FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十三章・裏:塔に秘されしモノ 陸

「……『もう一つの私』を通して、私に干渉して来たんです」

『もう一つの私?』

 

 ダ・ヴィンチのオウムのような繰り返しに、ムネーモシュネーは、力なく頷いて見せてから――

 

「そもそも、私は……カルデアの奥、本来、誰にも知覚されていないような所に、死蔵されていたモノ。回収するにも、カルデアが察知できない訳がありません」

『あぁ。我々だって、そんな懐に潜り込まれて気づけない程は間抜けじゃない』

「ですがそれにもかかわらず……カルデア側に一切把握される事も無く『私』に敵は接触して来た……」

 

 カルデアの能力は、この特異点で見て来たとおり。現地へのサポートに関して言えば、正直他の魔術的組織の追随を許さない程に見事なものだった。

人理最後の砦は、伊達ではないという事か。しかしながら、そんな組織を相手にしてなお敵は、目の前のムネーモシュネーを簒奪せしめた。

 

「相当インチキ染みたやり方をした、と言ったところかな?」

「正直……こうして被害を受けた私も、到底信じられてはいない、のですが……敵が先ず接触したのは――『並行世界の私』、だと思われます」

 

 だがしかし。彼女の口から紡がれた言葉は、インチキ、というか魔術畑の我々にとっては、最早トンチキと言っていい程のワード。

 

「……ほー……平行世界、と来たか」

「はい。我々の世界と『似て非なる隣り合う世界線』……」

 

――例えば。

 

 目の前の彼女は、今こうして力なく地面に伏して現状を話している訳なのだが……しかしながら、もし一つ何かが違えば彼女がこの世界の核として、そして黒幕として、我々を襲っていたかもしれない。

分岐した可能性の世界、IFの世界、それを並行世界と呼び――魔術の世界では、昔からそれなりに知られた探求材料でもある。

 

ではあるのだが。

 

「いやー……特異点やら『限定的な時間遡行』やら、凄まじい事は幾らでも起きてるとはいえ、遂に並行世界の住人か。どうだい義兄上、ご感想は」

「驚きというしかない」

 

 しかし、有名だからと言って、その並行世界へ干渉したり、移動したりするのは決して容易い事ではなく。薄壁を隔てて自分達の隣に在れども、しかしそのほんのわずかな壁はこの世の何よりも越えがたい絶対的な『隔たり』なのだ。

 

「この一件に『並行世界』という要素が絡んでくるならば、それは最早『魔法』の領域の話になってくるのだが」

 

 それこそ、この世界で並行世界に干渉、あまつさえ移動できるとすれば。第二魔法に到達した、この人理焼却という事態の中で尚、多分どっかしらで飄々と生き残っていそうな魔導元帥殿だけだと思っていたのだが……

 

「……当然、自由に行き来できる訳もありません。たった一度、しかも無数の世界を行き来出来る訳ではなく、無数の世界の内、『一つ』と『一つ』を繋ぐことしかできない」

「それとても、普通のやり方では到底為しえはしないだろう、一体どうやって……」

『――そうか、それで君なのか! 観測を得意とする『ムネーモシュネー』!』

 

――真っ先に得心したのは、やはり彼女の開発者であるダ・ヴィンチであった。

 

「どういう事だね?」

『並行世界への干渉が難しいのは当然だが、しかしそれでも『切っ掛け』を作れば、決して不可能という訳ではない。それは第二魔法の実在が証明してる』

「まぁ、それはそうだが」

『ムネーモシュネーは、レイシフトといういわば限定的な『タイムスリップ』内でも、マスターを決して見失わない様に設計されている。彼女の観測は、『縦』の観測を可能としているんだよ。となれば……』

「――そうか、彼女に『横』……並行世界の観測をさせるのか!」

 

 先ほどまでは何処か吹っ飛んだ会話をしている、と思っていたのだが。しかしながらそう考えれば決して不可能ではない。

 レイシフト(時間遡行)に対応し得る程の技術ならば、魔法に限りなく近い難行への助けにだとても、十分なりえる

 

魔術の世界で、見る、発見する、観測する、というのは重要な意味を持っている。

もし並行世界を『観測』する事が出来たのなら。それは、その世界へ干渉する為の大きな手掛かりになり得るのは間違いない。

 

『並行世界にて……我々とは別のカルデアから強奪したか、それとも別の方法を使ったか。いずれかの方法で、敵は『ムネーモシュネー』を手に入れた』

「現実な考えで行くのであれば、『繋がり』が強ければ強い程、並行世界の観測が上手く行く可能性も上がる。故に、観測して足掛かりとする為の『ビーコン』が……」

「目の前の君、この世界の『ムネーモシュネー』だったという訳だね?」

「……はい」

 

 話が見えて来た。

 彼らが目の前の『ムネーモシュネー』を選んだのは、彼女の力が欲しかった訳ではなく並行世界の『同じ存在』という縁を辿って、観測をよりやり易くするためで。

 彼女そのものが狙いだったわけではない。分かりやすく言えば、見つけやすい目印が彼女だっただけだ。

 

 そしてどうやってカルデア内のムネーモシュネーに干渉したのか。

 単純だ。『並行世界のムネーモシュネー』という反則染みたマスターキー(触媒)を使ってあらゆる妨害をスルーして、直接手に入れた。

 魔術とは万能ではないが、しかしある程度の無茶は利く。必要なモノさえあれば。

 

「そして、一度目印として利用し、そして回収も終えたビーコンを、こうして有効活用して作ったのがこの……特異点、という」

『ムネーモシュネーは、『記憶』、『記録』に関してもスペシャリストだ。彼女と聖杯、そして本造院君の心を利用して、この『記憶』から作られた特異点を……成程』

「――そちらの、金髪の方の問いにお答えするなら……」

「君の役割はこの特異点が成立した時点で、終わっている、か」

 

 この記憶を利用した特異点は……初めからこういう形をしていた訳ではない。ムネーモシュネーという存在を利用したからこそ、こういう形になった、という方が正しい。要するにここは、敵が自分たちの後始末代わりに『リサイクル』を行った結果、作られたという方が正しいだろう。

 

「……私はここへ、連れてこられました。その際、私を捕まえた彼らの狙いが……ここを構築する為の記憶の持ち主……あのマスターだというのを、聞いたんです」

『だから目を覚ました時に、警戒を、と』

「その情報を、活かす事は、出来ませんでしたが……」

 

 ただ、不思議だったのはとムネーモシュネーは続け。

 

――なんと最早、ここまで来てしまえば『()()()()()()()』とは……口惜しや!

 

 自分を連れて来た男は、そう言っていたのだと、話す。

 義兄上の方をちらりと見れば、軽く頷いて返すのが見える。彼が標的とされている事、そして『傷つける』事が目的でない事は確認できた。

 

『……反応からして、そうである事は凡そ想像できてたけど。やはりあのドームは、本造院君を傷つける類のものじゃない、という事はコレで確定、か』

「――その割には、ほっとした様には見えないけれど」

『疑念は余計に深まったからね。ここまで大掛かりな特異点を作って、最後にマスターを隔離して……『放っておくだけ』と言い切られたら』

 

 ――そう、結局の所、それだ。

 

 こんな風に彼を閉じ込めて、何をするつもりなのか。『放っておくだけ』。相手の思惑も透けて、見えないモノが見えたというのに、逆に分からない部分は増えたのだから、コレは非常に気持ちが悪い。

 

 コレだからこちらから見えない者、物、モノというのは始末が悪い。大抵頑張って水面下の見えない部分を一つ何とか明らかにしても、こうやって芋づる式にどんどんと更に分からなかったり、厄介だったりするモノが出てくるのだから。

 

「――……ですが、申し訳ありません。その疑念を晴らすお手伝いは、どうやらできない模様です」

「あ……」

「体が……!」

 

 しかし、思考はそこまで。

 そこまで話し終えた目の前の女性の体が、青い、燐光となって少しずつ解けていくのが、見えた。

 

「私の体は、仮初のもの……そんな不安定な体で、この特異点をどうにかしようと多少の抵抗もしましたので、無理をしまして……もう、限界が来てしまいました」

『――そうか、もしや、そこの三人を喚んだのは』

「……縁でした。どうしてか分かりませんが、そこの貴方……黒髪の貴方とは、縁があった模様で……どうにか、ここへ呼び寄せることが出来ました」

 

 そう言って、ムネーモシュネーが見つめたのは、義兄上だ。どうやらこの特異点に彼を招いたのは、彼女の仕業だったらしい。そして、そこからやはり芋づる式に、私達も呼ばれた。という事なのだろうか。

 敵に利用されても尚、彼女は最後まで抵抗した。我々を召喚するという一手で。

 この言葉と目の前の景色は……何よりも、彼女の言葉を信じるに足りる一言だと、流石に思う。

 

「すみません、あまり、役に立てなくて」

『いいや……ありがとう。ムネーモシュネー。君の情報で、少なくとも敵の影くらいは見えて来た気がするよ』

「……そう言って頂ければ、十分――」

 

 最後に、造物主と言葉を交わし、少し微笑みながら。

 ムネーモシュネーは小さな輝きを残し、その場から消えていった。

 




彼女をこうして出すために『ロード・エルメロイ二世の事件簿』コラボを一応のモチーフに選んだと言っても過言ではありません。彼女は全く表に出ませんが、それでもこの物語の結構根幹を担っているので。
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