FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第九章・裏:とある王妃が町を救う日

「……どうなのかね。それは」

 

 そうやって禿げた彼が呟いたのは、私とジャンヌが話を終えた、その直後の事だった。しみじみと、ただ一言。聞こえる積りで言ったつもりが無いのか、彼は誰も見ないで遠くの空を見つめて。

 

「あら、私がどうかしましたの?」

「ん? あ、げ。聞こえてました? あーいやー……なんていうか」

 

 でもその声は、独り言というのはちょっと大きすぎたのね。ジャンヌも、私も。もちろん、驚いた表情で此方を見る彼の隣にいた、式部さんにも。

 それに気が付いたのか、ハゲ頭を困ったように撫でながら、本造院康友……カルデアのもう一人のマスターは此方に視線を向けて来たわ。

 

「ふふ、貴方の様にむくつけき人がそんな態度をなさるなんて。なんだかおかしいわね」

「そう言われしてもねぇ。誰だって自分の独り言を他人に聞かれてるってのは……さ」

「それはそうだけど。でも聞こえてしまったのだから、そこは諦めて欲しいわ。それで私がどうしたのかしら」

「あー……いや。アマデウスの言葉から、ちょっとね」

 

 ――この国が君に恋をした。

 

 彼曰く。その言葉を聞いた時に、思ったのだそうで。恋される側というのはその気持ちが、想いが……重くないのか、と。

 

「想いが、重い?」

「……も、もしかしてそういう?」

「――盛り上げようとしたのですか? マスター?」

「ちがぁう!? このタイミングでそんな事を申すかぁ!?」

 

 必死になって否定するその様子はちょっと面白かった。って、そうじゃないわね。気にするべきところは。

 

「俺みたいなパンピーからすると、国全体から愛される、っていうのはちょっと想像もつかないから。ちょっとね。まぁさっきの聖女様との会話で全てかもしれないけど」

「――うーん、そうね」

「答えられない、って言うなら全然」

「あぁいいえ。違うの。そうじゃなくて……」

 

 少し、困ってしまったのは確かだけれど。答えられない、って訳じゃない。

 その問いはきっと、私がその想いを……決して手放しに喜べるものでは無かった。と思っているのを前提として、言っているのだと思ったの。

 

「貴方が求める回答を、言えないかもしれなくて」

「……俺が求めるって」

「そもそも……私は、皆からの想いを、重責と思った事が無いのよ。だって、誰かに想われるって、それだけでとても素晴らしい事じゃないかしら?」

 

 そんな事は無かったのよ。

 人が誰かを想う事。そして想われる事。それは私にとって幸せな事でしかなかったの。

 

「い、いや……マジすか?」

「マジですわ♪」

「いや、でも。それだけ、自分が見られてる、って事ですよね? それだけ、その振る舞いだって……ねぇ?」

「気にした事は無いわ。それは王族として当然の務めだったもの」

 

 そう言い切った時の、目の前のお顔の、可笑しいったら!

 そんな考えなんて、聞いた事も無い、って言う。のがありありと現れていて。そう言う所は、私達の時代より、恵まれているのだと思うわ。きっとそう。生まれに左右されない生き方を出来るのは、とても素敵な事。

 でも昔の事を語れるのは、先人の特権だもの。おばあちゃんが孫に話すような気持で一つ、昔語りでも。

 

「私は王族として生まれて、そうして振舞うのも、楽しかったわ。いいえ、私はそう生まれたからこそ……マリー・アントワネットとして生きられて。色んな人に会えた」

「だから、王妃となった事に、後悔は一つもない、って事ですか?」

「えぇ、そうよ。後悔なんてしないし、したら失礼にもなるわ。私と、王妃マリー・アントワネットと出会って良かった、と言ってくれた人たちへの、ね?」

 

 アマデウス。サンソン。愛しいあの人。

 他にも、沢山。沢山。だから……

 

「私は、皆に想われて、それが幸せで舞い上がって……あの結末に辿り着いた。それを言ったらアマデウスに怒られたのだけど。でも、私は王妃として幸せだったことを、絶対に否定しないわ」

「――そっかぁ、そっかぁ……はは、パンピーの発想なんか、英雄はすんなりと超えて行くってか。いやーすげぇ。ファンになっちまうぜ王妃様」

 

 そう言って、康友はなんだか嬉しそうに笑って――

 

 

 

「マリー・アントワネットの名にかけて、この町は、私が必ず守りますから」

 

 それを思い出して、少しだけ、申し訳なくなってしまったの。

 あんな笑顔が見る影もなく。目の前の康友の顔は……今にも泣き出しそうな、子供の様な顔をしている。

 

「――ダメだ王妃様、それは」

「いいえ。ここ、こそ。私の呼び出された意味なのよ。康友」

「それをされて誰が喜ぶってんだ、皆の想いを大切にしたいなら、アンタは死んじゃだめだろう!? それくらい、単純な理屈じゃあないか!」

「でも、見捨てられないのよ」

 

 私がどうなるか。凡そ結果なんて見えていた。

 だから彼が心配するのは、当然の事。だから、私が諭さなければ。

 

「ダメだよ、いっちゃ。そりゃあ、良くないよ」

「えぇ。分かってるわ。でも、ここで私だけが逃げるのはもっといけないと思うの」

「……あぁ……そりゃあ、そうだろうなぁ。そんなんバカでも分かるけど。だけど、だけどなぁ、それで納得しろって――」

「ふふ、そりゃあファンになった弱みで。私のお願い、聞いてくれないかしら」

 

 そう言った言葉に、一瞬何か口を開こうとして、けれど何も言えなくて。それでも必死になって、何か言葉を紡ごうと、頑張っているその姿が……なんだか、可笑しくて。

 つい、その頭に手を伸ばしてしまった。

 髪の無い、ツルッとした頭を撫でた時、少しその感触にくすっとなった。

 

「……そんな言い方、ずるいよねぇ」

「えぇ」

「そっか。そっかぁ……あーチクショウ。かーなしいなぁ。こんなに、良い人なのに。いいや、良い人だから、なのかなぁ」

「そんなに良い人じゃないけど。でも……そう言って貰えてうれしいわ」

 

 地面に顔を向けるその背に、式部がそっと手を当てる。きっとこれからの旅路は困難の連続。これ以上の別離も、多くあるでしょう。意地悪だけど、これで慣れて置けば、彼の旅路も少しだけ楽になるかしら、なんて思う。

 

「マスター……」

「分かってるよ。これ以上は、偉大なるフランス王妃様の覚悟に泥塗る事になりかねないんだ……王妃様」

 

 ――そして、起こしたその瞳に、見つめられた。

 

「何か、伝える言葉は」

「――じゃあ、アマデウスに。そうね……」

 

 謝っておいて。と伝えようとして。

 ふと、さっきの私の言葉を思い出す。後悔なんてしない。でも、謝っていたなんて伝えたら、彼はもしかしたら後悔するかもしれない。私だけが後悔無く先に行ってしまうなんてそれこそ、不公平な気がした。

 じゃあなんて伝えよう。ピアノの事……あぁ、じゃあ。こう伝えて貰おうかしら。

 

「――お約束は、次の機会に。その時まで、きっと忘れないでね、って」

「……確かに。ピアノの腕、磨くように言っておきます」

「えぇ!」

 

 康友は、敢えて仰々しく、私にお辞儀をして見せて。それはきっと、この場の空気を少しでも、悪くしないように。

 哀しい別れにならないように、と。

 

「お去らばです。フランスの強き王妃様。絶対に、その生き方、忘れませんから」

「えぇ。さようなら。東洋の若き冒険者様。きっと世界を救われますよう」

「……ホント、世界を救うなんざガラじゃないんですけど。やれるだけはやりますよ」

 

 そう言って、背を向けるマスター。その隣で、ゆっくりと頭を下げるサーヴァント。何も言わなかったのは、きっとマスターを立てての事。良いコンビだな、なんて。

 そしてもう一人。私が話をしなければならない人。

 

「マリー……」

「ジャンヌ。少しの間だったけど、貴女と一緒に旅を出来た事。戦えたこと。そして、お友達に慣れた事。どれも、本当に光栄で。誇らしい出来事だったわ」

「……止められないのは、分かってしまいましたから。だから」

「はい」

「――待ってます。貴女が、元気に手を振って、戻ってくるのを」

 

 そう言って貰えた時。

 ちょっとだけ、勇気を貰えた気がした。私の事を、信じて待っていると、そう言って貰えたなら。それこそ、王妃として。頑張らなきゃ、って。

 

 

 

「――マリー。やはり君が残ったんだね」

「あらサンソン。貴方が先に来たの」

「あぁ。竜の魔女の御命令とあれば……と言いたい所だけど、どうやら竜の魔女はこの町も人も、ご自分の手で焼きたいらしい。殆ど僕は露払いの様な物だ。どうやら今の僕を彼女は余り好んではおられない」

 

 空の彼方に、黒い影が見える。

 

「それなら私の首は刎ねないのかしら?」

「首を刎ねろ、との厳命あれば、だけど。独断専行は処刑人の行いじゃない」

「じゃあどうしてここに?」

「シャルル=アンリ・サンソン個人として。君の最後を見届けに来ただけだ」

 

 私の仕事は、アレに立ち向かう事。フランス王妃として。

 

「じゃあ……見ていて。そしたら、もうちょっとだけ、勇気が出るから」

「あぁ。何方の邪魔もしない……やり遂げてくれ。マリー」

 

 そう決意して。

 ちょっとだけ、拳を、きゅっと、握って見せた。

 




FGOで一番描写が難しいキャラを知っているか?

マリー・アントワネットだ(瀕死)
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