FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十三章・裏:実力拮抗

「――触んなや」

 

 ぱしゃり、という軽い音は、到底激しい稲妻を払った時に出る音ではないと思う。爪と剣で雷を蹴散らす光景は、ここに来た初めの方でアサシンが見せていたのだが……しかしながらまぁ、今回は……うん。

 

「んー……なんや、見た目だけはエラい勢いがよろしおすなぁ。街に明かり灯すんには使えるんとちゃうん?」

「多分俺みたいなのだったら黒焦げには出来るんじゃないか? 流石に」

 

 アサシンが言っている様に、実際派手な見た目ではあるのだ。あるのだが、しかしやはり暴走しているからか、前までのヒヤリとするような怖さが、薄れている気がする。

 いや俺が直撃したら死ぬのは間違いないだろう。だけど、鼻先に普通に剣を突きつけられるのと、大剣を持ち上げられるのとじゃぁ、絶望感が違うのだ。明確に。

 

「案外行けるんとちゃう? がんばり♡」

「いや頑張りたくはねぇなぁ! 俺だって体張って頑張る事はあるけど今は違うなぁ!」

 

 しかし。自分で突っ込むって言っておいて……流石に無茶を言い過ぎたかとは思う。さっきから、マジでアサシンが払ってくれてなきゃ、何度直撃していたか分からん。

 いや、仕方ないんだ。だって結局の所、アサシンの力を全力で引き出すには、俺が限界まで近くにいるしかないんだし。

 

 ……ああクソ。そもそも、俺が……万全ならって言う話ではあるんだが。

 

「まぁでも、今こそ気張り時ではあるか。目の前まで来てるんだ――本丸が」

「せやねぇ。あぁ――見えてきたで」

 

 ……そして、無数の雷によって編まれた、神殿の如き嵐の中で。たった一点の空白地帯に、彼女は立っている。台風の中心の『目』の如く、完全に出来上がったエアスポットに彼女は――酷く、ぼんやりと立っていた。

 

 周りの雷と同じ――否、彼女自身はそれ以上か? まるで炭酸の抜けてしまったソーダの様に何かが『足りない』印象を受ける。

 とはいえ。その『砂糖水』の濃さは……正直、あっという間に歯がボロボロになってしまう程のえげつない仕上がりなのは間違いないのだが。

 

「……意識は、無いか」

「あったらウチ等、こんなのんびり喋る暇もあらへんよ」

「だろうなぁ……」

 

 ……そもそもこっちに気が付いているのか頼光は。気が付いているのなら、そのまま襲い掛かって来ても不思議じゃないと思うんだが。暴走しているなら猶更、獣の様に襲い掛かって来る、って言うイメージがあったのだが。

 なんでピクリとも動かないんだろうか。

 

 というか。動かないんじゃないかマジでこのまま。え、まさか動かない相手に対して奇襲しかけてこのまま勝っちまうとか……

 

「これさ、マジで周りの雷だけが怖かっただけ……」

「んなわけないやん。見ててみ」

 

 等と温い事を考えていた俺だが、しかしアサシンは黙って首を振り、近くにあった焦げて塊になった土塊を、適当に頼光に向けて投げつけた。ポーンと放られたそれはこげ茶色の軌道を描いて飛び――

 

 ――直後、銀色の一閃で真っ二つに切り裂かれた。

 

「――わーお」

「ほけほけ寄ったら『ああ』なるよ? 気ぃぬかんとき」

 

 やっぱり見えなかった。

 成程……要するに今の頼光は、近寄る敵があれば自動で迎撃する機械みたいな状態な訳だ。意識が無いのは間違いないから、無意識の内に身体が覚えている動きをしているんだろう。流石は源氏の総大将。とんでもない鍛錬をして来たと見える。

 

「ま、でも気合い入れてる時よりは全然やねぇ――旦那はん」

「分かってる。礼装の強化入れる」

 

 圧倒的な力を持つ英雄の相手になるのは、それ相応の人外だけだ。すなわちは俺のサーヴァントである、アサシンただ一人。

 

「後は頑張ってくれ」

「ええよ。せやけど旦那はんも、気張ってくれはる?」

「――当然!」

 

全てをアサシンに賭けて、その上で勝つ。

礼装を起動させ、アサシンを強化。効果が表れたのを確認したアサシンは、一歩、二歩と歩き出して――そこから、童の様な軽い足取りで、頼光の元へと駆けだした。

 彼我の距離が一歩ずつ詰まっていく。ゆらり、と一つ頼光が揺れる度に、一歩が詰まりそして……こっちの呼吸も詰まりそうになる。

 

 酷い緊張感だ。彼女達の間の距離が詰まる度に、ぶつかり合って爆ぜている気がする。それはきっと――殺意、とか、敵意、とか……形あるものじゃない。

 コレは原初の負の感情だ。単純な物だ。相容れないと自らが判断する不快感――そんなものが互いの間で吹き荒れている。

 

 なんという――無意識下ですらそこまで荒れ狂う頼光に驚くべきか。それとも笑いながらもここまでの『モノ』を練り上げるアサシンに苦笑うべきか。

 

「「――」」

 

 それが、限界まで張り詰め、捻じれ、集まって――そして。

 

 ぎぎぎぎぎぎ――!!!

 

 複数の金属の爆音となって、爆ぜた。

 打ち合う、二つの牙と一つの刃。片や野性的に、片や機械的に。

 アサシンの爪と剣、そして頼光の刀が、切り結び、弾け、ぶつかり合う。切り裂き、いずれ劣らず、競り負けない。二つの嵐が、激突する。

 

「――っ……!」

 

 巻き起こるは、旋風。此方にまで届く様な、強い風だった。

 何とかギリギリの所で踏ん張る事には成功した。しかし、動きようがない。頼光は、今まで一番弱っている、という話だった。しかし――

 冗談じゃない、この、この時の戦闘こそ、飛びぬけて激しくて、そしてどうしようもない程に、荒れ狂っているではないか。

 

「くっそ、冗談だろ……外の雷が、生易しく見えてくるなんざ……!」

 

 今までは、鋭く、そして文字通り、一切の無駄のない、『決闘』と呼ぶのが相応しい流麗な激突であった……あったのだが。

 今のコレは、決闘ではない。正に『殺し合い』と呼ぶべきだろう。

 今までの戦いがそうでなかったとは言えない。だが、戦いと殺し合いというのは厳密には別なのだろう――それを、今、目の前で証明させられている。

 

 一撃を持って切り捨てる、のではなく。互いに相手の肌を浅く切り裂くような無数の攻撃の応酬。防御を捨てているのか、それとも攻撃を優先するべきだと判断しているのか。何れにせよ、視覚に見える『紅』の色は、多分一番多い。

 ……戦争が一番悪化するのは、『双方の戦力が拮抗している時』らしい。理屈はよく知らないが。でも現実に目にすればそれが間違っていないのは分かった。

 

「……アサシン……!」

 

 だが、それでも今がチャンスなのは分かる。頼光に攻撃が通ってるんだから。

 右手の令呪を強く握る……万が一の時は、令呪を切って宝具を飛ばす、それくらいのサポートしか出来ないけども。

 

 正直な所、俺は俺をもうこれっぽっちも信じちゃいない。所詮は……人間として終わってる人でなしだって事を思い出した。

 意志も強いなんざ言えない。こうしてここに立っているのも、意地とかでもなんでもない。この旅から降りるのは、そうすると、本当に終わってしまうから。それがあんまりにも怖いからで。

 

……そんな俺とサーヴァントは違う。アサシンは、強い。そんな彼女の足引っ張ってここで終わるのは……嫌だ。カスだけど、改めてそう自覚したなら。カスはカスなりにやれることやらないと、カスにすらなれないから――!!

 

「――あ」

 

 そう思って、顔を上げた時。

 見えてしまった。

 

 なんでかは分からない。アレだけの殺し合いだ、地面に跳んだ血が土と混ざって、屍泥の様になって、足元がぬかるんでいたのかもしれない――兎も角。

 一瞬、足元が崩れてしまっている。それは、あの無数の剣劇、殴り合いの中では致命的な隙にしかならない。ダメだ。止めないと。でも止める手段なんてない。

 

 そのまま彼女の顔面に、頼光の太刀が吸い込まれていって。ダメだあの軌道は、避けられない。

 吸い込まれていく。アサシンの頭を、あの土くれの様に切り裂くために――

 

「――クソがぁっ!!」

 

 その景色に。

 額から、頭の奥まで。全部が、真っ赤になった気がした。

 




屍泥って意味絶対違うけど雰囲気作りの為に使ってみたゾ(白状)
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