FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十六章:討鬼の巻・その三

 鬼と言う物に、もっと爆発的な感情を抱いている、と思っていた。

だけど……思えば、最初の時点で『アサシン』という鬼の少女が自分のサーヴァントとして一緒に戦っていた、と言う偽の記憶を受け入れていたのだから、そんなモノは存在していなかったんだ。

 

「……好きかどうかは、分からないけどな」

「そうなん? うちの事、初めっからずぅっと見てきたさかい、てっきり」

 

 俺の言葉に、アサシンはその事を『分かっていた』かのように笑っていた。

 

 ずっと。俺とマスターとして契約してから、ちょっとしてからか。それとも、事情を知っていたのだから、もう初めから彼女から見抜かれていたのか。今の言葉と共に、俺に笑顔を見せたのは。直接は言わないその代わり、言外に……

 

 不思議な話だ。

 自分の血を恐れ、忌み嫌い……骨の髄どころか、脳の真ん中にまで染みついて、焼き付いた、暗い感情は確かにあった。それは……この前、嫌って程見せつけられた。

 忘れてスッキリした、なんて思いこんでいたけれど……忘れる事なんざ出来ないと。

 

 でも、酒吞童子……いや、アサシンという『本物の鬼』を見て、それを爆発させたことは全然なかったし。寧ろ、自分で爆発させようにも、そんな火種すらなかったというのが本音だ。

 

『嫌で嫌でたまらんのとちゃう? そこはよう知らんけど……まぁ、あの女なら、自分の中の『鬼』を殺そうと位はしても不思議やないなぁ?』

 

 あの時。

 酒吞と、頼光さんの事を話していて。落ち込んで、辛くて……正直、若干泣き出したい気持ちすらあった。だが。

自分の中に流れる血と、同種のモノの話をしているというのに。煮え滾る様な激情に捉われる事は、まるでなかった。

 

 だが……それらよりも、おかしかったのは。それを『不思議』と思わなかった事だ。そして、自分の中で納得してしまっていた事だ。

 自分の中で、最も重要な位置にあったはずの。『鬼の血』というモノに、こだわっていなかったことに何処かで気が付いたことだ。

 

 ……目の前に地獄を生んだのは、その血のせいだったはずだ。鬼と言う物が俺達に仕込んでくれた悪意のせいだった。それが、俺達を狂わせた。

 けれど。そう思えないなら、何が違う。俺は何を分かっていた。

 

「……あぁ、そうか」

 

 一歩、前に踏み出す。一つ、結論が出た。

 俺がどうして、こんなに鬼と言うモノを忌避したり、嫌っていなかったのか。

 

「俺は――血に宿る鬼よりも悍ましいモノを知っていたんだ」

 

 それが、あの悲劇を生んだと知っていた。

 歪んでいったのは血に宿った魔性のせいじゃない。長い時間をかけて、一族が『自分達』で少しずつ歪めていった。自分達の在り方を。

 

 俺たちの始まりは悪意に塗れたような生き方でも、その後、どうするかは自分達で決められた。それを――一族を『浄化』して貰って罪を清算するなんていう、イカれた方向にもっていったのはあいつ等だった。

 

 思い出す度に、顔が煮えるように熱く、胸がむかむかと気持ち悪くなっていく。一つ一つ、口を開く毎に……酷く感情が荒れ狂う。

 クソみたいな記憶と向き合って。一つだけ、分かって良かった事を、見つけられた。自分が『何を』憎んでいるのか、今ここで、明確に分かった事――

 

「アンタ達を憎める訳がなかった……!」

 

心が、叫ぶそのままに。真っすぐと突き出した拳は、やはり酒吞童子の掌に柔らかく包まれて、受けられた。

 

「……俺はあの人に同情できなかった。同じ立場でも、明確に違いがあったから」

「ふぅん?」

「あの人は、自分の中の血に本当に苦しめられてきた……俺達は違う! 血のせいで苦しんだんじゃない、自分たち自身で、喜んで自分の首を絞めたんだ!!」

 

 外にも出ないで、山の中でぬくぬくと引きこもって。自分達が楽になる道を、気の狂うような年月、まるで昆虫みたいに機械的に這い進んできた。自分達の血と向き合うってことをして来なかった!

 そんな初めから諦めていたような奴らに、誰が同情して欲しいだろうか。

 

「アンタらは、自分達の生を必死に生きてる。俺達は……何時か訪れる『救い』とやらに目を潰されて、もっと他に目を向ける事が出来なかった。結果が、あのザマだ」

「……」

「俺達は、鬼よりも悍ましいナニカに成り下がっていた。だから――」

 

 ……アサシンを、ずっと傍で見ていた。

 

 恐ろしい生き物だと思った。とんでもない怪物だと思った。畏怖した。

 でも。ただ恐れる訳じゃない。俺と一緒に居た時に、くるくる、と様々表情を、心の機微を、見せてくれた彼女を見ていた。

 

 万華鏡の様に、なんて。本当に綺麗な生き物じゃないと、そんな『誉め言葉』なんて思い浮かばない。金時の雷を奪った頼光に怒った彼女に、『鬼として人と寄り添う』姿を垣間見た。イイ女だと思った。

 

仮初のサーヴァントでも、記憶を失っていても、それでも最後まで『信じる』事が出来るようになる位に、何時の間にか惹かれていた。

 

「――余計に、お前の事を、『美しい生き物』だと思った」

 

 口から、言葉が零れてしまう。

 

「自分達と、元は同じなのに。こんなにも『自由』に生きてる。自分勝手に生きて、警戒させて、畏れさせて、見惚れさせて、熱くさせて……あぁ、クソっ。もし一族がアンタの様な鬼を見たのなら! そうなるのも納得できてしまった! 俺も、惹かれてたから!」

 

 本当は昔から分かっていたんだ。

 ゴルゴーンさんだって、大本は俺の血に流れる『魔』と似たような存在だ。だけどそれを特別警戒した事は無かったし……冷静に受け止めることが出来ていた。そうある事が出来た。悪意って言うのは、血や肉に宿るんじゃない。生き方に宿るんだって。

 

だったら、憎まずとも、アサシンを意識していたのか。血の大本だと、何故殊更に、そう思っていたのか。思ってもいない事で、無理矢理に警戒なんざしていたのか。

 かつての記憶が、警鐘を鳴らしてたんだ。無意識のサインとして。

憎むどころか。心の奥底で、コイツに惹かれ始めていたから。このままじゃ、俺も同じようになるかもしれない、と何処かで恐れたから!

 

「――自分が、アレだけ、忌避した生き方に……あぁ、信じらんねぇよ、ほんのちょっとだけ、共感しそうになったんだ! お前を、見ていただけでだ!」

 

 ほんの短い間に、どうしようもなく惹かれて、共に戦うサーヴァントとして背中を預けられるようになった。足手まといになるのは嫌だと、強く願うようにもなっていた。アレだけ嫌だと思っていた血の力だって、あっさりとアサシンの言葉で、扱う気になっちまった……!

 

 血がそうさせたんじゃない。

 人の所為にするようではあるが……アサシンが、狂わせてくれやがった。

 

「お前にだったら――」

「――殺されても、良い?」

 

 歯ぎしりが止まらない。

 何時しか、そう思ってしまっていた。別に、殺されたい訳じゃない。でも、アサシンが裏切って、俺と戦いたいってなって――それでも、俺が自ら、拳を使って戦おうと思ったのは。自分にリスクを賭けてでも、戦いたいと思ったのは。

 

 コイツとは、自分で決着をつけたいと思った。そしてその時、負ける想像をしなかった訳じゃない。自分の心臓を抉られる事を想像しなかった訳じゃない。でも、そんな想像が思い浮かんでも尚。

 

『あぁ、それでも別に構わねぇかなぁ』

 

と思っていたから――

 

「……アイツらの思想に同調なんざ出来る訳がない。でも、そうなってしまった事に、理解出来ちまった。あぁ、お前みたいな奴を見たのなら。そんな風に、狂ってしまうのもきっと、あり得ない事じゃないって」

「旦那はんは、ウチに狂いたいん?」

「――いいや、そんな事はない」

 

 だから、コイツの目の前に立った。

 殺されても構わない、っていうのは……自分なりの覚悟だった。アサシンと、真っ向から向き合って、恥じないマスターとして、最後まで居たかった。その思いだけは、嘘じゃないから。

その為に、例え世界を救うために戦う定めを背負っていたとしても。否、それだけの重みのある命だからこそ、賭けの代金として張るのは、悪くないと。

 

「でも、本当にそう思っていると、何故言える。もう狂っていないと……」

 

 でも、普通じゃない。その思考は。自分の命を当たり前みたいに賭けて、強大な敵に対し身一つで挑む。あの一族と、どれほど違う? イカれ方だけなら、恐らくはどっこいだろうに、それでも尚、俺が狂っていないと、誰が保証してくれる。

 

()()()()()、目の前に立とうと足掻いた。その後は――殺される事を望んだ」

 

 酷く。似合わない、優しげな声が聞こえた。

 握られた拳に、ぎゅう、と少しだけ力が込められたのを感じた。

 

 顔を上げる。

 口を、少し緩めて。果ての見えない高みから見下ろすように。禁忌に怪しく誘うように。蠢き、藻掻くモノに。地獄への片道切符を、そっと手渡すように……

彼女は、心奪われる程に綺麗な顔で、笑っていた。

 

「――旦那はんは、自分で目の前に立った。殺される覚悟と、戦う意思を持った」

「アサシン?」

「うちは、旦那はんの覚悟の方が、好きやねぇ。自分の思い一つで、自分の命一つ、当然に賭ける、そんな自分勝手な『鬼』みたいな生き方――」

 

 鬼の様な、生き方。

 

 自分勝手に。

 

 身勝手に振舞う。

 

 ふと思う。

特異点Fでセイバーの前に立った時、セプテムでローマで民衆と相対した時、オケアノスでイアソンと戦った時……俺は酷く、我が儘な理由で、血の中の魔を隆起させて戦ってきた。

自分が気に入らないのだから、と。

 

「うちに惹かれてる? せやったら――うちみたく振舞ってみるのも、ええんちゃう?」

 

 アサシンの様に。自分の好き勝手に。

 

 自分が最も嫌なモノには、なりたくない。惹かれて、狂って、終わって、そんなモノにはなりたくない――

 

 だったら。その先へ。

 

 惹かれたなら、惹かれた相手の様になればいい。誇り高く、自分のルールで、好き勝手に出来るように、嘗ての悪夢からも、自分の血に流れる悪意からも、全てを振り切って一人で立てるように。

 惹かれて、その後どうなるかは、自分次第だ。少しでもマシな自分になると自分の口で言ったのは、一体何処のどいつだ。

 

 歯車がかみ合う音がする。

 

「お前の様に――」

 

 そうだ。

 酒吞童子――アサシンの様に。

 

 

 

 我らが血に 鬼の血が流れているからこそ 強く在る

 誰にも 何物にも 負けずに ただ一人でも強く立つのだ

 

 

 

「鬼の如く――」

 

 どくん

 

 どくん

 

 どくん

 

 脈打っている。俺の血の中の何かが。沸き立つ。燃え立つ。煮え立つ。

 『負』の熱じゃない。眠っていたモノが、今まで表に出なかったモノが、本来そうあるべきだったモノが、目を覚ました――『生』の熱だ。

 ばちり、ばちりと額の角が、殊更に弾けだす。嬉しそうに。

 

 あぁ、今。枷は外れた。

 恐れは、ある。あるけれど――それでも尚。その先に、まだマシな自分がいるのなら。ならもう一歩だけ、先へと行くべきだろうよ。

 

「――そう。そうやで。上手、上手……」

 

 拳から、掌が離れる。

 アサシンが、一歩、二歩、三歩と離れて――追うように、一歩を踏み出した。

 

 ()()()()()()()、さらに一歩踏み込めば、恐らくは容易に当たる距離だ。そして勝負仕切り直すのなら――きっと、最も丁度いい距離だと思う。

 ニヤリと笑おうとして、ガチリと何かが、下の歯と噛み合う音がする。

 舌で、軽く舐めるように確認すると……上の歯の一本が、鋭く、尖って伸びていた。ちょっとした痛みに、少し笑ってしまう。まるでコレは。

 

「牙、か。いよいよもって鬼の如しだなぁ、えぇ?」

 

 ちらり、と手を眺める。変質した爪は――アサシンの物よりも、些かと分厚く、そして尖ってはいないが……しかし、鉈の如く、鈍くも鋭い形をしている。人の爪を『鬼』の如く変質させたなら、まぁこうもなるだろうか。

 

「――ええやん。鬼と鬼との喰い合いも、乙なもんやわぁ」

「悪食がよぉ。オッケー。情けない所見せた詫びだ、最後まで付き合ってやる」

 

 まぁでも。

 こんな姿に『生る』のも。存外、悪くないもんじゃないか。

 




納得できる形に仕上げようと思って二日かけちゃったゾ……クッソ情けない進捗恥ずかしくないのかゾ……
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