FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十三章・裏:悪魔のささやき

 顔面。直撃。一瞬、思考、停止――

 

「――クソがぁっ!!」

 

 飛び出した。頭が真っ白になった。先ず、アサシンを引っ張り出さない事には。いやちがう、先ず彼女に声を、かけた方が……いやけどっ……! いや、待て落ち着け俺、そもそも、令呪の発動だって。

 でもダメだ、もう飛び出しちまった。足を踏み出した。止まらん。止まれない。このままだと、踏み込んで、そのまま、スッパリ――!

 

「アサシンッ!!」

 

 それでも。叫んだ。

どうしても我慢できなかった。額が焼け付くように熱い。手を伸ばす。一瞬先の、死ぬ未来が分かる。歯が鳴りそうになる。指先が強張る。それでも――

 

「――ひゃけばんでへぇほ」(さけばんでえぇよ)

 

 ――それでも、俺の手の先のアサシンの口の端は、此方に向けて、さっきと変わらないニヤリとした笑顔を見せて……いや、笑ってる、じゃねぇんだけども、オイお前。ちょっと待て。待てよ。

 

「……アサシン!?」

「ぺっ」

 

 アサシンは、あの頼光の剣を顔面に向けて、あの最速の太刀の直撃を受けた。だって言うのに……ぴょい、と相も変わらない身軽そうな動きで、俺の目の前に着地すると『はいはい、下がり』と俺を押し返した。

 

 驚いたのだが……どっこい、アサシンは生きている。

思わず顔全体を凝視するも、特に何処か切れているようには見えないし……いや、ちょっと待て。唇の端って言うか、口の端辺りが赤いぞ。

……まさか、アサシン。

 

「お、おまっ……まさか」

「あー、武者の太刀咥えるなんて、何年振りやろねェ」

 

 不味い、と非常に不機嫌そうな顔をしているのだが。それどころの話ではない。あの刀を、口で受け止めたってのかコイツは。

 思わず、変な笑いが零れてしまった。つくづく――アサシンというサーヴァントは、人間の常識の範疇には収まってくれないらしい。

 

「し――心配させんな!」

「心配してくれたん? あぁ――嬉しいわぁ、そんな、お頭に角とんがらせてまでぇ」

 

 そう言われ、一瞬首を傾げ……ふと、額に覚えのある熱さが宿っている事に気が付いて急いで手をやったら――

 

「――……あっ、ぇ?」

 

 生えてる。っていうか、ある。ちょっと手に震える位のバチリとした感触はマジで間違得ようもなく、俺が、能力を発動させたときに使った時に生える角だった。

どういう事だ、俺は発動もさせてないのに。勝手に。

 暴発か、しかし……今、自分は酷く冷静に思考も出来ている。ロマニの備えてくれた礼装の機能は使えている。だけど。

 

 そういう事じゃない。そもそも俺は――

 

「そん……な、んで……」

「――旦那はん? なぁにぼぅっとしとるん?」

 

 そうやって思考に頭を沈ませようとした所で……

 ぐぃっと急に頭を掴まれて、無理矢理にアサシンの方を向かされてしまった。相当強い力で、少し驚きそうになって、しかし。そんな事をする暇も無かった。

 

「羨ましいわぁ、こんな鉄火場の中で、なんや考えこむ余裕があるんやねぇ――余計な事」

「よ、余計な……」

「余計やない、って言えるん?」

 

 アサシンに覗き込まれる。睨まれている訳でも無い、って言うのに。まっすぐ見つめられているだけなのに。頭を掴まれてなかったら、たじろいで、一歩引いてしまっていたかもしれない。

 

 それだけアサシンの瞳は、俺の奥を鋭く突き刺してえぐる様に、見つめてくる。温度を感じさせない、そんな色のままで。

 

「……っ」

「終わったら、色々考えるのもよろしおす。せやけど、ねぇ……」

 

 彼女はこっちに一歩踏み込んで、下から見上げるように笑い。そして――

 

 後ろに光る紫の雷、空からうねる様に落ちてくる一条の光、完全に不意打ちにも近い一瞬の一閃。それをアサシンは目にする事すらなく、くるん、と彼女は袖を翻し、その場で一つ回りながら、軽くその紫の光を振り払って。

 にんまりと、もう一度俺に笑って見せた。

 

その姿は、あんまりにも艶やかで。引き付けられて。

 

「こうやって、血の見せ合いしとる時くらいは、そんな事忘れてもええんやないの?」

 

 そしてそこから紡がれたのは……まるで、悪魔のささやきにも似たような、あんまりな言葉だった。それは。

 忘れちゃいけない事の筈なんだ。コレは。必死になって答えを出さないといけない俺の事情なのに。それを忘れろなんて、よくぞまぁ口に出来たもんだと思った。

 想うのに、どうして俺は……咄嗟にその事を否定できないんだろう。

 

「無駄に解決しないまんま、悩んで死ぬのも馬鹿らしいやろ」

「そ、それは……」

「それに、今、旦那はんは一人とちゃうし……ウチも巻き込むの趣味なん? ふふっ、旦那はんに手ひどい扱いされてしまうん? ほんのちょっとだけ、昂るわぁ」

 

 ぎしり、と頭が軋むような音がした気がする。酷い話だ。まるで俺の心の中の傷を抉って来るみたいな言い方で。

 あぁ、でも、そりゃあそうなんだ。アサシンが言う通りなんだ。

 俺が悩んでいるこの一瞬で、ほんの僅かの、一手の遅れが生じるかもしれない。

 

 その僅かな遅れが、特異点という余りにも厳しい環境では、致命的なダメージに繋がりなりかねない、酷く厳しい。

 

「……っ!」

 

 自覚はあった。正直な話。

 俺は自分の過去を蒸し返された時から、それを理由に『自分から折れた』んだってのは。結局の所、辛くて、耐えられなかったんだ。

 こんな力使ってられるか、っていう反発も。流れる血が恐ろしい、って恐怖も。俺のした事は一生ついて回るんだ、っていう絶望も。そして、その絶望に、殆ど、諦めたみたいに感じた、納得も。

 

 全部に負けて。使わず、そして『悩む』ことを選んだ。どうやって向き合えば良いのかを。それを先ず探さないと……嫌で嫌で、しょうがなかった。そうでもなしないとマシになれないと思ったから。けれど――

 

「……今は、それじゃダメか」

「ウチは別に構わへんよ? そういう『終わった』喧嘩も、それはそれで味わい様はあるし。ゲテモノも、嫌いやあらへんしねぇ……せやけど、旦那はんは?」

 

 ――今、少しでもマシになるなら。それじゃダメらしい。

 

 あぁ。アサシンには感謝しないと。俺は……藤丸達と一緒に、また特異点で戦う前に一つ確認することが出来た。酷く当たり前の事だけど。

 

「まぁ、真面目そやしね。納得できへん、って言うんなら……取り敢えず、今だけ、お試しでやるのもええかもね」

「……今だけ、か」

「せやせや。気に入らへんかったら、後からサッパリ辞めたらええし。悩みながら戦うっちゅうんも、上手い事出来るなら悪いとは言うとらんし、なぁ?」

 

 ……笑いがこみ上げてくる。まるで、麻薬に手を出させる時の誘い文句じゃないか。そう言えば、鬼というのは西洋ではデーモンとして扱われるらしい。デーモン、即ちは悪魔という事で。成程、堕落を誘うは、魔性のやり口か。

 だが、今は。そんな麻薬で頭キめてでも。立ち上がる時か。

 

 奥歯を強く噛みしめて。拳を握りしめて。がりがりと頭の中の、理性を削り落とすように。それを、受け入れる。

 

「――なら、今だけのお試しついでに一個追加で。俺の血の事を思い出させてくれやがった混血サマに八つ当たりコースだ!」

「んふふっ……それは楽しそやねぇ」

 

 そうだ今は。

 

 どの面下げて血の力を使うとか。

 過去の事とか。

 どうやって向き合うとか。

 

 そんなもん――一旦、忘れる! 悪魔の誘いにも乗ってやる! 二度と戻れないかもしれないドラッグキメて、改めて真っすぐ突っ走らせてもらう!

 ああくそ、酷いもんだ。懺悔とか、そう言うもんを忘れちゃいけない罪人の筈なのに。それでも……感謝したくなってくるぜ、アサシン。

 




な、なんで俺は勝手に能力を……使うつもりなかったのに……!

普通の人:それはね~お諭しパート~
アサシンちゃん:そんな事忘れて血だ! 喧嘩だァ!!

脳筋か?
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