FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十一章・裏:カルデアの大人達

「――さて、と……あーきっつい……幾ら天才でも、殆ど眠らずにぶっ続けでサポートするのはきついなぁ」

 

 だが、存在証明だけは出来ているだけマシと考えるべきか。恐るべきはカルデアのカバー能力。特異点から特異点へのワープとかいうバカみたいな例外of例外でも何とかなっているのだから、設備は文字通りトップクラスだと言えるだろう。

 まぁ設備だけではなく、ここにいる人員は皆、間違いなく人理を守る防人、スーパーエリートたちばかりではあるが。

 

 まぁ、ただのエリートではなく、間違いなく社畜根性のエリートだとはダ・ヴィンチも思うけれども。

そうじゃなければ二十四時間戦えますかが基礎理念みたいなこのカルデアで、二人のマスターの十全なサポートなんて出来やしない。そして……サポートを継続するその限界ギリギリ、誰が先に倒れるかの瀬戸際を探りあうみたいなチキンレースみたいな環境をまだ何とか維持できているのは。

 

「お疲れレオナルド」

「いやー、結構疲れたよロマニ~……こぉいコーヒーおくれぇ」

「いやダメだよ。君この泥水飲むの何杯目なんだい?」

「自分の作ったコーヒーを泥水と呼ぶその自虐はなんかのジョークかい?」

「そんなわけないだろ……もうほぼ練り物みたいで、カフェインもクソも無い苦さだけ追求したコーヒーモドキを作らされるこっちの気分にもなってくれ」

「はっはっはっ。サーヴァントにカフェインはあんまり意味ないからねぇ」

 

 医療部門のトップに君臨する、ロマニによる細かいケアもあっての事だろう。藤丸をサポートしつつ、此方、本造院の体の調子のチェックも欠かさない。こういう実にマメな所は、ダ・ヴィンチにとってロマニの素直に尊敬できる部分だ。

 

「苦味で無理矢理目を覚ますのが一番いいんだよ。サーヴァントにはね――という事で、強烈なのを一杯!」

「だから駄目だって言ってるだろ。泥水はもう売り切れです」

「えー……泥水が売り切れるってどれだけの物資不足?」

「泥水は比喩だろ! 全く……さっき向こうでも一旦次の作戦まではお休みになったんだろ? 幾らサーヴァントだからって、精神的な疲れは溜まるんだから。君が今、呑むべきは……コレ!」

 

 そんな男がダ・ヴィンチの目の前に叩きつけた(比喩)おすすめの飲み物は……黒とは正反対の真っ白な、仄かに湯気の漂う――ホットミルクである。

 

「うわぁ、舌に優しい飲み物だこと」

「これ飲んで、一旦気を緩める! 張り詰めたままだと、万が一切れた時が一番危ないんだ。いざって言うときに気を張れるように、ね?」

 

 その言葉は真理だと思う。

 ダ・ヴィンチは、ボルジアで軍事に携わった事もある。

ある将から話を聞いたのだが。あんまりに気を張り過ぎて、限界寸前になってしまった挙句、一瞬でも気を失ったその後の兵士は、今までの訓練が嘘の様に動きが稚拙になるのだという。

 

 本当に賢い将は、例え相手と睨み合いをしている最前線だとしても、兵士にほんのわずかでも休ませる時間を取らせる。気を緩めて張り直すだけの時間を与える――そうでなくては、戦いにはならず、ただ只管に兵をすり潰すだけの結果になりかねない。

 

「……はぁ。なんだか、小さい頃を思い出すなぁ」

「君、小さい頃牛乳なんか飲んでたのかい?」

「暖かい白湯なんかを呑んでたさ。ああいうホッとした時の感覚を思い出すと、どうしても気が緩む。君の狙い通りにね」

「それなら良かった。きちんと仕事を」

 

 ……目の前の彼がそれを行えているか――特に自分に対しては――そこに関しては敢えて言わないでおく。言っても聞く男ではないし。無粋だと思ったから。それは兎も角。

 

 自分は、カルデアの数少ない兵であり、将でもある。そんな自分がいざという時、そんな状態になろうものなら目も当てられない。流石にダ・ヴィンチもその辺りを弁えていない訳ではない。

 とはいえ、流石に本当によだれ垂らしてだらけ切るのは些か以上にマズい……ので、一つ確認したい事があった。

 

「ロマニ、君って精神科とかそう言う方面は納めているかい?」

「いやなんだい唐突に……まぁカルデアの医療のトップだからね。一通りは納めてるとは自負してるけど」

「そうか。じゃあ……」

 

 ダ・ヴィンチがロマニに対して手渡したのは――カルテだった。

 

「……これは……本造院君の?」

「さっき、急ぎで印刷して貰った。合計で三枚。確認してもらえるかな?」

「……分かった」

 

 一枚目。真剣に、隅から隅までキッチリと視線が動く。決して素早くはないが、確実に読み進める。才人ではないが、真面目な彼らしい表情だ。

 終わって二枚目。表情が変わったのが見て取れた。驚きか、それとも……今度は一枚目以上に、彼の目がカルテの上をくまなく見渡す。

 そして最後、三枚目。最早驚きの表情は鳴りを潜め、険しい皴が彼の中の『危機感』を如実に表していた。一、二枚目に一瞬目を向けてから、三枚目に即座に戻る。それは確認の作業だった。

 

 最後に……顔を上げたロマニは、唇を固く引き結んで此方を睨むような険しい顔になってしまっている。

 

「――レオナルド、コレは……どういうデータなんだい?」

「彼のデータだ」

「そういう意味じゃない。三つとも、多少の違いはあれど、『似たような反応』をしているんだ。それも……明らかに『異常を示している』ものばかりだ。それも、病気とかそういう類の物じゃないし、呪詛に犯されているものでもない」

 

 その辺りまで理解できたなら話は早い――ダ・ヴィンチは、少しホットミルクを口に含んで、喉を湿らせてから……口を開いた。

 

「例の三つの紙片に触れた時の反応だ。そのどれもね」

「……本造院君が、『昔の記憶を思い出させてきた』と言っていた、という?」

「そう。彼は上手い事誤魔化したつもりなんだろうけど……こっちはずっとバイタルをチェックしてるからね。とはいえ、あんまりにも振れ幅が小さいから、分かりにくいのは間違いないけれど」

 

 専門家が見れば、その僅かな違いであっても一目瞭然なのである。現にロマニは、本造院のデータを見て、一発でその異常を指摘して見せた。そして、ここで問題になっているのは……

 

「君は把握してなかったのかい?」

「本造院と藤丸君が分断されて、緊急事態だったからね。観測体制を整えるだけで精いっぱいだった……で、ひと段落付いたから、君もその辺りを指摘したんだろう?」

「まぁ一回目が明確に異常だったことだけは分かっていたけど……その後、体に影響がない、緊急性は低い、と判断されて多少のバイタルの変化があっても見逃されてきた」

 

 しかし、他ならぬ彼本人が口にした証言が、寧ろその見逃されてきた『二回目』と『三回目』に目を向けさせたのだから、やはり迂闊な嘘は吐けないと、改めて認識させられてしまう。

 

「単刀直入に聞く。それ。かつての郷愁に浸っているような精神状態に見えるかい? ドクター・ロマニ」

「――NOだ。明らかに、トラウマを思い出して苦しんでいる時のバイタルだよこれは」

「……そう、か」

 

 予感はあった。

 本造院康友、という少年について、ダ・ヴィンチは疑いを持っている。

 それは……決して彼を『不穏分子』だとかそう思っているという事ではなく。寧ろ特異点解決に誰よりも……それこそ『体を張って』突っ込む彼を見ていれば、そんな事は思えないのが、人情というモノだ。

 

 だが逆に、その体を張る様子は、まるで『自殺』でもしようと思う程に、苛烈過ぎて。ダ・ヴィンチに『どうしてそこまでするのか』という疑問を抱かせている。

 

「ロマニ。私は天才だ」

「うん」

「故に……疑問に思ってしまえば、想像せずにはいられない」

「何をだい?」

「自分を破滅させるが如く、『突如芽生えた』筈の能力を使い『特異点解決の為に命を懸ける』、少年の過去に何があったのか?」

 

 ――彼が見た景色、紙片に『見せられた』景色、心乱された景色。

 

 答えはきっとそこにあるのだ。

 『トラウマ』を見たかのような反応に。

 まるで……悪い事をした子供の様に、必死にそれを隠そうとする、本造院康友のその、何処か『幼い』姿に。

 

「……あの塔に何があるか……何があっても、ロマニ、君には彼を支えて欲しい」

「当然だ。僕らは……彼ら二人を地獄の如き最前線に送ってるんだ。こんなろくでなしで支えになるなら、なんだってするとも」

 

 このカルデアの懐は、存外と深い。

 それこそ、ここの創設者であるマリスビリーからして『ロクでもない』人間であった。特異点を本来攻略するはずだったAチームのベリル・ガットは、腹に一物どころか、真っ黒でしかない人間だった。

 

 如何に、根が深い『闇』がそこに広がっていようとも。

 カルデアの『大人』二人は、それを受け入れ――そして、もう一人のマスターと同じように日常に返す。

 その覚悟は、とっくに出来ているのである。

 




ダ・ヴィンチちゃんと、ロマニが大好きでした……今でも大好きです。
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