FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第七十五章・裏:マスカレイド

「――本当に、大丈夫なんですか?」

「マジで大丈夫だってぇ。特に何にもされてなかったし、ホラ、無傷無傷。見てよどっからどう見ても傷ないでしょー?」

「……本当ですか?」

「ホントです、マジで。うん、ホント。だからそんなジッと見ないで、恥ずかしいから」

 

 まるで姉と弟だな、と彼と彼のサーヴァントを見ていると思う。

 特異点という危険な場所を共に駆け抜けて絆を育んだ結果、あの美人とヤンキーが特別に爛れた関係にもならず、酷く健全な関係を築いているのは、最早微笑ましい。ティーンエイジャーにしては、豊かな肉体で美人な女性に飢えているという事も無い。

 

 そう言ったぶしつけな視線を向けない、実に紳士――そう表現するには余りにも顔が些かに厳めし過ぎるのは間違いない。何方かと言えばまるでマフィアの下っ端として、娼婦でも漁っている方が似合いな顔をしているが。

 

「ええい、何時までもマスターと乳繰り合うな鬱陶しい……マスターの体から血の臭いはまるでせん。ケガなどしてはいない」

「ゴルゴーン様……ですが」

「もうレイシフトで帰還できるのだろう――帰る前に話すのであればさっさとしろ」

 

 見た目よりも、彼はもっとずっと幼いのかもしれない、等と思いながら彼が此方へ歩み寄ってくるのを見ていた。

 

「……ありがとな。世話になった」

「いや、君から形作られたモノを、君が打ち壊しただけだ。我々は僅かに力を貸したに過ぎない。恩を感じる事は無いよ」

「いや、それでも、さ――もう二度と会えないかもしれないからな。言っておかないとダメでしょ、やっぱり」

 

 その表情はにこやかだ。アレだけの強敵の連続を凌ぎ、自分が標的にされていた、という自覚がある様にはとても思えない様な顔をしている。肝が据わっている、と判断することも出来なくはないが。

 

 ――まぁ、そこは今は、気にはしまい。

 

「特に、俺個人としては、アンタに一番世話になった」

「おや? 私かい?」

「いやアンタの後ろのフードの娘だよ」

「……せ、拙ですか?」

 

 可愛い友人が折角別れの挨拶をするのだから、野暮な事は言うまい。

 実際、我々の中で、一番彼と行動を共にしていたのは、実はグレイだろう。

 

「……ありがとうな。グレイちゃん」

「いいえ。拙も……あの、共に戦えて、良かったです」

「この事が終われば君はここから消えて……何も覚えてないんだろうけど。ま、でも俺が覚えてるよ。かっこいい灰色の勇者様の事は、さ」

「ゆ、勇者様!?」

 

 それは彼も分かっているのだろう。目の前で丁寧に頭を下げているのは、まぁ顔に似合わない恐ろしく丁寧な態度だったが……まぁ勇者とまで言うとは思わなかったが。

 そのグレイと笑い合う顔には、どこにも影はみつけられない様に見えて――しかし、何処か力が無い様にも見える。

 

 まぁ、こんな特異点を必死になって超えて来たのだから、疲れてきても何ら不思議ではない。それでも、そんな疲れを押してまでここまで特異点を一緒に戦い抜いて来た戦友に対し、一つ頭を下げている……

 そう考えると、彼が健気なただの少年に見えない事も無い。

 

「ははっ、終わりまで何処か自信なさげなんだよなぁ……何、自分が嫌いだったりするのグレイちゃんは」

「――それは……ちょっと違います。拙は……」

「……ああいや、その先は言わなくていいや。うん。分かりやすく良い顔してるし」

 

 さて。

 ……下手な事は言わない。グレイは楽しそうに、そしてとてもいい顔をして話しているのだから、水を差すのは些か以上に無粋だと思われる。

 とはいえ、じーっと話している男の隅々まで観察はしてしまう訳なのだが。

 

そう、例えば。

 グレイを見ている彼の瞳だとか。その表情の隅々だとか。少し疲れた様子にも見えるその体の傾け方だとか。いろんな所を。

 何処かその仕草には、ほんの僅かな『慣れ』を感じる。

 

「良い隣人に恵まれたんだなぁ、アンタは」

「――はいっ!」

 

 その視線が、ちらりと此方に向いた。

 私と兄上の方を見つめる瞳は、透き通っているようにも見えて。しかしながら何処か粘りと、歪んだ輝きが宿っている様にも、見えた。

 

 

 

 

 

 

「義兄上は、どこまでたどり着いていたんだい?」

「――どこまで、とは?」

 

 瓦礫の中、日の光の指す瓦礫の上に、兄上が。そして、暗がりに置いた、そこらへんに転がっていた椅子――グレイに持ってきてもらった――の上に、私が。

 カルデアの連中は無事にここより帰還する事が出来て……今、ここに、我々がこうしている時間は退去までのカーテンコールの様な時間。カルデアの者達と話すべきことは出来るだけ話したのだから後は。ただの与太話だ。

 

「とぼけないでおくれよ義兄上――彼の中にある何かを察していたんだろう?」

「……」

「彼、というのは……ホンゾウインさん、の事ですか?」

「あぁそうだとも。人間観察ばっかり上手い兄上は、彼の中にある深い深い深淵を覗き込んでしまった――そうだろう?」

 

 とはいえ、カルデアにとっては与太話でも。私にとっては、こうして『特異点を解決する』という使命を終えた後、消える直前の言わば最後の楽しみ。耳に聞き流させてもらっても罰は当たるまい、と思う。

 

「深淵、って……そんな暗い方には、見えませんでした、けど……師匠」

「……こういう時はお前の目を誤魔化せない自分が嫌になってくる」

 

 まぁ彼女にとっては聞き流すどころか寝耳に水、位の驚きではあると思うが……まぁそれでも仕方ないと言えばそうだ。特異点の攻略でギリギリの連続、私も目の前の彼の『仮面』を見破るだけの余裕が無かった。

 だが先程の彼を見ていれば、分かる。

 

 否、先ほどだからこそ分かったのだと思う。特異点の最後の最後、被っている仮面が剥がれてその奥にある物が見えて来た――それが見えてきたのは、やはりあの白い靄に彼が飲み込まれた後だろうか。

 

「しかし、上手い事だ。自分を偽るのが」

「上手いというよりは、そうせざるを得なかったから慣れているのだろう。恐らくは、ずっとそうして来たのだろうよ」

「……さっき、拙と話をしていた時もですか?」

「いや、君と話していた時は特に何かを偽っている訳ではなかったよ」

 

 グレイが私の言葉に首をかしげるが、まぁ気持ちもわかる。

 彼のは非常に分かりにくいタイプと言えば良いのか……否、分かりにくいようになるまでずっと吐き続けて来た、と言うのもある。両方だ。

 

「だが、私が分かったのはそこまで。義兄上は更に奥を覗き込んでいる――そうだろ?」

「――覗き込んでいる、というよりは、目に入って来たというべきかな。彼の奥には強い『諦観』が根付いている」

 

 ……世の中への悪意、とかではなく。諦観。

 意外、といえば意外だ。例えば、聞かれてしまう事自体少し避けたい、悪意に塗れた絶望……とかであれば、隠すのも分かる。

しかし、諦観であるならば、『隠す』必要は何処にある?

 

「……諦観、ですか?」

「あぁ。それも恐らくは……自分に対してのモノだ」

「自分に対して?」

「そうだ。例えば、グレイ。彼がキミを見る視線の中に、何かを羨むような感情は感じたかね? 率直な感想で良い。答えてくれ」

「え……っと、無い、様に思いました」

「――私も同意見で、恐らくは間違いないだろう。しかしながら……彼の瞳の奥には、間違いなく暗い輝きが見えた」

 

 沈み切ったその輝きは、しかし他者に向けられるものではなく……深く深く、自分に向けて永遠に照らし続けられている――自分の有様を永遠に浮彫にする為に、と兄上は口にした。

 

「他人に一切の悪意を抱かない程の、自分への諦観――ひっくり返せば、絶望。彼はそれをずっと仮面を被る事で隠し続けて来たと、私は見ている」

「――誰に?」

()()()()だ」

 

絶望と向き合えば、自分が遠からず『自死』を選ぶことを彼は察していた

だからこそ……『生かす』為に隠す事を決めた。自分は正気だと。死ぬことは『許されないごく当たり前の存在なのだ』と。

あの仮面は、彼にとって、拘束具なのだ。この世に自らを縛り付けておくための。

 

そこまで想像できたものだ――と、揶揄おうかと思った。だけど、他人に向けられるあの透き通った瞳……そこに一切の悪意もクソも無かった事を思い出して。

どうにも否定しきれないのも、また事実だった。

 

 では。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「……我々が解決した所で、どうしようもない」

「自分で解決するしかない、か? 義兄上」

「自分で始めて、自分で縛り付けて……自分自身で自分と相撲を取っている様なものだ。外から無理矢理解決してもいい結果にはならん」

 

 それをどうにか出来るとすれば。

 『今の彼』にとって近しい存在だけだろう、と兄上はマズそうに葉巻を吸いながら口にする。

 葉巻から立ち上る煙は、何処に行くでもなく、不安定に、ゆらゆらと立ち上って行った。

 

 




ロードがホモ君に『向き合え』と言ったのは、自分で言える限界ギリギリのアドバイスだったりします。お節介焼きだなぁ! まぁロードって根本で善人だと思いますよ魔術師ですけれども。
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