FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十三章・裏:振り向けばそこに

 使う積りはもう無かった。

 あの景色を見て、あんなクソみたいな景色を生み出した、あの家が崇めてたこの血をどうしてまだ使う気になれるか。本当に、考えたくもない位に。

 けど……そうだ。俺の苦しさなんざ、全然関係なく脅威は襲い掛かって来て。悩む暇なんざくれないんだ。

 

 甘ったれて、悲劇のヒーローを気取ってる余裕なんてのは存在しないんだ。

 どれだけ苦しくたって、誰かを俺の無駄な葛藤の迷惑の巻き添えにしていい訳がないんだ。

 

 ……だから、どれだけ嫌でも、こんなものに頼りたくなくても、吐き気がしそうな気分になっても。

 

「ふふっ……えぇね。分かるわぁ……滾るわぁ!!」

「っ……!」

 

 やるしかないんだ。必死になって食らいつくしかない……とはいえ、最初っからまぁそんな割り切っていける訳も無いのだから――今回だけは盛大に、八つ当たりさせてもらうつもりだが!

 

「ほうら!!」

「……かっ……!?」

 

 その八つ当たりを助けてくれる一撃。懐に飛び込んだアサシンの振り上げた斬撃が思いっきり頼光にヒット。跳ね上げられる刀、そしてガラ空きになる懐。アサシンは――どうやら上、それなら、俺は!

 

「胴だってんだぁ!」

 

 アサシンの脇を抜けて、ドストレートを、そのしなやかなおボディ様に一発のしたたかなプレゼントを!! ぐぃっとした感触に感じるのは……やっぱそうだよなっていう納得の感覚が返ってくる。

あぁこりゃあ――全然通じてない! 流石は神秘の塊サーヴァント、たかが混血のパンチ一発じゃあまるで意味もねぇか。とはいえ。

 

「揺らいだな――ぶへっ!?」

「はいはい下がっとき」

 

 ……ちゃんと頼光の体が僅かに身じろぎしたのを確認した所で、後ろ向きに軽く蹴っ飛ばされた。あの、普通に頭クラクラするんですけどアサシンさん。もうちょっと手加減をばして欲しいんですが。死ぬぞ、俺普通の混血ぞ。

 

「あたーっ……っと、おぅお見事なもんで」

 

 そう思って顔を上げたところに広がっていたのは――俺の一撃で揺らいで、隙を晒したそこに剣を振り上げて胸板を縦に切り裂いた、アサシンの姿。

 先ほどの太刀の一撃を返すかのような豪快な一発、鮮血が飛び散るのが見えた。間違いないダメージ。

 

「カッ――!?」

「遠慮せんでええよ、もっと沢山お見舞いするさかい……たらふく味わえば、宜しおす」

 

 そして、振り上げた剣を掴み直しそのままに――さらに打ち下ろす追撃が、傷口を更に深く抉る――筈だったがしかし、それは流石に頼光の刀がすんでの所で受け止める事に成功していた。

 だが、にんまりと笑う。やはりこの状況下、二人の実力が拮抗しているからこそ、俺みたいな大したことのないやつの介入でも……十分天秤を傾けるだけの、力はある。

 

 アサシンが踏み込む。もう一度、刃がぶつかり火花を散らし、剣劇が始まるその一瞬に地面に足を手と両足を突いて……姿勢は、クラウチングスタート。一番早く突っ込めそうなイメージの奴。

 

 アサシンがぶつかり合っている間、何時だって殴り込める訳じゃない。

 とはいえ互いに拮抗している状況、アサシンの攻撃だって、さっきみたく入る時は全然ある。そこに、さらに『もう一発』を打ち込む、追加の打撃が、俺の役割だ。たとえダメージは通らないにせよ、それでもさっきみたく、ほんの僅かな隙くらいは作れる。

 僅かな隙すら致命打になるのが――英雄と英雄の戦う聖杯戦争、特異点の厳しい現実なのだから。

 

「――ィッ!!」

「ふふっ、鬼さんこっちら……」

 

 だから、一瞬すらも逃さない。突貫する覚悟で突っ込んで、何としても叩き込む。

 その一瞬は、アサシンが作ってくれるものと信じて、しっかり見て、機を待つ。

 アサシンが片手で大剣を振り回す。直撃する。まだだ。瞬間的に頼光が反撃する――そうだろうな。全くよろけてるように見えなかった。

 ぴしり、と振り抜いた斬撃が、避けずにそこに留まったアサシンの肌を裂いたのが見えた。飛び出しそうになってしかし――アサシンが嗤う。足が止まった。

 それは、会心の笑い方だった。

 

「――手ぇ鳴らして、待ってたさかい」

 

 頼光が振り切った一瞬の間隙に、もう片方の――空いていた方の手が飛び込んでいく。体勢を戻せていない。分かる。避けられない。直撃する……!

 

「ガっ――」

 

 ぐらり、と頼光が、大きく、よろめいた。

 ちらり、と流して此方を見つめるアサシンと目が合った。頷くそのままに頭を低くしながら……飛び出した。真っすぐに。

 横を駆け抜ける。彼女が体勢を立て直せない位のダメージを負った、その最大の隙を突いた。気が付けば、目の前に、生気のない頼光の顔が、見えていた。

 

「……アンタの事について、同情はしねぇよ」

 

 手が震える。

 圧倒的な怪物を目の前にして、自分の生物的な本能に責め立てられてるみたいだった。

 目の前の女にかける言葉とは裏腹に。茹だる様な熱さの頭とは裏腹に。こうして、逃げようとも思わない心とは裏腹に。

 勝手に体が震えちまって、全然……収まって、くれない。

 

 あぁ、それもそうだろう。納得しか出来ない。俺に向けられるあの目は……守護者としての厳しい目じゃない。見られてるだけで、心臓の鼓動がゆっくりになる気がするくらいに怖い顔……俺を殺してやろうって、思ってる顔だ。

 

 コレが、無意識の下で荒れ狂う血の暴圧か。そう見えないのにそう思える。

 なんで俺は、今この人の目の前に立って、拳を振りかぶってるんだろう、って言うのもつくづく思う。でも。

 

「……」

「だから――悪いな」

 

 それでも、俺は――怯えてる事だけは、出来ないみたいだ。

 

 コレは決別の拳じゃない。取り敢えずの、現実逃避の拳だ。この一発で、俺は自分の過去から一旦、盛大に目を逸らす。この人理焼却に関係ない罪悪感とも、無駄な恐怖心とも、今だけは、取り敢えずバイバイだ。

 

 アンタに全て押し付けて、消す。

 酷い八つ当たりだと思う。恨んでくれていい。残念ながら、俺は藤丸程にはカッコよくもないただの禿げたチンピラだ。これくらいしか出来ない。

 同じ鬼を倒す、って言う理由で、無理やり奮い立って……同じ混血に、押し付けて。

 

「俺の、勝ちだ!」

 

 酷い事をたくさんしてでも俺は――前を、向かせてもらう。

 今はせめて、少しでもマシになって……立ち上がる事だけはしておきたいから。

 

「おぉらぁっ!!」

 

 突き出した拳が、柔らかな頬に突き刺さる。チクリと胸が痛む。女の人の顔を素手でぶん殴る、なんて。つくづく正義っぽいことは出来ないなって、笑いすら漏れてくる。それでもなお――この拳に、手ごたえは、有った。

 

 後ろに流れる頼光の体。

 倒れる、そう思った――が、しかし倒れない。

 

「いっ!?」

 

 マズい、しくじった、死ぬっ、下がれ――間に合わない。

 頭の中を無数の思考が駆け抜けて、地面を転がって避けながら地面に伏せるように危険を避ける体勢に入って……けれど。何時まで経っても、反撃の刃は飛んでこない。

 

「……あれっ?」

「――安心なさい。異邦の魔術師さん。もう、私に戦う力は、残ってません」

 

 酷く、穏やかな声が聞こえた。

 ハッとして顔を上げる。先ほどまでの殺意たっぷりの顔じゃない。寧ろ、優しく……まるで『お母さん』みたいな、そんな顔で、笑いかけてくれていた。

 源頼光は、今、確かに正気を取り戻していた。

 

「――目ェ覚めた?」

「えぇ。悪い夢から、漸く――最初に見るのが、貴女であることが、非常に腹立たしいですけれども」

「見たのは旦那はんやろ?」

「その子は下に伏せていたので、一瞬目に入らなかったのですよ」

 

 そして、もう一つ。その体から、黄金の輝きが立ち上っている事にも気が付く。どうやらちゃんと今の一発はトドメになっていたらしい。とはいえ……ギリッギリの所まで追いつめてもらってからの一撃だったが。

 

「――お見苦しい所をお見せしてごめんなさい。そして、私を止めてくれた事、本当にありがとうございます」

「あ、いえいえ。そんな」

 

 しかし、彼女はそんな死ぬ直前ですら、俺に向けて見惚れる程綺麗なお辞儀を一つ寄こして来る。戦っている最中の様子でも何となく分かっていたが、真面目な人なのだろう。体を起こしながら、こっちも頭を下げた。

 俺の覚えている母さんと……うん。ちょっと似ている気がする。母さんも、何処か大人しくて真面目で、大和撫子って人で。いやここまでは強くなかったけど。

 

「……」

「あ、あの、なんでしょう」

 

 そうそう、怒る時はこんな風に少し悲し気な瞳でこっちを見る事も……いや、なんでこっちをジッと見ているんだろうか。

 その疑問は――彼女の表情が厳しそうな、苦しそうなモノに変わった事で、一つのある予感に、変わった。

 

「ごめんなさい。もう時間がありません……ここから早く逃げなさい、魔術師さん」

「え、なんで――」

「私は、元はこの特異点に『カウンター』として呼ばれたサーヴァント。敵対者を狩るために。まだ、敵対者は――()()()()()()、立っています」

 

 ――それだけを言い残し。

 

 頼光は、黄金の光の欠片となって消え失せた。

 

 一つ。大きく呼吸をして、天を見上げた。

 雷を支配していた雲が晴れて、綺麗な夜空が見えて来ている。そして、その間から差し込む満月の光も。それはまるで――魔の時間の始まりを告げている様な、妖しげな色を纏っている様に見える。

 

 その光を追いかけるように、振り向いた。

俺の後ろ。立っている奴は独りしかいない。俺とずっと一緒に戦って来てくれた、アサシンのサーヴァントが。

 

「――ほんま、最後までつまらん女。ウチからバラした方がおかしいと思わへん? なぁ旦那はん」

 

 いつも通り。

けらけらと軽く笑いながら。彼女はその手に付いた頼光の血を、舐め上げた。

 




味方だったサーヴァントが裏切る1,5章要素を一章時点で欲張る投稿者がいるらしいっすよ。
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