FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
その後に続いた無言の時間は……恐らく、ダ・ヴィンチにとっては黙祷代わりのモノだったのだろう。それを義兄上が察していない訳もなく。当然私だって、流石にこのタイミング位は空気を読む事はする。
『――よし……さて、ムネーモシュネーの言った事を踏まえて、もう少し話をさせてくれないかな』
「……もう良いのか。もう少し位、悼む時間をとっても罰は当たらないと思うが?」
義兄上の声に、何時もの様な重苦しさ、という辛気臭さは見られない。誰かを気遣う優しさというモノが明確に見え隠れしているのが分かる。こういう所は、どう足掻いても魔術師らしくはなれない義兄上らしい。
しかしながら、そんな気遣いに対して、寧ろそんな声をかけた兄上よりも全然気丈そうにダ・ヴィンチは声を返した。
『いいや、自分の発明した物……いわば、我が子があんな根性見せたんだから、そりゃあやる気も出てくる。この特異点が終われば、君達も消滅するんだ。その前にこの二人のブレインと話せることを増やしたい』
「……そうか。なら、良いのだが」
その二人の様子があんまりにも真逆なもので、面白くなってしまって。今度は私の声が弾んできてしまう。こういう所は私の悪い所だと思う。まぁ治すつもりも毛頭ないのだけれども。
「おいおい。義兄上の方が落ち込んでいてどうするんだい」
「生憎、貴様も知っての通り、私は魔術師としては到底二流なのでな。こういう落ち込み方とてする」
そして結果として、辛気臭い空気になっているのは兄上だけ、という状況が出来上がる訳だ。置き去りの兄上が実に面白い。
「――それで、私達と話したい事って言うのは? ダ・ヴィンチ殿?」
とはいえ面白がっているばかりでもいられないだろう。善きものが、ごく当たり前に頑張ろうとしている。別に私とてそれを否定する程性格は悪くない。特異点の解決、という仕事も。まだ、こうしてここに居るなら、終わってはいない。
『――ムネーモシュネーは、敵が『並行世界』からやって来た侵略者だという事を教えてくれた。その上で、何故ここまで彼を傷つける訳もなく付け狙うのか……今まで、ずっと疑問ばかりで、何もメスを入れなかったポイントだ』
「まぁ普通に考えれば、傷つけて弱らせてから攫ってしまうのが一番手っ取り早いのは間違いないが」
「……貴様ら……あぁもう」
切り替えが余りにも早い事に辟易とした、という表情をしていたが……しかし、直ぐに兄上も表情を切り替えて、口を開いた。
「――繰り返す様ではあるが、傷をつけてはマズい理由があるのだろう」
『それが特定できないから、この議論は先へ進めなかった。幾らでも理由は想像しようがあったからね』
「しかし、ムネーモシュネーの証言から、今度はある程度は絞り込めるかもしれない。違うかい? 義兄上殿?」
こういう時、義兄上は徹底的に『相手』の人となりを調べようとする。
相手がどんな人物であるかを具に観察、解析、分解して、どんな動機からどんな思考に移り、最終的にどんな行動を起こすかを、割り出すのだ。
今までは特異点の情報、そして敵の今までの行動から、ギリギリ『カルデアのマスターをどうしてか傷つけずして手に入れようとしている』という事しか分からなかったが。しかしながら……今、更なる情報が手に入った。
「そうだな。先ず順を追って解体していくと……相手は――間違いなく、当意即妙を得意とするタイプではない」
『というと?』
「根拠はいくつかある。先ず、我々の存在だ」
義兄上曰く――敵は、ムネーモシュネーの最後の抵抗である我々に対し、特別な対応という事をせず、あくまで自分たちの目標を果たすために一貫して行動していた。シャドウサーヴァントに黒髭、ヒュージゴーストに至るまで。全ては、我々の対策として置かれていたというより……元々から想定していた特異点の防衛機構に間違いはない
「そして、先ほどのムネーモシュネーの証言もそうだ」
敵は、念入りに、念入りに『並行世界』からの干渉という難行へと近づいている。直接干渉する為の手段を構築する……という『不可能を突破する』やり方ではなく、『観測』を得意とするツールを先ずは手に入れて、『不可能を可能な範囲に落とし込む』という所から始めている。
「順序だてた、お行儀の良いやり方――言い方を変えれば、古い、定石通りのやり方ともいえる。だろ? 義兄上?」
「その通りだ。そして、こういった作戦を立てる人間、というのはアドリブよりも作戦自体を落ち着いて遂行することを優先する」
にやり、と浮かべた薄い笑いには、何処か確信じみたものが浮かんでいる。
キッチリとプラン通りに、型に嵌めて行動する。そんなやり方が透けて見える、お役所仕事臭いというか。融通が利かないというか。こういう事が得意なはずの兄上でなくても見えてくる。相手の思考が。
「故に、この特異点の仕掛けやカラクリには、全て意味があると考える方が自然と言えるだろう。たとえ多少のイレギュラーがあっても、無視して遂行できるほどにだ」
『――この塔に入るのも、聖杯らしきものが一切見られず、特異点を出るためにここへと入り込まざるを得なかったからだしね』
「多少、道中での問題が解決しやすくなったとしても、大筋は変わらない様に……そうなるように、念入りに練って。後は『何もしない』事を選んだ」
何とも分かりやすい。自分が何か余計な事をする事で、自分が丁寧に築き上げたプランに何か歪みを生んでしまう事を恐れている訳だ。
何もかもを自分の手中で操れる――と勘違いするタイプが良くやる。
『ではこれらの要素から、大軍師殿が推測するこの特異点の意味とは?』
「――霧の都、ここに至るまでは『試し』の意味があったように思える」
「まるで一つ一つを攻略すれば、何れここに至る様に――それは義兄上も言っていた事だろうと思う」
「しかしその試しに一切の容赦はない……妥協する事はしない真面目なタイプである事はここでも伺えるか」
その試しを突破できない程に弱くては務まらない――では強さを必要とする事、例えば分かりやすい所で言えば、『戦力として引き抜く』のが目的なのか?
「それは違う――そもそも、人間をどれだけ強化した所で……分かりやすい所で言えばサーヴァント等に及ぶべくも無いのは、そちらも分かっていると思うのだが」
『向こうは聖杯でサーヴァントを喚べるんだから、態々人間を使う意味は薄い、と』
キッチリとした手順を踏んで動くのを得手としている様な人間が、そんな無駄な事にここまでの大掛かりな事をするか。
それは違うと思う。そういう人間は、得てして無駄な事をしたくない。自分の思う通り、最も『効率的』で『完璧』な手段で策を練ってくると思われる。
「であれば他には何がある?」
「そうだな――太古から強いモノ、または価値の高いモノ……そう言ったものが必要とされてきたものと言えばもう一つ」
――
兄上の口から呟かれた言葉は、先ほどよりも低い声に乗せられていた。
「例えば強い霊媒の血、例えば処女の乙女、そして……強い戦士なども、だな」
成程。
彼が『先祖返り』の力を発揮できるほどの強い霊媒体質である事は、まずもって疑いようがない。その特別な血と、人理修復を成し遂げて来たマスターとしての強さ。成程、戦力としてカウントするよりは、よっぽど説得力がある。
だがしかし。
「だとしたら、もうこのタイミングで誘拐しても良いんじゃないかい? 義兄上」
「――生贄、と呼ばれるモノの中には、供物であったり、他には『触媒』として神に捧げられる事もあった。神を下ろす『巫女』とは違い、完全に『生きた人形』に仕立ててからそこに神を下ろす――
『その場合には、先ずは精神的にへし折ってからじゃないといけない、か』
三人で、ちらと白い霧の塊に視線をやる。ダ・ヴィンチの方で、未だ異常が検出されないというバイタル。一切『ダメージを受けていない』という結果が、今も検出され続けている――のだが、しかしながら。
殺される事はなく。傷つけられている事実も無い。それでも、彼は隔離された中で間違いなく『何か』が起きている。
「――精神的なダメージについては観測できないのかね」
『無理だ。我々はあくまで体のバイタルの変容から、彼の異常を見抜く……身体的なダメージは一切見逃さないが、体に一切の異常を及ぼさず、動悸と言った異常もない。そうなってくると』
「……全く以て、分からない、か」
胸の奥から、ため息染みた結論を吐き出した――その時だった。
僅かに、白い霧の端が、少し揺らいだ気がして。それに、誰よりも近場に居た、紫式部が即座に反応したのが分かった。
――否、我々が見ている景色ではなく、別の『者』に、彼女は反応したのだと思う。
「――マスターっ」
霧の塊の中、その中から滲みだす様に出てくる影に、既に紫式部は走り寄っていた。彼女には分かっていたのだろう、サーヴァント故に。
ややあって、霧の中から出てきたのは、霧の中に巻かれた時のまま、黒いスーツ型の礼装に身を包んだマスター・本造院の姿。
ゆらり、ゆらりと揺れながら。しかし、足取りはしっかりとしたモノで。何処か傷ついた様子も見えない。
駆けよって来た式部に対して、笑いかけているのがこちらからも見えている――
「師匠! ライネスさん!」
「……あぁ、今行く」
「義兄上」
「分かっているさ」
だが。
その紫式部を見つめる目が。飲み込まれるまでの、ごく当たり前の人の目の輝きではなくて。
何処か水あめの様に、透き通りながらも何処か光をゆがめたモノに変わっているのは、余りにも分かりやすかった。
漸く……漸くここまで……ホントオリジナルな特異点書くって大変なんやなって(なお参照先アリ)