FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「おーおー、えらい形相だ事……止めないのかい。伊達男さんよ」
「……恐らくは、言って聞かせて納得する類でもあるまいよ」
マスターと、巌窟王様のお二人が、半ば呆れたような表情で見つめているのは、視線の先の藤丸様とマシュ様とそして……もう一人。
赤い軍服と、銀の髪。そして……
「――彼は患者です」
「ですから! 先輩の傷は専門の処置をするほどではなくてですね……!」
「うぅっ、凄いパワーですぅ……!」
サーヴァントであるリリィさまが、後ろから羽交い絞めにして抑え込もうとしているというのに。それでもなお、一歩、一歩と、確実に前進を続けて、最早マシュ様の盾に掴みかかりそうなその力強さに、遠くでこうして見ている私までちょっと、びくっとしてしまいます。
逆らう気になれない、と申せばいいのか……他者に有無を言わせない凄まじい『圧』があるのです。
「ねぇ坊」
「な、なに? アサシン」
「アレだけ熱心なんやさかい、カラダ診せるくらいええんちゃう? てあつぅく見てくれると思うで。くすくす」
「いや絶対それだけじゃ清まないって分かってるよね?」
……藤丸様の傍にしゃがみこみ笑っている処を見るに、そんな圧なんてまるで意に介していない方もいらっしゃいますが。
といっても。酒吞童子様は、ただ傍で様子を見て楽しんでいるという訳ではなく。マスターに頼まれて、先ほどから前のめりの姿勢を崩さない看護師の方を見ているのです。
サーヴァント三人がかりで見なければならない程の人物……当然ながら彼女は普通の看護婦ではなく、サーヴァント。特異点に召喚された彼女の名は――ナイチンゲール。
マシュ様によれば、世界でもっとも有名な『医』に携わる者の一人。
先の敵の襲撃を退けた後。我々がやって来たのは……アメリカ合衆国、というより現地のアメリカ勢力の駐屯所、先の戦闘に置いて、我々も交戦しながらも様子を見ていた結果、まだ『話が通じそう』という事で此方にやって来まして。
そこで――彼女に出会いまして。
『――そこの貴方』
『えっ? 俺?』
『そうです。その腕の裂傷は』
『あー……そう言えば、さっき巌窟王が撃ち落としてくれた弾丸の破片が――』
『――食い込んだのですか?』
……その一連の会話がきっかけとなって、彼女は一気呵成に突撃しだし。それを抑えるのにリリィ様、マシュ様の二人がかりとなって……そうなった直後にマスターは逃げ出しました。私を連れて。
その時点で、此方が名乗る暇すらなく。鋼の如く意思を固めた彼女に藤丸様が襲撃(治療)されてしまい。そして――そのまま、藤丸様を囮に、様々な情報をアメリカ軍の皆様から聞き出したのです。正直、大変申し訳なく……
彼女の名前や、この特異点の状況など……残念ながら、ナイチンゲール様が助けていた人達も敵軍が一体何者なのかは把握していなかったのですが。それでも分かったのは。相手は間違いなく――歴史においての正しい敵、『イギリス軍』ではないという事。
そして……我々がアメリカ軍ともう一つの軍勢を纏めて打ち払うまでは、アメリカ軍も多少劣勢であったという事。
槍と、弓と、短剣と。この時代には些か以上に古い筈の装備を構え、鬨の声を上げて吶喊を繰り返すあの軍勢に。
『――あんなオーバーテクノロジー込みでも劣勢。アメリカ軍側が』
「アメリカ側が歴史を塗り替える勢いだってのになぁ……あれ以上って、イギリスの英雄って、アーサー王とかか? 呼んだのは」
『いやぁ……あり得ないとは言えないね。このころのアメリカ軍の勢いは凄まじい。イギリスの英傑を呼び出してこの不利を覆すともなれば、そのレベルの猛者達が出て来ても不思議じゃない気がする』
当然ながら、お二人の言う通り、今までの特異点以上の強力なサーヴァントが敵側に付いている事も、考えられる可能性かと思いますが……
「……あの、マスター」
「ん?」
「あの軍勢、彼らも……普通では、無かったような」
ふと、そんな言葉が口を突いて出ました。
「ふぅん? どんなあたりが?」
「あ、いえ……ローマの時の敵兵や、シャドウサーヴァント達とも違う……一人一人が文字通り、血に飢えていたと申しますか……兵、というより、アレは」
マスターと戦っていたあの兵たちには、『闘志』がありました。
自ら戦いに飢え、戦いに向けて狂奔するような。兵が上からの命令であったり、頂点のカリスマに酔って戦うのとは、何かが根本的に違う。一人一人から生み出される闘争の熱と言っても良いモノ。
そう――
「……『勇士』」
「ゴルゴーンさんの言う所の、アレか」
「はい。そのような気がするのです」
ちらり、とテントの外を見つめます。
『ああいう手合いとは関わらないに限る』と苛立ち交じりに霊体化し、今は外にいるゴルゴーン様の事を思い出しました。あくまで印象ですし、本当にそうだという確証も無いのですけれども。
「ふぅん……ドクター」
『うん。もう調べてる。世界各国、『勇士』という存在が根幹となっている神話……戦士でもなく、勇者でもなく。『英雄』には至れずとも勇猛果敢な多くの輝きか』
「えっ?」
なので、あくまでちょっと参考にして貰う位の気持ちで、口にしたのですけれども。お二人の食いつきが尋常ではないです……! あの、どうして。急にそんな、全力で調べて頂く位の熱量で言った訳では。
「あ、えっと、その、そんな、ただの思い付きですし……」
「ただの思い付きにしちゃ説得力があった。前も言った通り、式部さんは人の熱の専門家だと思ってるんでな、その意見には耳も傾けるさ」
「あぁぁぁ」
頼りにしてるぜ、と肩を叩かれて、思わず顔を覆って俯いてしまいます。いえ、そう言って頂くのはありがたいのですけれども……それにしたってこう。専門家ぶって話したつもりもないのですが、それでも面映ゆいと申しますか。
それに……狙ってやった訳でもありません。戦いの最中も、マスターの事を見ていた副産物ではあります。
押し寄せてくる敵に相対する姿は、大きく変わっていない様に見えて。
でも、地面を蹴って跳ぶ姿も、相手に向かって突進する足取りも、私が見ていた姿よりも活力に満ちている気がしました。
身体の奥底にあった、何かを……あの仮面のような表情に滲んでいた、あの暗い感情、鎖の様な何かを振り切って。
自由自在に、自分の意思で、好き勝手に。
比べてみると分かります。以前までのマスターには、硬さのような物があった事。今はそれすらなく……まるで、本当に子供の頃に戻ったようで。
そんなマスターの傍にいたのは――小柄な姿。
『楽しそうやねぇ』
『冗談、お前と違って殴り合いが特別好きって訳じゃないんだ』
『ふぅん? ま、せやったら……無理せんようにな?』
『――はっ、そりゃあ分かってるさ!』
まるで嵐の如き、酒吞童子様。その戦いの渦の中で、マスターは呑み込まれない様に上手に立ち回っていました。何処に切れ目があるのかを、当然の如く把握して……息が合っている、と言うより、マスターが彼女に合わせるのが上手、と言えば良いのか。
それに……
『アサシン。一応、最悪な所まで行かない様にだけ頼むわ。後は好きにしていいから』
『――ふふ、はぁい』
……マスターが、藤丸様の傍に酒吞童子様を控えさせた時。
ちらり、と彼女を見つめて。それに即座に頷くその仕草には、何処か慣れさえ感じています。それは……初めてのマスターと、サーヴァントがするには連携が取れすぎていると思いました。
何時出会ったのか。
『ゆっくりしたら改めて報告書書くよ――雑に書きたくないし。うん』
そう言って、未だ口にはしない。
マスター単騎で赴いた特異点にて。
そこできっと彼らは――顔を合わせている。そうとしか思えません。
その時の事を知りたい。あの張り付けていた暗い仮面を引きはがして、元気そうに戻ってくるまでに。一体、何があったのかを――
「……んで、その感情に強い式部さんにお頼み申したいんだけど」
「はえっ!? あ、はい! なんでしょうか!?」
「あの感情丸出しの婦長様を止められる文言とか……思いつきません? このままだと藤丸君解剖される勢いなんですけれども」
「いえそれはちょっと……」
……それを知る前に。先ずは藤丸様を助けねばならないようです。はい。
ホモ君「うっひょーなんも考えないで暴れるの楽しー!!!」