモノ、という可能性もあるだろう。

 

「あのマスターは、平和ボケした国で、無為に日々を過ごしていたような只人だ。それが急にあれだけの力を目覚めさせた。何もなかったと思わんな、その前に」

「下地があった……という事か」

「貴様ら人間のお得意ではないか? 自分でダメなら次代に、というのは」

 

 まぁそれがどのような意思で実行されるかにもよるだろうか。

 私個人の、まぁそれこそ客観的ではなく、主観的な意見にはなるが。『マトモ』な方向で目覚めたような物には到底見えない。

 

 マスター曰く、『ずっと昔の言い伝えを真剣に信じ続けてる変人の集まり』だったらしいが。それだけで済む話か? いいや、決してそうではないだろう。

 そうマスターが言うのは、本当に知らないからか。はたまたそれが『話すのも嫌で嫌で仕方ない事実』なのか。

 

「……魔術刻印の様に……しかし、カルデアのマスターは一般人として生活していたのは間違いないらしいが……であれば何故」

「知らん。謎を解き明かすのは、貴様の役割だろうよ。顕学者風情が」

 

 だがそれはあくまでこやつが求めているモノではない。欲しいのは『客観的な』意見なのだから、私の主観的な意見など、それこそ邪魔にしかならないだろう。あぁ、何かのヒントになりそうではあるのだが、実に残念で仕方ないというしかない。

 

「……ではもう一つ」

「なんだ?」

「貴女は……復讐、恩讐、そう言った強い思いの元に――特殊なクラスである復讐者、アヴェンジャーとして顕現している。それは間違いないかね?」

「――」

 

 私が男の首に噛みつかなかったのは……その事を聞いている男の方が、恐らく私よりも険しい顔をしているからで。明らかに『正直、突きたくない事でも訊かなければならないだろう』というのは目に見えていた。

 興味本位だとか。そういう方向ではなく。私と刺し違える位の覚悟でその質問を持ってきた、というのが余りにも明確に示されていたからで。

 

「――貴様、クソ真面目だと言われた事はないか?」

「……さて、ね」

「くくっ、まあいい。薄ら笑いやら、同情やらでそれを口にされるよりはよっぽどマシではあるからな――あぁ、その通りだ。私の中には抑えきれないぐらいの怨嗟の念が渦巻いているとも」

 

 私がマスター共を食い荒らさないのは、あくまで『目的』が同じだからだ。

 人理……否、世界という土台を吹き飛ばされているのだから、誰だってそうならざるを得ない。この状況で、それでも尚、一旦矛を収めないのは『想いに忠実』を通り越してただの愚か者だ。

 

「それで? ソレに流されて、私が途中で気が変わった、と口にするのが恐ろしいか? 軍師よ」

「……」

「そこは安心しろ。忌々しいが、今のマスターの元に居るのは、比較的マシなのでな。少なくとも、邪魔をされぬ分には最低限の仕事はしてやる」

 

 まぁそれでも。前提として『マスターが気に入るか気に入らないか』というのはある。即座に縊り殺したい程の愚か者であれば、共同戦線を張る気にもならず、私は召喚後マスターを食い殺し自滅していただろう。

 

『精々俺を利用しろ』

 

 そう堂々と口にしたマスターだからこそ。最低限、轡を並べるだけの『格』はあると判断したからこそ、私は奴のサーヴァントとしてこうして共に戦っている。

 奴は私が『仲良しこよし』をしたい訳ではない事を、恐らく直ぐに悟っていた。その上で『自分を利用しろ』と言えるだけの胆力があるのであれば、上等だ。

 少なくとも奴が怯えたり、逃げ出そうとしたりと、情けない姿を見せない限りは。利用価値ありとして、利用しつくしてやる。故に……まだ、そのような気まぐれを起こす予定はないと、告げてやった。

 

「――そういう積りではない」

「何?」

「その怨嗟の念は……他者に分け与えて尚、有り余るほどの物なのかね」

 

 のだが。しかし、返ってきたのは、想定していない答え。

 

「……この怒りは私だけのものだ。他人に渡すつもりはない。貴様、縊り殺されたいか」

「いや、すまない。そういう積りは無い。ただ……気になっただけだ。君の怒りは当然だと思われる。自分の怒りを他人に『譲り渡す』、『分け与える』などとゾッとしない。ならつまり、そういう事なのだろうな」

「貴様、何の話をしている」

「『Why done it』の話だ。恨みというモノを他者に渡せないのはごく普通の事。しかし普通にはなれないのであれば、それ相応の理由がある」

 

 全く意味の分からない質問に、当然の様に感じた苛立ち交じりの答えは、どうやら男にとって十分な『答え』になったらしく、顎、というか唇の直ぐ下あたりに手を当てながら、その眉間の皴は余計に深く。

 今、目の前の男が見ているのは、恐らく、私には見えないどこか遠くの深淵だ。

 

「ありがとう、参考になった」

「……一つ聞かせろ、貴様、何処を見ている?」

「この『人理焼却』の裏に蠢く謎を。シャーロック・ホームズではないが、解けそうな謎を残しておくのは些か以上に気になるのでな」

 

 そう言って、男は踵を返し室内へ歩き出す。

 

「ふん、カッコつけおってからに」

 

 解き明かす者。

 私と戦った、あの英雄とはまた違う『小賢しさ』を持った男。それが、今はほんの少しだけだが、頼もしく見えてしまったのが……非常に、忌々しかった。

 




自分の恨みを他人に共有とかしなさそうなカルデアアヴェンジャーズ。
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