FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第九十章・裏:荒れ狂う神槍

 それは――殆ど叫び声と言うより咆哮だった。

 

 人の喉から漏れ出す類のモンじゃない。獰猛な野獣の口から放たれるそれだ。山で何度も、何度も聞いたモンだ。

闇の中に響き、テリトリーに入った人の足を竦ませる。

 ……つまりこんな叫びをするって事は、こっちに飛び掛かって来るその前触れで――!

 

「――散開ッ!!」

 

 咄嗟に叫び――くるりと振り向いたその先に居るのは式部さんのみ。どうやら残り二人は普通に逃げ出していたらしく、取り敢えず、残っていた彼女に向けて必死になって突進である。全力全開である。

 

「失礼っ!」

「きゃっ……」

 

 すっと足の下に手を入れて――相変わらず足ムチっとしてんな~この人――彼女の身体を抱きかかえて走り出す。うーん、相も変わらず持ち上げるのに全然苦労しないな、もうちょっと食った方が……いやそれは今どうでも良い。急がないと隕石並みのインパクトが降って来る気が!

 

「っ――」

 

 ぞわっと背筋に走る嫌な感触に、予感は確信になる。懐の彼女を、強く抱きしめて、さらに大きく一歩を踏み出して、地面を――抉る。つもりじゃない。力任せに地面を抉る。その分の力を込めた反作用は――体に全て、働く!!

 その途端――

 

 身体が吹っ飛ばされたみたいに、景色が急速に流れていくのが分かる。しっかりと抱えていなければ、式部さんを取り落としていたかもしれない。それ位の、圧力が。

 

 そして、ほんの一瞬、自分自身の出力に目を回した所で――

 

 どん、と。何かが体にぶつかって来た。

 

「――っ!?」

 

 身体をこわばらせたけど、しかし痛みはない。何か攻撃がぶつかった訳じゃない。一瞬何かがぶつかったように錯覚したのだ。

 崩れそうな衝撃に、何とか足を踏ん張って耐えてから。ちらり、と後ろを確認する。

 地面に突き立っているのは――細い、槍の穂先。刃がザクリと、地に深く、深く……そして大地を叩き、そこからクモの巣がきの如く、大きくひび割れているのが見えた。

 

「――やべぇなありゃあ」

 

 細い刃。切り裂き、貫く為の繊細なモノの筈なのに。

 墜ちて来た流星の如く、地面を破壊するなんていう、それこそガチ鈍器でやるような大偉業を、やってのけると来た。

 単純な膂力か、それとも全身の力を使って成した絶技なのか。どっちにしたって、サーヴァントの中でも間違いなく……トップクラスの怪物。

 

藤丸が請け負ってるくれている、本来俺達が迎撃しようとした敵勢も、とんでもない大英傑二人組らしいが。それに追加がこれとか、笑い話にもならん。

 

「李書文、だっけ。どんなサーヴァントなんだありゃあ」

『――神槍と謡われた武の求道者だよ。中国武術に伝わる『六合大槍』の妙技を極めたとされる飛び切りの、ね』

 

 中国武術を極めた武人。

 今回も俺のバックアップを行ってくれているダ・ヴィンチちゃんの言葉に、トップクラスの怪物と言う評価は間違っていないことを確信した。腕利き、とか、達人でもなく。神なる槍とは。

 

「武人、か」

『目の前の光景を見ればね……そりゃあ、あんな馬鹿みたいな破壊を人のみでやってのけるんなら、神と謡われても何ら不思議じゃない、かな』

「まぁ確かに、そりゃあ神とも呼ばれても、不思議じゃないけども」

 

 ……ゆっくりと顔を上げる。

 括られた紅い髪は、今は……まるで、血塗られた様にも見える。此方を睨みつける瞳は血走り切って、まるで狂犬病の患者にも見える。

 それだけ真剣に戦っているのだ、と考えてしまえばそこまでなのだが。

それでも。違和感がある。というか。

 

「……正気じゃねぇよなぁ、アレ」

『まぁ、言った私が言うのもなんだけど。アレで神の槍と呼ばれるようには思えないかなぁ。どっちかと言えば『狂犬』とかあだ名がつくんじゃないかなぁ』

「だよなぁ……よっ、と。式部サンなら、アレになんて名付ける?」

 

 懐に抱えていた彼女をそっと地面に下ろして。話題を振ってみる。

 少しこっちを見つめて。迷うような仕草をしてから。

 

「……『魔槍』でしょうか」

「うーん明らかに魔の者判定。まぁアサシンよりもよっぽど魔性のモノっぽいしなぁ」

 

 感受性豊かな彼女がそう言うのであれば俺達の印象は間違っていない気がする。となればマスター君、あの李書文さんが、なんであんな事になっているのか……凄い何というか心当たりがあるんだけれども。

 

「リンボ、とかいう奴の仕業かね?」

「――そうなんちゃう?」

 

 その言葉に、しゅたり、傍に降り立った影が応える。ランサーを見て、『うへぇ』と言い出しそうなくらい分かりやすく、顔を顰めて居る。まぁ分からんでもない。彼女の趣味とは程、遠いだろうしなぁ。アレ。

 もう一人は、と周りを見回し。丁度、少し離れた位置でにやにやと笑っているのが……なんで笑ってるんだろうか。

 

「くくくっ、私に挑んできた勇士共など、あんな顔ばかりだったが。アレが案外、その李書文とかいう奴の本性なのではないか?」

「いやぁ。確かにそれも全然あり得ない訳じゃないけど」

 

 流石にそうではない、と思いたいのは人間のエゴだろうか……うん。それは取り敢えず置いておこう。

 見ただけなら分からない。だったら判断する手段は一つだ。

 

「ダ・ヴィンチちゃん。近くに行けば精度の高い情報得られるよな?」

『そりゃあそうなるかぁ。リンボの情報は一つでも欲しいからねー』

「アレがリンボ野郎の仕業なら情報ゲット。素ならゴルゴーンさんが余計張り切る。どっちに転んでも得しかねぇってな」

「おい、誰が張り切るだと?」

 

 軽く屈伸運動。いや、俺が突っ込んでもどうにもならん事は分かってるんで。流石に援護もしてもらうし、ちょっと一緒に突っ込んで来てもらうけど。

 

「式部さん」

「はっ、はい」

「援護お願い。アサシンと一緒に、ちょっと威力偵察してくるわ」

 

 いつも通り。援護は式部さんに。彼女以外はちょっと後ろは任せられない。んで、ついて来てもらうのは……アサシン。

 

 まぁ、ゴルゴーンさんでも良いんだけども……ゴルゴーンさんは我がチーム最強の火力だ。ちまちました戦いさせるよりは、最後に一発ぶち込んでもらうのが良いんじゃないだろうか。

 それに、相当激しい殴り合いになるだろうし。そうなった場合、連携が上手く取れるのはアサシンの方だと思う。

 

 ……めっちゃニヤついた顔でアサシンがこっち見てんのが不穏でしかないけど。しゃがんだ姿勢で、両手で顎から頬を包むようにしながら、悪戯っ子を前面に出しているのが丸わかりの態度だけども。

 

「――……行くぞアサシン」

「はぁい。まぁ、うちは楽しませてもらうだけやけど」

「そこは俺が合わせるさ。お前は――『好き勝手にやれ』」

「……んふふっ、うちにそう言える旦那はん、ほんま好きやわぁ。ええよ。楽しませて貰おうやない」

 

 ――風吹く。

 

 その中に、髪を靡かせながら、アサシンが一歩を踏み出した。その後に続く。

向かうは、槍を構え直したその一振りでここまで届く程の風を起こす、李書文と呼ばれたサーヴァント。

 とんでもない怪物だ。想起するのは……雷と風、という別種のモノではあるが、俺達に牽制とばかり雷を降らせた、平安の武人。

 

 アサシンにとっても、余りにもキツイ正式なサーヴァントとしての初陣。しかし。

 隣を歩む彼女は、まるで苦しそうな部分を見せない。どころか、喜悦の色すら浮かべている様にすら見えてしまう。

 

「ねぇ旦那はん?」

「なんだよ」

「偵察、言うてたけど……別に、骨抜いてしもて構わへんやろ?」

 

 ……コレだ。

 全く、マスターとして油断できない鬼っ子だな、と改めて再確認する。あの怪物相手にもう自分の『ツマミ』の事を考えていると来た。

 サーヴァントの骨なんざ、コイツにとっちゃ最高の酒の肴だろう。

 

「そうだな――やって見せてくれ、アサシン」

 

 だからこういう。不可能可能じゃない。ただ、彼女の思うように、ほんの少し背中を押すように。口にして――

 

「マスター」

 

 ふと、声をかけられた。

 ちらりと後ろを振り向く。此方をじっと見つめる、我がファーストサーヴァント様と目が合った。あんまり無茶をしない様にと、前から言われている事を、改めて思い出す。

 だからまぁ、今回の事にも、思う所はあるかもしれない。

 とはいえ止まる訳にもいかんし。取り敢えず。

 

「――怪我しねぇように、頑張るよ」

 

 少し自意識過剰かな、とか思って、面映ゆいけど。そう返す。

式部さんは……一瞬、口を開こうとして、止まった。それを見て、あぁやっぱり自意識過剰なこと言ったかなぁ、と頭を掻きながら敵に向けて顔を向けて――

 

「――お気を付けて」

 

 後ろからかけられた声に、目を瞬かせた。

 にやりと、笑顔が浮かんでくる。

 

「おう」

 

 言葉を尽くそうと思ったけど。

 でも、変な言葉を言うよりも、と思って。拳を掲げて、返す。

更に一歩を踏み出して――めっちゃにやにやしながら覗き込んでくるアサシンが目の前にいた。思わず一歩下がりそうになって、耐えた。

 

「な、なんだよ」

「んーん? なんや、青臭い臭いがすると思ってなぁ?」

「やかましい」

 




なお戦闘自体は書かない模様
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