FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第九十三章・裏:陽動作戦 後編

 堂々、としている。

 ゴルゴーンさんからの殺意に溢れた熱視線のプレゼントにも、まるで動じない。

 

 反応していない訳ではない。カルナが見ているのもまた、ゴルゴーンさんだ。彼女から目を離さない。空色の視線は、無感情な鈍色で……だけど、思わず掌に汗を滲ませる様な眼光がバリバリだ。

 顔が欠片もいかつくなくても、本物って奴は瞳一つで人間なんて幾らでもビビらせられるらしい。

 

「……遅かったな、大英雄サマ」

「そちらの策で、此方も搔き乱されていたからな」

 

 ……だが、次の一言で、一気に困惑の感情の方が大きくなる。策、と言うのは陽動作戦ではない、みたいだ。アメリカ側の内側に直接アプローチをかけていた訳ではない。こっちも。

 ちらり、と通信機を見つめてみるが、その先のダ・ヴィンチちゃんから何も反応は無しである。となれば、ダ・ヴィンチちゃんも把握してない……?

 

「流石は牢獄を破り目的を成し遂げた復讐者。そもそも牢に捕らえられる事すらなく、陽動作戦に合わせて、城砦内部で行動を開始するとはな」

 

 ――だが、答えは向こうから提示された。

 

 どうやらあのスパダリアヴェンジャー、カルナからの襲撃を自力でどうにかして、ずっと藤丸を助けるために単騎で行動していたらしい。

 彼の逸話は聞いていた。しかしながら、だからと言って単騎でアメリカ軍に潜り込んで陽動作戦に合わせて動き出し、時間を稼いでいたのか。信じらんねぇ、本当に人間か。サーヴァントか。

 

「――って事は?」

「既に捕虜は逃げ出した後だ。お前達の目論見通り、と言ったところか。四つの特異点を超えてきたその実力、認めざるを得ない。見事な手腕だ」

 

 ちらり、と通信機を確認。返事代わりと言わんばかりに、一部が明滅を繰り返す。どうやら事は上手く行きすぎたらしい。ジェロニモさんは果たして、藤丸達が逃げ出すまでに牢屋に辿り着けたのか。

 

 うーん、本来はこっちで派手にカルナを引き付けて。

その序にリベンジマッチって算段だったのだが。コイツは困った。マジでもう逃げても何の問題も無くなっちまった。そもそも、元からカルナが来たら派手に逃げて、おびき寄せてもいい、位の気持ちだったのに。

 

 となれば、後ここに残る理由は……個人的なこだわりだけになった訳だが。

 ちらり、と式部さんを見る。ちょっと困った様に微笑んで、それでも頷いてくれた。

アサシンを見る。寧ろ面白い事になったと言わんばかりに、緩めた口の端から、一杯酒を口に含んで見せた。

 もう一人は……見るまでもない、だろう。

 

「此方は……ふむ――やはり目的は、陽動……狙いは俺個人、と言ったところか。態々待ち受けている辺りは」

「まぁ、そうなるかね。ウチの女神さまが、お礼をしたいってよ」

 

 撤退は、しない。

 

そうハッキリと告げる俺の一言に合わせるように。ゴルゴーンさんが、一歩前へと踏み出し……否、蛇の様に尻尾をくねらせて、進み出た。

 

「――待ちかねたぞ、槍使い」

 

 紫紺の髪より生じた蛇が、大きく背の後ろで広がる。まるで、翼の如く。

 その中心で、ゴルゴーンさんは――本当に、貯め込んだものを、弾けさせるかのように破願させて――一つ、笑って見せた。

 

 ごくり、と喉が鳴る。

 彼女を蛇の怪物、だとか呼ぶのは正直な話、したくない。俺にとっちゃ力を貸してくれる力強い味方である事は間違いない……のだが。

 

 音を殆ど立てず、静かに、目標へとにじり寄る動き、『慣れた』動き。一瞬剥きだした牙を、ちろり、と艶やかな舌で磨くその仕草から、少し体を沈ませて、カルナを睨みつける構えにシームレスに移るまで。

どれだけ強い勇士だろうか、食らい尽くしてきた、『歴史』を感じる。そりゃあ、ナメプの一つでもされたなら、苛立ちもする、その権利がある。

 

「――綺麗だなぁ」

 

 口から漏れた。どうにも、アサシンを見てからと言うモノ、人以外の美しさと言うモノに頭をやられたみたいだ。

 

 怪物性を前面に押し出して、自らの目の前に立つ英雄に『強さ』を見せつける、麗しき蛇の化生――まるで、絵画の様に、荘厳で、そして惹かれる。正に、神話に生きる『うつくしい いきもの』だ。

 多分、俺はこの怪物を目の前にしたなら……腰が抜ける。他の奴だってそうだろう。その間には、多分感情の大きな差があるけれど、どっちにしたって結果は変わらん。

 

 うん、そんな宝石みたいにキラキラしてて、おそろしい瞳に見つめられたら……って。

 

「あ」

「……フン」

 

 どうやら聞こえていたらしい。見られてた。

 ちょっとだけ睨まれてから。鼻を一つ鳴らし、つん、と不機嫌そうに顔を逸らされてしまう。ううん。折角のご機嫌取りも台無しか。後で埋め合わせ、どうしようかね。

 

 でも実際、そんな感想が自然と口から出てくるくらい、物凄いのは間違いなくて。どう足掻いても睨まれるのは避けられなかったと思う。

 

『分かってて出てくるとか! こりゃあ自分の実力に絶対の自信ありってトコかな? うーん天才ってこれだからね~』

 

 だというのに、これを見ても尚……目の前に立つカルナは、眉一つ動かさないと来た。

 

「その様なつもりはない。寧ろ、自らの天才性をつゆほども疑わないのはそちらだと推察するが、カルデアの魔術師」

『――流石はインドの大英霊、観察眼も人一倍ってやつかい?』

 

 寧ろ、ダ・ヴィンチちゃんの事を冷静に推察するだけの余裕すらあると来ている。

 ダ・ヴィンチちゃんの言う通りの絶対的な自信が無意識の下にあるのか、それとも、これすらも、目の前の大英雄にとっては日常茶飯事なのか。

 

『とはいえ、大英霊の力も、これだけ周りに味方がいれば、そう簡単には振るえないんじゃないかな?』

「事実だ。流石に、これだけの味方を気にせず槍は振るえまい。その悪辣な策略は、賞賛に値する」

 

 ……賞賛って言うなら、悪辣言うなや。いや、あれでも純粋に褒めてるのか。駄目だ全然あの人の事分からん。槍を携えて一歩たりとも動かない立ち姿と言い、超自然的というか、人間味が若干足りない。寧ろゴルゴーンさんの方がまだ人間臭い気がする。

 

『……まぁ実際悪役側なやり方だけど、でも気にしたら負けって事で、じゃあ一つ、我々との足の引っ張り合いにお付き合いいただこうじゃないか!』

「――心にもない台詞を、よくぞそこまで堂々と言ったものだ。足の引っ張り合いなどと其方はそんな生易しい方針を取るつもり等、毛頭ないだろうに」

 

 だがまぁ……そんな立ちながら泰然自若としてられるのも、ここまでだろう。

 もうこっちの女神さまは、我慢できないとばかり、蛇たちの牙を鳴らし始めてる。これ以上無駄口を叩こうもんなら……いや、想像するのは止めだ。

 

 そもそも、俺達がおしゃべりしてるのにここまで付き合ってくれただけでも御の字、そんなの気にせずに、自分から殴り合いを始めても良かったというのに。

 それでもなお、ゴルゴーンさんの方から、襲い掛からなかったのは単純に――

 

「ならばオレも、その殺意に……我が槍をもって応えよう」

 

 カルナが、構えていなかったから。

 

 ゴルゴーンさんは、理性の無い獣じゃない。尋常を越える上位者である。そんな彼女が不意打ちなどと言う『格下』が使う戦い方で、このカルナに痛手を与えて、良しとする訳がない。

 ナメられて、それを払拭する為に戦うのなら……寧ろ、真っ向勝負をこそ、彼女は望んでるんだろう。

 

 故にこそ。カルナが手にしている黄金の槍。その切っ先が自分に向けられて初めて――ゴルゴーンさんも、自らの爪牙を剥き出しにして、その槍の間合いへと、何の躊躇もなく踏み出していく。

 

「……ぐだぐだと。得物を構えるのにどれだけかけている」

「神格に等しい魔の物と相対するのも久しい――こちらも、それ相応の覚悟と言うモノが必要にもなる」

「――抜かせ」

 

 相手も此方も、互いに名高い『神話』のモノ達。

 

「貴様のその黄金の鎧を引きはがし、我が神殿の飾り付けにでも使ってやる」

「残念ながらそれは――不可能だ」

 

 今、始まろうとしているのは文字通りの――『神話大戦』だ。

 




北 米 神 話 大 戦 (フライング)
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