FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十三章・裏:塔に秘されしモノ 肆

 藤丸は、きっと優しいご両親に恵まれたのだろう――と勝手に思う。そうじゃなけりゃあ、あんな気の良い善人は生まれやしねぇ。

 俺の両親だって妹だって、決して負けてない自信はあるが。

 もし違いがあるとすれば、ほんのちょっとの運の良さ、悪さくらいか。

 

 ……今も、俺はそれが、分からないでいるんだ。母さんも、父さんも、妹だって。決して悪い事をしていた訳じゃないって言うのに。どうしてそんな不運に見舞われちまったって言うのか。

 

 

 

 

 

 

 ごつ、ごつと硬い無機質な音が、静かな家の中に響く。

 土足で家の中を歩き回るなんて始めてで。なんだか不思議な気持ちになってくる。少し、楽しい。

悪い事をしているという背徳感なのだろうか? いや、そもそもこんな家、土足で荒らしまわろうが罪悪感の一つもないのだが。それとも、昔の景色を思い出して、心が子供の頃に戻っているのだろうか?

 

「……」

 

 周りを見てみると、若干割れた花瓶やら、積まれて縛られた本やら……見覚えのある物が転がっているのが分かる。。

 あの日から一体どれだけたったのか、それでも尚、この場所は余り荒れてないな……と思い、しかしながら、そもそもここは自分の記憶から作り出した場所だってことを思いだした。荒れるも何も、変わる事も無いだろう。

 

 どうやらあんまりにも嫌な記憶を思い出し過ぎてしまったせいで、頭が可笑しくなって来ているのかもしれない。今ここは、現実の家ではないと言うのに。

 

「……まぁ昔っからか。俺が可笑しいのは。そうじゃなけりゃあ、俺がこんな所にいる訳もねぇよなぁ」

 

 さっと額を軽く撫でる。思い出すのは、俺の額に伸びるあの角。

 あれを今まで使ってこれたのは……一種の、当てつけだ。一族の思った通りの使い方なんてしてたまるか、と。俺の中にあった淀みの様な感情に任せて、必死になって『特異点解決の為』に使った。

 

 正直な話、命を懸けて任務に励めたのも、アイツらの希望の星だという俺がさっさと潰れてしまえばあの世で嘲笑えると思ったから。

 人理を必死になって救おうとしている藤丸達よりも、俺は間違いなく不純な動機でこの任務に臨んでいたのだろうと思う。

 

 羨ましくなかったのか?

 そんな事はない。というか羨ましく思うなんていう発想すらなかった。カルデアの彼ら彼女らは天上の星で、俺は血泥にまみれてのたうち回るバケモノ。元から立ち位置も、住んでいる世界も違う、『美しいモノ』だ。

 それをどうして羨めるだろう。妬めるだろう。だってそれは覆りようのないただの事実なのだから。事実を事実と受け入れる事は全然苦しくも無かった。

 

「――そうだ、だから……この景色を覚えてたら、そりゃあそんな『贅沢』出来ない」

 

 あぁ。そうだ。目の前の――大広間に続く道。

奥へ進むにつれて更に濃密に香る、血の香り。それを辿れば……いや、辿らなくても迷う事すらないか。

 

 もう辿り着いている。両開きの板戸の目の前。そして……子供が通れるギリギリの幅くらいに開かれた板戸が見えた。俺を待っているのは、きっとこの先の景色だろう事は凡そ分かっていた。

 だから――

 

「――あぁ、父さん、母さん……――、居るかな」

 

 ここは幻の世界だけど、そうと分かっていても、言うんだ。

 返事なんざ帰ってこないのは、分かり切ってるけど。

 

 だって、もうこの部屋の中では、だーれも。だーれも。生きちゃいないから。

 

 あの日の景色――地獄はそのままに。生臭い匂いが満杯になった大広間の中。噎せ返るような匂いは、腹の奥底から、人の中身を引きずり出す、悍ましい類のものだ。命が腐り果てた後の、成れの果てのモノだ。

 

散らばっている砕けた器、ぶちまけられた豪勢だった料理の成れの果て、そして……それらと混ざり合う血漿――それらを垂れ流す、無数の死体共。

部屋の端まで這いずる様に逃げている者がいる。苦悶の表情を浮かべて中心で転がっている者がある。力なく折り重なっている者共がある。

皆、一様に歯をむき出して、顔を歪めて、赤に塗れて。

 

覚えている顔もある。覚えていない顔もある。

どれもこれも、俺の『親戚』と言っていた奴らだった。どいつもこいつも喉を引き裂かれている。

 

酷い景色だ。

一体誰がやったのか、なんて白々しい事をいう積りは無い。とはいえ、ここまで綺麗に首を引き裂いているとは、意識が無かったにしては随分殺意に塗れたやり方ではないかとは思えてくる。

 

「――そっか、そこに、居たんだ」

 

 そんな中で。

 手を繋いで――彼らだけは、静かな表情で。そこに居た。

 

 ワイシャツを真っ赤に染めた、ごくごく普通の男性と。カーディガンの中心に大きな穴をあけて倒れている、ごくごく普通の女性。

 その腕の中に、小さな命、小さな女の子を一人、抱え込む様に。倒れていた。

 あの日、どうなったかも確認しないで逃げ出したから。分からなかった。

 

 ふらり、倒れ込む様に三人の傍に身を寄せた。

 あの時は気にする暇も無く、無様に逃げ出す事しか出来なかったから。俺の記憶から作り出して良くここまで、と思ってしまう。

 そうして傍に寄って……ふと、三人の傍らにもう一人、三人の傍に倒れている藤色の着物を着た、老婆の姿が見えて、顔に皴を寄せてしまった。

 

「ん……ったく、ババアも一緒かよ」

 

 その顔に刻まれた辛気臭い皴を、覚えていない訳がない。ずーっと俺の目の前で、この家の歴史の事をぐちぐちと語っている時に嫌という程に見せられていた。

 知りたくもない悲願。そんなものを大事そうに語って。つまらなかったし。何なら怖かった。正直、ずっと嫌いだった。俺は。

 

 祖母って言う繋がりが無ければ、二度は顔を合わせたくない様な人だった。

変にしゃっきりとしていて、他の奴よりも脳が死んでない人だったと思う。その老人らしからぬ元気さを、どうして他のクソッ垂れな親戚と同じ方向に使っちまったのか。

 

「……ババアにも、悪いことしたよな」

 

 ふと。

そんな口から言葉が漏れてしまう……彼女が倒れている近く、血が比較的溜まっていない所を選んで、腰を下ろした。

 恨みしかない。俺の嫌いな人だった。

けれど、こんな終わり方を迎えていいかと言えば、そうではないと思う。

 

 そうだ。少なくとも、こんな所まで来て謝る事一つできない、クソガキに殺されて良い訳なかった。

 

「――こうやって見せつけて、俺に謝罪でもしろってか? はっ……もうそんな言葉、とっくに枯れたってんだよ。謝ったって、返ってこないし、戻ることだって出来ねぇってのによ」

 

 たった一人で逃げ出して。あの日の事に怯えながら暮らして……十年近くかけて、ここへ戻るまで。俺が出来たのは。

悲しみも、恐怖も、怒りも……全部全部、擦り切れて、殆ど感じなくなるまで。何千回と繰り返し、思い出す事だけで。

飲み込むことも出来ないで。

悼むことも結局出来ないで。

ずっと恨み言と謝罪を繰り返すだけで。

 

 漸く傍からは正気に見えるようになるまで、こんなにかかった。あの時の事を思い出して静かに絶望できるようになるまで、こんなにかかった。無様に涙を流さないように心に刃を突き刺せるようになるまで、こんなにかかった。

 

「――ババア。アンタは言ってたな。『何れ自分達、()()()()()()()()()()()、一族に鬼が宿る』ってよ。それを先祖たちはずうっと待ち望んでたんだって」

 

 アンタらが望んでいたのは。血族を終わらせる運命は。自分達を滅ぼしに来る鬼は。こんな情けない、童に追われて泣く様な、そんな鬼だったのかい。

 

 自分が殺した人たちを置き去りにして。

 その罪の意識と、こんな運命への恨みに潰されて、とっくに狂って。

 ただ生きてるだけの抜け殻同然になるような、そんな情けない。鬼だったのかい。

 




一応、彼の何処か浮世離れした、というか、荒事に成れている雰囲気的な何かは、劇物をリフレインし過ぎて『感覚』が擦り切れているという設定がありました。
まぁ今分かる事実は『彼がかつてこの景色を見た』という事だけですけど。
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