FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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た だ い ま


第八十六章:討鬼の巻・その一

 今の酒呑童子について。

 

『先ずもって人間が戦えてしまっている時点で弱体化著しい』

 

 カルデアにいるお歴々ならそう言うだろうと思う。まぁ、サーヴァントと言う物を間近で見てる俺も、普通なら同じ判断を下すとは思う。双方の見解は一致、ならば弱体化してる、でQED……になる筈なのだが。

 

 しかし、しかしである。

 事実と言うのは現場に出なければ分からない事も多い。外から見ているだけでは分からない事も多くある。

 

 例えば、キッチンなんかで感じる熱気。アレは焔が熱いのだから、顔の辺りが熱そうだなぁー……とか思ったりしたのだが。あの熱は実はキッチン全体に広がっていて。文字通り料理をする時は、冬でも真夏並みの温度になる事も少なくない。

 そんな事は常識だろう? そう思う人もいるだろうが……しかし、知識で聞いているだけでは、それがどれだけの事かを実感する事は難しい。

 

 そんなキッチンの熱気の様に……今、目の前のサーヴァントの勢いは、こうして肌に感じる事でしか理解できないだろう。

 

「っあァ!」

 

 ――地面を転がりながらも回避には成功、何とか体を起こす。

 

 さっきまで俺が立っていた所に振り下ろされているのは、特大の両刃剣。酒呑童子が愛用している得物だ。もしあと一歩でも退避が遅れていたら俺は、綺麗に真っ二つ、まるで料理人に捌かれた魚の如くにオロされていたと思う。

 背筋とか肝とか、色んなモンがまとめて冷えた。

 

「あぁんもう、いけず。そぉんなころころ、逃げへんでもええやん」

 

 しかし剣を振り下ろした当人は、こっちの恐怖などまるで気にもせず、寧ろ不満すら漏らす始末。一応、元マスターなんだからもうちょっと気遣いをだな……と言おうとしてから、そんな手合いではないと思い直してから、素直に文句をいう事にした。

 

「逃げるわぁ!! こちとらステゴロだぞ! お前とは間合いが違うんだ間合いが!」

「ええやん、腕一本くらい賭けて、ウチにかたぁいの、おくれやす……♪」

「おうもうちょっと待ってろや、五体満足でゲンコツくれてやるよ!!」

 

 ……取り敢えず、心からの文句を言った事でスッキリした。立ち上がり際、大きく呼吸を一つ。息を整え直して真っすぐと改めて前を向けば。

 酒呑童子……アサシンが笑っていた。

 サーヴァントが現界するのに必要不可欠な魔力供給は、もうされてない。例えるならばガス欠寸前のスーパーカー。燃費が最悪クラスの超高級パワフルマシンは、燃料が無ければ動ける訳がない筈……なのだが。

 

 目の前の彼女は、何が楽しいのか、ゆらゆらと、舞踊ともステップともつかない足取りで揺れながら、満面の笑みを浮かべている――牙を見せつけて、ちょっとだけ眉をハの字にして、『嬉し過ぎて困ってしまう』とでも言いたげな、顔を。

 

「うふふ、萎えてへんみたいで安心したわぁ。元気がいちばんやねぇ」

「そりゃあなぁ!」

「ほな――次、いくで?」

「ああくそ……こいやぁ!」

 

 ぴょん、と。

 彼女は跳ねた。その表情が、こけおどしではない事を、存分に見せつけるように。

 

 剣について文句を言われたからか、今度は……敢えて此方に見せつけるかのように、片手を、その指先の爪を、大きく振り上げて、飛んでくる。下がるか、当たるか――もう一度撤退。転がるのではなく、一歩飛び下がる……しかし、その一歩は全力。

 

 地面を蹴って、下がり――鼻先を掠める勢い、五つの矛が、横から空の場所を薙ぐ。

 直撃していれば。俺の頭は、地面に叩きつけられたトマトよりも酷い有様になっていたかもしれない。

 

「……やっぱりいけずやん?」

「あのなぁ! お前ほど頑丈じゃねぇんだ! それとも負けるつもりで猪みたいに突っ込んで欲しいか!?」

「それはつまらへんよ」

「そんな真顔で怖い顔すんなら初めから言うなアサシン!!」

 

 余りの理不尽に叫びつつも、ある種の確信を得る。

 ……アサシンの動きは、確かに遅くなっているかもしれない。だがしかし。その動きにぎこちなさは何処にもない。

 

 なんだったら、此方に向けて跳ねるその一瞬……軽く曲げた膝、地面を蹴った指先、そしてバレーボールでも打つかのような姿勢から、掲げられた指先に至るまで。無駄な力みは何処にも見えないし、しなやかに躍動し、綺麗に振り抜かれて。

 そう、寧ろ頼光と戦っている時よりも、何処か活き活きとしている様にすら見えてしまうのだ。

 

「本当に楽しそうな事で……」

 

 燃料不足で、足を動かすのにも一苦労、不利な状況で大分苦しんでいる……スーパーカーにサーヴァントを例えたのだから、そう思うのも全然不思議な事ではないのだが。それが的外れに思う程、今も酒吞は楽しそうに此方に歩みを進めている。

 しゃなり、シャなりと……足先で土埃を払いながら、いっそ優雅と言えるほど、余力すらある様な歩き方で。

 

「――っ!」

 

 そんなゆったりした歩き方されたら――突っ込まざるを得ない。

 

 額が焼けるように熱くなったのを確認してから。

 土を削るくらいの気持ちで、思い切り大地を蹴り飛ばして、前へと飛び出した。ちょっと足が痛いくらいだが……思った通り、あっという間に俺の体をアサシンの目の前に運んでくれて――

 

 若干痛いくらいに固く、強く、五指を結んでげんこつを作ってから、腕を思いっきり背後に向けて、振りかぶる。弓に番えた矢を、思い切り、引き絞る。一発で撃ち抜く。額を殴る。角をへし折る。そのつもりで。

 

 振り抜く。

 

「……そんな軽々受け止められるとショックなんだが」

「軽々、やなんて。今のウチがそんな大したことできる様にみえる? ほぉんま、手が痛くて痛くて、たまらんわぁ」

 

 いや、振り抜いた気になってた。だけだったらしい。軽く手の甲で攻撃を受けていた。掌じゃない。普通、拳がめり込もうもんなら悶絶モノの方だ。だというのに、俺の拳がガッチリヒットしても、まるで痛そうにしてない。

まるで通じてやしない。弱体化してるとか何の冗談だろうと思う――

 

「――ぉっ!?」

「あん、惜しいわぁ」

 

 鳥肌が立つ。アサシンの鋭い蹴り足が、こめかみ狙いで飛んで来てた。こっちのパンチとは違って、直撃したら普通に致命傷になると思う。

 ……やっぱり、楽しそうに、そして伸びやかに飛んでくる。鈍くなった動きを、身体に満ちた活力が補っている。

 

「楽しいかい、アサシン!!」

「楽しいわぁ……!」

 

 振り抜いた蹴り足。背後を向いた、今が機会――そう思っていた所で、動きに違和感を覚えた。ただ後ろを向いた、と言うよりはこれは次につなぐための――

 

 後ろ回し蹴りの姿勢。

 噛み砕く位の勢いで、歯を食いしばって、力込めて背後へと――倒れ込む。

『跳ぶ』なんて言う上等な真似は出来ない。一歩でも遅れたら引き絞られた一矢を回避するのが間に合わない!

 

 びゅん

 

 ……背中から、受け身すら取らず思い切り叩きつけられて。若干顔が歪みそうになったその直後に、前髪を揺らす程の風圧を伴って、アサシンの蹴り足がまっすぐ顔面の目の前を通り過ぎて行った。

 アレが腹にめり込んでいたら痛いじゃ済まなかっただろうなぁ!

 

「あっぶ――なぁいっ!?」

 

 一瞬、落ち着く間もなく全力で転がり――風圧に圧し飛ばされて、転がるどころかさらに遠くに吹っ飛ばされた。酒吞の踏みつけの風圧は、俺を軽く吹っ飛ばすくらいの勢いがあって……それを俺の股間目掛けて振り下ろしてきやがりました。

 

「ひぇっ……そこ狙うとか冗談だろ……?」

「アカンねぇ……あかんわぁ、滾って、ついおいたしてもうた」

「おいたってレベルの所業かコレ!?」

 

 男としての象徴を破壊するおいたとは。許しがたい。

 

「せやけど旦那はんに着いた時から――ずぅっと待ってたんやから」

「この時をかぁ!?」

「せやで」

 

 だとしたらとんでもないじゃじゃ馬としか言いようがない――と、飛び掛かって振り下ろされた大剣から、ギリギリの所で逃れてから、あぁ言いようがないではなくじゃじゃ馬だった、と改めて実感し。ようやく拳を構え直す事が出来た。

 

 ……まぁ想像は、出来なくもない。というか納得はしてしまう。

『どうして楽しみにしていた』とか細かい理由に関して一旦、一旦何処かへ投げ捨てるとして。目の前のサーヴァントが、マスターと殴り合いをするのを楽しみにしていたという一点だけは。

 

あらゆる理屈をかなぐり捨てても、納得できてしまうのだ。

 

「……アサシンらしいなぁ」

「ふふっ、せやろ?」

「でも、らしくない事もある」

 

 ……そうして納得してしまったからこそ。

それでも納得できない部分も見えてくる。

 

「はじめっからそうだったのか?」

「――ちゃうねぇ」

 

 俺の問いに、アサシンは当然、とばかりに否と答えた。

 俺の言う『はじめっから』というのはこの場合……『サーヴァントとして俺の側に付いた時』になる。一応の確認がてらに問うて見たが、やはりそうだろう。

 

 こんな風に、殴り合う為に俺の味方に付いた……なら説明もつくが。何となく分かっていた。そんな計画的にコイツが動いたかと言えば、それも想像がつかない。

 アサシンは聡明だが、しかしそれを計画的に活かすのではなく、寧ろ刹那的に生きる際の『アドリブ』に故意的に使い潰している。

 

 そう。俺に付いた時も……ふと『思いついたから』此方に付いた。そこまでは良い。

 面白そうだったから。そう思って付いたのも、想像は付く。だけれども……そこまで凡そ想像が出来ても、納得が出来ない部分がある。

 協力者として。つかず離れずの距離にいる事も出来た。だが――ほぼ形式だけとはいえアサシンは『()()()()()()』事を良しとした。それも彼女が楽しそうだと思ったから、誰かに使役される不自由を楽しもうとするのも、ありえなくは無いけれど。

 

「なら――アサシン、どうして俺の『サーヴァント』になったんだ」

 

 そこだけが、今、一番しっくりこない。その問いに対し。

 

「……ふふふっ。さぁて、ね?」

「教えちゃくれないのか?」

「んー……せやねぇ」

 

「うち。それは、旦那はんに、考えてみて欲しいわぁ……!」

 

 裂けるような笑顔と共に、アサシンは此方に飛び掛かって来た――!!

 




FGO八周年おめでとナス!!!!

という事で投稿再開です。

SAITAMAの公式MADならぬイメージビデオ、クッソ良かったゾ……むせび泣いたゾ…… 
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