FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第八十六章:討鬼の巻・その四

 この血とは、おさらばできない。

 そんな事を何度も思い知らされるくらいに、俺は一族の血を忌み嫌っている。だからずっと――その衝動に身を任せる、なんて想像をした事も無かった。

 だからきっと、悪い鬼さんに導かれなきゃ、こうはなれなかった。

 

「おぅ!」

「さぁ!」

 

 拳が、勝手に走る。

 乗りこなせない程の暴力的な衝動が、土砂流みたくあらゆるものを押し流さんと、全身が躍動する――アサシンと、互いの拳を真正面からぶつけ合う。

 サーヴァント、しかも本物の魔性の鬼を相手に、しかしそれでも競り負けない。

 

 身体の中で、脈動する血が、勝手に体を動かしている様な気がしている。

 自分でやっていたならよかった。だが殆ど今、鼓動のの赴くままに、自分は体を動かしているだけで……ほぼ自分の意思は介在していない。

 サーフィンで波の勢いのままに押し流されて、降りる事も止まる事も出来ない所まで来てしまっている様な感じがする。

 

――正直に言おう、怖いくらいだ。

 

 顔が強張る。

 

 制御なんざ、土台無理だ。

 岩すら押し流す様な高波、天を焼き尽くす様な噴火、大地を割る程の地震、木々を高々と吹っ飛ばす竜巻……大自然のとんでもないエネルギーを、制御しようなんて誰が考える?

 この奥底から沸いて来る力は、それを思わせる。

 

 コレが一族が何百年も伝えてきた『力』の大本……積み上げてきた年月故か、それとも元からこれくらいヤバかったのか、もしかすれば目の前の鬼に血が反応しているのかもしれない。

 兎も角これは『発動』させたなんて口が裂けても言えん。

 間違いなく『暴走』している。

 

「……っ!!」

 

 ……否、怯えるな。

 だったら今は、敢えてその暴れる河の勢いに乗ってしまえばいい。流されて、その暴威を体に焼きつけろ。目の前にいる鬼の大先輩に胸を借りるつもりで。

 制御は出来なくても、更に暴走させるくらいだったら……

 

「っだらぁ!!」

「っ……ふふふ♪」

 

 ……なんとか、出来る。

 無理矢理に、アサシンの拳を、押し返すことが出来た。

 勝手に動いた腕が、ビリビリと痺れている。暴走した力に振り回されてるのを、肉体からもはっきりと感じている。

 

 だが、それを奥歯かみ砕く勢いで……体を締めて、無視して。

 飛び掛かる。勢いそのまま。上から踏みつぶす勢いで、蹴たぐる。前蹴りともいえないめちゃくちゃな姿勢。でも直撃。防いだ相手の腕諸共に、太ももから、爪先に向けて力を込めて、力強く、踏みにじって……!

 

 後ろに、思い切り――押し込む!

 

「――っ!」

 

 伸ばし切った足の先で、アサシンが、後ろに『吹き飛んだ』。

 殴り飛ばして、ダメージが入った、とか。横から差し込む様な奇襲をして、体勢を崩したとか、そんなんじゃない。今、俺は初めて――『力』で相手を無理矢理弾き飛ばすみたいな、『化け物染みた真似』をしたのだ。

 

 ――手応えが、違う。

 

 使いこなそうとしていた時とは、全然。

 足先に感じる熱に……肺の奥底からの荒い呼吸が、一つ、勝手に口から漏れ出していった。

 宙で、くるりと体勢を立て直し、地面に降り立ったアサシンが。喜ぶように短く、呼気を吐き出した。

 

「あぁんっ……んもぅ、女を毬みたいに蹴っ飛ばすやなんて、いけずぅ……♪」

「うるせぇっ! そう思ってんなら笑うな!」

 

 良くない。良くない事だ。自重するべきだ、とかつての俺がブレーキをかけようとしてくる。それ位に――今、俺は獰猛な笑みを浮かべている。

 ノってる。今、人生で一番俺は……ノりにノっている。初めて、この力を目覚めさせたあの時? 特異点で力を目覚めさせた時? 普通に使っていた時――否、否、否! 何れよりも、今、振り回されるままに暴れれば、そのまま身体が奔る!

 

 意識は制御しようとしていない。だけど、礼装が勝手にある程度抑えてくれている。ロマニとダ・ヴィンチちゃんには、死ぬほど感謝しないといけない――と、スーツの襟をびしりと伸ばしてキめてみた。

 

「やっぱそれ、『抑え』やねぇ。よう出来てる」

「カルデアの責任者様直々の設計だ……感謝しかねぇよ」

 

 ベキリ、と。

 言葉と共に。アサシンが、聞こえるように指を鳴らして応える。童女の様な顔が、裂けるような口の笑みに、凄惨に彩られ――そこに、『鬼』が宿るのが見えた。

 

「ええよ、最後まで付き合ったる……こうなるのを、待ってたんやからなぁ!」

「上等、敵に塩送った事、後悔させてやるってんだ!」

 

 アサシンは、魔力切れとなれば消滅は免れない……根性で持たせている、という言葉が本当なのは分かるが、それも何処まで続くか――時間はこっちの味方になる。

 だが、それでも出力が上なのは、向こうだ。ガス欠寸前、消滅寸前、力をセーブして直ぐに消滅しない様に『戦闘続行』していても。向こうは、最高格の神秘の一角。こっちが抑えていたモノを解放した程度で、並べる訳がない。

 

 だがそれでも、手を伸ばせば届く距離なのは、間違いない――

 

「――呆けててええん?」

 

 はっとして、視線を少し上に。

 

 一瞬、反応が遅れて。

 目の前にアサシンが既に跳んできている。彼女の爪の射程だった。しくじった。下がっても、横から避けようにも……何方にせよ、間に合わない。

僅かな遅れが致命打になった。故に、その遅れた一瞬は……

 

「――ぬがぁっ!!!」

「っ?」

 

 逆に前へと突進する事で無理矢理に、埋める。

 ただ突撃するだけじゃ間に合わない。兎も角最短の距離を全力で駆けないと、間に合わないのだ。故に……何処に向けて突っ込むか。飛び込んでくるアサシンに最短距離、真っすぐに突っ込むのであれば。必然と――

 

「んむっ……!」

「あんっ♡」

 

 アサシンの、胸板に向けて。顔から突っ込んで。

 むに、と柔らかい感触が顔を覆った。そこまで大きなサイズではないが、でもちゃんとあるのは分かるくらいの――いやそうじゃねぇ、無理な突進ではあったが、しかしそれでも空中で踏ん張りの利かないアサシンの体勢を崩す事くらいは出来た。

 煩悩を振り払って、そのまま、空いている両手を肩にかけて――

 

「よいっしょぉ!!」

「っ!」

 

 地面に、押し倒す。体重が軽く、小柄なアサシン相手だからこその、力業だ。

 馬乗り……の姿勢になってる余裕はない。そのまま拳を握りしめ、この不完全なマウントポジションのままで。アサシンの全身を、タコ殴りににするつもりで、上に向けて振り上げ――

 

 ――それより先に。俺の胴に、細い両腕が回り、絡みつく。

 

「情熱的やねぇ、嫌いやないわぁ」

「っ!?」

 

 不安定な体勢だったのが災いして、そのまま彼女の胸元に抱きすくめられてしまう。ラッキー等と、思春期かましている余裕はない。考えても見ろ、彼女の膂力は、成人男性など及びもつかない程の怪力。この姿勢は――

 

「抱きしめて、ええこ、ええこ、してあげようなぁ……!」

 

 ぎり ぎりぎりぎりぎり――!

 

「ぐぅぁっ……!?」

 

 締め上げられる。胴体を丸ごと。しまった。勝負を焦った。いくらあの状況から脱出するためとはいえ、アサシンの懐に飛び込むなんざ――こっちは、ある程度血を目覚めさせて頑丈になってるにしたって、鬼の怪力に耐えられる程じゃないってのに!

 押しつぶされ。声すら漏らせない激痛と共に、喉の奥が少し――錆臭くなってくる。内臓にダメージが出たのかも、判断は利かない。

 

 しくじった……だが、致命打じゃない。もう助からない程の絶望的な状況じゃない。

 

「ぬぐ……ぉぉおおおおおっ!」

「おぉっ?」

 

 振り上げていた手を、そのまま地面に叩きつけ――もう片方の手も突いてから、勢いつけて、起き上がる。アサシンを抱き着かせたままで。

 既に口の中まで錆の匂いは上り切っている。ぬるりと、歯に絡みつく生臭い味が気持ち悪い。ダメージは深い、それでも――!

 

 痛みを無視しながら、更に体を暴れさせる。体から、股間部へ、そして足へ、更に足先へと――迸る力が、思いっきり地面を蹴り飛ばし。俺とアサシンを、天へと運ぶ推進力となる。

 

しかしただ飛ぶだけで、振り切れるか? この鬼を相手に?

 否、ならば――!!

 

「はっ……な、んや、これっ……!?」

「うぉおおおおぁああああっ!?」

 

狂ったように。回る。くるくる、と飛ぶ力を敢えて偏らせる。制御なんてもんじゃない、暴走する方向を決める位の事しか出来ない。まるで独楽の如く、全身が遠心力で引き千切れるくらいの勢いで――前方に向けて加速する。

そうなれば、どうなる?

 

 そのままの勢いで、制御もしないで、スピンしながらの前方へのジャンプ。着地なんて、マトモに――

 

 ごしゃっ

 

「ぐ がっ」

「ぐぎっ……!」

 

 二人して、回った速度、跳躍の勢い、落下速度……全ての勢いを、全身で享受する事になる。俺を逃すまいとしっかり捕らえていたアサシンは、一歩だけ、退避する為の反応が間に合わない。

 二人して、竜巻に煽られて、上空から降って来たごみの様に、地面に叩きつけられて。

 

「「あ あぁぁあああああっ!!」」

 

 ぐちゃぐちゃに絡まりながら、二人して盛大に地面を転がっていってる……と思う。

痛いし、目が回るし、ズザザザって音で耳はいっぱいで。自分が、どうなってるかは残念ながら、さっぱり分からん。

 

――それでも。

 

胴体の締め付けられる感触がなくなったのだけは、何とか知覚出来た。

 

「がぁぁぁ……っ!!!」

 

 べきぃっ

 

 地面に、手を叩きつけて。

 

 無理矢理に、起き上がった。否、身体を跳ねさせて、空中で。なんとか普通に受け身をとって、転がって。そこから、立ち上がる。

 いやな音がした、が……ちらりと見てみた腕は、折れてはいない。

 全身、ヒリヒリと熱いし、ずきずき頭に響く位に痛いし。大分自滅したが、しかし。それでも何とか――引っぺがした。

 

「――」

 

 顔を、起こす。

 

「――調子、のんなや」

 

 血に顔を濡らし、牙を覗かせて――笑う鬼が、目の前まですっ飛んで来ていた。

 

「~~~~っ!!」

 

 体勢なんて立て直せない。ただ真っ直ぐ、前に飛び出して。

 

 体が、ぐるん、と回った。

 今度は、前にではなく、右向きに。物凄い衝撃と共に――アサシンに、蹴っ飛ばされた。多分だが、視界に、ちらりと足が見えていた。

 

 でも……吹っ飛ばされたわけじゃない。

 めちゃくちゃな姿勢だったのが、幸いした。踏ん張ることも出来ない体が、まるで風車みたいにくるりと、その場で回って……力を、受け流す形になった。

 

「ほぅら、もう一発!」

 

 ……が、次の一発で、普通にぶん殴られて、今度はこっちが吹っ飛ばされた。

 

 胸板が、軋む。とんでもないパワー……ハンマーでぶん殴られたかと思った。鬼らしいパワフルな拳だ。

 背中から、叩きつけられて、僅かな間、地面を滑って。

 から、なんとかくるりと後転の要領で、起き上がり――そこで。

 

 拳を、腰に貯める。

 

「……アサ、シィン……!」

 

 次が来る。容赦はない。俺はサーヴァントと違って、人間だ。何発もサーヴァントの攻撃喰らって、持つ訳ない。だから――この一発で、終わらせるつもりで。

 めき、めき、と腕から。なっちゃいけない音がする。コレを振り切ったら、多分、本当に俺の腕は使い物にならなくなってしまうだろう。

 それでも。

 

 霞む視界の中に、艶やかな振袖を纏う、美しい鬼の姿が、浮かぶ。

 晴れた蒼天の元、軽やかな足取りで地面を駆けて、楽しそうにこっちに爪を向ける。彼女の姿が。

 

「……あぁ、分かってるよ」

 

 面白そうなおもちゃを見つけて。折角だし、本気で食い合いたいな、って思って。

 態々サーヴァントなんて存在になって――近い距離だからこそ、()()()()()()()()()()、容易かった。俺が、こうなるように仕向けるのも。

 

 そんな遠回りも……楽しかったんだろうな。お前の性格なら。

 

「そんな、性格の悪さもよォ!!」

 

 考えさせて、目を向けさせて、吹っ切らせて。その上で――食らい潰す。本当に、良い女じゃねぇか。アサシン。ああいいさ。そんな好き勝手なお前を相棒だと信じた、俺の負けだ。だから……!

 お前がそうするように、最後まで、付き合ってやるさ。

 

「――」

「……っ!!」

 

 拳を、腰を、全身を。捻って。

 真っすぐに。最短距離に拳を伸ばす。

 愚直にまっすぐ伸ばした拳なんて、弾かれるかもしれない。でも。残念ながらそれ以外やる余裕なんて残ってないから。

 

 せめて、まだまだ湧き上がる力で、ボロボロの体を、ぶっ壊す勢いで――!!

 

 

 

 ずん

 

 

 

 僅かに。

 拳の先が、何かにめり込む感覚だけが、した。

 




す、スゲェ……なんて主人公らしくない戦い方なんだ……!
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