FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十章・裏:『記憶』の特異点 前編

『――あまり吹っ飛んだ見解、とは言い切れないね。ギリギリ筋は通ってる』

「と言うより、他に理路整然とこの状態を説明できる理由も何もないんだ。全てが完璧に仕上げられている訳でも無く、かといって雑に作っている訳でも無い……」

『どちらか、ならまだ分からないけど、その中間……微妙な所だ。あり得るのは『時間が無くて途中で切り上げた』とかだけど……』

「であるならば向こうから彼を引き入れた説明がつかない」

 

 正直に言って。びっくりしました。

 

「……こ、ここってホンゾウインさんの記憶の中、なんですね。えっと……ホンゾウインさんの中に私が、居る、と?」

「うーんグレイちゃんその一言、ちょっと間違うとえらい事になるから気を付けてね」

「? はい」

「そう言うボケをするタイミングかい? 本当に……」

「俺にとっては割と死活問題。年頃の男子はそう言うネタに敏感なんだから男子高校生舐めんな……しかし、記憶をこんな形でなぁ。スゲェな魔術」

 

 いいえ。全く理解の外である、という事ではなくて。

 記憶を形にする、なんていう技術は……拙も経験したことが、無い訳ではありません。師匠が若返ってしまった一件の時は、『想い出』の中に師匠たちは閉じ込められて……凄い事になりました。無事に解決出来ましたが。

 でも、アレはあくまで思い出を『上映』してそれを箱庭としていた、だけで。本当に記憶そのものを大きな舞台に変えてしまう、等と言う魔術は、拙も始めて聞きました。

 

「それとそこの思春期。グレイで変な想像をしない様に」

「ギクゥッ!?」

 

 だからこそ、気になる部分は幾らでもあります。拙とは全然別の部分を気にしている方もいらっしゃる、ようですけれど。

 

「……おいおい、そんな青臭い想像する年かね、ブラックビアードとあろうものが」

「心はいつも少年ですしお寿司……まぁそれは兎も角として。ここがそこのなまっちろいマスターの記憶の上だとして、ボーイになーんの影響も出てないのはなんでです?」

 

 ……真面目なのか、不真面目なのか、やっぱり良く分かりません。でも、黒髭さんの言う事は確かにそうです。

 記憶を上映して箱庭にする。そんな術式を使っていた魔術師の人も、相当にダメージを負っていたのを、私は覚えています。それよりも更に大規模な……こんな世界を作り上げて、どうして彼には何の影響も無いのでしょう。

 

「単純な話だ。この世界はあくまで『コピーされた記憶』を元に作られた特異点でしかない。彼は元データでしかなく、それをコピーした所で破損も何も起こりはしない」

 

 師匠は、それをパソコンのデータに例えました。

 元のデータがあって。それをコピーして、ペーストして、二つに増やして。ペーストしたデータを壊した所で、元のデータには大きな影響を与えないのは至極当たり前のことである、と。

 

「だが、あの巨大な塔……アレだけが『この世界に於いての』本物の異物。記憶を元にして世界を作って、その中心に据えられている。そして、紙片を回収するごとにその塔は姿を現していった……それが紙片の役割なのだと思う」

「役割?」

「紙片に触れる事で、アレは霧の中から現れた。だが、アレは姿を現していたのではなく、紙片に触れる事で、形作られていたのだろう」

『……紙片の役割は、アレを構成する事だったのか!?』

「アレは……文字通り、カルデのマスターから直接回収した何かしら……恐らくは『記憶』で形成したのだろう。表面的な記憶を読み取って作ったこの世界とは、文字通り『繋がり』の深さが違う」

 

 師匠は、紙片に触れればこの特異点が崩壊し、解決するように作られている……というのは、やはり一種の餌だったのだと言います。

 紙片に触れさせると、特異点の中心……彼らが形成したかった、巨大な塔が作られていく。そして最終的に、遂に塔は完成した。

 師匠の推測では、ホンゾウインさんの、記憶を読み取る事で。

 

「そこから更に推測すると……あの巨大な塔の中に封じられているのは……恐らく、君の心の中にある『とても重要なファクター』だと私は推測する――本造院康友」

 

 ――視線が一点に集中する。

 

 全員が見ているその中で。

 ホンゾウインさんは、じっとしたまま目を閉じて、そして――眉間に皴を寄せて、全ての視線を受け止めていました。

けれど、口をへの字に曲げて、足で地面をトントンと叩いて、肩をいからせて……という風に、不機嫌になっているというよりは。

 

 体を縮こまらせて。ぎゅうと両方の手で互いを握りしめて。口をきゅう、と引き結んでいるその姿は。周りの視線にさらされて、居心地が悪くなっている様な。それは、何処か見覚えがある様な……

 

「……」

「マスター?」

「心当たりは?」

 

 一瞬。ホンゾウインさんは、ぴくり、と体を震わせて。少し長めに、息を吸い込んでから……ため息を吐きだしました。はぁ、と大きく、まるで師匠に聞かせるように。それから、目を開いて顔を上げて、師匠を見ました。

 

「――意地悪な事を言うじゃない名探偵。もうアタリは付けてるんだろう? ただの事実確認に、俺が否定した所でどうしようってんだ」

「名探偵ではない。だが……良く分かっているじゃないか、その通りだ」

「ったく性格の悪い。自分の頭の良さをひけらかしたいのかい?」

「そうではない。大体、その態度を見て心当たりがあるのか分からない訳が無いだろう」

「さいで……あぁ、あるよ」

 

 そして。ため息と同じくらい、体の奥から絞り出すように。彼は、その口から問いに対する答えを口にしました。か細くて、弱々しくて。今まで見て来た彼の、何処か飄々としている姿とは、まるで違う。

 それは何処か……誰かに似ている様な、そんな。

 

 師匠は、それに一つ頷いて。では、と言葉を続けます。

 

「君の感覚で良い。どの程度の確率で当たっているか、言ってみて欲しい」

「百パーセント」

「――!」

「安心しろ。俺の想像している物以外を見せてくるなら――向こうは文字通り無能だ。というか、俺だって()()()()()()()()、分かるよ」

 

 そして、その問いに、即座に。彼は答えました。

 余りにも断定的で、そして迷いの見えない一言。でも、余りにもその声は弱々しくて震えていて――そして、何処か、自嘲気味に笑っています。

 師匠も、一瞬驚いたように目を見開きましたが、それ以上に驚いていているように見えるのは、式部さんでしょうか。

 

「そうか。君には自覚があったんだな。あの紙片に触れた時、『想い出』を見せられている、と」

 

 そして、その師匠の言葉に反応したのは……

 

「……」

『……本造院くん、本当かい?』

 

 カルデアから通信を送ってきている、ダ・ヴィンチさんでした。彼、あるいは彼女の声は、余りその声を聴きなれていない私でも分かるくらいには……『硬い』色がにじみ出ています。

 

「体に本当に影響は出てなかったのは本当。でも、アレが何をしていたのかが分かっても話さなかったのは……悪い。それも本当だ」

『君ね。それは報告してくれないと――』

「……申し訳ない。でも正直、ここに来たのは偶発的なもんだし、直ぐに脱出しなきゃいけなかった。マジで大したことは無かったから、それでマスターとしての業務に支障が出るのもなぁ、って思って……」

 

 カルデアの皆さんは、組織です。報告と連絡と相談、それが大切なのは、言わずもがなだと思います。それに……当然、心配していたのもあるのだと思います。

 ダ・ヴィンチさんがそんな態度をしてしまうのは……仕方ないと言いますか。

 それを言われてしまうとホンゾウインさんも、流石にやってはいけない事をした自覚はあるのでしょう。少しばかり申し訳なさそうに頭をポリポリと指先で引っかいて。

 

「記憶を覗かれてる、とは思い至らなかったけど。さっきのと合わせて、漸く相手の狙いに気が付いたんだ。悪い」

『本当に……それで、何が見えたんだい? いや……どんな記憶を、向こうは覗いたんだい?』

「俺の……過去の記憶。カルデアに来る前の……それこそ、ギリギリ小学生に入るか入らないかとか……それくらいの記憶だなぁ」

 

 そう言いました。

 

『……』

「……うん。それだけ」

『えっ? それだけ?』

 




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