FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「源氏武者、やべぇ……」
「ん? なんか言ったか大将」
「ああいやなんでもない。ありがとナス……」
ああいかん、思わず語尾が破壊されてしまった。おのれ十周年。
頼光サンも中々の暴れっぷりであったのを覚えているが。しかし今回の相手は、一応まがい物とはいえ、最強の使い魔の、その名を冠する影法師。ただの魔獣とかとはまぁ訳が違うはずの、シャドウサーヴァントを相手に。
「あの……本当に大丈夫そう?」
「ん? おうとも、傷一つねぇさ! 心意気もねぇ、熱い男気もねぇ、何よりも熱が足りねぇ! そんなゴールデンじゃねぇ奴らに、負けてらんねぇさ!」
……ああクソ。かっけぇ。そう言い切って。そしてまるで晴れの日のお天道様が如く笑うその姿。コイツと一緒に戦えたっていうだけで、多分一生モンの思い出になるだろう。
だけど。
そんな何処までもそこ抜けて準うしな笑顔は、視線を俺の向こうにやった時に、すぅっと隠れてしまう。
「……酒吞」
俺は、下から、金時を見上げるように見ている。歪む顔は、睨んでいる様にも、後悔を滲ませている様にも……あぁ、それこそ。涙を、堪えている様にも、見える。
ボロボロになっているアサシンが、見えたのだろうというのが、一発で分かった。
俺は二人の仲をまるで知らない。
二人がどんな風に過ごしたのかも知らない。春の如く、穏やかに過ごしたのかも、冬の如く厳しく過ごしたのかも。知らない。最後をどのように迎えたのかも、知らない。
「なぁに? 小僧……そんな顔して……泣きそうちゃう?」
「っ、んなことねぇよ!」
くすくすと笑うアサシンに、慌てる金時。
まるで、二人して子供の様なやり取り。昔からの仲、というのは伊達ではない。その一つ一つに……俺では、推し量れない思いが、宿っているのだろう。
「……お暇しよか?」
「NO。変な気使わんでくれ大将」
「可愛いサーヴァントの最期、看取ってくれへんの……最後までほんま、いけずやわぁ」
「「変な言い方止めろ!!」」
……とはいえ、どうやらこの場には居ていいらしい。まぁ、流石にマスターとして、アサシンと金時君にはぶられたら悲し過ぎて泣いちゃいそうだし。うん。許して貰えてありがたい。
とはいえ、この微妙な空気の二人の間に挟まれてるって言うのも、素直に喜べないっていうか。分かれた彼氏彼女の間に挟まる第三者っていうか。兎も角、物理的に間に挟まれているのが、ちょっとキツイ。
いやこの二人がそんな色っぽい関係だったかは甚だ疑問なんですけれどもさ。あー何とか、なんとか転がって、離れ……らんねぇな。うん。
しゃーねーや……野暮は承知で。幼馴染の会話、聞いてるしかないだろうな。
そう思って、ちらりと見つめる金時の視線には。水面に煌めく夕日にも似た、光が宿っている気がした。コレで何もない、と思う程。馬鹿じゃない。
「酒吞」
「んー?」
「オイラとしてはよ。お前が、そんなボロボロになって笑ってんのは。いい気持ちでは見れねぇ。それは、分かるだろ」
アサシンが、それを分かっていない訳がない。見えなくても……人を食った様な、薄い笑みを絶やしていないのは、簡単に想像出来る。そして。金時の言葉に、どんな表情してんのかは……余計に複雑そうな顔になった金時の顔を見ていると、寧ろ想像したくも無くなった。
「ふふ。さて、どうやろか。うち、鬼やし。人の小僧の気持ちなんて、そんな、全部見通せへんわぁ」
「……そういう、ひらりと躱すような所も、変わんねぇな。一度死んだくらいじゃ」
「ふふふ」
「けど……今だけは正直に応えろ。そこが聞きてぇんじゃない」
だが、その顔は。直ぐに――真剣なモノへと移り変わる。
顔の筋肉を引き締めて……無理矢理に感情を押し込めた様な苦しいものには見えない。だからって、余計な感情を削ぎ落して、感情を固定した感じでもない。
一つ、ゆっくりと呼吸を入れて。リラックス。
かちゃり、とつけていたサングラスを、金時が自ら外した。露になった碧い瞳は、血に倒れたアサシンを、真っすぐに見下ろして。
「――そこまでなってよ……」
低く。少し小さくて。
穏やかな声だった。
快活、豪快に笑うこっちまで笑顔になりそうな笑い声や。敵を一喝する時の稲妻の様に腹の奥まで響く怒声とは違う。穏やかな海原の如く。何処までも広く、受け止める度量を思わせるような。
気は優しくて、力持ち。
金太郎、と言う童話に書かれた、そんなフレーズを、思い出す。
「楽しかったかよ。その最期は」
その問いかけに。
サーヴァントとして、契約していた名残からか。見えない筈のアサシンの気配が少し緩んだように、感じ取っていた。
視界の端に。金色のきらめきが。一筋。昇って消えていくのが見える。
はっとして、身体を起こす。痛いが、気にしない。口の中が、ちょっと錆臭くなったけど、無視した。起こした頭が、どうしてかフラフラと揺れる。それでも、何とか、真っすぐアサシンの方を向いた。
「――あぁ、悪うなかったよ」
サーヴァントの消滅を示す、輝きが立ち上っている。その中で。
春の日差しの中で、何も考えないままゆったりとした眠りにつく様に、のどかに……アサシンが、微笑んでいた。
何も不満はない。自分は満足した。そう、口にしているようだった。
「そうかい。大将に、礼の一つでもいっとけ。つき合わせたんだからよ」
「変なこと言うんやね。うち、旦那はんをきちんと守ったんやから。お駄賃貰うのは当たり前って思わん? ねぇ……あれ?」
……消えていく。まるで何でもない事の様に。昔馴染みと言葉を躱しながら。俺を助けてくれたサーヴァントが、消えていく。
ぐっ、と。目からあふれ出しそうになる熱を……堪えた。コイツに、みっともなく泣いてる姿を見られたら、ケラケラと笑われるだろうから。
あぁ、だけど……目を潤ませているのは。バレバレだろうか。此方に視線を向けたアサシンは。また、此方を揶揄うように、今度はハッキリと、笑った。
「……くすくす。なんや、泣きそうなのは、旦那はんの方やった?」
「泣いてねぇよ」
「せやね。泣いてへんね。えぇ子やもんねぇ」
結局、コイツには最初から最後まで笑われっぱなしだった気がする。一回くらい、カッコつけたかったけど。そうはいかなかったらしい。
「……ま、言う積りも無かったんやけど。しょうがないわぁ。旦那はんがそんな顔するもんやさかい、おもろくて、口も滑るってもんやね」
もう、身体の半ばまで、アサシンのカラダは消えてしまっている。そんな中で……アサシンは、はっきりと、こっちと目を合わせてくる。自然と、背筋を伸ばしていた。
「うち、旦那はんを始めて見た時……蓮みたいな人やな、って思たんよ」
「蓮?」
「汚ぁい泥の中で、それでも綺麗に咲く蓮。うちは、桜とかの方が好みやけど、それなりには楽しめたわぁ……血と糞の汚泥の中で咲いた、蓮なんてなぁ」
……それなりとは、批評してくれるな、と思ったけど。まぁ、褒めてくれているのだろうと思っておく。確かに、俺の育った環境はお世辞にも綺麗なもんとは言えない。血と糞どころか、悪意塗れの酷い場所だった。
最後まで揶揄ってくれたから、最後に褒めとけ的な事なのだろうか。
「……せやけど、蓮っちゅうんは、泥の中の力を吸って咲くもんや。そんな綺麗な花咲かすんなら、余程のモンを吸ったんやねぇ」
「はっ、全部ロクでもねぇさ」
「――うちは、そうでも無いと思うけどなぁ」
その言葉に、顔を上げる。
視線を絡み合わせ、大本の瞳を、否、更にその奥までを見つめながら……アサシンは何かを見ている。黄金の光は、既に胸元から立ち上るようになっていた。
「『マシになりたい』。そう誰に
「そ……アサシン、それって」
「したら……もうちょっと、マシになれるとちゃうん――」
ふわぁ、と。
一陣の風が、最後の輝きを吹き散らす。
手を伸ばした先に、もう誰もいない。僅かな――酒と、花の匂いが、鼻先をくすぐって消えていく。それを確認してから。ゆっくりと、手を下ろし。
両手を後ろに付くようにして、空を仰いだ。
「……最後まで意味深なこと言って消えやがって」
「昔からあんなんでな。悪い、大将」
「だろうな」
隣に。ドサリ、と金時が腰を下ろす。
隣に首を傾けると、ほんの一瞬顔を見合わせる形になって。お互い、何も言わず、また空を見上げた。
「……サンキュー、マスター。アイツに最後まで付き合ってくれて。あんな満足そうに逝くなんざ、生前じゃ無理だったろうからよ」
「なんて事ねぇさ。アイツのマスターだからな」
少し恥ずかしくなって。頬を掻いた。特別な事をしたつもりもなかったからだ。
……その言葉に。どれだけの重みがあるかは、分からない。分かってはいけない。それはきっと、アサシンと、金時の物だ。だから、自分は自分として、やりたい事をやっただけだと。あくまで、そう返した。
「へへっ、そうかい……」
「ん」
「――なんかあったら、呼んでくれ。今日の礼だ。オイラの
「そいつは嬉しいが、呼べるかどうかは運しだいだからな、ウチの召喚式」
「Oh、そいつはBADだな……」
まるでガチャの如しだ。
本当に、縁を結べば誰でも来れる代わりに、誰が来るかなんざ分からない。普通に金時の様な英雄を呼ぶ可能性の方が高い、とは思うが……もしかしたら、アサシンみたいなお時話の敵役だって、呼べるかもしれない。
まぁ。でも。ゼロじゃないなら。
深く呼吸を一つ。
期待しないで、待っておくのも。良いんじゃないだろうか。
「もし来たら――昔のアサシンの話でも、聞かせてくれ」
「趣味が悪いな大将……ま、いいさ。昔話位なら、いくらだってしてやるよ」
これで『来てくれよ』と言えないのがホモ君の悲しい所。