FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
先ほどの直感は、間違っていなかった。
「そぅら、鬼さん、此方――」
「シィッ!」
振り抜いた剣の先にまるで手ごたえは無く、すり抜けて……すたり、と、降り立った先からは、最早――抜ける事は出来ないだろう。
僅か一分に満たない隙とはいえ。攻防の間に見出したそこは、自分であれば、容易に抜けて……首を刎ねに行けるだけのスキマであったというのに、そこへ狙った様に、降り立って道を塞ぎ。牙を見せながら、僅かに笑んで見せる。
「――手ぇの鳴る方へ」
……封殺されている。
隙がない。と言うよりは、隙を作らない戦い方をしている。一々考える訳ではなく、思考と直感を柔軟に織り交ぜて、その都度最適な一手を打つ。しかも自ら切り込む割合と敢えて受ける割合を、自由自在に変えて、自分をここから逃がさぬように、戦っている。
お陰で、先ほどから、まるで狙いの首を刎ねに向かえない。
丹念に、丁寧に、織り込まれた布で柔らかく、しかし、しっかりと縛られている……感覚としては、それが一番近い。
もう一つ、厄介なのは……目の前の鬼が、それを、目標を守るためにやっている訳ではないという事だろう。
「そんな焦らんでもええんちゃうか? もう少し、ウチと遊んでいかへん?」
庇う積りなら。もう少し、私から意識を外す。
私一人に意識を集中させている? そんな温い話ではない……後ろの楔がどうなろうが、取り敢えずはどうでもいいのだ、目の前の化け物は。
今は、自分と切り結ぶ事で、楽しむ事しか考えていない。
だから上手い事、私との間に回り込んで、逃がさない。自分と戦え、楽しませろ、と強制してくる。私と戦う以外の事は、完全に些事としか思っていないだろう。
何処までも、自分が感じる刹那の楽しさに酔い痴れている、何処までも享楽的な姿勢は正に……人とはまた別の理を持っている鬼ゆえだろうか。
「――厄介な事を。まるで、足元に纏わりつく、泥だな」
「そっちも、ウチとじゃれとるのに、旦那はんばっかり見とるのは……ちょっと、失礼なんとちゃう?」
失礼などと、どの口が言うのか。明らかにそちらは自分の主を蔑ろにしているだろう。
罵詈雑言を苛立ちと共に並べ立てたいが……しかしながら、ここで下手に苛立つのは悪手だろう。
護衛に気をもんでいる訳でもなく、自分が楽しんでやっている事だ、そう簡単に精神がすり減る等、まずはあり得ん。此方ばかりが苛立って、余計に余裕を失うのは、致命打になりかねん。
「――」
埒が明かない。
このまま、この娘に釘付けにされていては。
ただでさえ、向こうは此方の狙いを察して、私が直接目標を狙いにくいような体勢を取っている。無駄に消耗しては、守りに着いた二騎をすり抜け、切り込む事も苦しくなってくる。
ここは……腕一本程、犠牲にする程度は想定するべきか。
寧ろ、この化け物を相手に、無傷で通ろうと考えている、自分が甘いのか。念願の敵の首を刎ねるのに、自らの傷一つ惜しんでいて、成せる訳もない。
後で、あの胡散臭い法師の手を借りる事になるかもしれない事になるのが腹立たしいことこの上ないが……仕方がない。そう思って、ちらりと視線を、戦っている鬼らしいサーヴァントの背後へと向け……
「今だっ!」
そこで。
声を上げ、こちらに背を向けて逃げ出す、三人の姿を捉えた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが――しかし、理解したと同時、胎の底からこみあげてくる、歓喜の感情。
「――ははっ!」
笑いが止まらない。
幾ら守りを固めていようと、逃げている間というのは、どう足掻いても隙が出来る。なんとまぁ、相手が自ら背中に大きな逃げ傷を作ってくれと言わんばかりに、悪手も悪手な一手を打った。
付け込んでくれと言わんばかりの、大きな油断だ。まさか、追い詰められたここで、此方にとって最も都合の良い一手を打ってくれるとは。
位置がずれ、再び飛び込むだけの隙も見出した――ここだ。
即座に決断。目の前の敵を、敢えて無視し……最悪、背後から一撃貰う覚悟で、地面を蹴ろうと、少し、身体を沈ませて。
「逃がすか――っ!?」
「そんな逃げようなんて……あかんよ?」
瞬間。
踏み出そうとした自分の目の前に、鬼の娘が、再び立つ。あの一瞬で此方に回り込んで来たとは、随分と悪い冗談だ。反応の速さは、正に人外のソレと言うしかない。
再び、経路を塞がれた形にはなるが――しかし
「――邪魔だ……っ!」
それでも、一歩を踏み込む。平に構えた二刀を船の衝角代わりに振るい、もう一歩。お利口そうな瞳が、大きく見開かれた。
無謀な特攻にも見えるか。だが最早関係ない、今ならば。多少痛手を貰おうと、突っ込めばお釣りがくる程の好機。故に――
「ぬぅううううっ!!」
「っ……!」
地面に突き立てられ、盾のようにされた大剣に、そのまま切り込み。
地面を、蹴り飛ばす。地面が抉れる感触がした。構わない。無理矢理に押し込む。金属と金属の、削れ合う音と……僅かな火花。
力で圧され、深く突き刺さった剣が、地面を引き裂くように、後ろへと押しやられていく。踏ん張ろうとしているが、初速の分、私に分がある――抜けられる。
「――ハァッ!」
……振り切った剣に、重い手応え。目の前から消えた大剣、浅く切り裂かれた敵の肌を確認し、競り勝った実感を得てから、胴を曝け出し、隙だらけの敵へ、切り込もうと振り抜いた刀を、再び振り下ろそうとして。
目が合った。
驚き? 焦り? それとも呆然としているのか……否、どれも違う。牙を覗かせ、まるで誘い込む様に、細い胎を晒して――
「――っ!」
抜けろ。
そう無理矢理に体に命じ、振り下ろそうとした腕を引き留めて、その代わり、脚に全身の力を回して、その脇をすり抜けて飛び出す。抜けたその直後――遅れてやってきた悪寒が背筋を駆け抜けた。
ちらり、と背後に視線をやる。
「ちぇ。ざぁんねん」
自分と同じ、肩越しに此方を見つめる鬼の目は――川魚を取り逃がした童の様ですらある。獲物を無邪気に見つめる、ある種、残酷な瞳だった。
直感は、恐らく当たっていた。あのまま切り込もうとしていれば、致命打どころでは済まない痛手を喰らっていた可能性がある。
腸を餌に、狙っていたのは――此方の、首か。
欲を出せば、碌な事にならない。煮立っていた頭が、急速に冷える。狙いは源氏の首一つ、他に欲張る等、愚の骨頂だ、と。
「――逃がさぬ」
改めて、視線を前に向ける。一瞬の攻防の隙に、多少距離を稼がれはしたが……しかし、何方へ向かったかくらいは、流石に分かる。我が足なら追いつけない距離ではない筈だ。万が一、後ろの追手に追いつかれぬように――全力で、地を蹴った。
しゅるり、と。景色が後ろへと向けて、流れ出す。自分の最速、一手遅れた鬼の娘は最早追いつけないだろう。背後の気配は、はるか遠く――最早、私の事を阻む者は何もいない。追いつけば、その背に特大の逃げ傷をくれてやる。
「源氏……我が一族の恨み、この景清が、必ずや……!」
燃え盛る胸の焔が、更に足を速く、加速させる。
脳が沸騰したかのように熱い。熱くなっている自覚はある、だが、この思いを最早抑える事敵わない。熱に従うまま、故郷の木ではない、見慣れぬ模様の木々が流れていくのを横目に、只管に加速する。
もはや、日ノ本ですらない、この場所で、恨みを晴らせるなどと、想像もしていなかったからか……想像以上に、浮かれているのか。ならば、この浮かれ切ったそのままに剣を振るうのも、悪くはないだろう。
その時。
鼻に流れる風の中で、ほんの僅かにだが……甘い、燻した様な、匂いが香った気がしていた。
「もう……行ってしもた。もうちょっと遊びたかったんに、ざぁんねん――ま……早めに森、抜けられると、よろしおすなぁ?」
ジェロニモさんの活躍は次回(予告詐欺)