FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
世界を救う、なんていう事を言われた時。思わず唖然としたのは……『こんな幸運があっていいのか』と思ったからだ。
だって、こんな自分でも、世界を救う位の事をすれば。もしかすれば、許されるかもしれない。コレは、きっと最後のチャンスで、そして自分にへばりつくあの景色を漸く振り切るための、最後の機会だと、思っていた。
そして同時に『報い』だとも思った。
自分に対しての、置いて来た者達からの心からの贈り物。こうして今も生き延びている俺に対しての――当然、当たり前にやって来た
この機会と報いを乗り越えて。最後まで走り抜けられたら俺は――漸く許されると思ってた。
そう思って、いたんだ。
何処までも、真っ白い景色……そりゃあまぁ、あんな大量の霧の中に巻き込まれたのだから当然ではあるのだが。最早ここまで濃厚な霧だと、ミルク色、とかいう次元を超えてそういう色の壁の中に入り込んでしまった様にも見えてしまう程だ。
完全に『閉じられた空間』だった。動けはするが……それだけだ。声が他に届く訳でも無く。他の誰かの声が聞こえる訳でも無い。
「……」
そんな中で、俺は確かに前に進んでいる。確かに足を前へ踏み出している感覚がある。まるで何かに手を引かれるように、ドンドン先へ進んでいる。
今、自分は相手の術中にハマって、とっくに操られているのかもしれなかった。
仮にそうだったとしても。今、自分はその事があまり気にならない……というか、気にしても仕方ないと言えば良いのか。危機的状況だというのに、心は酷く落ち着いていた。
いや、落ち着いている、というのは多分正確じゃない。嵐の前の静けさ、というだけの話じゃないか、と思う。
これから何が待ち受けているのか……『俺の心』から特異点を作ったのであれば、その中心となるのは何なのか。余りにも抽象的な前提でも、凡そは想像できてしまっているから。見たくないモノを見せられると分かっているから。
半ば、やけになっているんだ。
「……ん」
その事に気が付けば、既に周りの霧は大分薄まっていて――ふと、足先に見えてくるのは薄茶色、とも汚れたクリーム色とも取れる、整備されているとは言えない、小石が転がっていたりひび割れていたりデコボコになっていたり……と。
少しずつ、見えてきたのは、さっきまで居た『霧の町』の整備された道とは違う……しかし、竜の都の牧歌的な何処までも続いている様な田舎道ではない、脇の草は生え放題になっていて、獣が分け入って出て来ても、分からない様な。
「――懐かしいじゃない」
分かっていた。俺の記憶から景色を作り出すなら、コレしかないだろうと分かっていたんだ。子供の景色。染み一つない綺麗な青空。なんだか分からない蝉の声が、空と耳に響いて、苛立ってくる。気温までは再現されていない筈なのに、蒸し暑い気温に包まれてる気すらしてきた。
思い出す。山道というのは、ただの『ちょっと整備されていない道』ではない。足元は不安で、獣たち『の』邪魔にならない様な程度に整備されているだけの……ほぼ自然に近いような、そんな道だ。
そも、人が住む……否、住める場所じゃないんだ。山ってのは。無理矢理住んでいる人間の方が可笑しい。けれど、それを言っても仕方ない。俺の先祖は、どうしてもこの『御山』にこだわってしまったのだから。
「良くこけたよなぁ。山道で」
こうやって、大人になってから昇ると余計に分かる。
普通の山とは、険しさは桁違いと言っていいし、『人』の世とは余りにも隔絶された日ノ本の秘境……とは名ばかりのド田舎だ。自分の『故郷』は。
どうやって子供の時、こんな人に優しくない環境を歩いて抜けてこられたのか、とこうしてもう一度見直すと改めて疑問に思えてくる。
「……というか、こんな閉じた環境だからご先祖はここへ立て籠もる事を選んだのか。はっ、それでこうなっちまったら、世話ねぇだろうよ」
山道を、一歩一歩進めば思い出す。いやって程に。
あの古臭い家が嫌で、何度も飛び出して、でも結局戻るしかなくて……何十回もこうして帰って来る景色を見た――そうして、結局今回も、こうして。
「……あぁ、本当に。そのままだ」
見えてくる。
ヒビが入って薄汚れた白い壁、そしてそこにツタの絡みついた正門。古いだけで、歴史もクソも無い。カビの生えた面構え……ため息が止まらない。
ヒビの位置も、中途半端に剥がれかけた門の上の瓦も、片方だけ変に新しいアンバランスな門扉も。
「俺の記憶から作ったってんだから、当然だけどなぁ」
……嫌で嫌でしょうがないのに。けれど足が止まらない。初めからそうなる様に入力されてその通りに動かされている。まるで自分の体だけが機械仕掛けになったようで。自分の体を、自分で動かしている感覚が無い。
足が張り付いた様に動かなくなる、それくらい、自分の感覚では、体が重い。その筈なのに。それでも勝手に動き出して。まっすぐ進む。
門を越えて……見えてくる。古い古い、屋敷。平安時代から残っている、っていうのがたった一つの自慢な、ボロ屋。渡り廊下は幾つも潰れ、後付けで作った蔵やら、西洋式の井戸やらが、それこそパッチワークの様に、ちぐはぐに点在していて。
「……生き残る事しか考えてなかったんだよ、アンタたち」
どんな時代でも。どんな発展があっても。どんな次の時代が来ても。
ずっとずっと生き延びて、かつてから受け継がれたものを叶える。それだけに特化した一族。ローマの為に自分達よりも圧倒的に強いはずのサーヴァントに、命を捨てて向かって来たアイツらと同じ、まるで昆虫の様に只管にそれを追い求める。
……恐怖も無く、只管にそれが『正しい事』と信じて。
「いや、ローマの連中のほうが、一応『熱』はあったからまだマシか?」
ただ自分には、根本的に同じものだと見えたから、どっちがマシか、なんて判別できたもんじゃないけれど。
……ふと、家から外へと点々と続く紅い色が見えた。
相手を焦がす様な狂奔の情熱を示す、赤ではない。
それは、人が見る赤の中で最も人の生き死に近い色。そして最も人の悪意を具現する為の色……体を流れる血潮の、どす黒い紅。
あぁ、こんな所まで良く再現している、と酷く無感情に、そう思った。
苛立っても、逃げ出そうとしてもどうしようもないのは、もうとっくに分かってる。だから諦めて、身を任せて……一歩一歩進んでいく。
これは自分の体が覚えているから。ここまで覚えてしまった事を、もう忘れることなんて出来ないのは、分かってしまっている。
庭の砂利交じりの土を踏みしめて、先へ進み……血痕はずっと、玄関まで続いて、そしてその奥まで続いているのを――知っている。
引き戸を開いたその奥。
「――」
そこには、地面に落ちていた血痕よりもハッキリとした――紅い紅い、血の跡が広がっている。生臭い香りが暗がりに充満し……しかし、外から差し込む明かりが、その闇の中の、一点を殊更に照らす。
一つ。浮かび上がってくるのは……
それは、外へと向けて、ぺとり、ぺとりと家の内から外へと続いていく、真っ赤で小さな足跡……その色は外の血痕と同じくらい、汚れた、紅い色をしていた。
血液によってつくられた、悪趣味な落書き。
「……よく出来てやがるじゃねぇか」
そうだ。コレはあの日のまんま……俺がここを離れて、必死で逃げ出した時の――全く同じ景色だ。そのままだ。
一歩を踏み出す。
外から入って来た白い光以外は、全てが黒い暗がりに塗りつぶされている。酷く閉じた室内の、アンバランスな色を見つめて。
意識は遠ざかりたくて、何処かブラウン管テレビでも見ている様にぼやけているのに。家の中の飾りの一つ一つも、湿気った空気も、軋む家の音も、はっきり感じてしまう。
そして何よりも――この奥から漂う、濃い、濃い、ぶちまけたかのような生臭い香りから、逃げられない。
一歩を踏み出す。
景色が左右に揺れている。
まるで、幽霊みたいに左右に身体が揺れている。
「……ぁぁあぁぁぁぁあぁ」
声が漏れている。人の声とは思えない様な、調子の外れて、揺れるような、不快な、耳にへばりつく様な声が。
それが自分の声だと気が付くのに、少しかかった。
ただいま帰って参りました。
取り敢えず、この章の完結まで投稿を続けようと思います。よろしくお願います。