FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十三章・裏:塔に秘されしモノ 伍

「――マスター……」

「……」

 

 酷い空気としか言えない。

 彼のサーヴァントである紫式部は当然、そういうイメージはあまりなかったゴルゴーンの空気も、明確に重い。その二人だけでなく、暫く彼と過ごして情が移っていたグレイも、酷く心配そうだ。

 ここで迂闊な慰めを言える程、私とて酔狂ではないし、そして壁に寄り掛かっている黒髭も、ここは流石に、流石に空気を読んでいるのだろう。先程から黙って動かない。

 

そんな三人が見つめる先には――巨大な霧の塊が鎮座している。本造院を巻き込んでから構成された、あの霧の塊は……ダ・ヴィンチの解析に寄れば『ドーム』のような物なのだという。

 

『彼を取り込んで害そうとか、そういうマズい反応は、彼が巻き込まれるギリギリまで確認したけどなかった。礼装からの反応で彼にダメージらしきものも見えない』

 

 とはいえ本当にただの無害な霧、という訳ではない。カルデアの調査結果から分かったのは、どうやら此方から内部へ直接干渉する事は出来ない。強固な壁のような性質を持っているのだという。

 

『内部と外部を完全に隔離して、しかし……連れ去るつもりにも見えない。あの中から彼の反応が消えた様子はない。彼が捕まってから、もう何十分も経つって言うのに』

「随分とまぁ強固な『檻』を作ったものだ」

『……正直な話、向こうは『こう』なってしまえば後は何もしなくていい、と思ったんだろうと思う。だからカルデアからでも調べ放題だし、番人すら置いていないと来た』

 

 実際、その自信は間違ってはいないと思われる。

 その中に入っても、どうしてか此方に戻ってきてしまうのは先ほどから試して実証済みで。ならばと我々の攻撃も何処かへ跳ね返されてしまう。サーヴァントクラスの攻撃を跳ねのける程の防御で、見事な仕事だ。

 要するに我々は、ここら辺で向こうの出方を伺うしかなくなったわけで。それを予期していたかのように、一切の反撃も何もない。

 

「で、ですがマスターに身体的なダメージが無くても……」

『精神的な洗脳だとか、そういう危機の話をしてるんだよね。それは』

「そうです、そう言った魔術を使われたら」

『それは当然分かってる。けれど、流石に本造院君に対して何かしらの魔術が使われたなら、礼装が何かしらの『異常』を検知する。特異点解決にあたり、その辺りはカルデアも抜かりはない。でも……』

「そういう反応も無い、か」

 

 ここまで来ると、中で隔離しているだけというのが、最早逆に不気味に感じてくると思うのは、時計塔で謀略に親しんできた私の性だろうか。目に見えないモノというのは、正直何よりも恐怖だ。

 それを最も良く表しているのが彼に最も近いサーヴァントの、紫式部のあの様子と言えるだろうか。

 

「……それで兄上。どうするんだい?」

 

 そんな彼女とは対照的に、私と兄上は無駄に取り乱すことはしていなかった。私はまぁ魔術師的な価値観が奥底へ根付いているからこそ、情を排して状況を見れているというのが大きく。

 義兄上は……ここで自分が取り乱しては、周りに与える悪影響が大きく出る、特にグレイに関しては。その辺りを自覚して、冷静に落ち着くように努めているのだろう。

 

「どうしようもない。というしかないだろう。先程、一縷の可能性をかけて攻撃を仕掛けても全く通用しなかったのだから」

「言うじゃないか。兄上がもう少し早ければ、彼が捕まる事も無かったと思うんだが?」

「責任は全て私にある。責を取らせたいのであれば、腹の一つとて切るさ……サーヴァントの身ではあるがね。とはいえ、その前に答え合わせだけは済まさせて欲しいが」

 

 そう言って、兄上が振り向いたのは、地面に座り込んだ女性。先程、本造院が救い出した女性だった。先程から呆然としているばかりで、何もする様子はない。

 

「確認したいのだが。こうしてこの塔に幽閉されていたという事は、君はこの一件に関わっている存在……それは、間違いないな」

「――……っ……」

「しかしあの状況下で、君は我々に危機を伝えて来た。ダメージを受けた自分の事を顧みずに、先ずはマスターである彼の事を。少なくとも、此方に敵対しているのならそんな事をする必要は無いことは分かる」

 

 義兄上の声は、酷く静かだった。

 状況は切羽詰まっている事は間違いない。だがそれでも尚焦らず。彼女を刺激しない様に。それが最も、この状況を打開できると信じているから。

 

「君が我々の敵ではない事は、承知している。その上で、だ。君が一体何者なのか、どうしてここに居たのか、それを――明かしてはもらえないか」

「……私は……」

『――ロード・エルメロイ。その前に、一つ確認させて欲しい』

 

 ……だがまぁ、その鼻っ柱はキッチリとへし折られてしまった訳なのだけれども。

 

「……ダ・ヴィンチ殿。それならば私が話を始める前にだな」

『すまない。先程の事があって、少し確認したい事があってタイミングがね。そこの私そっくりの君。君は、私の事を『レオナルド・ダ・ヴィンチ』と呼んだね?』

「……はい。間違いなく」

『私はこれでも生前の顔そのままではないし、声も違う。自分の理想の顔へ自分の体をちょっとだけ弄ったからねぇ。それでも尚、私の事をダ・ヴィンチと判断するには、必ず一つ説明を挟まねばならない。けれど……君は私の声だけで、即座に判断した』

 

 しかし、ダ・ヴィンチの話を聞けば、そう言えばと思う。あの一瞬。目の前の女性は誰よりも早く、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』というサーヴァントの事を認識して、警戒を促していたのである。

 

『君は私を知っている――そして、私も君の正体に少し、アタリを付けた』

「――」

『いくつか可能性はあった。しかし、あの即座な『マスターの保護』の判断を考えるとほとんどの道は潰れ――たった一つに絞り込めてね。その確認がさっき出来たよ。カルデアのあるデータに『細工』……というか、『干渉』された跡が見つかったんだ』

 

 彼女を振り向けば。先程よりも深く、首を垂れて。酷く怯えている様な。そして何処か悔しがっている様な。そんな風に、口の端を噛みしめているのが、傍らから、ちらりと覗けてしまう。

 それは何処か……親の目の前で叱られて、竦んでしまった子供のような。そんな姿にも見える。

 

『――『ムネーモシュネー』。それがキミの名前だ。そうだろう?』

「……」

 

 ダ・ヴィンチの、抑揚の少し抑えられた何処か優し気な声に、目の前の彼女――ムネーモシュネーは、小さく、それでも此方が何とかわかる程度には、ハッキリと頷いた。

 

「……そう、です」

「ムネーモシュネー。確か、ギリシャにおける記憶の女神、だったかな?」

『うん。カルデアにおいて、特異点におけるマスターの存在証明や、その身の保護の為に作られた自立型のサブシステム――要するに()()()()なんだけどね。その名を『ムネーモシュネー』。私が設計したんだ』

 

 ダ・ヴィンチが話して曰く。万が一カルデアがレイシフトの際に壊滅した場合、現地へとレイシフトしたマスターの存在証明を、カルデアの人員に代わって行う為の『記憶』と『観測』のエキスパートとして、カルデアに眠っていたのだという。

 眠っていた――そう、ムネーモシュネーは先ず、起動する事なくカルデアの中に置かれていた筈だそうで。

 

「しかし、今はこうして人の形を得て、我々の前にいる訳だ――本来いた筈のカルデアを大きく離れてね」

『そう……最大の疑問なのは、そこだ』

 

 ムネーモシュネーは、カルデアの技術と英霊の叡智を結集させたオーパーツにも等しいモノで、持ち出しなんて到底あり得ない。そしてもう一つ、ダ・ヴィンチが疑問視したのは、大前提としてムネーモシュネーは『完成していなかった』のだという。

 

『計画が頓挫してね。まぁその所為で他のデータと共に、ストレージの片隅で埃を被っていた筈、なんだけど。それがいつの間にか持ち出された上に『完成』されて起動されていると来た』

「――」

「成程……では私は、敢えてこういう言い方をさせてもらう――君がこの特異点に連れてこられて、そして、連れてきた相手に望まれた役割は何だい、ムネーモシュネー?」

 

 即ち。

 彼らには、未完成のムネーモシュネーを強奪し、そして『完成』させてここへ連れてくるだけの必要があったのだと、私は勿論、恐らくはダ・ヴィンチもそう思ったのだと思う。。

 だがしかし。

 

「……いいえ……因果関係が、違います」

「なに?」

 

 ムネーモシュネーは、その推測に、首を振った。

 

「彼らは『私』を欲していたのではありません。欲しい『結果』を求めた『過程』で私を回収したに過ぎません」

『……君が、過程?』

「彼らが欲していたのは……ここへの道筋です。その為の『ビーコン』として、私が選ばれたんです。彼らは……『()()()()()()』を通して、私に干渉して来たんです」

 




この章をを書くためにエルメロイコラボを三回ぐらい見直しましたが、もっと頑張れたと思います(戒め)
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