FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十一章・裏:とある死線

「……アンタの事について、同情はしねぇよ」

 

 手が震える。

 圧倒的な怪物を目の前にして、自分の生物的な本能に責め立てられてるみたいだった。

目の前の女にかける言葉とは裏腹に。茹だる様な熱さの頭とは裏腹に。こうして、逃げようとも思わない心とは裏腹に。

勝手に体が震えちまって、全然……収まって、くれない。

 

あぁ、それもそうだろう。納得しか出来ない。俺に向けられるあの目は……守護者としての厳しい目じゃない。見られてるだけで、心臓の鼓動がゆっくりになる気がするくらいに怖い顔……俺を殺してやろうって、思ってる顔だ。

 

「……」

「だから――悪いな」

 

 それでも、俺は――

 

 

 

 

 

 

「……正直に言うぞ、アサシン」

「あの牛女に勝てると思えない……やろか?」

「おい。言いたい事を潰してくれんな。勘弁してくれ」

 

 ちらり、と天を仰ぐ。此方を押しつぶして来る様にも錯覚する厚い、重苦しい、半ば黒のに近い、濃い、濃い、灰色の雲が立ち込め……その中心、端、と所かまわずゴロゴロと音が聞こえ、一瞬の閃光が目に届く。

 先日までは、戦うまでは少なくとも稲妻までは、のたうってはいなかっただろうに。最早、本気を出した彼女には、天候すらも掌の上なのだろうか、と思えてくる。

 

「またぞろ雷に打たれて撤退、なんぞシャレにならん。というか今度はお前が耐えられるかも分からないんだからな」

 

 この前の一撃は……不意打ち気味の一発、だったのを加味しても。

 あの一撃をアサシンが耐えられたのは幸運の部分がある。彼女の『技能』と呼んでもいい程の生命力が、ギリギリで仕事をしてくれた。

 だがしかし、それすら把握して仕掛けられたら?

 

俺はこの特異点で唯一の味方を失い……今度は、俺の首まで跳ねられて終わりだろう

 

「……無駄に消耗させんのは、流石に趣味じゃねぇよ。俺だって」

「ふふっ。お優しい事……自分が先に死ぬかもしれない、とは言わへんのやね?」

「お前がサーヴァントとして存在するのに必要な楔を、無駄に失うような間抜けとは思えねぇよ。まぁ俺がお前の不興を買ってんなら話も別だが……そうでもないだろ」

「旦那はん、自信家なんやねぇ――」

 

 ……こんな風に、気づく前に、首元に刃が当たっているだろうし。俺に今、静かにしかし素早く、突きつけられたのは。刃じゃなくて、俺のサーヴァントである筈の酒吞童子の爪なのだが。無造作に、アサシンの右手が俺の喉に向けられている。

 

「もう買ってる、とは思わへんの?」

 

 ちらり、と彼女の顔を見る。

 冷たい顔をしている。壊れた玩具を見るような顔だ。成程。俺が首を刎ねられる時はこんな温度で殺されるのか。

 だが、それは今ではない。流石に、それくらいはコイツの……マスターだ。うん。分かる。分かっている。筈だ。

 

「だったらもう俺はこの時点で首が飛んでるよ――そんな、首を切る素振り見せる程、お前人間染みてないだろ。気に入らないと思ったらその時点ですぱん、だ」

「……いけず。もうちょっとええ顔見せてくれてもええやん」

 

 俺がそう返せば、あっという間に張り詰めた空気は霧散し、少し拗ねた様にアサシンは口をすぼめた。可愛らしい仕草だ。だけどもその頭の中で、どんな事を考えているかは分かったもんじゃあない。マジで。

 

「そうしたら余計にお前さんを調子づかせるからな。勢いづいたまんま本当に首を持っていかれたらシャレにもならん」

「ふーん……」

 

 実際、その詰まらなさそうな表情も、あっという間に鳴りを潜めて……にんまりと、アサシンは笑う。寧ろ、俺が断るのを待っていたかのような、実にレスポンスの早い意地の悪い笑顔に、一つ溜息を吐いてしまう。

 

「ふふふ、ようわかってるなぁ」

「分からいでか。一応お前のマスターだからな、下手な真似は出来ねぇさ……今は特にって言うのもあるが」

 

 ……最近は、コイツとどうやって上手い事接して来たのか、ちょっと分からなくなっているが。マスターとして、激情家……ではないが、バリバリに人外なコイツとどうやって付き合って来たのだろうか。

 そもそも、自分の血の事があるというのに、今までそれを考えずに良く接する事が出来たな。緊急事態だから、自然と目を逸らしていたのか――それとも……

 

「……――そういえば、旦那はん、今日はえらい調子良さそうやね。どないしたん? 昨日までと全然ちゃうやんか」

 

 はっと、思考の海から浮上する。いつの間にか、アサシンが俺の目の前に立っていた。

 ……片手を後ろ手に、口元に手を翳して隠しながら言うアサシン。下から俺を覗き込む様な彼女の目は、隠しきれない『愉悦』に三日月を描いている。

流石に口元が見えてしまえばモロ分かるからこそ、敢えて隠しているのだろう。しかし一応隠す『フリ』をしているだけで、目元は取り繕う積りが無い辺り、コイツの性格の悪さが伺える。

 

俺がどうして少しばかりやる気になってるのか――このサーヴァントが、まるで分かっていない、等と言う訳がない。

 

「……ホント性格悪いな、アサシン」

「ん? 何が?」

「けっ……精々乗せられてやる。どうせあの人をどうにかせん事には、ここから帰れない訳だしな」

 

 ……相手を哀れんであんな話をした訳がない。目の前のアサシンが。

 であれば、彼女個人からのちょっとした嫌がらせと、こっちを奮起させる為に言ったんだろう。此方を鼓舞してくれる頼もしいサーヴァント……そう言えれば相当に気が楽だったんだが。

 

「……つっても、俺が出来る事なんざ限られてるか」

「そんな弱気言わんの。うちかて、旦那はん抜きで、今のあの女を潰せるとは思うてへんよ。ほんまえらい強くなって、羨ましいわぁ」

「良く言うぜ。やろうと思えばお前一人だってやれない事ないだろう」

 

 そう言い捨てて軽く睨めば、アサシンはやっぱり口元を隠して、何も言わずにコロコロと笑うだけ。否定も肯定もしてないそのあいまいな態度は……誤魔化している、というよりも、『言わなくても大体わかるでしょ?』と、揶揄っているのだ。俺を。

 

 ああ。コイツと共に、これから俺は……特大の逆鱗を蹴っ飛ばしに行くわけだ。

 非常に、気が重い。

 

「……出来りゃ、今日で勝ち切りたい所だな」

「かるであに早う帰りたいん?」

「否定はしないが、それだけじゃねーよ……今から、俺たちは特大の地雷を自分達で踏みに行くわけだからな。ブチ切れた後のあの大将とまだまだずっと戦う、とか想像もしたくないだろ」

「あぁ、それは、せやねぇ」

 

 視線の先。

 まだ遠く見えている門が……余計に重苦しい空気を纏っている様に見えるのは、多分気のせい、だと思った。

 

 

 

 

 

 

「――であれば。首を刎ねるのではなく。二度と蘇る事すら出来ぬように……念入りに、討ち果たしてあげましょう。生中なやり方では殺し切れないのは、誰よりも私が知っていますから」

「ふふ、よう吠えるわぁ――ほんま狗みたいやねぇ」

 

 バチリ、と火花の爆ぜる音がした。

 

「旦那はん、何呆けてるん? こっからやで? あの女を抉るだけの隙、頑張って作らへんと。ほら、きばりや♡」

「……呆けもするわ。開戦直前に、いきなり相手の顔面に水ぶっかける馬鹿が何処にいるんだよ」

 

 少しばかり呆れもする。

 

 一つ、一つ、一つ、丁寧に、空気が歪んでいってるように見える。濃密な互いの圧力が強すぎるせいなのか、何となく、ではなく知覚できるように錯覚してしまった。

 互いに向ける敵意は、常に前回を更新し続け。今は……もう、怖いとか通り越して、少しばかりこっちの肌を痛めつけてくる気すらしていた。

 

 呼吸を整える。

 額に汗がにじむ。

 頼光が刀の柄を改めて握り直し、アサシンが手に構えた大剣を雑に背負い直した。

 

 たらり、とたっぷり溜まった汗が、頬を伝って、顎へ、そして地面に落ちて――

 

「「……っ!!」」

 

 見合った二人の『怪物』が、大地を抉る程、強く地を蹴った。

 




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