FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――個人面談か。何年ぶりだったかなぁ?」
「個人面談、っていうか……だよねーコレは……さて」
さて。
医師として、個人的な話をさせてもらうと。目の前の彼の様子に、不審な所は一つも見られない……と、思う。何か不安そうな表情をしているとか、そういう様子は、今のところ見られない、気がする。
『――康友!!』
『藤丸くゥ~ん、なんだ元気そうじゃねぇか。っていうか、そっちの方が早かったんだな決着ついたのは』
『それは今どうでも良い! 大丈夫、なんだよな!?』
『……式部さんにも言われたんだけどなぁ。俺、そんなに具合悪いように見える?』
『見えない! 何時ものチンピラフェイス!』
『テメェは心配するか揶揄うかどっちかにしろこのスットコマスターが!』
何とか突然のアクシデントで送り込まれた未知の場所から帰還した時も……彼の調子は本当に、ごく普通で。特に何か問題がある様には全く見えなかった。見えなかったんだけれども……
――特異点の、報告をレオナルドから受けた。
彼を狙い撃ちにして送り込んだ、余りにも特殊な特異点の構造。そしてその中で彼ら、本造院君達が戦い抜いたその記録を……正直な話、驚く点は多かった。
しかしながら、その中でも最大の問題、疑問点はやはり、彼に行ったいくつかの干渉方法……『紙片』や『霧のドーム』は特異的、と言っていいだろう。
「単刀直入に行こう。レオナルドから、報告を受けてる」
「ふーむ……そうか。一体どんな報告だろうなぁ。もしかして俺問題ありな態度してたりした?」
「だとしたらこんなのんびりお茶なんて出してないよ」
特異点内において、不審なバイタルの変化はなかった。戦闘中の急激な変化は想定の範囲内だし、それ以外で特別、大きな変化をしている様子もない。そして彼は無事に特異点から戻って来た。数日程おいても、何か異常は見られない。
それでも、とレオナルドは言ったのだ。僕に向けて。
『……初めて特異点でのサポート、というモノを行ってね。見ているのと実際やってみるのとでは、大きく違う。私のサポート一つで、目の前の少年の命を左右しかねないというのは――正直、割とプレッシャーだった。天才なのにね?』
だからこそ、レオナルド・ダ・ヴィンチという英霊は真剣に取り組んだ。カルデアに召喚されてからも何処か飄々としていた態度のアイツは、初めてレイシフトというモノに真正面から取り組んだ。
『今までも色々サポートはしていただろ』
『いや、君の様に特異点の彼らと直接話しながら、というのは無かった。君という存在を挟む挟まないでここまでの差があるとはねぇ。一応ベテランだって言うのに、一瞬新兵みたく狼狽えかけたりしたよ。まぁそうはならなかったけどね? 天才だし』
そして……真剣に取り組んだからこそ。レオナルド・ダ・ヴィンチは、最後まで面倒を見ると言った。特異点を乗り越え、そして戻って来た彼の。
何か怪しい点があるなら、ちゃんと疑う。そして……話してもらう。隠したままにはさせない。いつも通りなようで、彼は少し感情的になっていたように見える。
……そんな彼の期待に応えたいと思ったのは、悪友だったからだろうか。彼と。
「――正直に話してくれ。あの特異点で、何があったのか」
「……何を、とは惚けらんねぇよなぁ。ここまで来たら流石に」
「そりゃあ、まぁね……あの霧のドーム。君を取り込んで暫く実体化していたあの中で何があったのか」
特異点では。敢えて聞かなかった、とレオナルドは言った。『特異点解決が先決』等と言われれば、言い逃れされる可能性があった。二人の英霊と共に、白い霧について話していたにも関わらず……何も聞かず、無事かどうかだけ確認するのは、カルデアで確実に話を聞くためだ。
「泳がされてたって事~?」
「まぁ結果的にそうなるかな」
「うーん容疑者っぽいなぁこりゃあ……え? 拘束されたりする?」
「しないよ」
「だよねー。そこまで優しかないよねー。それで済ましてはくれないよねー……あ~そうかそうか~……」
そして。
レオナルド・ダ・ヴィンチから『こういう方向では君が専門なのは、つい最近言った通りだろう』と言われて。僕はバトンを受け取った。彼から、聞き取りを行うために。
「……出来れば語らずに終れれば良かったんだけどなぁ」
「話して、くれるのかい?」
「先に宣言しておく。俺はまだここで『役に立つ』為に全部は話さない。多分全部話すと俺は……使い物にならなくなるから」
……そう言った彼の目は、とても普通に見えた。否、普通過ぎて普通じゃない、というべきだろうか。とても凪いでいる。平坦な……でも、硝子の様に感情の無い瞳をしている訳じゃない。あくまで、何も感情がさざめいている様には見えないだけだ。
彼が言う通り『語りたくない』類の思い出ならば、なんらかの反応があっても何ら不思議じゃないというのに。
コレは、相当難儀する相手かもしれない。ひそかに思いながら、彼の目と改めて視線を合わせた。
「――前提として、信じて欲しい事がある」
「なんだい?」
「俺が、あの『角』を発現させた、というか。発現しているのを『知覚』したのはここが初めてって言うのは嘘じゃない。そこは、信じて欲しい」
……不思議な言い方だ。
知覚、というのは。『自分でそういうのが生えている』というのを知ったのが初めてだという事だろうか。その言い方だと『自分に何かしら異常がある』というのは、何となく知っていた、という事になるのだが。
とはいえ、ここに来てそこを強調する『メリット』は……あったとして、罪の所在の有無に関してだろうが。
彼は、ここカルデアに来てから何ら問題行動を起こさず……寧ろ『過ぎる』程に献身的に特異点攻略に取り組んでいる。一切罪が発生するような問題は無い。
寧ろ、そのような所を意識させるのは、要らぬ疑いを発生させる気すらするのだが。
「……俺の生家については、言ったっけな」
「あ、あぁ。君の血筋……というか、についてだね」
――一応、彼の実家について調べてはいた。
と言っても、彼の特殊な体質について、何かしらのヒントにならないかと考えて調べ上げたのだけれども……しかしながら、まぁ、見つからない。
カルデアは、そう言った神秘については物凄い量のデータが揃っている……揃っているのだけれども、まぁ彼の言う条件で探しても見つからないのだ。
……千年近くの間生き残り続けて、古い言い伝えと幻想種の血筋を引き継ぎ続けている家。一応、表ではなく裏でなら欠片くらいの情報であれば残っている、と思っていたのだがしかし、箸にも棒にも掛からない程、まるで引っ掛かりが無い。
「それで、その話をするって事は……」
「俺があの霧の中で見せられたのは……その家にいた時の景色だ」
実家での景色。そう言われると普通の話に聞こえる。だけれども。
「そこに、問題が?」
「問題、うん。問題しかなかった、って言うべきかなぁ」
「……何か可笑しな景色を見せられた、とか?」
「一般的な常識に照らし合わせれば、かな。俺にとっては、ごく当たり前の景色だったけれどもねぇ」
そう話す彼の顔からは、するりと表情が抜けて、酷く無表情だ。
「……俺の家、っていうのは。昔からの言い伝えにこだわる家だった。呪われた血を浄化する『選ばれた子』、って言うのに拘っていたのは、前にも言ったかな?」
「う、うん。それはまぁ」
「それで、だ。自分の血、ひいては脈々と受け継がれてきた一族が『呪われている』と思っている俺の親族の皆様にとっちゃ……俺はまぁ、言わば『悲願』そのものだ。でも子供の俺にとっちゃ『浄化』っていうのが何のことだかさっぱり分からん」
……確かに、その表現には引っ掛かっていた。本造院君達の一族にとって、聞いていた限り、彼の誕生こそが『一つの契機』なのは間違いなく。
だからこそ、それを待ち望んでいたのは分かる。だがそれなら『解放』とか、そういう表現でもよい気もする。『浄化』という言葉には何処か不吉な臭いが、する気がする。
「だからある日聞いてみたんだー……浄化ってどうやるの、って」
酷く、平坦な声だった。その不吉な臭いに混ざり、背筋を冷やす。そんな声だった。
彼は――ぐりんっ、と首を回して、僕を見た。まるで、人形が首を回すみたいな、酷く無機質な動きで。そして。無機質な、ガラス玉みたいな透けているだけの目で。僕を見ている。手先が、震えた。
「みんな笑って答えたよね~……『君が皆をご先祖様の所へ送れば、それで呪われた血は全て綺麗になるんだ』ってさ」
「……それ、って」
「まぁよーするに俺が果たすべき『浄化』っていうのは……一族郎党皆殺し! 親族血族女子供に爺婆、だれかれ構わずみーんな俺が介錯する事ってなぁ、おい、笑える話だよね~……ね?」
横に倒れた顔に浮かんだ笑顔は、まるで酷く精巧につくられた人形のように。背筋が冷えてしまう程『お綺麗な』笑顔だった。
嘘は吐いてますが嘘は吐いてません。その日々の『最終的な景色』を彼は見ていたので。はい。