FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「何処へ行くのかな。皆様方」
町から離れる我々の前に現れるのは、黒い影と……白い姿。
マリー様が全てを賭けて逃がして下さったのを、竜の魔女は許さなかった。故にこそ自らの将と、シャドウサーヴァントという兵隊までも差し向けて来た。自分が来なかったのはその必要も無いと思ったからなのか。
「――そこを退きなさい。バーサーク・セイバー」
「悪いが、君達を逃がす訳にはいかない。その首を僕の手で、百合の花の様に、ぽきりと手折るのが、マスターから命じられた命令だからね」
余りにも無慈悲な追跡。しかし、ここで捉えられる訳には参りません。このフランスや町の人達を救うためにたった一人、殿となって残って下さった王妃様を……思えば。ここで諦める事なんて。
そう思って、マスターに声を掛けようとした時。
背筋が、冷たくなりました。
「うるせぇなぁ色男……ジョークもそこまでにしてくれないか」
「ジョークなんて言って無いさ。僕は君達を」
「それがジョークじゃないんだったら、へへへ……いやぁ、笑えねなぁ。えぇ? まさかあの人が必死になった姿を見て、こんな空気も読めない行動するなんてなぁ」
マスターは、笑ってらっしゃいました。
とても穏やかで。にこやか、と言えるような綺麗な顔なのに。
これほど、今の緊迫した状況にそぐわない表情も無いでしょう。私だって、明らかに緊張している、というのを私自身が自覚しているというのに。
笑顔というのは、本来攻撃的な表情である、というのは、何処かで聞いた事がありますが。マスターは……それ以上ない程に、笑顔で、目の前のサーヴァントを威嚇しているのです。
「今、俺達はマトモに戦ってる時間も惜しいんだ。居なくなってくれると凄い助かるんだけどもなぁ? いや、それ以外は一切助からねぇよ。イカレ野郎」
「随分な言いようだね」
「寧ろそれ以外の反応されると思ってたのか? 地頭も悪いのか? なぁおい」
怒っている。
のかも……今の私には、分かりません。マスターの表情を全て読み切れるほどに彼の顔を見慣れている訳でもありません。しかしながら。ただ一つだけ。分かりやすい事を言うのであれば。
「ふふ、好き勝手言うじゃないか――どうだい? 私に対して、武器でも持って打ちかかってみるかい? そんなに気に入らないのなら」
「お生憎と、殺人剣士様相手に真っ向から殴り合うのも、武器を持つなんてのも、正直趣味に合わねぇんだ。アンタみたいな野蛮人と違って、平和主義なんでね」
「平和主義が随分好き勝手言うじゃないか」
「言葉で切り合ってる分には傍からは『平和』って事になるんだよ」
マスターは、今までで、一番の敵愾心を目の前の相手に燃やしているという事だけ。サーヴァントを相手に殴り掛かる姿を見ました。相手を煽り倒している姿を見ました。しかしながら。
こんなに……恐ろしい形で、マスターが感情を顕したのを見たのは、恐らく初めてではないでしょうか。
「――まぁ、俺だって平和主義を謡う割には、サーヴァントの後方からあれこれ言うしかない腰抜けだ。それがピーチクパーチク何を御大層なお言葉を言ってるんだ、って言う話ではある」
「そんな事は思って無いけど……君は、そう思ってるんだ」
「当然。だけどな……それでも何も言わねぇよりはマシだと思ってるよ――式部さん、構えてくれ。このロクデナシを――潰す」
そして、私に目をくれたその一瞬で、笑顔は何処かへ引っ込んでしまって。残ったのは能面の如き無表情ばかり。しかし、構えろ、と言われれば他の事を考えている暇もありません。マスターが怒っているとして、それは正当な怒りではあると思いますし。
――今、旗を構えなおしたジャンヌさんも。剣の切っ先を影に向けたゲオルギウスさんもきっと。同じ気持ちだと、思います。
「そんなに気合を入れて貰って申し訳ないんだけど。私の狙いは……そちらのサーヴァントだけだ。他は、適当にあしらうだけでもいいんだけどね」
「ゲオルギウスさんは、こっちの希望だ。させると思うか?」
「――まぁ、そうだろうね!!」
そんな我々の心の内など知る由もないのでしょう。
黒い影が二つ、回り込む様に迫り……そして、その二つを置き去りにするように、バーサーク・セイバーは、その細身の剣を構え、此方に飛び掛かって来たのでした。
「――全く……何時だって、君はそうだ。出来るかどうかも分からない約束を一方的にして去っていく。天真爛漫で……困った人だよ。マリア、君は」
アマデウス様の表情は、とても親しい方が亡くなったとは思えない程に。にこやかな物でした。彼女には、既に別れを告げられていた……こうなるのは、分かっていた。故にあまり気にするな、との事で。
「ふーむ。それにしても」
「なんだよ」
「――いいや? 僕が言っても仕方なさそうだ。ホント、君って奴はヘタレだなぁ」
「だーかーらーヘタレじゃないって言ってんだろうが」
「良く言うよ。さっき迄死にそうな顔と音してたくせに」
「してないんだが?」
私もマリー様の最期に何も思わなかった訳ではありません。アマデウス様の胸中はきっとそれ以上でしょう……しかし、そんな私よりも、アマデウス様よりも、セイバーを打ち払った、あの時のマスターの表情は……
酷い貌でした。
『テメェッ! 逃げてんじゃねぇよ! お前が立ち塞がったんだろうが! 他人の都合で好き勝手に! やれると思ってんじゃねぇ!』
私達の目的は、あくまでもゲオルギウス様と共に無事に藤丸様達のグループ合流する事です。しかし、明らかにマスターは我を忘れていて。
――なぜそこまでマスターは取り乱したのか。バーサーク・セイバーとは特に因縁があった訳でもなく。寧ろ立ちはだかった行動そのものに、怒り果てていたようにも。しかし、それを気にする余裕はありません。
『マスター! 今は追う時ではありません! 落ち着いてください! マリー様の御意思をここで、無駄にしては……なりません!』
私は、必死になってマスターを止めました。一切気持ちが分からない、という訳ではありません。体を張って。人間のマスターは私でも押さえつける事が出来ますし、そんな無茶をさせる訳にはいきません。
サーヴァントとして、人として。感情に任せた事で、大切な事を取りこぼしてしまわない様に、と。
そうして、落ち着いた後のマスターは酷い顔をなさっていました。不機嫌なような。苦しんでいるような……疲れ切っているような。歩いている間、ずっとそんな顔を。
ですが、私に何が言えたでしょう。マスター自身、自分の行動への後悔や他様々な思いが渦巻いて、そんな顔になっているのです。まだマスターの事を詳しくも知らない私ではむしろ余計に……
顔色が良くなったのは、藤丸様達と合流する時でした。というより、顔を叩いて無理矢理に気合を入れた、と申しますか。そんな過程を見ていたからこそ。今こうして楽しそうになさっているのが、カラ元気に見えてしまいます。
「ったくよぉ……所で藤丸」
「ん? 何?」
「その奥の赤いのと緑なのは……誰? ナンパでもした?」
「いやいやいやいやしてないしてない」
「あぁ、そうなのか。てっきり俺はこの状況下で戦力を強化する為に鋼の精神でこの空気の事など一切読まずに追加戦力をナウでヤングに言葉巧みに……!」
「どんな偏見!?」
……もしかしたらカラ元気ではないのかもしれませんけど。
その後、新しいメンバーのエリザベート様と自己紹介をし足り、清姫様がマスターが信仰する謎の宗教に絶叫して居たりしましたが。まぁ、それは。
いえ、あの、私も頭の中にイメージが出てきたのですが、もし逸話通りの清姫様がアレを見たとすれば。些かどころか、物凄い、お可哀そう、と申しますか……なんなのでしょう。あの文にし難き謎の飛翔体は。
「人間の知恵の結晶だよ」
と、おっしゃっては居ましたが。アレが結晶だとすれば、どうなのでしょう。人類。何か間違っている気がしました。
「……あの、さ、式部さん」
兎も角、二人の聖人が揃い、ジークフリート様の呪いを解く準備が整ったのは間違いなく、ジャンヌ様とゲオルギウス様は無事、解呪に入られました。
その間、私達は暫し手持無沙汰で、マスターは、落ち込ませてしまった清姫様に謝罪に向かう……と言って、私達から離れて沈み込んでいる彼女の元へと向かおうと――
――その時でした。
「は、えっ? あ、はい!?」
「先に、あの、お礼を言っておきたくてさ」
マスターは私の隣でピタリと止まって。
そして……少しだけ恥ずかしそうに。頭を下げたのです。ちょっと、だけ顔を赤らめながら。
「――ありがとう。止めてくれて」
「あ……」
「あそこで止まらなかったら……王妃様の犠牲を無駄にしちゃったかもしれない。式部さんが俺のサーヴァントで、良かったよ」
そう言って、マスターは去っていきました。
――正直、マスターを止めた事に、一切の負い目が無かったかと言えば、嘘です。彼が激昂する理由は確かにあそこにあって。それでも、止めたのですから。
でもそう言って貰えたのであれば。マスターとサーヴァントとして。ああしていくのが間違っていないと分かって。少し……うれしかったのです。
式部さんとしっかり相棒出来る様に……少しずつ。
あと、明確に矛盾した描写が一つありますが……態とかミスかは皆さんの判断にお任せします。