FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
どうしてアサシンが俺の『サーヴァント』になったのか?
思考するのは、マスターとして必要な事ではある。サーヴァントとの相互理解、彼らをより深く知る事は大切だ。
だがタイミングってもんがある。
「――い・た・だ・き」
「っ!」
少なくとも、こうして目の前に敵が襲い掛かって来てる……そんな状況に考えるべきじゃない。今、別に深く考えて思考を沈ませる必要は無い。
現にあと一歩、思考に気を取られていたら、多分俺はざっくりと胸元辺りを複数の十字に抉られて、ダウンしていたに違いない。
そうしてみたアサシンの両手、広げられた掌に感じる一瞬の違和感。両手の爪で攻撃したなら、剣は何処に――
「――上かっ!」
嫌な予感に、さらにもう一歩下がっておく。
直後……白銀の一閃が落ちて来て、俺が元居た場所に深く突き刺さった。
恐らくは、此方に襲い掛かる一瞬で放り投げて、爪を躱したところに自由落下で威力を増した剣がドスン、という算段だったか。
「っぶなぁ!!」
「せぇかい――よい、しょっ、と。よう分かったなぁ、旦那はん」
……地面深く突き刺さった剣を軽々と引き抜き、肩に担いで見せた目の前のアサシンの笑みを見て、どうして別の事に思考を割こうなんざ、どうして考えられるか。
戦いに集中しないといけない。戦えるわけがない。気もそぞろなままだったら俺はコイツに縊り殺される。それは……今の一瞬で凡そ分かった。
だが。
「……っち」
どうしても、思考をすぱっとやめられない。
思考してみる。アサシンは、態々『考えてみて欲しい』と言った。
想像してみれば、とはぐらかすのではなく、どうでも良い、と切り捨てるのではなく。態々、考えてみろ、態々と口にしてきた。
……頼光との戦いで、心を攻めて戦いを有利に進めた。悪辣なやり方をも当然の如く熟すアサシンだ。これも、無駄に考えさせてその間隙を突く。そんな罠かもしれない。寧ろそれを警戒して、戦いに集中するのが一番だろう。
「でもよぉ……!」
アサシンは、自分から魔力供給を打ち切って。こうして態々、致命的なハンデを背負って戦っている。別に、俺から魔力を吸い続けることだって出来た筈だ。契約の破棄の仕方なんざ、俺は知らないのだから。
それでも尚……アサシンが自ら重たい枷を負ったのは。
奴の俺への義理立てだと、思いたい。
悪鬼羅刹だ。文字通り、人とは相いれない存在の筈だ。だけど、俺は知っている。奴は人の価値観とは違う法則の中に生きている。それでも――義理を知っている。情を知っている。心も無い怪物では、無い。
触れ合って、それを知っちまった。
「だからなぁ……」
知って。それを見て見ぬふりをして、アサシンを悪者扱いをして。
もしそれで、アサシンと戦って、殴り勝てたとして。きっとその事は、一生喉に突き刺さったままになる。
ただでさえ、クソみたいな思い出を背負ってるんだ……これ以上、胸にチクリと刺さる様な思い出は残したくない、せめて――
「……」
「なぁに? こっち見て」
――あぁ、せめて。
目の前で、自分と共に戦ったサーヴァントとは……後腐れの無い、すっきりとした決着をつけたいから。
そもそも、俺がこうしてここに立っているのも、最後まで自分のサーヴァントと向き合おうと思ったからだ。ここで逃げ出して何がアサシンのマスターかって奴だ。だったらもう最後まで我が儘にやってやろうじゃねぇか。
視線を真っすぐ前に向ける。
俺が思考を回していても尚、多分、アサシンは欠片も手加減なんてしてくれないだろう。そんなのは分かってる。抵抗しないのは論外だ。だがそんな合理的な考えだけで、人理修復やってきた訳じゃない。
「――いいや、覚悟完了しただけだ。続けるぞ」
「へぇ?」
少し、腰を落として、ボクシングみたいに両の拳を、構える。
だからって何もないで考え込まないのは論外なんで。全力を注ぐつもりではあるけれども。しかし、頭の中で別の事を考えながらアサシンと殴り合いとか……普通に死にそうだなぁ。
ああクソ、藤丸の事『お人よしだなぁ』とか考えてたけど、俺も大概、賢い選択は出来ない奴なんだなぁ。うん。
「ふふ……旦那はん、本当に律儀やねぇ」
一つ溜息付いたその直後、少し揶揄う様にアサシンは笑って。
まるで、内面で必死にもがき苦しんでいる俺の内心をあっさりと見透かしたような事を言われ、思わず顔を赤くしてしまう。古い時代を生きた鬼のお嬢さんには、若い青少年の悩める心なんてお見通しってか。泣くぞしまいにゃ。
「旦那はんがそんなにノってくれるなら、ウチも手は抜かんようにせんとなぁ?」
「……出来りゃあ考え事に集中させて欲しいけど」
「そんなん旦那はんに失礼やん、ねぇ?」
「ねぇじゃねぇ。なんでこんな時ばっかり律義かなぁ!?」
まぁそう言うタイプだって知ってるけどさ。
一瞬、そう思って視線を合わせて――既に、右の手が顔の傍に持ち上げられているのが見えた。
「――っ!」
その直後、まっすぐ伸びてすっ飛んでくるくる手刀から、先んじてしゃがみこんで転がりながら逃れて……アサシンから距離を取った。
首狙い。なんだったらさっきより殺意が増している気がする。
んで。ちら、とアサシンの方を確認してみる。なんだろう。にこにこしてる。戦場に似合わない位イイ顔してる。殺意マシマシの一撃とまぁ相反する顔をしている。
テンション上がったら『よーし、ヤっちゃお♪』になる辺り、絶好調だなホント。
……冷静に考えてみれば。ちょっと気が変わっていれば、一緒にいる時だって、こうなる可能性は全然あった訳だ。そう考えると……少し、光明が見えてくる気がする。
「待ってたんなら、もうちょっと時間かけて楽しもうとかは無い訳か!」
「うち、焦らすのも好きやけど……焦らされるのは、嫌やし?」
「あぁ素直で大変宜しい!」
アサシンが心変わりを起こさなかったとすれば、それはそれだけのとっかかりがあって彼女の心を動かさなかった、という事ではないだろうか……都合の良いモノの考え方をしているだろうか。鬼と人との心の機微はきっと違うというのに。
愛しいからこそ殺す。楽しいからこそ打ち壊す。恋しているからこそ喰らう。
そんな倫理が成り立つのが鬼だ。だけど――アサシンは、そこに至る過程を楽しむ事が出来るタイプではある、と言うのは分かっている。
コレが最終的な到着地点として。そこに至るまでの過程も楽しんでいた、と仮定するなら。アサシンは、そこを俺に言わせたいのだろう。
言わせたい事、俺を背後から討たなかっただけの理由……それは、そう遠くはない気がするのだ。そして、過程を十分に楽しんだからこそ。彼女は俺に、殊更楽しそうに牙をむいて来た。
「……一番の違いは、コレだよなぁ」
そう言いながら、額を撫でると――ばちり、と指先に走る、軽い痺れ。
稲妻が如き、エネルギーのによって構成された、紛れもない『角』
アサシンと組んでいた時の違いと言えば。間違いなく、今、俺の額ににょき、と生えている『コレ』だろう。自分の血の中に流れている、鬼の血を再び目覚めさせて、俺はアサシンと向き合っている。
じゃあアサシンは――コレを待っていたのか?
「……違う」
自然と口から漏れていた。
もしこれが見たかっただけなら。あの時、頼光と戦った後で、即座に戦闘に入っても良かったはずだ。一旦、仕切り直さなくても良かった。
……アサシンは、一度仕切り直したこの状況を、『待っていた』んだ。じゃあ、どうして仕切り直す必要があったのか。
「――」
「――」
不思議な時間だった。
さっきの一撃から逃れた俺を、アサシンはただ見つめていた。視線が間違いなく交差して、お互いにはっけよいで飛び掛かれる、そんな絶妙な間合いなのに。
薄氷でかためられたみたいに。お互いに視線を交わして動かない。
どうして更に仕掛けてこないのか。そんな当然な疑問をかなぐり捨て、勝負に不必要な思考がよく回る。
仕切り直す価値は、有ったかもしれない。
だってアサシンは、こんなにも自由奔放で、強くて、美しい鬼なのだ。
こんなにも綺麗な存在と、誰にも邪魔されず、自分と彼女の二人きり、一騎打ちで戦えるというのであれば――
「……あれ」
そこで、回る頭が、止まる。
そもそも、前提として。彼女は鬼なのだ。自分の血の中に流れる……その大本と同じ存在なんだ。今自分は。
どうしてこんなに、彼女と穏やかに向き合えているのか?
「……これ、は」
一つ。何か大切なピースを見つけ出せた気がした。
アサシンが敵に回った時、俺は……もっと、もっと憎悪の類を剥き出しで、彼女と向き合っても、おかしくない、筈だ。自分の血への恨みが、身勝手に、八つ当たり気味に暴れ出して……悪意と怒りに塗れて突撃しても。全然。
でも、今俺は、寧ろその事について、穏やかに冷静に考えられている。
『鬼』と言う存在を、警戒していない訳じゃない。
彼らの生き方は人とは違う、と何度も言い聞かせている、けど。
「――旦那はん、うちの事、好きなんやねぇ」
視線の先で、アサシンがクスクスと笑う。
俺は、どうやら――鬼と言う存在が、そこまで嫌いではない様なのだった。
可愛い鬼っ子が嫌いな男子は居ない。古事記にもそう書かれている。