FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第六十九章・裏:とある宮廷の二大才女 前編

「――こうやって式部さんの昔の話をキッチリ聞くのって、実は初めてですなぁ」

「そう、でしたっけ?」

「うん。こう、普通に話す事は結構あったけど……やっぱりナイナイ」

 

 マスターとはよく話していました。

 本を借りる時など、どういった本が好きなのか等を饒舌に話していた覚えがあります。小説、専門書に、参考書。それに歴史書や、雑誌なども。それに私の唯一の著書の源氏物語に、著書……ではないですけれども紫式部日記も読んでくださったと言って下さったのは覚えています。

 しかし意外にも、その流れで多少は話している、という事も無かったようで。

 

「親しい人相手でも聞きにくい事だよ? 過去ってさ。ましてや俺が勝手に呼び出して戦わせてる人に楽し気に過去を聞く……って、マナー違反でしょ」

「では、今マスターが私の過去について聞いてくださっているのは?」

「えぇ? だって、式部さんの方から振ってくれたから。そりゃあまぁ、これで耳を傾けたり、質問したりしないのはちょっと酷いでしょ。やっぱりダメだったりした?」

「ふふっ。いいえ、そんな事ございません。昔日を懐かしむのも、やはり良いものですよ」

 

 このきっかけとなった話は、懐かしむ、という感じではありませんでしたが。ただ敵方にいる何者かの話から、自分の過去について語る事になったというのは、些か奇妙な転がり方をしたとは思いますが。

 

 まぁ兎も角。そこからここまで。宮中でそのリンボと似た雰囲気の方と出会った事があるかもしれない、という話から、私にはどのような知り合いが居たのか、という話に繋がり……生前の事を思い返しながら、話すには些か憚られることを除いて、つらつらと。

 

 まぁマスターに話せる事など限られてはいるので、口にするのは、侍女達との他愛のない会話だとか、後はちょっとした……それこそ宮中が震えるだとか、そういう事もない本当に、ちょっとした噂話で盛り上がった事とか。

 後は……ある方との、関係、だとか。

 

「にしても、意外だったよ、清少納言とはクソほど仲が悪いってイメージあったけど。意外とそうでもないんだね」

「そ、そのような事は……彼女とは、若干反り、と言うか、当世風に言えば『ノリ』が合わない部分はありましたけど……それでも、お互いを罵り合ったりは、全然ありませんでしたし。そもそも、出会う事も稀でしたので」

「えっ、そうなん?」

 

 当世の方であれば、恐らくは気になるであろう事。本当に、嘗てどのように接していたのか……その程度であれば、別に話しても何ら問題はありません。本当に、彼女については憎み合って、互いに会うたびに地獄のような空気になっていた、という事もありませんでしたので。というか、そんな顔を合わせる機会自体がありませんでした。

 ……正直、正直です。若干どころか、私としてはあの人を……当世風に言うと『マッジであり得ない!!!!』と思っていた節はあるので、その辺りを、こう、胸の内を大暴露するのは、些かと。今は、柔らかく、濁しておきたいです。

 

「……まぁ、そんなキツイ性格じゃないしねぇ式部さんは。じゃあなんでそんな噂がたったのやら。向こうが結構きつい性格だったとか?」

「恐らくは割とそうだと私は思っています」

「お、おう」

 

 思わず食い気味に行ってしまったのは、その……永遠に独り相撲染みた事をしていた所為か色々と思う所は多かったのではい。でも、マスターに一歩後ずさられてしまったのは少しショックでした。そんなにかぶりつくようにしてたでしょうか……

 実際は、どうか。それは会ってみないと分からないですが彼女とまた会う機会があるかと言えば。恐らくは、もう二度と無いので。出来るだけ、私の主観的な意見だという事を強めに言ったつもりですが……出来ていなかったかもしれません。

 

「って……すみません。私ばかり話してしまって」

「ははっ、いいや。式部さんの話、ずっと聞いてたいよ。というか、いっつも敵とバチバチやる事考えてたら……まぁ、疲れるし。うん。息抜き息抜き」

「はぁ」

「でもそっかぁ。かの清少納言と紫式部は、実はそんなにライバルライバルしてなかったんだぁ。歴史の真実、思わず驚愕」

「そもそも、私を、あの人は認識していたのかどうかも……えぇ、私も意識なんかしてません、はい。これっぽっちも」

 

 私がずぅっとあの方に何とも言えない思いを向けていても。彼女がどうだったかはサッパリと分かりません。いえ、そもそも、私の事だって知っていていたのかどうか。

 ああいえ……恐らく、名前だけは、知っていたとは思うのですが……それでも。

 

「……でも、その割にはスゲェ苦い顔してるね式部さん」

「あぅ」

 

 つん、と額をマスターに突かれて。いつの間にか、そこに皴が寄っていた事に気が付きました。自分でも気が付かない内に。

 

「話してる間にどんどん皴が寄ってくの面白くって見てたけど、何? 実は相当嫌いだったりする?」

「……嫌い、とかではなくて……いえ、本当に会った事も殆どなく、そういう事を考えた事も無くて……本当に……」

「ノリが合わなかったにしたってそれだけこんな皴寄るもんなんだ」

 

 ……やはり、どうしても意識してしまっているのは間違いありません。

 

 正直な話。人伝で聞く話では。あまり、私は良い想像が出来ませんでした。傲慢で、誇りが強く、慎みがなくて、底意地の悪さが滲み出ているような……ただ、私が聞いた事柄で私が想像しているだけの主観の意見でも、生前のイメージはどうしても拭い去ることは出来ません。

 しかし……それでも、彼女の『枕草子』を見た時の衝撃だけは、どうしても忘れることは出来なくて。

 

 あの様に、宮廷内の出来事を楽し気に、面白おかしく書き綴った書物など、私は初めて見ました。そして活き活きと書かれた文から伝わる、彼女の思いは実に。実に、キラキラと輝いていたように、思えて。

 

「……」

「どんな顔よそれ」

「あっまたっ……す、すみません……」

「いや凄かったよ。梅干し食べたみたいになってたもん」

 

 ……あぁ、本当に。

 

「……凄い人だとは思ったのです」

「ほーん?」

「でも……」

 

 思い返してみれば。

 私はずっと、ずっと。こんな風に、手の届かない彼女を睨みつけていたのだと思います。いえ向こうが上だとかそういう事ではなくて。

 そういう事ではないのです。私の手が届かない、と言うのは。

 

 ……本当に、ライバルどころか私ばかりがこう、一人で色々と『キーッ!』としていた気がします。今みたいに。空回りしていた気がします。

 凄くない訳が無いのです。でも、どう足掻いてもあの人の事を好きになれないのです。私ばかりが『手を決して伸ばせない』彼女の姿……

 

「うーん、良い顔してんねぇ。本当に好きと嫌いがぐるぐるしてる」

「……好き、とかではない、のですけれど」

「そっかぁ」

 

 ……マスターは、私の吐き出す、鬱屈した思いを聞いても。楽しそうに。先程言った通りに、私との会話を楽しんでくれているようで。そんな、楽しめるような会話では、無いと思うのですけれども。

 この、胸の中の如何ともしがたい感情は、まるで、昔日のその時の様に、いやに鮮やかに蘇って来て。でも、口にするには、あまりにも。形に、ならなくて。

 

「……どうしようもないよねぇ。誰にも話せない、形に出来ないと、特に」

「っ、はい……とても、とても苦しくて……」

 

 ちらり、とマスターの顔を覗き込みます。

 まるで私の心を読んだかのような一言でした。

 

「チープな言い方だけど……『その気持ち、良く分かるんだ、俺も』」

「……そう、なのですか?」

「うん。好きと嫌いと、後……まぁ色々な感情がごちゃ混ぜになって、ドロドロした汚い感情になって、でもその感情を言い表すことも出来なくて……嫌なモノだって自分で分かってるのに」

 

 マスターの一言一言に、私は一々ハッキリと、頷いてしまいます。本当に、私が思っていた事を、そのまま、丁寧に並べているかのようでした。

 そうです。私は、紫式部日記で、彼女について、色々と書き綴りました。けれど、心の奥底で渦巻いているのは、そんなものではないのです。もっと、もっと……

 それを、マスターは当たり前の様に言い当てて。

 

「――相手への負い目、っていうか罪の意識もあるから、余計に」

「っ!?」

「お、ドンピシャ? やっぱりー」

 

 そして。私が、その奥に潜ませていた……マスターには言った事の無い、それすらも。当然の様に。

 

「どうして……」

「式部さんの事情はサッパリと知らんけど、でも顔から何となく。ね。良く分かるって言ったでしょ? 実は存外、近い部分もあるのかな、俺達」

 

 そういって、マスターは笑いました。

 

「……多分、その感情は一生消えないよねぇ。今もこうやって思い出しちゃうし」

「はい」

「だから必死こいて向き合うしかない……苦しいけど。俺たちは『加害者』側だから。忘れずに踏ん張るしかない訳だ」

「っ……はい」

 

 加害者。

 そうです。私は……心の奥底で、彼女に『恨まれている』という思いを、持っていたのです。私は、彼女にとって加害者であるだろうと、と。

 

「でも。きっと式部さんは大丈夫だよ」

「え?」

 

 そんな私の隣で、マスターは立ち上がって、此方を見下ろしたのです。とても。とても静かに、笑いながら。『貴方は大丈夫』と、言うのです。

 

 私よりも全然若い筈のマスター。

 物理的な長さでも。そしてその中に詰まった濃さも。普通に過ごしてきたマスターよりも、宮中で様々な人間の『業』を見て来た私の方が、ずっと……ずっと長いはずなのに。人生経験は、私の方が積んでいるはずなのに。

 

「少なくとも、『相手を凄い』って認められてる。そこはデカい――俺みたく、認められもせずにグズグズしてるクソガキなんかより全然」

 

 その言葉が……ただの気休めとは思えなかったのです。

 




式部さんの人間臭い面が引きずり出されるなぎこさんとの絡み大好きマン。
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