FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――先ほどまでの時間、俺たちがぶつかり合っていた門は、この深夜、距離を置いたここからでもよく見える位に朱色に輝いている。
アレが、血の色なら分かりやすい狂気だったろうと思う。
しかしながらあの色は、暗に夜にも映える『美しい』朱色。それは間違いなく京を守るための正気の色だ。自らの狂気を狂気と知らず、自分で正気だと良く『分かっている』彼女の今を表したような。
「旦那はん。何見とるん?」
「……京の景色だけども?」
「へぇ。その割には……朱い物みて、怖い顔しとるけどねぇ」
「京の景色には変わりねぇだろうがよ」
「あんな景色ぶちこわしにする無粋な門、うち知らんけど? コレが京の景色なんて言うのはやめておくんなはれ?」
……当然がら、戦っている源頼光は最早正気などではないのは間違いないだろう。京の人達をあの門の内に閉じ込めて何処にも行かぬように『守る』とは。
生前からの知り合いのアサシンの言う所では。まぁ言いかねないが、しかし正気であるならば口が裂けてもそんな事は言わないし、冗談でも言うような愉快さを持ち合わせてはいない、との事だった。
『つまらない女やしねぇ』と……彼女は頼光への評価をそう締めくくっている。
アサシンの頼光への評価は一貫して辛辣なモノが多い。というより単純に嫌いらしい。
「お前にとってもあんまり愉快なもんじゃねぇか、あの門は」
「ただでさえあの女と何度も何度も顔つき合わせてるんやで? あの無駄なデカブツの前で。愉快なんて思えへんけど?」
とまぁ、頼光憎けりゃ門まで憎し。日に日にあの特異点の原因である筈の門に対するヘイトが溜まるくらいには彼女との仲は宜しくない。門破壊へのモチベが上がる分には良い、のだろうか。分からん。
……ここまで付き合ってきて、アサシンのモチベが上がるのが良いのか悪いのかも分からんとは。マスター失格ではないだろうか、とは思う。いや、上辺だけでも彼女を理解できてしまっているから故の弊害だろうか。
彼女のテンションが上がる、というのは必ずしも福音ではないのだと、分かる。
「……なぁに? こっち見て」
「なんでもない。怖い鬼の面を眺めてただけだ」
「へぇ。それで? どないやった?」
「あぁ。相変わらず……背筋が凍る程の美人だよ。お前は」
――あぁ、こんな顔をした時だとか。
にんまり、と文字が出るような、牙を少し見せつける何処かこちらを揶揄う笑顔。純真に喜んでいる、訳では到底ない。寧ろ、奥底の邪心を牙と共にこちらにちらつかせる様な笑い方だった。
俺が『褒めている』訳ではない事を分かっている。俺が必死になって自分を『警戒している』事を、アサシンはきっと分かっている。自分の血が呪われているから。その血の元となった鬼を、俺は警戒している。
まるで……それを幼子が頑張る姿を見ているかのような優しい目で見つめ、獲物を食らう為の舌なめずりが聞こえてきそうな笑顔を向けている。
「ふふ。旦那はんも、真面目やね。あの女と同じ」
「……」
「せやけどちゃうわぁ。全然ちゃう……うち、旦那はんの『それ』は嫌いちゃうで? まぁでも。やっぱり我慢しすぎやない、とは思うけどね」
人と同じように愛でていても、昂ればそれを喰らう。
鬼の『裏表』激しい性分を表したかのような、そんな表情だった。
「……そんな今にも人喰いそうな顔よせよ、俺はおビビり肝っ玉ゼロニキなんだ俺は。」
「ん? そんな顔しとった? んふふ、ゴメンねェ。よし、よし」
「なでんな~」
実際頭撫でられてる間に、軽く頭を捻られてぶちんと――って事もあるだろう。まぁここでビビったら、もっと酷い終わり方をするのは目に見えているから、見えてる地雷は絶対に踏まない様に努力するが。
……気を逸らすために取り敢えず視線を向こうにやってみる。
実際、気にならない訳じゃない。頼光の話が本当だったとして、あの巨大な門の向こうはどうなっているのか。
「……どうなってると思う? アサシン」
「んー? なにがー?」
「あの門の向こうだよ……彼女が守りたい、って言う京や民は果たして言う通りに、果たして残ってるのかっていう話」
頼光は、その向こうに人が残っているという言い方だった。しかしながら、入るのは兎も角出るものもいない、というのは少しおかしい。
あの門が幾らデカいとしても、京すべての出入り口って訳でも無いのは間違いないだろうし。しかしながら。
『――ほ、本当だよ。あの中から、ここ暫く人は出て来てないよ……』
『普通の住人も、商人も……貴族様だってな。あぁ、本当に』
『ここら辺は、京に入れなくなった奴らが作った『避難場』みたいなもんなのさ』
あの巨大な門が出来てからというもの。本当に京を出入りする者は一人も存在しないらしい――そんな事実があるのに、京の中が未だ安寧の中にある、とだけ考えるのは流石に抜けている、と言っていいのではないだろうか?
アサシンはその疑問に対し――笑った。
それを聞くのは、最早愚悶なのではないか? とでも言いたげに。
「無事やと思う? 旦那はんは」
「――そうだと良いな、とは思ってるし。諦めてもいない」
「まぁせやろねぇ。旦那はんはそう思ってるやろねぇ。全力を尽くすと思うわぁ……もしあっこがだぁれもいない、空の京でも」
……それは、確信をもっての一言か。それとも、ただ適当に言の葉を紡いでいるだけなのだろうか?
多分だが。どっちでも、アサシンならばあり得るだろう。寧ろ、アサシンだからこそどちらの可能性もあり得るというべきか。。
「……あぁそれでもやるさ。悪いか」
「真面目やもんねぇ、ひょうげてるみたいに見えて」
その意図は読めない――なら、それでも先に進む。ここから下がるって選択肢は存在しないのだから。前のめりに、さらに突っ込んでやる。
逃げて逃げて、どこまでも来ても結局……どうにもならないのは、知ってる。否、良く分かった。忘れられそうだった過去が、どういう目的か知らんが、追いかけて来たんだ。きっと逃しちゃあくれねぇだろう。
どうせ赤い花咲かして散るなら、せめて真っすぐに。行ける所まで突っ込んでから。
「――ほんま、不思議やねぇ。旦那はん」
「あ?」
「自分のやりたい事抑え込んで。他のやりたい事へ必死。鬼やったらぜぇったいそんなことせぇへん。窮屈やさかい」
そう思った時。
アサシンと、目があった。
酷く、温度の無い目をしている。さっきまで愉快そうにしていた顔からは想像も出来ないような、物を見るような冷たい瞳。
ゾッとする――今の中に、彼女の何か、琴線に触れるようなものがあったのだろうか。
だが。もう止まらない。苦しくても、先へ、先へと。
「――鬼の中にも、どこまでも『他人』を思い『自分』を思わない。そういう奴が居ちゃいけないのかい。アサシン」
「……」
「俺は、そうは思わんよ」
あぁ、それは何処か逃避の様ですらあった、と自分ですら思う。俺はずっと、家族の事だけを思って生きていた――そう、情に訴えかけるように嘘の皮で覆う。
ただ自分と向き合いたくないだけ――そう思いたくない、という方が正しいのだろうかと思う。おかしな話だ。目の前に答えがあるというのに。
それでもなお――俺の中のその血から、まだ俺は逃げようというのか。俺は誰よりも『自分の事』しか考えていない。鬼子じゃないのか。
「――へぇ? おもろいこと言うんやね。旦那はん……ふふ」
「……」
合間に、呼吸を一つ。
「……
瞬間、背筋に。甘い痺れが走った。
耳に、硬い何かが食い込む感触。痛くはない。そして、そこから囁かれたのは……濡れた様な、囁き声。
唾液にではなく――己が食った、人の血に。
「そんな鬼。居ったとしてそれは……必死に無理してるだけやったり、そうして堪えるのが『愉しかったり』……結局は、己の為に戻って来る。存外とそういうもんやで、鬼っちゅうんは」
ちらり、横を見る。
アサシンが、先ほどとは打って変わって――酷く、酷く楽しそうに笑っていた。
まるでクルクルと形を変える万華鏡のように、彼女は……一つ、時を刻む度に、その顔を変えるのだ。
美しい童から。
艶めかしい、捕食者に。
アサシンに捕食されてぇ~!