FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……アンタの事について、同情はしねぇよ」
手が震える。
圧倒的な怪物を目の前にして、自分の生物的な本能に責め立てられてるみたいだった。
目の前の女にかける言葉とは裏腹に。茹だる様な熱さの頭とは裏腹に。こうして、逃げようとも思わない心とは裏腹に。
勝手に体が震えちまって、全然……収まって、くれない。
あぁ、それもそうだろう。納得しか出来ない。俺に向けられるあの目は……守護者としての厳しい目じゃない。見られてるだけで、心臓の鼓動がゆっくりになる気がするくらいに怖い顔……俺を殺してやろうって、思ってる顔だ。
「……」
「だから――悪いな」
それでも、俺は――
「……正直に言うぞ、アサシン」
「あの牛女に勝てると思えない……やろか?」
「おい。言いたい事を潰してくれんな。勘弁してくれ」
ちらり、と天を仰ぐ。此方を押しつぶして来る様にも錯覚する厚い、重苦しい、半ば黒のに近い、濃い、濃い、灰色の雲が立ち込め……その中心、端、と所かまわずゴロゴロと音が聞こえ、一瞬の閃光が目に届く。
先日までは、戦うまでは少なくとも稲妻までは、のたうってはいなかっただろうに。最早、本気を出した彼女には、天候すらも掌の上なのだろうか、と思えてくる。
「またぞろ雷に打たれて撤退、なんぞシャレにならん。というか今度はお前が耐えられるかも分からないんだからな」
この前の一撃は……不意打ち気味の一発、だったのを加味しても。
あの一撃をアサシンが耐えられたのは幸運の部分がある。彼女の『技能』と呼んでもいい程の生命力が、ギリギリで仕事をしてくれた。
だがしかし、それすら把握して仕掛けられたら?
俺はこの特異点で唯一の味方を失い……今度は、俺の首まで跳ねられて終わりだろう
「……無駄に消耗させんのは、流石に趣味じゃねぇよ。俺だって」
「ふふっ。お優しい事……自分が先に死ぬかもしれない、とは言わへんのやね?」
「お前がサーヴァントとして存在するのに必要な楔を、無駄に失うような間抜けとは思えねぇよ。まぁ俺がお前の不興を買ってんなら話も別だが……そうでもないだろ」
「旦那はん、自信家なんやねぇ――」
……こんな風に、気づく前に、首元に刃が当たっているだろうし。俺に今、静かにしかし素早く、突きつけられたのは。刃じゃなくて、俺のサーヴァントである筈の酒吞童子の爪なのだが。無造作に、アサシンの右手が俺の喉に向けられている。
「もう買ってる、とは思わへんの?」
ちらり、と彼女の顔を見る。
冷たい顔をしている。壊れた玩具を見るような顔だ。成程。俺が首を刎ねられる時はこんな温度で殺されるのか。
だが、それは今ではない。流石に、それくらいはコイツの……マスターだ。うん。分かる。分かっている。筈だ。
「だったらもう俺はこの時点で首が飛んでるよ――そんな、首を切る素振り見せる程、お前人間染みてないだろ。気に入らないと思ったらその時点ですぱん、だ」
「……いけず。もうちょっとええ顔見せてくれてもええやん」
俺がそう返せば、あっという間に張り詰めた空気は霧散し、少し拗ねた様にアサシンは口をすぼめた。可愛らしい仕草だ。だけどもその頭の中で、どんな事を考えているかは分かったもんじゃあない。マジで。
「そうしたら余計にお前さんを調子づかせるからな。勢いづいたまんま本当に首を持っていかれたらシャレにもならん」
「ふーん……」
実際、その詰まらなさそうな表情も、あっという間に鳴りを潜めて……にんまりと、アサシンは笑う。寧ろ、俺が断るのを待っていたかのような、実にレスポンスの早い意地の悪い笑顔に、一つ溜息を吐いてしまう。
「ふふふ、ようわかってるなぁ」
「分からいでか。一応お前のマスターだからな、下手な真似は出来ねぇさ……今は特にって言うのもあるが」
……最近は、コイツとどうやって上手い事接して来たのか、ちょっと分からなくなっているが。マスターとして、激情家……ではないが、バリバリに人外なコイツとどうやって付き合って来たのだろうか。
そもそも、自分の血の事があるというのに、今までそれを考えずに良く接する事が出来たな。緊急事態だから、自然と目を逸らしていたのか――それとも……
「……――そういえば、旦那はん、今日はえらい調子良さそうやね。どないしたん? 昨日までと全然ちゃうやんか」
はっと、思考の海から浮上する。いつの間にか、アサシンが俺の目の前に立っていた。
……片手を後ろ手に、口元に手を翳して隠しながら言うアサシン。下から俺を覗き込む様な彼女の目は、隠しきれない『愉悦』に三日月を描いている。
流石に口元が見えてしまえばモロ分かるからこそ、敢えて隠しているのだろう。しかし一応隠す『フリ』をしているだけで、目元は取り繕う積りが無い辺り、コイツの性格の悪さが伺える。
俺がどうして少しばかりやる気になってるのか――このサーヴァントが、まるで分かっていない、等と言う訳がない。
「……ホント性格悪いな、アサシン」
「ん? 何が?」
「けっ……精々乗せられてやる。どうせあの人をどうにかせん事には、ここから帰れない訳だしな」
……相手を哀れんであんな話をした訳がない。目の前のアサシンが。
であれば、彼女個人からのちょっとした嫌がらせと、こっちを奮起させる為に言ったんだろう。此方を鼓舞してくれる頼もしいサーヴァント……そう言えれば相当に気が楽だったんだが。
「……つっても、俺が出来る事なんざ限られてるか」
「そんな弱気言わんの。うちかて、旦那はん抜きで、今のあの女を潰せるとは思うてへんよ。ほんまえらい強くなって、羨ましいわぁ」
「良く言うぜ。やろうと思えばお前一人だってやれない事ないだろう」
そう言い捨てて軽く睨めば、アサシンはやっぱり口元を隠して、何も言わずにコロコロと笑うだけ。否定も肯定もしてないそのあいまいな態度は……誤魔化している、というよりも、『言わなくても大体わかるでしょ?』と、揶揄っているのだ。俺を。
ああ。コイツと共に、これから俺は……特大の逆鱗を蹴っ飛ばしに行くわけだ。
非常に、気が重い。
「……出来りゃ、今日で勝ち切りたい所だな」
「かるであに早う帰りたいん?」
「否定はしないが、それだけじゃねーよ……今から、俺たちは特大の地雷を自分達で踏みに行くわけだからな。ブチ切れた後のあの大将とまだまだずっと戦う、とか想像もしたくないだろ」
「あぁ、それは、せやねぇ」
視線の先。
まだ遠く見えている門が……余計に重苦しい空気を纏っている様に見えるのは、多分気のせい、だと思った。
「――であれば。首を刎ねるのではなく。二度と蘇る事すら出来ぬように……念入りに、討ち果たしてあげましょう。生中なやり方では殺し切れないのは、誰よりも私が知っていますから」
「ふふ、よう吠えるわぁ――ほんま狗みたいやねぇ」
バチリ、と火花の爆ぜる音がした。
「旦那はん、何呆けてるん? こっからやで? あの女を抉るだけの隙、頑張って作らへんと。ほら、きばりや♡」
「……呆けもするわ。開戦直前に、いきなり相手の顔面に水ぶっかける馬鹿が何処にいるんだよ」
少しばかり呆れもする。
一つ、一つ、一つ、丁寧に、空気が歪んでいってるように見える。濃密な互いの圧力が強すぎるせいなのか、何となく、ではなく知覚できるように錯覚してしまった。
互いに向ける敵意は、常に前回を更新し続け。今は……もう、怖いとか通り越して、少しばかりこっちの肌を痛めつけてくる気すらしていた。
呼吸を整える。
額に汗がにじむ。
頼光が刀の柄を改めて握り直し、アサシンが手に構えた大剣を雑に背負い直した。
たらり、とたっぷり溜まった汗が、頬を伝って、顎へ、そして地面に落ちて――
「「……っ!!」」
見合った二人の『怪物』が、大地を抉る程、強く地を蹴った。
ボックスの進捗ダメです(正直)