FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――ふと、自分が何をしているのかを、考える事がある。
自分は、『――』を殺すためにこの身を得た。ただ一つ、ただ一つ、ただ一つだけ。その一つを全てを切り裂き、引き裂き、粉々にする。その為の存在だ。
翻って、今はどうだろう。自分がいるのは、彼の者達の血筋の住む故郷ではなく。相手にしているのはその血筋どころか、人種すら違う。
『ひ、ひぃっ……なんだ、なんなんだよ、お前は!?』
相手の首を刎ねるその度に。
切る直前、あふれ出す怯えと共に、心の底から『なぜ殺されなければならないのか、分からない』と言う顔をされる。
やっているのは自分だが、その態度も至極当然だと思う。
名乗りも何もなく、仮面に顔を隠し、叫ぶことも無く。静かにただ、斬る。何人いようと、どんな時だろうと、どんな相手だろうと。
向こうから見れば、何の因縁も無い相手が、突如として襲い掛かって来る。自分を殺し得る得物を携えて。仲間を切り捨てているのだから。
人間、目的も正体も分からぬ敵に襲われるのが最も恐ろしい。それは、この体に僅かに残る記憶からも、思い出される。夜闇に包まれた山の中、何処にいるかも分からぬ敵兵に弓を射かけられれば、歴戦の武士共とて容易く怯えて逃げ出す。
最も恐怖を与えるやり方で、自分はこの地の兵士を切っている。
……事になる、が。別に、それは意識してやっている訳ではない。
自分にとって因縁も無ければ、本来であれば相手にする理由もない。それを敢えて切るというのだから、やる気も起きず。
ほぼ、『作業』だ。
『それでいい。お前は、その身に刻んだ『怨』の一文字の命じるままに、切れば宜しい。その結果として、私の目的は、勝手に成就される』
雇い主からは褒められ通しだが、自分としては何も喜べもしない。こんな作業をどれだけ繰り返そうが――胸は満ちる事すらなく。最早虚しくすら感じてくる。
「――下らん」
我が恨みを、彼奴らにぶつけてやろうと思っていた。自分勝手とはいえ、我が身を動かす熱意を満たす事も出来ない。
自分は何のために召喚されて、何のためにこうして剣を振っているのか――天を見上げた時、思い出すのは、あの言葉。
『――を、切らせてやろう。存分にな』
それが、自分を乗せる為の甘言であろう事が、分からない訳もない。
それでも、構わず一も二も無く飛びついた。それは、自分の生まれた意味である、今こうしている存在理由である、そして……未来永劫忘れず、必ずや果たすと誓った、自らを導きそして我が目を焼き焦がす、灯でもある。
成せるのならば、と。
まるで、毒餌に飛びつく、飢えた獣の如く。浅ましくも、首を縦に振った。
そうして――今や、自分は、雇い主の思うままに地を駆け、無感情に木偶共を狩り尽くす飼い犬の如くだ。
此度の命の相手は、『大物』との事であったが、自分にとっては、どれだけ大物だろうと関係はない。こんな所で奴らと顔を突き合わせる訳もなく。『処理』して終わりだ。
「――……」
ぴくり、と感じる気配。
あの胡散臭い法師の言う通り、どうやら目標はここを通るようだった。
曰く。例え方向性は違えど、同じ『もっとも撤退するのに良い場所』を探っているのに変わりはないのだから、そこから相手がどのように動くのを、相手の良いケを調べる事で逆算する、との事。
少し懐疑的ではあったが……どうやらあの法師、腕は確からしい。
木から伸びた枝一本、その上より、視界に写る森全体をゆっくりと見つめ……その姿を漸く、捉えた。
男が一人と女が三人、そして、四人に少し遅れるように、鉄屑の集団が追いかけて来ている。あの槍使いの姿は見えず、気配も感じない。どうやら無事にもう一人の『かるであ』のマスターを救出せしめたのだろう。
消耗し、追撃を受けている敵を狩る……やる事は落ち武者狩りと変わらない。相も変わらず、些かも乗り気にならぬ仕事ではあるが。しかしながら、今までに比べ、まだ歯ごたえだけはあるやもしれない。
せめて、この暇を、剣を交える事で、少しばかり慰められれば、と……
「始めるか」
二刀を抜き放ち、枝を蹴って跳びあがる。
目標は、鉄屑の集団の後ろ。先ずは余計な横入りの可能性を断つ。連戦の後とはいえ自分と同じサーヴァントが相手だ。僅かな横やりが、致命打になりかねない故に。
「――む」
宙を駆ける、その一瞬。集団の中にいた、小柄な一人と目が合った。
頭に生えた朱色と、艶やかな和服が、妙に美しい……人ならざるモノ。
その角からして、鬼であろうか。此方を見つけ、しかし驚くでもなく、睨むでもない。まるで空を飛ぶ小鳥を、偶然見つけたような、穏やかな眼で――
にやり、と。口元をゆがめた。
「……っ」
背筋が一瞬冷える。
酷く、蠱惑的で……それは、到底敵に向ける様な表情ではない。
暇を潰す、その程度に考えていた。だが、直ぐにその甘い考えを投げ捨てる。あの三騎の内、あの小柄な鬼一匹、少なくともアレは決して容易い相手ではない。
敵を前にして、獲物と舌なめずりをするでもなく、敵として警戒するでもなく、ただただ無邪気そうに……笑う。
得体の知れぬものをこそ、人は恐れる。そう思っていた事が、そのまま此方に帰ってきた形になる。アレは……底が知れない。
「気を、引き締めねば」
そう考えつつ、地面へと降り立つ。
くるり、と振り返り……少なくとも、今までの様な不意打ちは通じないと想定し、鉄屑を切り捨て、その流れで一気に切り込む案は捨てた。様子を見つつ、戦わねばならない。
そう考えつつ、先ずは目の前の鉄屑共に、一閃、二閃。取り敢えず首を外さぬように確かに刎ねる。これらが残っているだけで、大きな痛手を被るかもしれない。流れ作業ではなく、念入りに、狙いを定めるのは、久方ぶりだった。
すぱん、と猥雑な機械仕掛けの鎧を裂いて、首の肉へと切り込みそして……骨と骨の継ぎ目をすり抜け、根元から――断ち切った感触。確かな手ごたえ、今の剣に僅かなブレも無し、最速の冴えだ。
……不思議だ。何故だろうか。剣が、何時もよりも奔る気がする。久々の緊張感が、存外と、良い影響を与えているのだろうか。
口元が弧を描く。
適度な緊張が好く働く、等と。そんな段階は、既に通り越していたと思っていた。存外と、サーヴァント等になってなお、若いつもりか、と。
崩れ落ちる木偶共の先、見えてくる相手。女が一人、女怪が二人……なるほど、よく見れば、そう容易くやれそうな相手ではなさそうだ。
如何に切り込むかに一つ、頭を回そうとして――その中に。
ふと、懐かしい、感覚を覚えた。一体何だろう。そう思ったのは、刹那。
は、と。気づけば。弧を描きかけていた口が――殊更に大きく、裂けたが如く、広がったのが、分かった。
「――見つけたぞ」
成程、調子も良くなるわけだ。そうか、我が身は、自分よりも先に、この感覚を捉えていたのだろう――ほんの僅か、鼻先に香る程度の、薄い……薄いコレを。
怪訝な顔をしている。見られる理由もわからぬと見える。当人すら分からぬ程に、薄い繋がりなのは間違いないだろう。
遥か遠い先の子孫か? それとも――あぁ、何れにせよ、関係はない。久々に歯ごたえがある相手だとか、そんな事はもう関係ない、気合いが、瑞々しく、乗った。
哀れには――思わぬ、その一族に連なるという事が、殺す理由だ。
雇い主に感謝を一つ。
我が眼前の目標は確かに大物、自分にとっては一日千秋と待ちかねた獲物。
憎きかの『――』に、繋がる者ではないか――!!
「っ……コイツ……!」
『仲間割れ、って雰囲気じゃないね』
「――その首、貰い受ける」
『話が通じるタイプでもじゃなさそうだ! 取り敢えず迎撃準備!』
我が身は、『――』を恨む。
我が身は、『――』を呪う。
我が身は、『――』を殺す。
ただ一つ、『――』を
これを阻む者諸共、悉く。
「――行くぞ……
ホント大好き。
出すつもりなかったけど我慢しきれず出した。ウチの筆頭アヴェンジャー。めっちゃ活躍させるからね……