FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十一章・裏:雷電一閃

――動きたくても動けない、というのが正しいだろう。

 

 ピリッとした空気の揺れみたいなのを感じた――と思ったら、俺の傍に雷が着弾して大地を焦がしている。今まで、一応若い小僧なりに必死こいて戦場を駆け抜けて来たつもりだったのだが、しかし。

 それでも尚、今、俺は一歩も動くことが出来ていない。

 

 結局の所、俺が戦って来た戦場は『英雄』のそれではなかったのだろう。藤丸、そしてマシュやリリィが前線を引き受けてくれて、俺はあくまで後衛……の、誰かを守るだけでよかった。圧倒的な強さを誇る『英雄』と戦わなくて良かった。故にこそ、生き残れていたという部分はある。

 

 そして……俺は今までで、一番英雄の戦線に近い所にいる。そして肌で感じる――圧倒的な力の差に、震えが止まらず。

 そしてそれは、頼光の圧倒的な力だけが生み出す物ではない。頼光の繰り出す悉くの攻撃を凌いでいる……アサシンが生み出す物でもあった。

 

「……ったく、信じらんねぇ。アレがこの前一撃でやられてたサーヴァントの姿かよ」

 

 爪で引き裂き、腕力でねじ伏せる。圧倒的な強さ……それがアサシンの印象だったのだが。しかし今、目の前で戦っているアサシンは、身軽に、その体を柔軟に使って、相手の攻撃を最小限で躱す。技巧派な動きだ。

 

 まるで舞でも舞っているかのようで一種、優雅にすら見える。人ならざる者と分かっていても、見入られてしまいそうになっている。

 しかしその動きは、決して人のモノではなく。獣のそれともまた違う。人間離れした跳躍力で、しかし攻撃の切れ間を正確に縫って、ぬるりと抜けていく。正に『人外』と呼ぶに相応しい動きだ。

 

 しかしながら……剣の範囲からは、出ない。あと一歩踏み込まれ、剣を振るわれたなら今度こそ、首が飛びそうな、そんなギリギリの所を、踊る様に、揺れる。

 

「ちっ……やはり、一筋縄ではいきませんか」

「ちょっとばかり興が乗ってるさかい――楽しみや、牛女」

 

 そんな後一歩のところで、踊っていい相手ではない。頼光は。

斬撃が一直線の線ではなく、まるで『網』の様に見えている時点で、彼女も十分に人外の所業を行っている。

 

 ……今は、ようやく目が慣れてきて、ぎりっぎりだがそれが『網』ではなく幾重にも束ねられた『線』であるのが知覚できるのだが。つまり、一瞬の間に、素早く剣を奔らせて『刻もう』としているのだろう。真っ当な殺し方じゃない。

 

「……ジャンヌ・オルタの炎も、これと比較できる時点で相当なバケモノだよ。マシュとリリィに、改めてお礼でもしておくか」

 

……この中で今の斬撃と比べ物になるのは、第二特異点のアルテラだろうか。向こうは圧倒的なパワーで切り裂き、此方はスピードと技量によるゴリ押しという違いはあるけれど、人間を捨てた戦い方であることは間違いない。

 源頼光の武器は、この圧倒的な『技量』と、アサシンは言っていた。如何なる武具も初見で完璧、どころか手足の様に扱って見せる程の極め切った武芸こそ、彼女の厄介な所なのだと。

 

 それを踏まえて見ていると、確かに分かる。

 

「――せいやぁっ!!」

 

 叩きつけられる勢いで振り下ろされる太刀。クルクル回転しながら後方に跳ねて躱すアサシン。彼女が立っていた地面に、刀身が激突して……まるで『力いっぱいハンマーでも叩きつけた』様なひびが入る。

 

「鬼さんこっちら、手の鳴る方へ……ふふふ」

「……随分と思いあがりましたね、蟲!」

 

 軽々と着地し、クスリと笑ったアサシンに向けて、更に空を切り……否、空気を拭き散らし、ばぁん、と爆音を立て、迫る、二の太刀。

 これも冷静に一歩半程下がったアサシンには掠りもしない。彼女の前髪を風が盛大に揺らすだけに終わった。

 

 物凄い剛の一撃だ。普通にそれを目の前に薄く笑うアサシンが凄いとすら思う。

 だが……確かに違和感だ。無数の剣で相手の逃げ場すら奪う網の様な先程の剣は、正直見ている此方の背筋が凍る程だったのに。それと比べて、余りにも『合っていない』。

 

あの大振りは脅威である、とは思うがしかし。まるで、荒事に慣れていない子供がナイフを振り回しているかのようで。危なくはあるが、使い慣れた不良達と比べれば、全く恐ろしくはない……そう、自分のモノではない気がする。

 

俺ですらそう思っているのだ。アサシンにとっては……ああして、少し距離を取ったところで、軽く欠伸をするほどに、あの一撃を捌くのは容易いのだろう。

 

「そんな怒らんといた方がええんちゃう? そんな偉い派手な大振りしはって、直ぐに疲れてまうからねぇ。ふふふ」

「――」

 

 圧倒的な力、アサシンではどうしようもない程の暴力を振るっているというのに。源頼光の方は、明確に余裕を失っていっている。

疲れではなく、苛立ちで息は荒れ。太刀の間合いの外のアサシンに向けられる、血走った瞳の眼光は、怒りに塗れて鋭さを失って鈍らのようじゃないか。

 

 昨日、『黄金の稲妻』で一瞬の内にアサシンを縦に引き裂いて見せた……都の門番、源頼光の底知れぬ恐ろしさは、この時に限っては大分鳴りを潜めている気がする。

 

「それとも、なぁに? うちに手加減してくれはってるん? 優しいなぁ……?」

「……っ!!」

 

 踏み込み、一閃。

 疾い。文字通り、瞬く間の内に踏み込んだ太刀は、何時の間にかアサシンの髪を何本か切り飛ばし……しかし、アサシンはもうそこにおらず、彼女が剣を振り下ろした真横でぱち、ぱち、と軽い拍手を送っている。

 

 今の斬撃は……怖かった。見えない。感じない。そして、地面に切っ先がめり込んでいるがしかし、壊した、というより、やはり切っ先が地面に『切り込んだ』のだろう。ヒビの一つすら見えない。一体、どんな振り方をすればアレだけの切れ味を出せる。

 

「ぐっ――おのれちょこまかと……!!」

「どないしたん? まだ、首も、落ちてへんねぇ」

「――っ!!」

 

 正直な話、既に勝ち目は見いだせてしまっている。

圧倒的な技量と、天から降る雷をも操る力。遠近を熟せる無敵の門番……しかし、その強みの一つを、アサシンは今、上手い事殺している。

剣の範囲から出ないのは、態とだ。

もし剣の範囲から出れば、即座に天からの雷で先手を打たれる。圧倒的な武の冴えと剣の一閃よりも尚迅い、雷電。

 

速度は正義。天から一瞬で落ちてくる雷は何も工夫せずとも撃たれるだけで厄介この上ない。最初の勝負で雷を引き裂けるのは確認出来ていても、アレはあくまで『様子見』だった部分も多く……勝ちに行くのであれば、引き裂く一瞬の隙ですら、致命打になりかねないだろう。

 

アサシンは、勝ちに行くために……敢えて『超近接戦闘』を選んだ。雷を打てば自分も巻き込まれかねない剣の間合いに身を置く事で、遠距離の札を潰す。

当然、近接こそが頼光の得手だと、アサシンは分かっている。

 

『――強いように見えるん? ふふ。旦那はんも、意外と騙されやすいんやねぇ』

 

その上でアサシンが語った、付け入る隙は、二つあった。

 

「――ハァアッ!!」

 

 アサシンの挑発に乗って彼女が剣を振りかぶる。両手を構えて。しかしアレは先ほどの一瞬に繰り出す一撃ではない――剛の一撃。付け入る隙の一つ目。その一瞬に、避ける事は愚か寧ろ彼女は踏み込んで。

 

「……ふふっ」

「っ!? しまっ――」

 

 ずん、と。

 力こぶでも作るように曲げた腕が、握りしめた拳が――頼光の胴に、彼女の全身が『く』の字に折り曲げる程、深く深く、突き刺さって。

 ほんの一瞬の間をおいて、そのまま門に向けて、頼光は吹っ飛ばされていって……叩きつけられた。此方からでも、痛々しい音が聞こえそうな程に、痛烈に。

 

 しかしそんな状態からでも、僅かに咳きこみながら、頼光はすぐさま体勢を立て直し。

 そして……自分目掛けて追撃を入れようと突っ込んで来ようとする、アサシンを見た。状況は、アサシン有利に見える。だが。彼女には――まだ、切り札がある。

 

「――」

 

 追い詰められた、その一瞬。バチリ、と彼女の刀を稲妻が覆う――その名に恥じぬ『黄金』の輝きが。つい先日、アサシンを焼いた、あの『黄金の雷』だ。アサシンを一撃で追い詰めた、轟く一閃。

 

「――やっぱりなぁ?」

 

 その輝きを目に写したアサシンの表情が――消えた。

 

「っ、何が!」

「それ、アンタの雷ちゃうやろ……冷たーい、相手を絡繰りみたくすり潰す、紫電がアンタのそれ。せやけども、その、悪党を痺れさせる轟雷は、ちゃうやろ?」

 

 アサシンが一歩を踏み出す。

 頼光が、剣を――振るう。

 

 先の再現か。放たれた頼光の一撃で、アサシンが焼かれ、再び地面に倒れるのか――否。

 

「――それは小僧のもんや。一体、何時小僧から奪い取ったんや? 牛女」

「ぐぅっ……!?」

 

 次の一瞬に、戦いの主導権を握っていたのは……頼光の首根っこを、一瞬の間に自分の手のひらにて掴み取ったアサシンだった。

 




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