FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――」
「えっと……式部さんが、コツコツ揃えてくれてるから、その……本は、結構豊富だからさ。まぁ退屈はしないんじゃないか?」
「ふぅん、ええやん。ハイカラなんも悪ないけど、うちはこっちの方が、風情があって好きやし……」
……マスターに無理を言った、自覚はありました
カルデアに慣れていないサーヴァントを案内するというのは、間違いなく必要な事でもありますが。同時に、言わば会って日の浅いマスターとサーヴァントとの『コミュニケーション』を取るための口実でもあります。
彼女はカルデアに、初めて来たサーヴァントですから。こうするのも当然ですし。特別おかしなことをしている訳でも無いのです。
更に言えば。マスターは、ゴルゴーン様にも同じように案内はしていました。その時は別に私もこうして着いていってはいませんでした。
今回ばかり、今回ばかり……私は二人のカルデア行脚に、付いていこうと思ってしまったのです。
「あ、そう言えば。召喚した時におった、大きい人、何処行ったん?」
「ゴルゴーンさんなら自室だけど。え? 会いたいの?」
「うん。あかん?」
「い~や~……アカンよりの、アカン……かなぁ?」
理由は、と言えば。
それこそ、目の前にいる『彼女』に関わっています。
身に纏った着物を、非常に煽情的に着崩した童女……見た目は年若いのですが、その実際の年齢は、私よりもはるかに上。その真名は、大江山に住み着く恐ろしい大化生……酒吞童子。
私の生きた時代、平安の世において。
京の住人を心胆寒からしめた恐るべき怪異。私は宮使えだった故に、直接会った事は有りませんが、しかしその悪名だけならば。幾度も耳に入って来たことがございます。
召喚されたあの時――その容姿を知らずとも、此方に伝わっていた悪名や、噂がフワリと頭に思い浮かび、『あぁ、彼女がそうなんだ』と思えてしまう程の、多くの事が。
恐ろしく、しかしながら……会った人達は、私に話をする時、周囲に聞こえぬようなかすれ声で『されども、風雅に、美しくもあった』と口を揃えていました。
余りにも小さな、しかし、それでも僅かに熱情に浮かされた様な、内緒話。
ロマニ様は『当時の鬼の伝承間違ってるんじゃないのかい!? なんだこのオタク共大歓喜なロリ鬼っ子は!? ヤバさは分かってても突っ込まざるを得ない、月までぶっとぶこのショック!!』等と言って、皆様に怪訝な眼で見られていましたが……
朝廷が恐れる程の、まつろまぬモノ共の頂を、美しく思ってつい見惚れた等と、一体誰が大きく口にできたでしょうか。それこそ、平安の魑魅魍魎の巣窟であれば、その一言が致命の一撃となりかねないのに。
故にこそ。伝わらなかった――
「……ねぇ」
「――はいっ? あっ……ひぇ」
そこまで、考えた所で。
耳に入って来た言葉で、深く沈んでいた思考から浮上し。顔を上げたそこには。此方を覗き込む、あどけない――というには、些かと艶に塗れた少女の顔が。そして、日本の角が此方に向けて、にゅい、と伸びています。
「これ、似た様なの他にもあったと思うんやけど。ないん?」
「あ、えっと……そちらの、本棚に」
「あぁ、こっち――ふぅん。書かれてる事で、分けてるんやねぇ」
「は、はい……そうした方が、書に慣れていない方でも、読みやすいかと。同じ作者の方の本を探すのは、慣れている方ですので」
「分かれてても探せる。へぇ……」
得心した様に、彼女は笑ってすたすたとマスターの元へと戻っていきます。
その姿に、殺意も何も感じられません。
殺意敵意の類には、到底詳しいとは言えない私ですがしかし……感情や、人の心の移り変わり、それには詳しい自信があります。故に殺意を持つまでの、その一瞬の心の変化は。目の前にあるならば、きっと見逃さないと私は思うのです。
しかし。
「それ何」
「んー、『奇書』って奴やね。旦那はんも見る?」
「ほーん、どれどれ……おいテメェなんてもん見せやがる」
「なぁに? ただの――」
「奇書じゃなくてエロ本じゃねぇか!!!! うげぇ、やなもん見ちまった……そんなもんマジマジと見て描くなよ作者ぁ……」
顔を顰めて居るマスターを指さして、ケラケラと笑っている彼女には、人を害そうという素振りすら見えません。しかし……彼女は、そこから当たり前の様に『人の頭をねじ切ってみせる』のです。
私には、その判別がつきません。
彼女が何をもって、人を殺す殺さないの舵を切るのか。
真に恐ろしいのは、そこでしょうか。人とは根本的に精神の構造が違う……誠意を尽くせば帰って来る、という訳ではなく。害意をもってあたっても必ずやしっぺ返しが来るとは限らない。
笑いながら殺し、心底つまらなさそうに敵を見逃す。
今も。
私の目の前にいた彼女に……胎を貫かれていても、不思議とは言えなかったのです。
そういう意味では、ゴルゴーン様とも違います。彼女は、相手を殺す際、確実に『嫌悪』か『憎悪』をもって殺します。その範囲は、やはり普通よりもはるかに深く、逆鱗も
人のそれと違う場所にあるのでしょうが……それでもある意味、生真面目な方なのです。
「はー……ったく。はしゃぎすぎだろ」
「えー? うち、山育ちの田舎者やし。物珍しいもんばっかりやし?」
「お前がそんなお上りさんみたいな反応する方が怖えよ」
では――私が、お二人に付いて来たのは。
そんな都にて恐れられていた存在が、マスターと共にあるのが、些か以上に心配で、監視する為にここにいる……
という訳ではなくて。
はい。そういう訳ではないんです。別に。
そんな話をすれば、同じ魔性であるゴルゴーン様も同じように、恐れ、そして気を払うという事になります、ですが……私は、どうにもそう言った魔性と戦った経験に乏しく。一応そう言った物への危険も、理解が出来ぬわけではないのです。
……私は、自らの思いを綴る事でサーヴァントと言う位置へと至る事が出来ました。故にこそ、敵意や本能だけでこちらに向かってくるわけではなく。明確に思考し、複雑な感情を抱き、それを言葉にする……読み取りたくなるような感情を持っている相手と、相対した時――ゴルゴーン様や酒吞童子……様のような、彼女達と向き合った時。
恐れより先ずは、その感情を紐解こうとしてしまうのです。
人とは違う、彼女達の思いと言うモノを。
……危うく、そして余りにも無謀な事だとは思っていても。それであっさりと引き下がれるならここまで来ていないのです。多分。
そして、そんな私が、今回、どうしても気になるのが。
「……えっと、何か御用ですかね式部さん」
「あ、いえ。何でもありません」
マスターの変容です。
……あ、はい。酒吞童子様の方ではないのか、と。ここまで説明して……いえ、実際、とても必要と申しますか……はい。という事で。
つい先日まで、まるで凍り付いたように、しかしながら人形の如く、かくつく如き『平気』を装っていたマスターが。
特異点から戻ってきたら……なんというか、精神的にも肉体的にも物凄い、えっと『パンプアップ』と言えば良いのでしょうか。して戻って来てたのです。親戚の子供が夏に遊びに来て、頭から下が急に仕上がっていたら気になる、じゃないでしょうか。そんな感じです、はい。
……つい先日まで、あの仮面の如き表情に。不安を覚えていたばかりだというのにいきなりの事で、それは……もう。なんといいますか。
「……」
「……ど、どうすれば良いんだホント、コレは」
「放っておいていいんちゃう」
……心配していなかった訳がありません。
マスターとは、多くを話し。語って来て。共に苦難を乗り越えました。無茶を言われる事も、無茶をされる事もあって。昔の事を語り合う事もありました。
信頼を築き。感謝を抱き。そして……何が出来るのか、と。考えようと思っていたその矢先に。
その心配が一瞬で問題なくなりました、と言わんばかりに元気そうなマスターが。
とある特異点にレイシフトしようとして。その後、我々が引き離されて……カルデアの皆さんが慌てている処に、戻ってきて。
『へへっ、ただいま』
と。
……正直な話。敵の狙いを探る為、なんて言ってマスターの精密検査をしたのは。ドクター様と、ダ・ヴィンチ様の、若干苛立ち交じりの提案でした。
此方は、かなり心配していたのに。特異点から戻って来たマスターは『ん? どしたの皆』なんて。引き離されたのはマスターの所為ではないのは、ドクター様もダ・ヴィンチ様も十分理解していたのですけれども。それにしても、キミはおじいちゃんの家から帰って来た子供かと。
『……無事でよかったよ、ホント』
藤丸様が呪詛で倒れた時も、カルデアの皆様は、不眠不休で彼を看病していました。
その直後で、色々と不安だったのでしょう……検査を終えて、燃え尽きたように椅子に倒れ込むドクター様、そして、そんなドクター様に代わってマスターの質問に応対するダ・ヴィンチ様も……それくらい、マスターの事を大切に考えているのです。
……私も。
少し、今もけろっとしてるマスターに、もやもやとしているのは、本当です。全然何があったかも分かりませんし。
故に。何があったのか。何がどうして、大丈夫そうになって戻って来たのか……
その事に。
「……ふふっ、そんな睨まんといて?」
「睨んでは、いませんけど」
目の前の酒吞童子様が、絡んでいないと思えるほど。私は……鈍い訳ではないのです。
上京したインテリタイプの息子が、いきなりボディビルダーとしてガチムチになって戻ってきたらそりゃあ親戚一同困惑って話です(?)