FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……どうなのかね。それは」
そうやって禿げた彼が呟いたのは、私とジャンヌが話を終えた、その直後の事だった。しみじみと、ただ一言。聞こえる積りで言ったつもりが無いのか、彼は誰も見ないで遠くの空を見つめて。
「あら、私がどうかしましたの?」
「ん? あ、げ。聞こえてました? あーいやー……なんていうか」
でもその声は、独り言というのはちょっと大きすぎたのね。ジャンヌも、私も。もちろん、驚いた表情で此方を見る彼の隣にいた、式部さんにも。
それに気が付いたのか、ハゲ頭を困ったように撫でながら、本造院康友……カルデアのもう一人のマスターは此方に視線を向けて来たわ。
「ふふ、貴方の様にむくつけき人がそんな態度をなさるなんて。なんだかおかしいわね」
「そう言われしてもねぇ。誰だって自分の独り言を他人に聞かれてるってのは……さ」
「それはそうだけど。でも聞こえてしまったのだから、そこは諦めて欲しいわ。それで私がどうしたのかしら」
「あー……いや。アマデウスの言葉から、ちょっとね」
――この国が君に恋をした。
彼曰く。その言葉を聞いた時に、思ったのだそうで。恋される側というのはその気持ちが、想いが……重くないのか、と。
「想いが、重い?」
「……も、もしかしてそういう?」
「――盛り上げようとしたのですか? マスター?」
「ちがぁう!? このタイミングでそんな事を申すかぁ!?」
必死になって否定するその様子はちょっと面白かった。って、そうじゃないわね。気にするべきところは。
「俺みたいなパンピーからすると、国全体から愛される、っていうのはちょっと想像もつかないから。ちょっとね。まぁさっきの聖女様との会話で全てかもしれないけど」
「――うーん、そうね」
「答えられない、って言うなら全然」
「あぁいいえ。違うの。そうじゃなくて……」
少し、困ってしまったのは確かだけれど。答えられない、って訳じゃない。
その問いはきっと、私がその想いを……決して手放しに喜べるものでは無かった。と思っているのを前提として、言っているのだと思ったの。
「貴方が求める回答を、言えないかもしれなくて」
「……俺が求めるって」
「そもそも……私は、皆からの想いを、重責と思った事が無いのよ。だって、誰かに想われるって、それだけでとても素晴らしい事じゃないかしら?」
そんな事は無かったのよ。
人が誰かを想う事。そして想われる事。それは私にとって幸せな事でしかなかったの。
「い、いや……マジすか?」
「マジですわ♪」
「いや、でも。それだけ、自分が見られてる、って事ですよね? それだけ、その振る舞いだって……ねぇ?」
「気にした事は無いわ。それは王族として当然の務めだったもの」
そう言い切った時の、目の前のお顔の、可笑しいったら!
そんな考えなんて、聞いた事も無い、って言う。のがありありと現れていて。そう言う所は、私達の時代より、恵まれているのだと思うわ。きっとそう。生まれに左右されない生き方を出来るのは、とても素敵な事。
でも昔の事を語れるのは、先人の特権だもの。おばあちゃんが孫に話すような気持で一つ、昔語りでも。
「私は王族として生まれて、そうして振舞うのも、楽しかったわ。いいえ、私はそう生まれたからこそ……マリー・アントワネットとして生きられて。色んな人に会えた」
「だから、王妃となった事に、後悔は一つもない、って事ですか?」
「えぇ、そうよ。後悔なんてしないし、したら失礼にもなるわ。私と、王妃マリー・アントワネットと出会って良かった、と言ってくれた人たちへの、ね?」
アマデウス。サンソン。愛しいあの人。
他にも、沢山。沢山。だから……
「私は、皆に想われて、それが幸せで舞い上がって……あの結末に辿り着いた。それを言ったらアマデウスに怒られたのだけど。でも、私は王妃として幸せだったことを、絶対に否定しないわ」
「――そっかぁ、そっかぁ……はは、パンピーの発想なんか、英雄はすんなりと超えて行くってか。いやーすげぇ。ファンになっちまうぜ王妃様」
そう言って、康友はなんだか嬉しそうに笑って――
「マリー・アントワネットの名にかけて、この町は、私が必ず守りますから」
それを思い出して、少しだけ、申し訳なくなってしまったの。
あんな笑顔が見る影もなく。目の前の康友の顔は……今にも泣き出しそうな、子供の様な顔をしている。
「――ダメだ王妃様、それは」
「いいえ。ここ、こそ。私の呼び出された意味なのよ。康友」
「それをされて誰が喜ぶってんだ、皆の想いを大切にしたいなら、アンタは死んじゃだめだろう!? それくらい、単純な理屈じゃあないか!」
「でも、見捨てられないのよ」
私がどうなるか。凡そ結果なんて見えていた。
だから彼が心配するのは、当然の事。だから、私が諭さなければ。
「ダメだよ、いっちゃ。そりゃあ、良くないよ」
「えぇ。分かってるわ。でも、ここで私だけが逃げるのはもっといけないと思うの」
「……あぁ……そりゃあ、そうだろうなぁ。そんなんバカでも分かるけど。だけど、だけどなぁ、それで納得しろって――」
「ふふ、そりゃあファンになった弱みで。私のお願い、聞いてくれないかしら」
そう言った言葉に、一瞬何か口を開こうとして、けれど何も言えなくて。それでも必死になって、何か言葉を紡ごうと、頑張っているその姿が……なんだか、可笑しくて。
つい、その頭に手を伸ばしてしまった。
髪の無い、ツルッとした頭を撫でた時、少しその感触にくすっとなった。
「……そんな言い方、ずるいよねぇ」
「えぇ」
「そっか。そっかぁ……あーチクショウ。かーなしいなぁ。こんなに、良い人なのに。いいや、良い人だから、なのかなぁ」
「そんなに良い人じゃないけど。でも……そう言って貰えてうれしいわ」
地面に顔を向けるその背に、式部がそっと手を当てる。きっとこれからの旅路は困難の連続。これ以上の別離も、多くあるでしょう。意地悪だけど、これで慣れて置けば、彼の旅路も少しだけ楽になるかしら、なんて思う。
「マスター……」
「分かってるよ。これ以上は、偉大なるフランス王妃様の覚悟に泥塗る事になりかねないんだ……王妃様」
――そして、起こしたその瞳に、見つめられた。
「何か、伝える言葉は」
「――じゃあ、アマデウスに。そうね……」
謝っておいて。と伝えようとして。
ふと、さっきの私の言葉を思い出す。後悔なんてしない。でも、謝っていたなんて伝えたら、彼はもしかしたら後悔するかもしれない。私だけが後悔無く先に行ってしまうなんてそれこそ、不公平な気がした。
じゃあなんて伝えよう。ピアノの事……あぁ、じゃあ。こう伝えて貰おうかしら。
「――お約束は、次の機会に。その時まで、きっと忘れないでね、って」
「……確かに。ピアノの腕、磨くように言っておきます」
「えぇ!」
康友は、敢えて仰々しく、私にお辞儀をして見せて。それはきっと、この場の空気を少しでも、悪くしないように。
哀しい別れにならないように、と。
「お去らばです。フランスの強き王妃様。絶対に、その生き方、忘れませんから」
「えぇ。さようなら。東洋の若き冒険者様。きっと世界を救われますよう」
「……ホント、世界を救うなんざガラじゃないんですけど。やれるだけはやりますよ」
そう言って、背を向けるマスター。その隣で、ゆっくりと頭を下げるサーヴァント。何も言わなかったのは、きっとマスターを立てての事。良いコンビだな、なんて。
そしてもう一人。私が話をしなければならない人。
「マリー……」
「ジャンヌ。少しの間だったけど、貴女と一緒に旅を出来た事。戦えたこと。そして、お友達に慣れた事。どれも、本当に光栄で。誇らしい出来事だったわ」
「……止められないのは、分かってしまいましたから。だから」
「はい」
「――待ってます。貴女が、元気に手を振って、戻ってくるのを」
そう言って貰えた時。
ちょっとだけ、勇気を貰えた気がした。私の事を、信じて待っていると、そう言って貰えたなら。それこそ、王妃として。頑張らなきゃ、って。
「――マリー。やはり君が残ったんだね」
「あらサンソン。貴方が先に来たの」
「あぁ。竜の魔女の御命令とあれば……と言いたい所だけど、どうやら竜の魔女はこの町も人も、ご自分の手で焼きたいらしい。殆ど僕は露払いの様な物だ。どうやら今の僕を彼女は余り好んではおられない」
空の彼方に、黒い影が見える。
「それなら私の首は刎ねないのかしら?」
「首を刎ねろ、との厳命あれば、だけど。独断専行は処刑人の行いじゃない」
「じゃあどうしてここに?」
「シャルル=アンリ・サンソン個人として。君の最後を見届けに来ただけだ」
私の仕事は、アレに立ち向かう事。フランス王妃として。
「じゃあ……見ていて。そしたら、もうちょっとだけ、勇気が出るから」
「あぁ。何方の邪魔もしない……やり遂げてくれ。マリー」
そう決意して。
ちょっとだけ、拳を、きゅっと、握って見せた。
FGOで一番描写が難しいキャラを知っているか?
マリー・アントワネットだ(瀕死)