FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――見つけたぞ」
荒野の広がる大陸の、一地方。何処までも広がるカントリーサイド(田舎町)とまで称された、その広大な森林の一つの中。
暗がりに包まれた道の中を、しずしずと歩いていた……優に普通の人より頭一つは抜けた背丈の大男の前に。その赤い影は、降り立った。
片や、人食いの悍ましき魔性。ケダモノの如き眼光を有した『術師』
片や、研ぎ澄まされた刃の如き闘志、獣を思わせる迫力を滲ませる『戦士』
対極的な両者は……似通った表情を浮かべていた。
即ちは、『笑顔』。口が裂けたか、と勘違いする程に。相手を怯えさせ、竦ませる、威嚇の一笑であった。
「なんとまぁ、驚きました。まさか本気で追って来るとは。状況、お分かりです? 貴方のような腕利きが、コレを放って、ここまで来るとは」
「カカ。そなたの言う事も分からんでもないが。獣故な、鼻が利く……貴様の腐臭は流石にこの満漢全席の如き景色の中でも、見過ごせん」
似通った表情に宿る感情は、されどと言うべきか、やはりと言うべきか。対局。
術師は、心の底から愉快、とばかりに笑い。戦士は、殺意と敵意を濃密に込めて、獲物を逃がさぬ為の『示威行為』として、敢えて笑う。
「何をこそこそと企んでおる……キャスター・リンボ」
「いえいえいえいえ!! 別に、こそこそと等……えぇ、全く! 表立って、この特異点を『更なる地獄』に変える策を練っておりましたが故!!」
そこから――戦士は、表情を消し。持っていた得物を文字通り。リンボと呼ばれた大男が『瞬く間』に、その手に構えた。
槍である。短槍ではない。優に身の丈を越える程の大きさの槍だ。常人ならばただ振り回すだけでも一苦労な大きさのそれを、まるで――子供が小枝でも振るうかの如く、実に容易く、脇に柄を挟み、刃を下に。緩く構えて見せた。
熟練。
槍を、まるで手足の如く、好き勝手に振るうその動きを見て、そう思わぬほうが目が腐っている……そう思わせるような、流麗な動き。
「ンンン~っ……流石は、神なる槍と名高い武人、李書文! 全く! 軽く振るっただけの穂先が、まぁ見えぬとは我が記憶にも――ここまでの使い手はおりませんなぁ」
獣の如き戦士の真名は――李書文。
中国武術界に伝わる本物の伝説。
合理を極め、六合大槍の妙技を『真』に修めたと言える武人は、比較的新しい時代の英霊でありながら、『神槍』とすら称えられる程に、極に至る。
この渾沌極まるアメリカ大陸に置いて。ただ一人でも、単騎でも、それでも如何なる勢力にも屈さず、只管に赴くままに、首を狩る事が許される程の実力者である。
ここが神話渦巻く舞台であって尚、それでも通用するだけの『技』が彼にはある。
穂先一つで焔を割き、地面を砕き、波を割り……銃弾も矢も、当然向けられた刃も、何もかもを……全て。往なすも。壊すも。自在。
六合の極致ともなれば、宇宙の合理を理解し、その中で自らを自由に『操る』。そして技一つで、魔術すら目を見張るような奇跡を顕現させる。
「はっ、抜かせ。儂が構えた時点で、貴様も布陣しておったろうに」
「……どうりで、踏み込んで、こない!」
「侮ると思ったか? 下衆も極まれば、猛毒。そこまでの腐臭ともなれば、伝承に語られる悪鬼も同然と考えても然りであろう」
「ンンっ、正に、『然り』!!」
……そんな彼が踏み込まないのは。『バレた』と踏んだリンボが。
自らの影から――のみならず、夜、森にかかった影からも。好き勝手、有象無象、大小様々な形で……
うぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ、と。
詰められた壺の中から、光を求めて虫共が溢れるが如く這い出るかのように……沸いて来る。湧いて来る。涌いてくる。
魑魅魍魎の化け物共を、自らの傍に控えさせたから。
一つ目、角付き、混ざりモノ、岩の人形、そもそも形を持たぬ不定形……名前を持っているかも分からない程に雑多で、無秩序なモノ共。
そんな蠢く闇の住人たちが。
「気味の悪い兵を、良くもまぁ、そこまで」
「おや、お気に召しませんでしたかな?」
「……怨霊の類は、苦手ではあるがな。しかし、実体がある魍魎風情、物の数ではない」
「ほうほう……左様で!」
大男の指先の指揮一つにて。地を走り、宙を飛び、書文を囲む様に飛び掛かる。空を覆いつく影の如き影の群れは、たった一人に余りにも過剰な戦力か。
否、相手は一騎当千のサーヴァントである。
「――噴ッ!!」
鞭のように、槍がしなり――ゆらりと揺れる穂先が、一閃! 二閃! 稲妻の如き軌道が闇を裂く! 白い傷を深く刻まれた闇の一部は、ぶるりと震えてから……空気に溶けるように、消え失せていって。
その中心。襲い掛かって来た恐ろしい怪物達を相手にまるで冷や汗一つ掻かず。獰猛に睨む書文が微動だにせず、立つ!
「――その程度の鬼(グェイ)をどれだけ使役しようが。物の数ではない。分かっていなかった訳ではあるまい?」
「ンンン……それは当然。されどまぁ、拙僧は術師なれば。下準備は必要なので」
「それが終わる前に死なぬ事を祈れよ――」
その堂々たる立ち姿――そこに有ったのは、一瞬。
とっさの反応で、術師が指先をちょいと上に挙げれば、その前に立ち上り、壁となる黒いモノ。それらが。
目の前で、あっという間に五分に刻まれた。
それを確認した時点で、軽い口笛と共に術師は下がり……再び、自らの周りに無数の邪気と怪物を侍らせ、立つ。
「その大言壮語、虚言に非ず! ですなぁ、油断すれば拙僧の首――」
「――既に飛んだぞ」
そう。立った、その瞬間だった。
その僅かな間に、黒い壁を、鋭い槍の穂先が貫き――そして、再び。否、先ほど以上に柔軟に、槍がしなる。入り込んだ敵のテリトリーの中、文字通り、斬、斬、斬、と凄惨な音を響かせて――
闇の中から、一つ何かを釣り上げた。
槍の穂先に、切り飛ばされたそれは、貫かれて引っ掛かっている。不敵に笑ったままの表情を残したまま――術師リンボの首は、見事、放物線を描き書文のその手の中に、すぽりと納まったのである。
「ふむ」
余りにも呆気ない決着。一瞬の攻防の直後、更に踏み込んだ神なる槍の一撃にて、術師はあっさりとその命を散らしたのである。
……そう、見える光景だが。しかし。
李書文の表情は、コレで勝ちを確信したようなモノではなく……
「器用な真似をする。空蝉とは」
「――ンンン」
そのまま、くるり、と。何もいない、筈の背後の暗闇を見つめる。
じゅわり、溶けて消えていく術者の守り――その更に奥から、代わって白と黒の影が、再び現れた。紛う事なき、キャスター・リンボである。
今、書文が切り裂いたのは、本人ではない。分身だ。素人が触ったならば、本物と信じて疑わない。もし死体に慣れたものが触っても、違和感はあるが偽物とは見抜けないだろう。それほどの精巧な偽物。
だが……書文の野獣の如き感性はごまかせない。
偽物に意識を向かわせ一瞬で切り裂く。狙っていた策は掠りもせず。再び、二者は闇の中で向き合う。
「そのまま引っかかっていれば、良かったモノを――!!」
「はっ、その台詞が出てくる時点で、底が知れるわ……!」
お互いに、自ら研いだ牙を存分に見せつけた。後は武器を構えりゃあ――小手調べはお終い。本気の殺し合いが、始まるばかりだ。
片や地面を蹴って弾丸のように真っすぐに飛び出し。片や再び闇を身に纏って矢の如く風を切って走り出し……再び二つの影は交差する。
「シャアッ――!」
「ヌゥッ――!」
切り裂き、切り裂かれ、血が飛び散り、撒き散らされる――嵐の如き、二つの英霊のつぶし合いは、さらに加速して――止まらない。今、この地で起きている争いなど、双方何も気にしない。狙うは、相対する化け物の首一つ。
誰知らぬ筈の、その戦いを。されど。
「……チッ」
木立の天辺より見下ろす影が一つ。
狐の面に烏帽子、鎧に高下駄を履いたその姿は。正に、平安の世の武者そのもの。見つめる先には、リンボと戦っている書文の姿。
一つ鼻を鳴らしてから……その腰に携えた刀を引き抜いて。そのまま向けた切っ先の先もまた――
この後、リンボは書文先生に五回は用意していた分身をブチころがされました。つまりサーヴァントに六回は勝ってる。聖杯戦争なら優勝してた。