FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
『……えっ? それだけ?』
「うん。マジでそれだけ。本当にそれだけなのよ?」
特別に何かある訳ではない。と言いたげな表情で。
返ってきた言葉は……ダ・ヴィンチさんの声から、詰まっていた緊張がスルっと抜けてしまう位に、なんて事の無い、本当に拍子抜けしてしまう様なもので。思わず私達も、目を丸くしてしまいます。
何てことない。そう言われて本当に相手のやってきていることが『別になんてことも無い事』である事なんて、どれくらいあるだろう。私たちが戦っている相手は、私達を容赦なく襲う恐ろしい相手……なのに。
思い出した記憶が、例えば『トラウマ』だったり、そういう事でも無く。
「えっと、あの……本当に、幼い頃の記憶が?」
「そーそー。小っちゃい頃の、可愛がられてたころの記憶が。まぁ幸せかっていうとちょいと分からんけれどもさ」
「あ、えっと、その」
「なんでしょうなー、この、思いっきりホームラン予告でもしそうな勢いでバントぶちかまされたかのような……肩透かし感」
先ほどまでの張り詰めた空気は何処かへ行ってしまっています。あぁ、ライネスさんがトリムさんを大きなクッション型にして『トリムマウは柔らかくてやさしーなー』とか言いながら溶けています。
『お、思い出を……えぇ~? ちょ、えぇ~……? 何それぇ?』
「何それと言われても……いや、マジでさ。昔の……ホント、家族、それこそ妹とかと話していたような。そんな記憶というか」
『んー。ちょっと予想外過ぎるんだけど』
「でもまぁ、俺にとって大事な記憶ってのは間違いないし……」
ねぇ? とでも言いたげな、少し口の端を歪めた笑顔は、瞳はちょっと虚ろで、その若干投げやりな感じは、今の空気にとても合っています。
あぁぁ……皆さんが、皆さんが何だか、とってもやるせない感じになっています。先ほどまでのいい意味での緊張感も何処かへ吹っ飛んでしまいました。黒髭さんは漫画みたいにずっこけていますし、式部さんは……ジーっと、ジト目でホンゾウインさんの方を見ていますし。
この凄い、生温いとも、冷えるとも言えない空気の中、師匠も、アレだけこう、なんでしょう……シリアスな空気を作り上げていきなりのコレなのですから、それはもう……凄い微妙なお顔をされているのでは、と思って。
「あ、あの……師匠……師匠?」
「――ふむ、そうかね。であれば……む? どうしたかね? レディ」
しかし。
誰もが気が抜けて、空気が抜けてしまったみたいなその空気の中で……ただ一人だけ。師匠だけが、何事も無かったかのようにその先を促そうと、いつも通りなままで。
寧ろ私の方を見て『どうしたのか?』と尋ねたそうにもしています。
「師匠は……驚かれないんですね」
「あぁ、そうだな。別に『君にとって重要なファクター』と言っただけで、何か特別に彼自身の価値観を変えるような大きな出来事とは言っていないからな」
……そう言われれば、そうです。師匠は重要なファクター、とは言いましたけど。それが例えば、何かとても美しい景色だったり、とてもつらい経験だったり、と……そう言った事は一切言ってません。
「限定的にシチュエーションを定めてしまうと寧ろそこから離れた時に此方の思惑とすれ違い、結果として正確に情報を把握できない可能性がある。こういう時は下手な事は言わないに限るという訳だ」
「えっ? あ、えっと、確かに、そういえば……そう、ですけど」
いえ、そう言われてしまうと確かにそうではあるのですけれども。それでもちょっといまいち……いいえ、全然納得しきれないのですけれども。納得しきれなくてアッドを握りしめてしまうのですけれども。
「グレイ、グレイ、痛ぇ、痛ぇって痛デデデデデ」
「むぅ……」
師匠にそんなつもりは無いのは分かってますし……師匠は賢いですからそういう言い方こそが正しいと確信をもってやっているのであって、寧ろ混乱を招かない様に気を付けていたのだとも、分かりますけれど。
「……まぁ、加えて言うなら、だ。普通の青少年にとっては少年時代の想い出も大切な思い出ではあるんだ。私やグレイの様に、誰も彼もが波乱万丈の人生を送っている訳ではない」
「あ……」
でも、続けて師匠がいった異に手の力を緩めてしまいます。
こんな特異な状況下と言うのもあるとは思いますが、確かに、拙の基準は……ちょっとだけ人からズレていると言われても仕方ないです。
母と過ごした頃。墓守だった過去。師匠に拾われてからの生活……特に師匠に拾われてからの人生は平穏ながら、色んな事が多くて。驚く事が多くて。そして、色んな楽しい経験もさせてもらって……
「彼にとっては重要な事がごく普通の、当たり前の思い出だったりする……という事も当たり前のようにあるだろう」
「――あ」
そして、もう一つ。
そうです。そうなのです。誰かから見てみれば、なんて事の無いごく当たり前の景色でも。拙にとっては何よりも、大切な思い出一つである事なんて。それこそ……拙には、自分にもったいないくらいの美しい思い出である事なんて。
「……あります。拙にもいっぱい。師匠と過ごした生活も、そうです」
「――ありがとう、レディ」
だからこそ、ホンゾウインさんの大切なファクター……記憶、思い出が、ごく当たり前の景色である事は、決しておかしな事じゃない。そして同時に……
「そんな、大切な思い出を、利用するなんて……!」
「あー……グレイちゃん、あの、そんな、カッカしないで。怒る様なもんじゃないよ俺が覗かれたモンなんて――」
「いいえ! ちゃんと怒ります!」
「お、ぉう……ちょっとロード、お弟子ちゃんたきつけちゃ駄目だろ」
「そんな無粋な真似はしない。彼女の怒りは彼女だけのものだし、彼女の感情も彼女以外に手綱は握れんよ」
胸の内に沸いて来るのは……闘争心や、怒りに近いような、やる気です。
拙は、この思い出がとっても大切です。
先程までみたいに気を抜いてなんていられません。ホンゾウインさんの大切な、彼方の記憶を取り戻すために、頑張るのです!!
「ふんす!」
「……奪われた訳でもねぇんだけどなぁ」
「それは彼女に言ってあげてくれ」
「やる気へし折るのは良くないし……」
あれ?
どうして拙の方を見ながらお二人でひそひそ話を……?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――」
「……なァロード」
「なんだね」
「おかしな質問をするが――俺は、傍から見てどれだけ『普通に見えた?』」
「まぁ私でなければ欺けるくらいには、普通をしているとも」
「そっか……なら、いいや」
上手い事、誤魔化せてたなら。良かった。
今、外を見る余裕なんざ、殆ど、ないから。
「君のサーヴァントはそうでも無いらしいがね」
「――っ!」
「見ていたよ。君が上手い事誤魔化した辺りで……ずっと君の事を。良い相棒だ、君の事をよく見ているらしい。寧ろ、思いをつづる英雄だからこそ、君の事に気が付いたのかもしれんね」
あぁ……俺の、俺みたいなやつの、ファーストサーヴァント。
優しい小説家さん。麗しい貴婦人。俺の、キャスター。式部さん。
慣れない説教染みた真似をしたからか。いや、そんな事しなくてもあの人なら気が付いていたかもしれない。誰よりも人の想いに寄り添う英雄、ある意味、俺が召喚したのは運命だったのやもしれない。
あの人の前じゃ、隠し事は……いつまでもは出来ねぇ。
「……出来ればギリギリの所まで、言わないでくれ、頼むよロード」
「言う積りも無い。そんな濡れネズミのようなザマの君を見て、これ以上の追い打ちは出来んよ」
「ありがてぇ……」
何時かは、暴かれる事だろう。でも……せめて、せめてまだ。このぬるま湯の様に暖かいこの場所で。微睡んでいたいんだ。
小さい頃の想い出見せられちゃったな―!! かーっ!!
辛ぇわ。