FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
勝負は、アマデウス様の一撃にて、決着しました。
もはや、先程迄脇を固めていた黒い影は地に付せ、動かず。
「ぐっ……!」
「気分は、どうだ? 変態野郎」
処刑人、シャルル=アンリ・サンソンは、遂にその膝を地面に付きました。敵方の三人の敵の内一人を打ち倒し……近くを見てみれば、ジャンヌ様は敵方の女将を打ち据えて退け、黒い騎士も、マシュ様の守りを突破できていません。
そして今……空のワイバーンは、突如として現れたフランス軍の砲兵の火力によって退けられようとしていました。
「――なんだ、あのサーヴァントの硬さ……は……!」
「サンソン! ランスロット! 撤退を――!!」
「ぐっ」
形勢逆転、とまでは行かずとも。なんとか彼らを退ける事には成功したのでしょう。そう思うと、体から力が抜けそうになって。
「……麗しの君。マリー・アントワネット」
「サンソン」
「次こそは、君の首を――僕が」
「やめとけやめとけ。アンタに切られたんじゃ、この人も無念に思うだけだ」
――一瞬で体に力を入れました。
ぎょっとして首を向ければ、サンソンとマリー様の間に、マスターが彼女を庇うように立っていて、目の前の処刑人に睨まれていたのです。
「……部外者が、僕と彼女の間に割って入るな」
「部外者なのは百も承知だけどよ。でも俺は事実を申し上げたくてな」
「何?」
「処刑人、ってのはプロだ。国に命じられて、私情を封じて相手の死を安らかな物にする為に一撃で首を刎ねる……凄いもんだと思うぜ、
しかし、そのサーヴァントの眼光にも怯まず、マスターは言葉を紡ぐのをやめません。止めようと思って近づこうとして、しかし……そのマスターの眼光に、足を進める事をやめてしまいました。
その眼は、相手をさげすんでいるのではなく、まるで。
「だが今はどうだ。アンタは私情も私情で、自分の獲物に舌なめずりをする、獣そのものじゃねぇか」
「け、獣だと!?」
「あぁそうだ。雇い主に命じられて、冷酷に、そして真面目に。自分が生涯を賭けた仕事を執行していると、自分に誓えるか処刑人! 例え悪逆に落ちても、自分の仕事に誇りをもって執行してると、言えるのかよ!!」
その眼は――まるで、憐れみを持って、煮えたぎっている様に、見えて。
「……っ」
「アンタは敵だ。それにどうこう言う積りはねぇよ。でも今のアンタが刎ねるべき首は少なくとも、麗しの王女さまじゃなくて。狂った衝動に任せて、自分の仕事にも泥を塗った愚か者じゃないのか」
マスターは、今まで私が見て来た時以上に、確実に饒舌でした。心から、サンソン様に語り掛けているように思えました。感情に任せて必死なように、見えました。
燃え滾る様な瞳の熱は、しかしマスターが言葉を紡ぐたびに、少しずつ失われている様に見えて……少しずつ、悲しみに、彩られている様に、見えて。
「――処刑人ってのは罪人の最後を飾る、崇高な職業じゃないのか」
「君は……」
「そんな仕事だからこそ、私情を挟んじゃいけねぇだろうよ。仕事に順じ、冷静に首を刎ねなきゃ、楽に行かせてやる事なんて、できねぇだろうよ……」
声も少しずつ、小さく、最後には言葉は消えて。
そんなマスターの様子に、サンソンは……何も、返せないようでした。
「なぁ、処刑人。罪人に寄り添う人。アンタの刃は、今振るわれるべきか?」
「――」
「しっかりしてくれよ……そんなんじゃ……」
そのまま地面を見つめるサンソン。私の隣のアマデウス様は、少し苦い顔をしながら、マリー様は、少し心配そうな表情で彼を見つめ……その可愛らしい目が、驚愕で見開かれたのを見ていたのは、その三人を外から見ていた、私だけだったのでしょう。
「ダメっ」
打ち倒され、地面に伏せていた筈だったのです。しかし。
黒い影法師。シャドウ・サーヴァントが突如としてばね仕掛けの如く体を起こしました。その片手に握られていたのは、片刃の剣。日本刀と呼ばれるそれ。日の光を照り返してギラリと輝いたそれは、マスターとサンソン様を庇うように出た、マリー様に――!!
「マリー様ッ!」
「や、やめっ……!」
――その、瞬間でした。
閃いたのは、片刃ではなく、両刃の大剣。正しく一閃の斬撃が、影法師の首を見事に断ち切って、刎ね飛ばしていたのです。
「――」
「サンソン……?」
「そこの少年の言うとおりだ。僕は情熱ではなく、冷酷を持って、君を切るべきだったんだ。そうでなくては、刃先は情で狂いかねない」
大剣を振り切ったのは、地面に膝を突いていた、サンソン。立ち上がり際、踏み込んで放った斬撃とは思えぬ程に、鋭い一撃でした。
しかし驚いたのはそれだけではなく……本来、敵方の筈のサンソンが、何の躊躇もなく味方を切り裂いたという事。マスターの命令は、私達の追討の筈なのに。
「王妃。君を……苦しまず、送るのであれば、ね」
「――スゲェな、コレが……」
「これは、それを思い出させてくれた、礼だ。ただ一度きりの助太刀だよ」
「ムッシュ・ド・パリの、本気の処刑の太刀かよ。ぜんっぜん見えなかった……ははっ、そりゃあ、苦しむ暇もなくあの世行きだな」
そして、味方を一人切り倒して見えたその表情は……先ほどまでの、熱に浮かされたそれとは大きく違い、涼やかで……冷ややかで、思わず見ているこちらの背筋が凍り着いてしまう程に。
今の彼は目の前に無力な赤子が連れてこられたとしても何も考えず一撃でその首をすっぱりと刎ねる。そう言われても、納得するだけの迫力に満ちて居ました。
「――サンソン、何をしているの!? そのシャドウサーヴァントは……!」
「僕を切りつけようとしてきた。だから迎撃した。僕らは仲間でも何でもないだろう」
「……っち、ジル・ド・レェめ。不良品を渡して来たのね」
「それより、ランスロットは。撤退の指示はしていたのでしょう」
「従う積りがないのよ……もう放っておいて逃げるしかないわ」
一歩下がっていたもう一人のアサシンは、どうやら戦っていた黒い騎士、ランスロットに撤退を呼び掛けていた模様ですが、未だ前線からから離れていない様子を見るに、どうやら本当にまだ戦うお積りの模様です。
「――そうか。であれば構わない。僕らだけでも」
「えぇ……どうやら、あの黒い騎士は、聖女様にご執心の様ですし――その命燃え尽きるまで戦いなさい! 狂騎士ランスロット!」
そう言って撤退する二人のアサシン。
どうやら……なんとか、退けられた模様です。ジークフリート様を守らねば、あの恐るべき竜に、太刀打ち出来ないこの状況で。敵の不意打ちも、結果として不発に終わりましたが。これは我々の勝利だと言えるでしょうが、しかし。
シャルル=アンリ・サンソンのあの変容は……正直、脅威を覚えざるを得ません。想いの持ちよう一つで、人間は意外な程大きく変わるもので。
「――ったく、やったな君。ああなっちまったサンソンは厄介だぞ」
「いやーまー……えっと……アレだ! あー……どういえば良いんだろうなこれ」
「君以外に分かる訳ないだろうが。もしかしてだけど、彼のファンだったりする?」
「……ファンって訳じゃないけども。まぁ良く知ってはいるだけで」
「何で知ってるんだい。アイツの事なんて」
「ノーコメントで」
――マスターは、マリー様の事を、処刑の事を書かれた本で知ったのだと言いました。
であれば、サンソンについても……
マスターは、
あの表情に、言葉に、関係があるのでしょうか。
それが、少し、気にならなかったと言えば。嘘になります。
処刑人に対するホモ君の意見はあくまで個人的な感想です(言い逃れ官僚並感)